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前回は、MM型カートリッジの使い方について、「推奨負荷容量」に着目して書きました。この時、「推奨負荷抵抗」は全てのカートリッジで「47kΩ」となっていました。しかし、MC型カートリッジは逆で、「負荷容量」を推奨されることはなく、「負荷抵抗」だけが推奨されています。これはどう言う理由に基づくことなのでしょうか? 今回は、この点を含めて、「MC型カートリッジ」について考えてみます。
1.低出力MC型カートリッジ 一般的に「MC型カートリッジ」と言えば、この「低出力タイプ」を言います。 MC型カートリッジは、レコードに刻まれた溝の形状により、カンチレバーの根元に取り付けられた非常に小さなコイルが振動し、その近傍に固定されたマグネットの磁界によって、コイルで発電させる構造です。従って、マグネットの磁力は大きくても、それ自体が振動するコイルの巻き数を増やすことには自ずと限界があり、コイルの発電電圧を高くすることが出来ません。 つまり、コイル自身が振動する訳ですから、コイルの重さはカートリッジの周波数特性に大きく影響します。そのため、MM型の10%程度の出力電圧しか得られず、「RIAA−EQアンプ」に直結することが出来ません。しかし、その分、コイルに使用される電線の長さが短くなり、直流抵抗が大幅に減少すると同時に、コイルのインダクタンス分も殆ど「0」になります。従って、カートリッジとしてのインピーダンスはコイルの「直流抵抗分」のみと考えてよく、「周波数依存性(=周波数によってカートリッジのインピーダンスが変動すること)」もなくなります。 一方、出力電圧が低いことから、カートリッジとEQアンプの間には、「何らかの増幅手段」が必要で、この増幅手段の品質が大きく再生音に影響します。 この増幅手段としては「昇圧トランス」と「ヘッドアンプ」があり、音質に対する好みや使い易さなどを考慮し、MC型カートリッジを使う方が自ら選択することになります。 「昇圧トランス」はコイルと鉄心で構成されることから、様々な制約があり、MC型カートリッジメーカー自身が自社の製品に最適チューニングして発売しています。従いまして、MC型カートリッジメーカーの昇圧トランスを他のメーカーのMC型カートリッジに使用した場合、音量は問題なくても、「インピーダンスマッチングも含めて、カートリッジの特性は全く保証されない」ことを知っておかなければなりません。また、トランスメーカーが独自に発売する「昇圧トランス」もありますが、これとて「特定の2、3機種を想定したもの」であり、全てのMC型カートリッジにも適合する「ユニバーサル昇圧トランスは存在しない」と考えた方がよいと思います。 更に、トランスの2次側コイルのインピーダンスは「数kΩ」となり、ここにMM型カートリッジと同様の容量性特性を持つことになり、「RIAA−EQアンプ」との相性を示します。つまり、MC型カートリッジを使っても、昇圧トランスを併用したのでは、MM型カートリッジと同様の問題が生じることになり、「わざわざMC型カートリッジを使うメリットは相殺されてしまう」ように思えます。 一方、「ヘッドアンプ」はノイズを減らすことが出来れば、私は「理想的な増幅手段」だと考えています。現状、アンプの「ノイズ」は、素子の選択と回路定数の選び方により、全く問題とならないレベルまで達しています。また、回路の初段にFETを使うことで、MC型カートリッジとヘッドアンプを直結出来ますし、アンプ自体の出力インピーダンスも十分に低くなりますから、「RIAA−EQアンプ」の入力部にコンデンサーを並列接続する必要もありません。従って、素直な特性を持つ「ヘッドアンプ」で、カートリッジメーカーの「推奨負荷抵抗」と同じ入力抵抗を持つ機種であれば、どのようなカートリッジでも最適な条件で鳴らすことが可能になります。
