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出かければ、あちこちで祭りにぶつかる。向島も祭りだった。
自転車でぷらぷらしている知人に会った。路上生活をしていた頃、たまに差し入れに来てくれていたその人は、こちらの暮しのめどが立ちかけた頃、失業した。入れ替わりにこっちが路上生活だと深刻に言うので、いっとき電話をかけて様子を聞いたりしていたのだが、いつまで経っても浮ぶでもなく沈むでもない様子で、どうせ出来ることといえば、路上生活に落ちた場合、やってもらったように差し入れをするぐらいのこと、よって立つところは一人ひとり違うのに、あれこれ聞き出しても仕方ないと、いつの間にか疎遠になっていたのである。聞けば新しく勤め出して二年になるという。もう駄目だと騒いでいたのが一年半ほど前だから、そのあとすぐに仕事を見つけて二年目になるということなのだろう。いくらいくら貰っていると金額まで言い、安くてばからしいとこぼしていたが、前と較べて悪いわけじゃなく、その口ぶりは彼なりの見栄みたいなものなのだろう。前のところではいくら貰っていると言っていたのか、物好きにもこちらは記憶しているのである。相槌を打つだけの、立ち話だった。
立ち去り際に、誰それが死んだと、言い出した。
「誰、それ?」
「あの頃、その辺りに、小屋を作っていた人だよ」
「知らない」
「いや、知ってるはずだよ」
年齢はいくつぐらい、これぐらい太っていて、と説明するが、埒が明かない。同じ時期同じ辺りで路上生活をしていたからといっても、ほとんど誰とも親しくしなかったのは、彼も知っての通りなのだが。
「まあ、顔を見れば分るかもしれないけど」
「うん。顔見れば、分るよ」
もう顔を見ることの出来ない人なのである。
また連絡するといって、なんだか中途半端に別れた。
桜餅を買うためだけに来たのであった。敬老の日に、家主の老夫婦に長命寺の桜餅を贈ることを、だいぶ前から決めていた。知った人であろうと、誰が死んでももうあまり驚かないが、家主の老夫婦には、長生きしてもらいたいと思っている。
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