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平成26年8月1日、薬食審・第一部会でMSDのベルソムラ錠(一般名:スボレキサント)の承認が了承されました。 オレキシン受容体の阻害という、新しい作用機序を持つ不眠症治療薬です。 これまでの薬とは異なる機序を持つことから、他の薬で十分な効果を得ることができなかった場合でも効果が期待されます。
海外ではまだ承認されている国はなく、米国ではFDAの審査中です。
これまでの睡眠薬まず、これまでの睡眠薬について簡単にまとめておきます。
現在使用されている不眠症治療薬には、バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬があります。
GABA-A受容体作動薬中枢神経系における抑制アミノ酸であるγ-アミノ酪酸(GABA)のイオンチャネル型受容体GABA-A受容体を介して鎮静作用を示します。
抑制系を亢進して睡眠を引き起こすため、得られる睡眠の質はあまり良くないとされています。
また、耐性・習慣性や翌日も効果が持続する持ち越し、認知障害(前向性健忘)が問題とされることもあります。バルビツール酸系 GABA-A受容体のバルビツール酸結合部位に働くことで、不眠や不安症状に対して効果を発揮します。 ですが、高濃度ではGABA-Aを直接活性化する作用を持つため、選択性•治療指数が低く、致死的な副作用を引き起こす危険性があります。
依存性が高いことも問題とされます。
アルコールと同じく、レム睡眠(REM sleep=Rapid Eye Movement sleep、脳波的には覚醒しているが体は眠っている状態)が短くなります。
例)ラボナ(一般名:ペントバルビタール)、イソミタール(一般名:アモバルビタール)、フェノバール(一般名:フェノバルビタール)など
非バルビツール酸系バルビツール酸系の改良版ですが、やはり習慣性による乱用や依存が問題になりました。 また、催奇性のため販売中止となったものもあります。
例)ブロバリン(一般名:ブロムワレリル尿素)など
ベンゾジアゼピン系バルビツール酸系と同じくGABA-A受容体を介して作用を発揮しますが、結合部位が異なり、ベンゾジアゼピン系結合部位に作用します。 バルビツール酸系とは異なり、単独でGABA-A受容体を活性化することができないため、安全性が高いと考えられます。 バルビツール酸系と比較して、レム睡眠の減少はかなり少ないです。
例)レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)、ハルシオン(一般名:トリアゾラム)、サイレース•ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)、ネルボン•ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)など
非ベンゾジアゼピン系ベンゾジアゼピン系とは全く異なる化学構造を持つにも関わらず、似たような作用を発揮する薬物の総称です。 GABA-A受容体のサブタイプであるGABA-Aα1への選択性が高いため、抗不安作用が少なく、依存性が改善されています。
(選択性の高さ:ゾルピデム>ゾピクロン・エスゾピクロン)
レム睡眠に影響を与えず、ノンレム睡眠の深い眠りを増やすことが可能です。耐性も起こりにくいとされていますが、効果はベンゾジアゼピン系と比較して穏やかです。
例)アモバン(一般名:ゾピクロン)、マイスリー(一般名:ゾルピデム)、ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)
メラトニン受容体作動薬視交叉上核のメラトニンMT1/MT2受容体に作用することで体内リズムを改善し、睡眠を促す効果を発揮します。
従来型の睡眠導入剤とは異なり、依存性や体制を生じにくいことから、米国において唯一、向精神薬として規制を受けない睡眠導入剤です。
オレキシンについて例)ロゼレム(一般名:ラメルテオン) 今回承認の了承を受けたベルソムラはオレキシン受容体阻害剤です。 オレキシンという名前は初耳の方も多いかもしれません。 オレキシンとは? オレキシンとは脳内の神経ペプチドの一種で、元々は接触行動(食欲)に関わる因子として注目されていました。 ですが、その後の研究により、オレキシンの産生が不十分な場合に、ナルコレプシーが引き起こされることがわかりました。
