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「その人」が、
一日の大半を過ごす、”柵つきの電動ベッド”の、向かって右隣りの壁面に、
かつて、「その人」が描いた、“一枚の絵”が飾られている。
その”絵”が、
「その人」特有の“濃密な生理”と、しなやかな“心の弾力性”からもたらされた洒落たセンスが、
自然体のまま発揮された秀逸な“作品”であることは、誰の目にも明らかだと思う。
…
「その人」とは、
僕が、訪問介護で“入浴介助”を任されている、
齢70ほどの男性の利用者さんの一人で、脳腫瘍と肺に転移した癌のため、
右側の前頭葉を全て摘出し、約2年間、ほぼ寝たきりの生活を余儀なくされている。
介護認定は、最も重篤な「要介護5」で、
入浴介助では、ほぼ「全介助」、すなわち、
「彼の意志による手足の稼働が、ほぼ皆無である状態」での介助が必要だ。
入浴前の様々な段取りを済ませて、彼をシャワーチェアーに座らせた後、
頭髪から足の指先に至るまで入念にシャワーと石鹸で清掃し、
髭剃りや歯磨き、鼻毛や爪切り、衣服の着脱から舌苔の磨き落とし(舌の掃除)まで、
介助の中身は、あらゆるバラエティーに富み、
バラエティー番組よりも、およそ、「飽きる」ということがない(笑)。
なぜ、「飽きない」のかというと、
女性のそれのように極め細やかな彼のもち肌に、ウオッシュタオルを滑らすと、
不思議なことに、僕が自分の手足を「動かしている」のではなく、
滑らかな流線形の山並みをスムーズになぞり飛ぶ鳥たちのように、
彼の肉体が帯びている蕩けた恍惚に撫ぜられた僕の手足が、
無理なく「動かされている」ような、心地よい感覚に包まれるからだ。
様々な“訪問介護”の中でも、「入浴介助」は、
自らの身体を酷使する、とりわけ厳しい仕事ではある。
けれども、それは、「する側」にとって、“ただ辛いだけの酷使”なのだろうか?
或いは、「される側」にとって、単に“身体を清潔に保つための義務”に過ぎないのだろうか?
そして、「生命」という言葉の単純な意味合いの一つが、「自力で動けること」ならば、
「自力を損なわれた生命」は、もはや「生命」とは言えず、
この世に存在する価値のないものなのだろうか…
僕は、違うと思う。
例えば、入浴介助中の“人肌に触れる”という単純な行為によって、
無意識のうちに、“互いの肌の温もりの交換”が行われ、
その温もりは、それぞれの肉体へ還元されて行き、その過程で、
仕事のキツさで凝り固まった、「する側」の心身が、
「される側」から”豊かな弾力”を授かることも、ありうるのではないか。
つまり、機能しなくなった肉体への接触を通して、
「される側」の心の内に眠る“しなやかな弾力性”が、
「する側」の心の内で朽ちかけていた“柔らかなもの”を呼び覚ますという奇跡だって、
あって良いはず。
ならば、「する側」と「される側」は、実は、“一方向の関係性”にあるのではなく、
「相互に欠けたものを補い合う」という対等な地平に立っているからこそ、
「動かぬ肉体」もまた、この世になくてはならない、かけがえのない存在だと言えるのかも知れない。
そして、自らに、そう問いかけることの連続が、今の僕を支えているのかも知れない。
…
壁に飾られた“一枚の絵”が放つ小さな輝きは、
黎明のしじまに深々と降り注ぐ粉雪のように、
“サヨウナラ”の挨拶を告げるとき、うすく微笑みながら、
“アリガトウ”と告げる「その人」の、やすらかな笑顔のまなじりの辺りに、
今日もまた、誰にも知らされることなく、光り積もっている。
“一人と一枚”が、互いに見つめ合い、語らい合うことで、
そこに生まれた、いくつかの暖かな“ひだまり”を、
静かに行き交う微かな両者の声の振幅で、
小さく揺らしながら…
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ひだまりの詩
詞:水野 幸代
曲:日向 敏文
唄:Le Couple
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逢えなくなって どれくらい経つのでしょう
出した手紙も 今朝ポストに舞い戻った
窓辺に揺れる 目を覚ました若葉のよに
長い冬を越え 今頃 気づくなんて
どんなに言葉にしても
足りないくらい
あなた 愛してくれた
すべて 包んでくれた
まるで
ひだまりでした
菜の花燃える 二人最後のフォトグラフ
“送るからね”と 約束はたせないけれど
もしも今なら 優しさもひたむきさも
両手に束ねて 届けられたのに
それぞれ 別々の人
好きになっても
あなた 残してくれた
すべて 忘れないで
誰かを
愛せるように
広い空の下 二度と逢えなくても
生きてゆくの
こんな 私のこと
心から…
あなた 愛してくれた
すべて 包んでくれた
まるで
ひだまりでした
あなた
愛してくれた
すべて
包んでくれた
それは
ひだまりでした…
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