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今日相談にみえたのは、40歳代と思われる女性だった。「これが送られてきたんだけれど、・・・・・見てください。」と言ってショルダーから取り出した書面は労災の再審査請求に対する裁定書面であった。発行者は「労働保険審査会」である。 「私は、また蹴られたと思い1カ月ほど放ってあったんです。昨日、病院で見せたら事務員の方に『これって労災が認められたと違う?』って言われたんです。」風太郎は、渡された書面に目を通した。冒頭に「・・・・労働基準監督署長及び労働者災害補償保険審査官の処分を取り消す。」と、書かれていた。 風太郎は、「これは、労災が認められたということです。良くやりましたね。3回目の再審査請求で認められたということです。一人でやったんですか。感激ですね。うつ病が労災として認められるのは珍しいことです。快挙ですよ。」と返事した。彼女は、嬉しそうだった。 彼女は、トラックのドライバーである。長時間労働と担当方面の変更などがあり、会社への人員補充の要求をしたが、拒否され過酷な労働環境であった。トラックの中で寝泊まりすることもあったとのことである。そして、うつ病となった。2年前のことでる。 その後、出勤もできない状態となり病欠を申請にて休むようになった。給料が貰えず、困りかねた彼女は市役所に相談し「通院医療費公費負担制度 (32条)」(脚注1)に基づく支援を受け、蓄えを取り崩しながら生活しているとのことだった。今も、通院を続け、まだ仕事に復帰できるという診断はでていない。 彼女は、就業規則上の休職期間が切れ、最近解雇されている。彼女の相談は職場復帰について相談だった。風太郎は、「労基法19条の解雇制限」(脚注2)の条文を示し、「復帰できます。」と答えた。 「労働基準監督署へ行って申告すれば職場復帰できるはずです。」と付け加えた。労災で療養のため休業している期間とその後30日間は、いかなる理由があっても解雇はできないのである。 30日経過したら解雇して良いということではない。その後の解雇には、解雇を正当化できる十分な理由が必要になるということである。30日が経過したというだけで解雇したなら、当然不当解雇となる。 労働保険審査会とは、労災保険及び雇用保険の給付処分に関して、第2審として行政不服審査を行う国の機関なのである。処分の取り消しは、評価しなければならないが、ただ1通の書面を送りつけるだけである。風太郎も読んでみたが、確かに庶民には理解困難な表現しかしていない。 それは、やむを得ないとしても、再審査請求をした労働者に電話の1本もして「おめでとう」の一言が言えないのだろうかと思った次第である。 【労災の申請と不服申し立て】 ことのついでに労災の申請について若干言及することにする。労働者から、「うちの会社では労災にも入っていないだから事故が起こっても泣き寝入りになる」などと聞くことがある。これは、間違いである。事故が起きたなら、会社は労災として扱わなければ労災隠しという犯罪になる。 会社は、労災に入っていようがいまいが、労基署に報告しなければならない。会社が動かないのであれば、労働者が直接労基署に申告すれば良い。労基署は、調査し事故の業務起因性と業務遂行性が認められれば、労災として扱うことになる。この場合、会社が労災保険に入っていなければ、会社に請求がされる恐れがあるだけである。 うつ病や腰痛といった他覚症状(他人が見て外見上わからない)のない疾患や怪我は労災認定が難しい場合がある。腰痛などは、重い荷物を持ったために起きたなら、同僚に現場で話すなど証人をつくる努力も必要になる。 うつ病は、もっと難しい。どんな過酷なことがあったのか記録が重要である。労働時間の記録も重要である。今日相談にみえたドライバーの場合タコグラフが役に立ったそうである。うつ病の場合、長時間労働もあるが寧ろ何があったかなどの方が重視される。転勤があった。上司のイジメがあった。できもしない無理なノルマの追及。能力を超えた仕事の質。などなどである。 再審査の請求には、新しい要素を加えて再審査請求をしないと同じ結果になりかねないことも考えておく必要がありそうである。彼女の場合には、再審査で、会社の主張には嘘があることを主張したそうである。 【労災申請と再審査請求の仕組み】 労災は、事業所がある地域の所轄の労働基準監督署へ申請することになる。通常は、会社の安全配慮義務上の問題なので会社が手続きの窓口になるが、会社が協力的でない場合には、労働者が直接、労基署に申請できる。 労基署の決定(処分)が労災を認めないということであれば、その決定をした労働基準監督署の所在地を管轄する労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」といいます。) に不服の申し立てをすることができる。 不服申立ては、直接審査官に対して行なうことができるが、審査請求人の住所を管轄する労働基準監督署長や保険給付に関する決定をした労働基準監督署長を経由して行なうこともできる。不服申立ては、保険給付に関する決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に行わなければならない。 労働局の審査官の決定に対しても不服がある場合や審査請求後3か月を経過しても審査官による決定がない場合には、労働保険審査会に対して、再審査請求をすることができる。 再審査請求は、文書で、労働保険審査会に対して行なう。 なお、再審査請求人の住所を管轄する労働基準監督署長、最初に保険給付に関する決定をした労働基準監督署長や審査官を経由して行なうこともできる。再審査請求は、審査官から決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して60日以内に行なわなければならない。 ※脚注1・「通院医療費公費負担制度 (32条)」: その後、汚名高い「障害者自立支援法」による「障害者自立支援医療制度」として衣替えしています。改悪されたとはいえ、うつ病などの病気通院に対して療養費を公費で負担する制度ですから、うつ病などで療養費に苦しんでいる方は、相談してみてください。 ※脚注2・「労基法19条の解雇制限」第19条条文: 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期 間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間 及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、・・・・ ●参考:「自立支援医療制度についての厚労省の説明」→http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsushienhou04/index.html |
労災、過労死・過労自殺
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