(オレキシン産生ニューロンの変性や脱落はナルコレプシーの原因となります)
そのことから、オレキシレンが覚醒調整系において重要な役割を担っていることが明らかになりました。
脳内のオレキシンが多いと覚醒し、少なくなると眠くなります。
オレキシンにはオレキシンA(orexin A)とオレキシンB(orexin B)の二つのイソペプチドが存在しますが、同じ前駆体から切り出されるペプチドのため、発現する細胞は同一です。
別名をヒポクレチンと言い、オレキシンAはヒポクレチン-1、オレキシンBはヒポクレチン-2に相当します。
オレキシン受容体とは?Gタンパク質共役型受容体で、オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)が存在します。
脳内の組織分布はサブタイプにより異なります。
OX1RとOX2Rの両方が覚醒・睡眠の調整に関わっています。例えば、背側縫線核(Dorsal Raphe nucleus:DR)ではセロトニン作動性ニューロンに両方の受容体が発現、外背側被蓋核(LateroDorsal Tegmental nucleus: LDT)や脚橋被蓋核(PedunculoPontine Tegmental nucleus: PPT)ではコリン作動性ニューロンにOX1Rのみが発現、GABA作動性介在ニューロンには両方の受容体が発現しています。
(オレキシン2受容体の方が強く関わっているという報告もあります)
オレキシンによる睡眠調整体内時計や感情、栄養状態などの影響によりオレキシンは覚醒中枢に放出されます。 •体内時計:朝→オレキシン↑→神経細胞活発 •感情:気持ちの高ぶり→オレキシン↑→神経細胞活発 •栄養状態:空腹→オレキシン↑→神経細胞活発 その結果、覚醒中枢が活性化され、睡眠中枢の働きを上回ることで、目が覚めます。
逆にオレキシンの働きが小さくなると、睡眠中枢の働きが覚醒中枢の働きをを上回ります。
すると、覚醒中枢やオレキシンの働きを抑制する信号が睡眠中枢からおくられ、脳の活動は沈静化して眠くなるというわけです。スボレキサント スボレキサントはオレキシン受容体阻害剤の中でも、DORA(Dual Orexin Receptor Antagonist=2重オレキシン受容体拮抗薬)に分類されています。 つまり、オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方を阻害します。 これまでの睡眠導入剤のほとんどは、脳内の抑制系に働き、覚醒を無理やり抑える形で睡眠を促していました。 それに対し、今回のスボレキサントは覚醒中枢の働きを直接抑制することができるので、より自然な睡眠を促すことが可能と考えられています。 メラトニン受容体作動薬も自然な眠りを引き起こすことができると考えられていますが、体内時計に対する作用なので、情動による覚醒に対しては効果がありませんが、スボレキサントは覚醒系全体に対する効果が期待できます。 臨床試験の結果 スボレキサントの臨床試験の結果を見てみると、その効果への期待が膨らみます。 1.睡眠時間を1時間延長し、入眠時間を30分早めた。(服用開始後12ヶ月) 2.ベンゾジアゼピン系で見られるような耐性が認められなかった。(服用開始後12ヶ月) 3.ベンゾジアゼピン系で見られるような依存性(リバウンドや半跳性不眠)が認められなかった。(服用開始後12ヶ月) 4.ナルコレプシー症状(睡眠発作、情動脱力発作)は認められなかった。 5.入眠障害と中途覚醒の両方に効果を示した。 6.作用時間は6〜8時間程度で持ち越しは認められなかった。(半減期は12時間程度) ベルソムラ錠の申請概要 効能・効果:不眠症
用法・用量:通常、成人にはスボレキサントとして1日1回20mgを、高齢者には1日1回15mgを就寝直前に経口投与する。
スボレキサントに対する期待と不安新しい作用機序をに加え、
従来の睡眠導入剤が持つ依存・耐性・持ち越しなども少ないようなので安全性の面でも優れているのではないかと思います。
また、ノンレム睡眠を増やす効果も認められており、睡眠の質の面でも期待されます。
注意力や記憶力の低下も見られないという報告もあるようです。
