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『津軽海峡・冬景色』;石川さゆり
作詞;阿久悠
作曲;三木たかし
編曲;三木たかし
♪ジャジャジャジャ〜ン♪で始まるこの歌は、「365日恋もよう」というアルバムの一番最後;12月分に収録されており、後にシングルカットされたものである。この歌は、"昭和の名曲"というよりは、"日本の名曲"といっても過言ではないだろう。世代を越えて多くの方々が、一度は耳にしたことのある曲だと思う。というわけで、ここではそんなたくさんの方々に愛され続けている名曲『津軽海峡・冬景色』の世界を、歌詞に重点を置いて紹介していきたいと思う。
「上野発の夜行列車おりた時から 青森駅は雪の中」…夜行列車を降りると、そこは辺り一面雪の中。視界に入るもの全てが真っ白である。情景が目に浮かぶようで、日本の自然の美しさが描かれていると思う。次に、「北へ帰る人の群れはだれも無口で 海なりだけをきいている」とある。この女性は、東京上野駅から北海道へ帰ろうとしているようだが、北へ帰ろうとしている人達が皆無口だというところに、何となくこの女性の心情も重なる部分が感じられる。つまり、「北へ帰る人の群れはだれも無口で」という表現をすることにより、女性の淋しさをより強く表す効果がみられるのだ。そして更に、「わたしもひとり連絡船に乗り 凍えそうな鴎見つめ 泣いていました」と続いている。鴎が津軽海峡の上を力いっぱい飛んでいるのではなく、凍えそうな姿で飛んでいるのである。降り積もる雪の中なのだから、鴎が凍えそうに飛んでいるのは特に不自然ではないように思われる。むしろ、その光景の方が通常のようにさえ思われるかもしれない。しかし、私は見る人によっては、例え雪の中であったとしても寒さの中で悠々と元気よく飛んでいる鴎と、寒さに凍えそうな鴎と、二通りに見えるのではないかと思うわけである。あまりうまくは言えないが、もしこの部分が「凍えそうな鴎」ではなく、ただ単に「津軽海峡の鴎」や「雪の中を飛んでいる鴎」だけでは、何か物足りなさを感じることであろう。「凍えそうな鴎」だからこそ、この場面は成り立ち、女性の気持ちもより伝わってくるのではないだろうか。私は、この1番の歌詞では「無口」,「凍えそうな鴎」,そして「泣いていました」と繋がっていくのであって、この3語のうちひとつでも欠ければ恋にやぶれたこの女性の心情は薄いものになってしまうと感じる。
続いて、2番の歌詞についてである。2番の歌詞においては、「息でくもる窓のガラスふいてみたけど はるかに霞み見えるだけ」という部分に注目したい。見知らぬ誰かが、「見てごらん、あれが竜飛岬なんだよ」と指さした。だから、この女性も寒さで曇った列車の窓ガラスを拭いて視界をつくり、その指さす方向を見てみた。けれども、霞んでいてよく見えない。はるか遠くの方に竜飛岬がある為、ガラスばりにははっきりとは確認することができない。竜飛岬が霞んでいてよく見えないのは、本当にそれがはるか遠くにあるからという理由だけなのか。それとも、涙に霞んで見え辛くなっているのだろうか。どちらとも考えられる表現であるように思う。私は、後者の方がよりロマンチックだとは感じているが…。さて、次にサビの部分である。「さよならあなた わたしは帰ります 風の音が胸を揺する 泣けとばかりに」となっている。自分から「さよなら」と呟いている。こういう自分の意思をしっかりと持った強い女性は素敵だと思う。けれども、風の音が泣けとばかりに女性の気持ちを揺すっている。一人で生きていくことを決意しようとしているのに、津軽海峡の上を吹く風は、「さぁ、思いっきり泣きなさい…泣いてしまいなさい」と、そう言わんばかりに女性の胸を突く。女性の胸は、一瞬揺らいだかもしれない。しかし、もう後戻りはできない。さよならを告げ、全てのことを断ち切り全ての過去を投げ捨て、これから新しい一歩を踏み出そうとしているところなのである。そのような思いが、最後の「ああ 津軽海峡・冬景色」に繋がっているのだろう。「ああ」というのは、これで本当によかったのだろうか、いやきっとこれが一番ベストな選択だったのだと、そう自分に言い聞かせているようにも聞こえる。たった一言ではあるが、女性のせつない心情がよく伝わってくる。愛する男性とわけあって離れなければならず、どうすることもできない。哀しいけど、でもいつまでもあの人を想い続け男性にすがって生きていくのではなく、私も自立しよう!そう自分に一生懸命に言い聞かせているように感じられる。「ああ」という溜め息混じりのこの部分は、どちらにしてもこうするしか術がなかったやりきれない思いを、最高に表現しきった感嘆文であろう。
又、さゆりさんのこの歌の表現の仕方についても少し触れておくとする。発売当初の『津軽海峡・冬景色』は、失恋した女性の心を激しく唄いあげられたように感じる。この歌の女性の年齢層といえば、まだ若く決して経験豊富とは言い難い20代前半か半ばくらいのように想像させてくれる。それに対し、現在さゆりさんが唄う『津軽海峡・冬景色』は、失恋した女性の心を滑らかに表現されているように感じる。女性の年齢層も、20代から大人になり様々な経験もした30代〜40代の女性が主人公となっているように感じさせてくれるのである。又、サビの部分(「ああ」という部分)でのさゆりさんの裏声がかった歌声はたまらない。雪の中の津軽海峡と女性の心が混じり合って、海底からぐっと突き上げてくるような雰囲気である。とても美しい裏声であると思う。この歌は、私は演歌というよりは学校の教科書に載っても全く不思議ではない歌のように思っている。それほど、この歌はたくさんの方々に愛され指示され続けている作品なのだ。そして、それはきっとこれからも変わらないことだろう。
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