朴思堂だより

打てば響く世界を朴の木の下で思う

いのち

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   峠道
 
 今日の佐久地方は氷が張り、強い霜も降りた。佐久町から十石峠(じゅっこくとうげ)へ向かう山間は紅葉がとてもきれいだった。
 乙女の滝の少し上から土砂崩れのため車両は通行止めになっていた。峠までどれくらい時間がかかるか分からないが、思い切って歩いてみる。澄みきった青空の下、急な坂もあり汗がにじんでくる。
あれが峠か、と思う道はさらに曲がり、尾根から尾根へとつづく。土砂崩れの現場では地元の人が重機を使って働いていた。「峠はすぐそこですよ」と、土ぼこりにまみれた男性が白い歯をのぞかせ教えてくれた。一時間以上、黙々と歩いてきたのでそんなひとことがとても嬉しい。

 十石峠の見晴らし台に登る。西に見えるアルプスは真っ白で、群馬、秩父の山は幾重にも連なり、胸を突かれるほどの美しさであった。
 百年以上前の明治17年、圧政と高利貸の不当な取り立てに耐え切れず、
11月1日に武装蜂起した秩父困民党の人たちは、やがて官憲に追われ長野県境の十石峠まで転戦してきたのである。
 前日はこの山中に雪が降り、真冬のような寒さの中わらじ履きで登ってきたという。
 峠から振り返ったであろうふるさとの山々。父、母、妻、子らに最期の別れを告げ、佐久の自由民権の灯に望みを託し峠を下っていった人たち。

 蜂起9日目の11月9日早朝、官憲の追撃を受け南佐久郡小海町馬流(まながし)で散華消滅した困民党。
 多くの死傷者を出し「暴徒」と呼ばれ、孫子の代まで差別を受けてきた人たちの悲しみは計り知れない。

 峠道は、そんなかなしみの歴史をも包み込み、ここちよい谷川の音を聞かせてくれていた。
 
 
〜   〜   〜
 
 この短い文を書いたのは今から10年以上も前である。この季節になると、秩父事件のことが思われてならない。11月9日、今日は困民党散華の日。
 
 謹んで亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
  
 

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