もつれるチーズ

今夜の酒の肴は何にしようかと、朝から考えています。

ひとりの団欒

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ひきこもりがちなおじさんの、それでもまあまあしあわせな日々のつれづれ。パソコンとセットで、デジタルカメラなるものをついに手に入れてしまい、おじさんはすこし持て余しています。
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 土用の丑の日がいつだったのか、気がつかないまま過ぎてしまった。その日にどうこうしようというのは、もともとなかったのだけれど。
 雨でも降って部屋にひきこもっていた日がそうだったのか。それとも、丑の日にはウナギと、世間はあまり言わなくなってしまったのか。
 ウナギの蒲焼はふだんから気軽に食っている。何も思いつかないからウナギでも、ということすらある。蒲焼もずいぶん甘く見られたものである。天然だ国産だ備長炭だと、まだまだ高級の域に踏ん張っているのもあろうけれど、そっちの方向にはあまり目が行かない。いつか機会でもあれば、というところだ。
 ウナギの蒲焼をはじめて食ったのは、おそらく中学生になってからだと思う。いくらか暮しが上向いてきた、そんな中で母親がついに奮発したのである。それ以後も、せいぜい年に一、二度のことだったろう。恨めしい、そして憧れの食べ物だった。もしかしたら仇のようなものだったかもしれない。どうぞ仇に巡りあいたい‥‥。
 小学生の頃はウナギどころか、牛肉も食ったことがなかったと、記憶している。豚肉や鶏肉はたまには食っていたのだろうが、なんといっても、主力は鯨だった。卵すら、特別な日でなければ食えなかった。
 ウナギが付け狙う仇なら、鯨は蒸発した亭主といったところか。飲んだくれで甲斐性なしで勝手な亭主が、四十年後に消息を知れば、別のところで幸せな家庭を築き、すでに隠居して好々爺でいるとか。ちょっと、違うかな。ならば、鯨は蒸発した姉、というのはどうだろう。弟や妹の面倒をよく見ていた健気な姉が、家を飛び出し、聞けば夜の都会でけばけばしい恰好をしている‥‥とか。

 昨日は酒の肴に鰻ざく、今日の昼が丼。鰻丼には、もうひとつの仇である卵をちりばめてみた。ウナギにしろ卵にしろ、仇もすっかり老いさらばえて、恨みも消え、今は身内同然に親しくしている。

ぐっすり眠りたい

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 うまく眠れない。
 悶々としたあげく、明け方やっと眠りにつく。すとんと落ちていく。もうどこまでも落ちていきたいのに、すぐ目覚しが鳴り始める。海で溺れて半死の状態で助けられたような気分である。だがこの場合、自力で舟に這い上らねばならないらしい。ふなべりに掴まったまま目をつぶっていると、すぐに二台目の目覚しが鳴り始める。
 仕事場でも、拘束時間の半分は、うつらうつらしている。おかげで本が読めない。仕事そのものは迅速丁寧に片付けたと、まあ思っていただきたい。
 そんなふうで、いつにもまして気力がない。帰りに銀行とスーパーに寄るつもりだったのが、雨が降り出すと、やめた、ということになる。振込まれた給料を引出すつもりだったのが、べつに使うこともないから、と思ってしまう。こんなふうだと金が貯る一方だと、余計な心配をしてしまう。
 高野豆腐を煮て、ポテトサラダを作った。鶏肉と大根の煮物が残っていたので、大根だけ温め、鶏肉と煮汁は親子丼に姿を変えた。
 腹一杯になると、ついうたた寝をしてしまう。

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 食料がなくなったので、銭湯の帰り、いつもの肉屋に寄る。焼豚とマカロニサラダとトマト。商店街から離れているせいか野菜や豆腐、蒟蒻の類いも置いてあって、どれも一様に高いのだが、何故かトマトだけは安い。
 ひょっとして買物する必要はないかもしれないとは、思ったのだが。

