もつれるチーズ

今夜の酒の肴は何にしようかと、朝から考えています。

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 酔うほど飲むわけじゃない。発泡酒を少し、焼酎を少し、たまに電気ブランを少し飲むぐらいである。
 ある時間になると、ひどく眠くなる。目を開けていられなくなる。夜はこれから、そういう時間にもかかわらず横になる。二時間ほどして目を覚ましたとき、記憶が一部、失われているのである。

 めし、食ったのかな‥‥?

 思い出せない。鯖の味噌煮を作り、残っていたサツマイモとカボチャを一緒に煮て、飲み始めた、そのあたりの記憶は鮮明なのだが、最後に飯を食ったかどうか、どうにも思い出せないのだ。いつも食っているから、今日も食っているんだろうと、それぐらいの自信であり、しかし、腹具合からすると、食っていないような気もする。ボケるには早すぎる、一人でボケると、どうなるんだろう。
 手がかりを求めて、流しを見にいく。皿とスプーンと、お碗と箸、それらが水に漬けてあり、食った形跡はたしかにあった。味噌煮や煮物の器、コップなどはすでに片付いていた。冷凍庫を見れば、鶏ごぼうごはんがなくなっている。だけど思い出せない。誰かが食ったとしか思えないのだが、鍵はちゃんとかかっている。
 迷宮入りである。
 紅茶を入れ、スイスロールを一本食い、腹はなんとか宥めた。

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 有名な天ぷら屋に入ったことがある。もちろん他人の奢りで。
 揚げたてがひとつずつ出てくる。そのどれもが飛び切りうまかったはずである。けれど、落着かないのだ。ビールは瓶で、注いだり注がれたりしなければならない。黙ったきりでいるわけにもいかない。そこへ次々と揚げたてが出てくる。遅れてはいけない。頃合よく出てきているはずなのに、気が急くのである。そして心の準備が出来ないうちに、これが最後です、と言われる。「あと、何か頼む?」と聞かれても、「いや、十分です」と答えたことだろう。
 まあ、慣れていないから落着かなかったのだろう。
 ご馳走になった相手を思い出せない。知らないおじさんだったのかと思えるほどである。店の名前も場所もすっかり忘れて、あのときの気分だけが残っている。
 ひとつに盛って出されるほうが性に合っているのだろう。食べる順番は自分で決める。一番好きなものは最後である。途中で生ビールのお代りをし、天ぷらがなくなっても、お新香やらお浸しでぐずぐず飲みつづけ、よしこれで最後にしようと決心して最後の一杯を頼み、うまくいけばそれで終る。

 久しぶりに天ぷらを揚げる。サツマイモとカボチャと海老を買い、あとは冷凍のインゲン、冷蔵庫に残っていたちくわ。
 衣を使い切るのに、冷凍の枝豆と、残っていた長芋を刻んで、カキアゲにする。とくにうまくはなかったが、面白い食感である。

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 好きな食べ物は? と聞かれれば、「麩」と答える。つづけて、好きな色は? という問いならば、答えは「黄」である。このあたりは質問者とのなれあいであり、もし面白がって「それじゃ‥‥」などと言い出す第三者がいても、それ以上は用意していない。「もういいよ」と、いっそう無口になったかもしれない。
 つるんで飲み歩いていたのは、遥か昔の話。そのあともたまに集ったりしたものの、もうほとんどが死んでしまった。年上が多かったのだから、仕方のないことではある。思い出しながら、ひとり部屋で麩を食っている。

 それにしても麩は重宝している。すき焼きにも入れる。どちらかといえば、麩を入れるのは関西風なのかもしれない。煮汁をきっちり吸うのだから、あまり濃くないほうが合っているということだろうか。
 肉じゃがの煮汁に麩を入れ、丼にした。始末料理といったかんじだが、なかなかのものである。それと、浅蜊の味噌汁。

 大勢で鍋をやったとき、生麩が入っていて感激したことがある。自分でもやってみようと思いながら、二十年が経つ。気に入ったことは憶えているものの、どんな味だったかは、すでに前世の記憶のようである。手近に求められないということもあるが、高いので覚悟が必要なのである。安い麩と、高い生麩、どこにでもある麩と、取り寄せなければ手に入れられない生麩、つい較べてしまうのだ。それでもこの冬には、ひとりの鍋に入れてみようと思う。

精はつかなくてもいい

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 マグロが高くなるとか。
 あまり好きじゃないから関係ないと、他人事みたいに聞き流していたのに、早速買ってしまった。べつにこれが食い納めというつもりじゃなく、長芋を買ったので、山かけにしようと決めたから。
 その長芋だが、昔からこんなに安かったのだろうか。なんだかこの手の芋は高いもの、精がつくものと、勝手に思い込んでいたのかもしれない。銀杏の葉の形をしたのは、大和芋というのかな、あれが高いのかもしれない。そういえばこの長芋、さらっとしていて、すりおろすのもずいぶん簡単だった。これじゃ精もつかないと、安いとなるととたんに侮ってしまう。まあ、精はつかなくてもいいのだが。
 レタスも買った。これなどなければないでいっこうに平気で、しばらく買っていなかったということは、ここのところ高かったのだろう。まったく、やりくり上手なおじさんである。レタスは包丁を入れないのがいいというけれど、しっかり刻んで食った。

牡蠣の土手鍋風

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 牡蠣は土手鍋風にしてみた。といっても、土手鍋なるもの、食ったことはない。ずっと前に見た料理番組で、これを土手鍋風と呼んでいたように思うのだが、記憶違いかもしれない。あらかじめ粉を着けてさっと茹でておいた牡蠣を、香ばしく焼いた味噌で絡める。こうすれば牡蠣の身が縮まないということだった。それでも、ずいぶん縮んだような気がする。
 あとは肉じゃが。これは作っているときから、気持ちが安らぐ。

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