但し、昔あった「FR−1mkⅢ」のように、カートリッジ自体に固有のクセを持ったカートリッジは、そのクセも一緒に増幅されてしまいますので、注意が必要です。(このカートリッジに「固有のクセ」があるということは、その純正トランスも同時に「固有のクセ」を持っていると言うことなりますから、双方を組合せることで本来の性能を発揮します。従って、どちらか一方だけを単独で他の機器に組合せることは非常に難しいことです。) ここまでのことを纏めてみますと、オルトフォンのように、現在でも自社のトランスを推奨しているMC型カートリッジはやはりそれに従うのが原則だと思います。この場合、トランスの「推奨負荷」に対しても、MM型カートリッジと同様の注意が必要です。一方、ヘッドアンプを推奨しているカートリッジはヘッドアンプと組合せるべきです。最近は高性能なヘッドアンプが多く存在し、カートリッジもヘッドアンプを前提に設計されているようですから、そう言うMC型カートリッジを選ぶのがよい音を手早く獲得出来る近道となるはずです。
2.高出力MC型カートリッジ 「低出力」と言うMC型カートリッジの欠点を改善した「高出力MC型カートリッジ」も存在します。 昔は「サテン音響」と言うユニークなメーカーもありましたが、今では「ダイナベクター」が最も実績を持っているのかも知れません。サテン音響同様、ダイナベクターは会社創立時から「高出力MC型カートリッジ」を開発・販売し続けているメーカーです。中でも、赤いキャンディーのような外観を持った「DV−10X5」が非常に印象的です。磁気回路の改善とコイル巻数の増加により、「2.5mV/150Ω」と言う特性を持っていて、「RIAA−EQアンプに直結出来るMC型カートリッジ」となっています。私もこのカートリッジであれば、欠点が少なく、使ってもよいと思っています。 但し、高出力MC型カートリッジは販売しているメーカーが少なく、選択のバラエティーはありません。 3.ヘッドアンプの入力抵抗 下の「参考資料」にもありますが、ヘッドアンプの使用を前提にしたMC型カートリッジでは、その「推奨負荷は100Ω以上」となっています。他のメーカーも殆ど同じでしょう。そのため、ヘッドアンプの入力抵抗も「100Ω」が主流になっているようです。トランスも含めて、この値はカートリッジが発電した「電圧」と「電流」の両方(つまり「電力」)を効率的にトランス又はアンプに入力させようとした結果です。 しかし、この考え方に真っ向から異議を唱えた人がいました。その人とはあの金田明彦氏です。氏はカートリッジをデンオン「DL−103」に限定し、自らのDCアンプをローノイズ化し、なんと入力抵抗を「470kΩ」と言う途轍もなく大きい値に設定しました。これは、コイルの発電電流は無視し、「小さな発電電圧を損失なくアンプに取り込むことを目指した」と書いていたと思います。同じカートリッジでも、MM型に対しては常識的な入力抵抗を設定していましたから、このMC型用の「470kΩ」には当時本当に驚いた記憶があります。コイルのインピーダンス特性に周波数依存性がなく、浮遊容量を含む入力容量が殆ど影響しないMC型だからこそ可能となる「発想」ですね。 そこで、私も自分のヘッドアンプ(単なる「差動2段増幅+PPエミッタフォロアー」で、金田式ではありません)の入力抵抗を「100Ω」から「470kΩ」に変更して、使ってみました。その結果、聴感上のノイズが増えることもなく、極ノーマルな音質で音楽を聴くことが出来ました。「100Ω」の時と比べても、大きな変化はありません。尚、使ったカートリッジは私も常用していた「DL−103」です。 こうなると、ヘッドアンプの入力抵抗をあえて「470kΩ」にしなければならない必然性はなく、後にこの「金田式MCカートリッジ用ヘッドアンプの考え方」を取り入れるメーカーが出なかったのも頷けます。 4.その他 MC型カートリッジには、もう1つ、重大なデメリットあります。それは「本体ごと交換しないと、針を交換出来ないこと」です。針の寿命はMM型と同じですから、それは必然的にメンテナンス・コストが高くなることを意味します。その上、最近のMC型カートリッジの価格は「とんでもない高額」になって、針交換のコストもバカに出来ません。 それでもなお、MC型カートリッジの支持者が多いと言うことは、「コスト以上の強烈な魅力」があるのでしょう。 (その2/2に続く。) |
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フォノ・ケーブルの静電容量について検索してたどり着きました。
