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近くで火事があったようだ。
すぐのところにある消防署は、現在建替え中とかで移転している。やたらにサイレンが聞えるので、初めは営業を再開したのかぐらいに思っていたのだが、そうじゃないらしい。消防車が出ていくのではなく、集ってきているようである。そのうち窓の外で実況中継が始まった。「10メートルほどの火柱」などと刺戟的な表現も混じったりする。
どうやら消防署の近く、ガソリンスタンドの裏だということである。写真機を持って飛び出していきたい気持ちはあったが、ちょうど自分で散髪しているところだった。頭の右半分に鋏を入れたところで、細かいところはともかく、せめて左半分も同じぐらいにしたいものである。
実況を聞いているぶんには、大したことにはならないようである。ガソリンスタンドも平然と営業をつづけているという。これはなかなかの情報だった。
終った、終った、と聞えた。何はともあれ安心した。
どこそこで大根が安かった、そんな声も聞えて、次第に人は散っていたようである。
それからヘリコプターが来た。二機、三機と来たようだ。髪の毛がなくなったせいか、ことさら響く。凄まじいほどに響く。なんだか戦争が始まったかのようである。爆弾を落されそうで、火事よりもこちらのほうが気がかりだった。
散髪が終って掃除機をかけてる間も、ヘリコプターは頭上を旋回しつづけていた。いつもはうるさい掃除機の音も、今日に限ってはとても静かだった。なんでそんなにぐるぐる回らなければならないのか、腹立たしいことだった。
まあ、止っているわけにもいかないのだろうが。
早く帰れば叱られるのだろうか。
一時間近くも旋回していたのだ。火事はとうに収まり、大根を買いにいったおばさんも、食事の仕度にかかっていることだろう。
結局一歩も外に出なかったのではあるが、なんだか充実した一日だったような気さえする。頭も刈ったし。いや、火事を面白がる気は、これっぽちもない。誰にとっても毎日が平和で安全でありますように。
酒の肴は、鯵の干物、ほうれん草のお浸し、海苔の佃煮、卵焼き。旅館の朝飯みたいなのが食いたかったのだが、やっぱり足りない気がして、豚肉に卵をつけて焼いた。
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