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毎朝乗る京葉線の各駅停車はほどほどの混み具合なのだが、途中で快速に待合せしたあとは座れることもある。対する快速のほうはぎゅう詰めである。たまにどんなものかとぎゅう詰めを味わってみることもあるが、夜勤を終えての帰りで急いでいるわけではなく、ほとんどの場合そのまま各駅停車に乗っていく。ごく当り前の選択だろう。
その日はうまく目の前の人が降りていき、しかも端っこの座席。こんなことでも幸運な一日を予感させてくれる。まあぼくの場合、一日は終りに近づいているのだけれど。
終点まであと少しというところで、荷物をいっぱい持ったおばさんが乗り込んできた。しばらくきょろきょろしていたが、すいてはいても座席は埋っている。あきらめたようで、彼女はぼくの前に立った。もちろん席を譲る気はなかった。
彼女はまず両手に提げていた荷物を床に広げ始めた。風呂敷包み。鞄。紙袋と布の手提げは安定が悪そうだった。その中から、鞄をまず網棚に上げた。結構腕は太そうだった。
次に風呂敷包みも網棚に上げようとしたのだが、そうすると紙袋と布の手提げがパタパタと倒れる。彼女は持ち上げた風呂敷包みを床に降ろし、倒れた荷物をまた立て始めた。手順のまずさが気になるのだが、まあ関係のないこと、と思っていた。
紙袋に手を入れ、中のこまごましたものを均したのか、それはなんとか立った。問題は布の手提げである。厚みがなく、どうしても単独では無理だった。紙袋に持たせかけると、どちらも倒れた。紙袋をもう一度立てる、そして思案の末、彼女は布の手提げを、ぼくの右足に持たせかけたのだった。
もう他人の手順を云々している場合ではない。こちらの応対が評価される番である。とりあえず我慢した。風呂敷包みを網棚に上げるまでのことだ。ところが彼女は風呂敷包みを上げてしまうと、つり革につかまり、しばし物思いにふけるようだった。
全神経が、手提げと右足の接点に集中する。なんだか痒くなってくる。たまらず足をずらした。手提げはぱったりと床に伏せ、彼女は黙って取り上げた。ほどなくして八丁堀に到着である。
ここで電車はがらがらになる。彼女は少し離れた座席を、紙袋と布の手提げを置いて確保した。そのあと二往復して、網棚の鞄を降ろし、風呂敷包みを降ろし、せっせと運んだ。ゆったりと四人分ほどの座席を確保出来て、彼女は満足そうだった。終点東京までの1、2分は、彼女にとってもぼくにとっても、平和な時間だった。
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