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財布ちり紙ハンカチ煙草はポケットに振り分けて、手ぶらでいるのが一番いい。どうしてもというときには、手提げの紙袋を持つ。旅行鞄は別にして、仕事にも仕事探しにも、鞄を持ったことはなかった。
図書館の行き帰りも、手提げの紙袋である。重宝している。それでも、帰途スーパーで買物をするときにこの紙袋を持ち込むのは、ちょっと気が引けてしまう。
万引きを疑われるのでは、と気になるのだ。まあ、しなければいいだけのことだが。
レジで清算のとき、紙袋をいかにも無造作に、店員の視界に置く。無造作どころか、気にしているのである。おかしなものが入っていないか、確認することもある。どうなのだろう、ぽっかり口を開けた紙袋が、店のほうでは気にならないのだろうか。
それでも雨の日に、濡れると破れるのではと心配してくれ、紙袋ごと入る大きな買物袋をくれたこともあった。
最近、背広を着る機会があった。背広の上には、新調したコート。結構紳士らしいじゃないかと、鏡に見とれてしまった。そんなときに、鞄を買おうかなと、ふと思いついたのだ。
ただし買うにしても、ひとつですませたい。A4判がすっぽり入る寸法、弁当箱が入るぐらいの厚みというのは問題ないのだが、背広のときには実直そうな紳士を際立たせ、ラフな恰好にも合うもの、と思えば、これはしっかり研究しなければいけない。外出するたび、他人の提げている鞄を気にするようになった。
駅のホームで、ちょっとよさそうな鞄を見つけた。年配の男性が鞄を隣の椅子に置いて、文庫本を読みふけっていたのだ。勤務時間中といった恰好である。じっと見ていると、気がついたのかその人は、不安そうに鞄を引き寄せた。
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