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夏に神谷バーの売店で電気ブランを買ったとき、一応聞いたのだ。
「蜂印香竄葡萄酒(はちじるしこうざんぶどうしゅ)って、ある?」
若い女の子が狭い売店にふたりもいて、振付けのように同時に首をかしげた。ピンクレディみたいだと、こちらが連想するものは当然古い。
ひとりが無難なことを言った。「今あるのは、こちらに並んでいるものだけですが」
もうひとりもしっかり頷いた。それ以上聞くのは野暮である。そのときは電気ブランだけ買って帰った。
べつに捜し求めるほどの酒ではない。神谷バーで何回か飲み、一度か二度買って帰った。甘ったるいだけの、ようするに蜂ブドー酒である。まあそれに薬草が入っているらしいが、酒を飲んで健康になりたいとは、とくに望んではいない。ただラベルが気に入っていた。出来ればもう一度ぐらい目にしたいものだと、それぐらいの思いだった。
ラベルの両端に、世界の国名が、漢字で書いてあった。亜米利加、英吉利、仏蘭西、伊太利、独逸、‥‥あとはなんだったろう、希臘、葡萄牙、印度、西班牙なんていうのもあったはずだ。国旗はあったような、なかったような‥‥。
雷門の並びの酒屋に蜂印香竄葡萄酒を見つけたのは、つい最近のことである。とうとう見つけた、というほどのことではなかった。「ほら見ろ、あるじゃないか」と胸のうちで呟いたのは、神谷バーのピンクレディに向って言ったのかもしれない。その日は荷物になるのを嫌い、買わなかった。そのていどのことだ。
今日ついに買ったのだが、昔見たのとラベルが違っていた。すっきりしたデザインである。ローヤルゼリー、ドクダミ、蓬、花梨から始まって、体によさそうなエキスが25種羅列してあり、「医食同源」なんて言葉が、表のラベルのみならず、裏のラベルにまでしつこく書いてある。
垢抜けているというほどのことでもないのだが、時代錯誤の匂いは消えていた。
そうですか、そんなに体にいい飲み物になったのですか。
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