ですが、やっぱり不安なのはナルコレプシー症状。良いところを上げていくと、夢の睡眠導入剤に見えてきますね。
臨床試験の結果では問題なかったようですが、ナルコレプシーの原因となるオレキシンの不活化を作用機序とするわけですから、何らかの原因で血中濃度が高まればナルコレプシー症状を引き起こしてもおかしくありません。
FDAでは30mg、40mgの申請は却下されています。実際に、高用量では危険という報告もあるようです。
傾眠の副作用が明らかに多いこと、自殺念慮、自殺行動もあるようです。
このことを踏まえて、米国FDAが認めた基本用量は10mg。CYP3A4阻害薬を服用している場合は5mgで開始。 それに合わせて、5mg、10mg、15mg、20mgの4規格を承認しています。
平成26年9月26日に日本では正式承認されましたが、おそらくアメリカに先駆けて、日本国内で販売開始されることになりそうです。
FDAが定めた基本用量よりも、日本国内の最小剤型の方が用量が大きく、しかも海外での使用経験もないも言う状態です。覚醒系全般を抑制していしまうことがどのような症状を引き起こすのか? まだ、世界で使用されたことのない薬ですから、安全性に対しては無防備にならず、注視する必要がありますね。 OX1受容体拮抗薬が睡眠導入をせず、抗不安薬としての働きを持つとの報告もありますので、DORAであるスボレキサントはそのことにも注意が必要です。 相互作用 スボレキサントはCYP3A4とP糖タンパクの影響を受けます。 そのためCYP3A4を強く阻害する薬剤は併用禁忌となっています。
具体的には、
<抗真菌剤>•イトラコナゾール(イトリゾール等) •ボリコナゾール:(ブイフェンド) <マクロライド系抗生物質> •クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド等) <HIVプロテアーゼ阻害薬> •リトナビル(ノービア、カレトラ) •サキナビル(インビラーゼ) •ネルフィナビル(ビラセプト) •インジナビル(クリキシバン) <1.HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬> •テラプレビル(テラビック) オレキシンの作用から期待される様々な治療 今回、承認されるベルソムラは不眠治療薬ですが、オレキシン受容体をターゲットとする薬剤にはもっと他の効果も期待できるかもしれません。 依存性に対する効果 オレキシンがナルコレプシーと深く関わっていることは上で述べた通りです。 ナルコレプシーの治療に覚せい剤(アンフェタミン)を用いることがあります。
本来、覚せい剤は強い依存性を持つことで知られていますが、不思議なことにナルコレプシーの治療に覚せい剤を使用しても、依存性が見られないというのです。
グラクソ・スミスクラインの実験的オレキシン阻害剤「SB-334867」をアンフェタミンとともにラットに投与すると、ラットの脳に生じるドーパミンの量が減り、薬物依存につながる受容体数の増加がおこりませんでした。メルクによるスボレキサントの実験でも同様の減少が確認されているようです。 また、ニコチン依存のラットにDORAを投与すると、ニコチン依存が再発しなかったという報告もあります。 オレキシンと依存の関係については、オレキシン直接依存に関わるのではなく、ドーパミンが引き起こす依存に関する反応を、オレキシンが関与する覚醒系が強めると考えられています。 まとめ このようにオレキシンは覚醒系の抑制という新しい作用を持つことで、これまでとは異なる新しいステージの睡眠治療薬になると考えられています。 また、脳内の様々な場面に覚醒系が関与することから、依存や食欲などに対する効果も期待できるかもしれません。 ですが、裏を返せば、まだまだ未知数の部分も多いと言うことで、使用に関しては慎重に開始していく必要があるのかな、と言うのが個人的な感想でもありますが、新たな作用を使いこなすことで、様々な場面に有効な治療薬ができると言うのはとても楽しみです。 ですが、FDAがリスクを重視する中、日本はそのまま承認となりました。
大きな副作用等が出現しないよう、個人的に最大限の注意を持って扱う必要があるのかなとは思います。
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