LP レコードとプレーヤーが好きで今でもガンガン使っておりますが、悲しいことに電気の知識を持ち合わせておりません。ご面倒をおかけいたしますが、もしできましたら教えていただけないでしょうか。
MC カートリッジの場合、昇圧トランスを介しますと、本文にお書きになっているように二次側にインダクタンスが生じますよね。で、そうしますと、ここからアンプまでのケーブルの静電容量とで LCR 回路が形成されると思うんですが、トランスの二次側コイルのインダクタンスは MM 型カートリッジの場合とはケタ違いに大きいはずですよね。(つづく)
2019/2/27(水) 午後 8:19 [ gio**nni_xx*v ]
〔続〕
すると、この LCR 回路の共振周波数がかなり低くなって数キロ Hz というオーダーに入って来るんじゃないかと思います。当然、可聴帯域のど真ん中ですので、これは音質に影響するような気がします。そうしますと、おっしゃってるようにカートリッジと同一メーカー製のトランスは自社製品に合わせて周波数特性が調整してあるとしても、出力側に使うケーブルの静電容量によってそれが狂ってくるということにはならないのでしょうか? かつての SHURE のようにこの辺をウルサク取説に書いているメーカーはあまり無いように思うのですが…。
2019/2/27(水) 午後 8:21 [ gio**nni_xx*v ]
gio**nni_xx*vさん、おはようございます。
>(MC)トランスの二次側コイルのインダクタンスはMM型カートリッジの場合とはケタ違いに大きいはずですよね。
そうなんですか?
最近のオーディオ事情は全く分かりませんが、私がレコード再生を楽しんでいた頃は、MCトランスの2次側インピーダンス(コイルのインダクタンス成分だけではありません)は概ね「4〜5kΩ」でした。この値はMMカートリッジのインピーダンスに近い値であり、低静電容量タイプのケーブルを使えば、周波数特性は特に問題になりませんでした。
例えば、MCトランスの昇圧比を10倍とし、1次側インピーダンスを50Ωとすれば、2次側インピーダンスが5kΩとなります。
また、MCトランスの昇圧比を30倍とし、2次側インピーダンスを5kΩのままとするなら、1次側インピーダンスは5Ωとなりなります。
2019/3/10(日) 午前 10:18
> 兵庫の耳悪オヤジさん
返信有り難うございます。
ケタ違いに大きいというのはインピーダンスじゃなく、インダクタンスです。二次側インピーダンスについてはおっしゃるようなオーダーでしょうし、これは基本的には昇圧比 (巻数比) で決まりますから、昔の製品も今どきの製品もそう違わないと思いますが、いずれにせよアンプ側の MM 入力の方で適切な負荷抵抗を入れて処置してあるでしょうからユーザーが気にする必要はないでしょう。
一方、私が気にしたのはケーブルの静電容量によって形成される LCR 回路の共振周波数です。これは 2π √(LC) の逆数になるので、L が大きくなるに従って低くなってくると思われます。MM カートリッジの L は 数百ミリ・ヘンリー、大きくても 1 H には達しない程度でしょうが、トランスの二次側ですと数十ヘンリーになりそうで、ケーブルの C にかなり気を使わないと共振周波数が 10 KHz をかなり下回るのではないかと思ったわけです。
勝手な質問ですので、どうぞ気になさらないでください。
2019/3/10(日) 午後 1:30 [ gio**nni_xx*v ]
gio**nni_xx*vさん
私は電気工学の専門家でもありませんし、インピーダンスとインダクタンスの理論的な違いも分かりません。
もし詳細なことが知りたいのでしたら、MCトランスメーカーに問い合わせて下さい。
なお、今現在、私はアナログディスクの再生には全く興味がありませんので、詳しく調べる気もありません。
もし、私のブログの内容にご不満があるようでしたら、いつでもお知らせ下さい。ご不満のブログは即刻削除します。
2019/3/10(日) 午後 3:59
> 兵庫の耳悪オヤジさん
おおッ、不満などとトンデモありません。色々ためになることを教えていただけ有り難く思っております。
2019/3/10(日) 午後 5:14 [ gio**nni_xx*v ]