 五時少し前に、家賃を払いに行く。
 冬場は頑丈に戸締りしている老夫婦だが、この季節は勝手口のドアも開けたままである。冷房はあまり使わないようだ。上半身裸でいたおじいちゃんがすぐに部屋に消え、シャツを着てくると、「ああ、いらっしゃい」と言った。べつに服着てこなくてもいいのに、と言うと、病院にいってきたとかなんとか呟いている。血圧が高いらしくてね、とおばちゃんが説明するのにも、お大事に、とか、それは心配ですね、とかいった類いの言葉は、咄嗟には出ない。
 帰りには相変らずの、お土産の山である。
 まず辛子明太子。
 「今届いたばかりなのよ」と、段ボール箱を示す。「四時に来た」と、おじいちゃんも口を添える。「こんなもので悪いけどね、九州の息子が送ってくれて‥‥」と言いかけるのに対し、「大好きだよ。もう何度も貰ってるよ」と言ったのは、いつも有難うという意味だったのだが、おばちゃんの話の邪魔をしたようであった。
 コンブの煮物。
 「これは買ったものなんだけどね。息子が九州で一人暮らしをしていた頃、よく作って送っていたの。男の人はこういうのを食べないとね」
 なんとなく頷いておいた。おばちゃんは煮物をトレイに取分け、ポリ袋に入れる。
 キュウリのお新香。
 「今日のはちょっと甘いの。血圧が高いから、おじいちゃんが辛いのは駄目だって言うから作ってみたけど、おいしくないかもしれない。辛いのもちゃんと食べないと駄目なのよね」
 やはりなんとなく頷く。おばちゃんはお新香を二本、ポリ袋に入れる。はじめて気がついたのだが、台所の隅にポリ袋がロールごとぶらさがっている。そういえばスーパーで、ポリ袋はロールごと持っていかないでください、なんて書いてあるのを見たことがあるが‥‥。いや、まあ、スーパーと同じものが売っているのだろう。
 おじいちゃん専用のビールが付いて、もう持ちきれない。
 「あとはね」そういってなおも冷蔵庫を物色している。
 「トマトは?」
 「買ってきたばかり」
 「でも、冷えてるよ。‥‥卵、いる?」
 「ある。もうそんなに探さなくって、いいよ」
 「そう。遠慮深いんだね」
 そうだね。その上、正直者である。

一瞬の忙しさ

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 仕事の帰りに、遠回りして銀行とスーパーに寄る。
 銀行で引出したのは、家賃の支払いのため。必ず25日に持っていくことにしている。
 「ほんとに、几帳面だね」
 「いや、そうでもないけど」
 決ってそういうやりとりになるのを、楽しみにしている。
 日曜祝日に重なっても、とにかく25日である。
 「あれ? 今日は‥‥」
 給料日のことを、尋ねづらいらしい。
 「給料日は関係ないんだよ。どうせ月末だから」
 「ほんとに有難いこと。いい人が来てくれたって、おじいちゃんも喜んでるのよ」
 評判は気にする方である。それでも、愛想よくは出来ない。

 汗でシャツが背中に貼りついている。スーパーを出たとたん、濡れたシャツがぬるくなっていく。顔からも汗がぼとぼとと落ちる。帰ったら、まず全部脱いで、体を拭こう。そう思っているうち、尿意を催してきた。そうなると、便所が先か。
 小便が近いのである。移動するときはちゃんと済ませてからと心がけているのが、この季節になるとつい忘れてしまう。それにしても、夥しい汗といい、小便といい、この水分はどこにあったものなのか。半日以上、飲み食いしてないはずなのに。そう思い始めると、心配が増えた。帰ったらまず水分を補給しなくてはいけない。
 そして、鼻をかみたくなってくる。
 大きな息をしないように、それでも急ぎ足で歩く。
 腹が減った。まずお湯を沸かさなければ。
 鶏肉や魚を早く冷蔵庫に入れなければ、この暑さで腐ってしまいそうな気がする。
 冷房を入れるのが先か。
 洗濯は、昼飯のあとだな。
 ‥‥なんだかやることがいっぱいあるような気になる。ばたばたしているうちに明日になってしまうのではないかと思うほどだ。
 一時間も経たないうちに、食事も洗濯も終った。
 忙しいと思っていたのが、急に暇になる。

冥土の土産には早いが

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 やけっぱちになったわけではない。うまそうだと思い、それほど高くはないと思い、わりとすんなり買った。こんなふうに滑らかにことが運ばなければ、いつまでも食えなかったろう。
 
 路上生活とそのあとの施設での暮しは、都合三年に及んだ。どうにかひとりで部屋を借りられ、たいしたことは望めないにしても、食い物でちょっと贅沢をしてみようという気になった。そのときに、無理やり思いついたのが、ウニだった。浅草の帰りに、御徒町の吉池に寄った。三年前のことである。
 ずらっと並んでいるのを、高いほうから順に見ていった。見分け方など、正直いって分らないのだが、次第にどす黒くなっていくのは、嫌な気がした。途中から、外国の地名が出てくる。モロッコだとちょっと抵抗があるが、モーリタニアだったかな? まあそれも当てにならない‥‥。
 そしてどんじりに、外国産の値引き商品があった。安かった。毎日買ってもいいぐらいだった。それなのにまた戻って、国産のと比較したのである。そこで思考は完全に止ってしまった。

 ウニを買ったのは、今回がはじめてじゃないかなという気がする。一種類しかないのがよかった。980円が高いのか安いのか、よく分らない。果してそれほど好きだったのか、それも分らない。茄子のお新香がうまかった。



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