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キッパーを被った安倍首相
Saven Satow
Jan, 21. 2015
 
「我々の歩みが人々と共にある『氷河の流れ』であることを、あえて願うものである。その歩みは静止しているかの如くのろいが、満身に氷雪を蓄え固めて、巨大な 山々を確実に削り降ろしてゆく膨大なエネルギーの塊である。我々はあらゆる立場 を超えて存在する人間の良心を集めて氷河となし、騒々しく現れては地表に消える小川を尻目に、確実に困難を打ち砕き、かつ何かを築いてゆく者でありたいと、心底願っている」。
仲村哲
 
 AFPは、2015119日にエルサレムのホロコースト記念館で献花をする安倍晋三首相の写真を配信する。イスラエルを公式訪問した首脳によるこうした行いは礼儀として望ましい。しかし、安倍首相は目を疑う姿をしている。彼がキッパーを被っているからだ。
 
 「キッパー(Kippah)」は皿状のユダヤ教の帽子である。もちろん、安倍首相はユダヤ教徒ではない。非ユダヤ教徒の首脳がキッパーを被って献花するなど聞いたことがない。
 
 異教徒が宗教施設に入ることを許された場合、服装や行動など特定のコードに従うように求められることがある。それはユダヤ教に限らず、他の宗教でも広く見られる。
 
 しかし、ホロコーストは人類が共有すべき記憶である。宗教と言うより、政治の問題である。レイシズムやヘイトスピーチ、ジェノサイドはその後も発生しており、国際社会が取り組まなければならない現代的課題である。
 
 しかも、安倍首相は、その後、パレスチナを訪問する予定である。パレスチナ問題を抱える中東には「地政学的繊細さ(Geopolitical Sensitivity)」が要求される。アラブ・イスラエル双方に対して慎重にバランスをとり、公正な姿勢で接しなければならない。一言のみならず、一挙手一投足に至るまで心配りが要る。ちょっとした不注意が不公正と受け取られ、外交問題に発展しかねない。
 
 日本はこれまで中立の立場を堅持し、中東和平を損う行為を行っていない。そのため、アラブ諸国での日本感情はよい。
 
 ところが、今回のイスラエルでの安倍首相の言動は積み重ねてきた中東での信頼を台無しにするものである。ガザ侵攻で国際的な非難を浴びたばかりのイスラエルとテロとの戦いの協力を表明している。しかも、キッパーを被っている。もしたかが帽子ではないかと安倍首相を擁護する支持者がいるとしたら、その無知と無神経さを恥じるべきだろう。ダブルスタンダードと非難されてきた米国でさえ安倍首相に比べれば公正に見えるほどだ。パレスチナ人を始めアラブ人が安倍首相に怒りを爆発させても不思議ではない。彼の浅はかな積極的平和主義というレトリックは異文化には通じない。
 
 日本が中東諸国に対して人道的支援や生活基盤強化の援助をすることは必要である。また、イスラム国を始めとする過激主義やテロは国際的脅威であり、その解決に取り組むのは当然である。
 
 しかし、非軍事的支援とテロ対策を絡めるべきではない。また、暴力集団をいたずらに挑発すべきでもない。必ずしも合理的判断を持っていない彼らはちょっとしたことでも口実にし、何をしでかすかわからないからだ。手柄を見せびらかすことは厳に慎まねばならない。
 
 安倍首相がエジプトでイスラム国対策費2億ドルをぶち上げたら、彼らはあてつけるかのごとく同額を身代金として要求している。過激主義やテロは社会の不信感から生まれ、育つ。日本は相互信頼が社会に広がるための協力を惜しまないと示すことが望ましい。
 
 ジャーナリストが紛争地など危険地帯に入るのはそこで何が行われているかを報道するためだけではない。残虐行為の抑止のためでもある。非人道的行為を目撃したら、ジャーナリストは言葉と映像を世界に配信する。戦闘員も彼らが要ればそれを抑制する。ジャーナリストは存在自体に意義がある。
 
 そのジャーナリストがイスラム国に拘束され、日本政府に身代金を要求している。政府にはイスラム国との交渉のパイプはない。周辺国に協力を要請するほかない。しかし、安倍首相がキッパーを被っている。従来の日本の姿勢なら積極的に応じられるが、親イスラエルの首脳の依頼に協力することはアラブ諸国としては複雑な思いがあるだろう。
 
 中東訪問は現在の国際情勢において安倍首相が外交を担当するにはあまりにも無知で無神経だということを露呈している。12年末に政権に就いて以来、彼は外交でへまを重ね続けている。彼の認知能力では現代の国際政治を扱えない。
 
 威勢よくイスラエルでテロとの戦いへの協力を口にしながら、111日の安倍首相の行動は首脳として恥ずべきものである。フランス各地においてテロを非難するデモが行われ、欧州を中心に各国首脳が参加している。また、新宿でもフランス語学校が17人の死者を追悼するイベントが開催さる。安倍首相の姿はどちらにもない。その間、彼はゴルフに興じている。オフを満喫していたというわけだ。
 
 そもそも今回の外遊が必要だったのか疑問が湧く。この117日は阪神・淡路大震災から20年御節目の日である。成人式を迎える若者の多数はあの年、すなわち1995年生まれだ。かの大震災以後も今日に至るまで日本は多くの災害に見舞われている。災害大国日本の首相としてあれから何を学び、どうしていくのかをという決意を改めて117日神戸で語るべきである。天皇・皇后がその日かの地を訪れたのに、安倍首相の姿はない。
 
 現代の国際社会で判断・行動するための異文化理解を安倍首相は持っていない。日本ではよく国際的に活動するには覚悟が要ると口にされる。しかし、キッパーの件が示しているように、実際には必要なのは知識と繊細さである。それが異文化理解につながるのであり、安倍首相に欠落したものである。
〈了〉
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