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労働者の妻からの電話である。赤ちゃんをあやしながらの電話である。年は聞けないが30代ではなかろうか。「夫の転職のことで・・・」と話し始めた。 話によると、ご主人の以前の職業はソフト開発で年収は750万円ぐらいだったそうである。昨年夏、得意先の社長と飲む機会があって、意気投合したそうである。仕事のこともだが、海釣りの趣味が同じだったことが不幸の始まりとなった。 社長に「年収は?」と聞かれ「750万円です。」と言うと「その金額ならウチでも払える。」と言われた。「ウチの会社は、小さいから営業成績さえ良ければ、すぐに1000万円にもできる。」とも言われた。 ご主人の会社は大企業の子会社だったので安定していて別に不安があったわけではない。しかし、頑張ればすぐに1000万円もらえるというわけにはいかないのは仕方がないことだった。 意気投合した夫は、社長の勧めで転職を決めてしまった。風太郎に言わせれば、あまりにも安易に決めすぎた。まず、口約束である。このような場合には、雇用契約書は必須である。社長が望んでいたのなら要求できたはずだ。 口約束も契約の内ではあるが、はっきりとした細かい詰めが何もできていなかった。確認もしていない。退職金が有るか無いかさえ未だに知らない。 就業規則や賃金規定さえ見ていない。これも要求すれば見せてくれたであろう。見せないなら、そこで警戒もできたはずである。 結末を話そう。ご主人が入社日に出勤すると社長は出張とか言って不在だった。専務と常務がでてきて最初は試用期間だからこれでと示されて手書きのメモに25万円と書かれていた。残業代は40時間までと書かれていた。 社長から「忙しく、月100時間の残業は覚悟してくれ」と言われたのを思い出し質問すると「要するにサービス残業」と平然と言われた。ボーナスを聞くと「その都度の業績で出す場合もある。6月と12月で6月は1か月分、・・・12月は厳しくなってきたから出ないかもしれない。」 「住宅のローンがあり、これでは困る。試用期間明けの賃金が明示された書面がないとローンが下りない。」と食い下がると「それでは、正社員採用と決まったわけではないが、ローン用と言うことで・・・」と給料を50万円と証明してくれた。 これは、約束が違うと気づいたが、もう元の会社には戻れないし、他に就職場所を探すのは無理である。3ヶ月間は我慢して社長とその間に社長と話してみようと考え3ヶ月間働いた。その間に社長と話そうとしたが逃げて回っていて話すことはできなかった。 その内に分かったことは、専務が事実上のオーナーであり、社長はお飾りであることも分かった。4か月目を前にして提示された給与は年俸で400万円である。しかも、残業代月45時間分を含むとなっていた。毎月100時間を超える残業はある。サービス残業を強要された。専務は「社長も『約束はしていない。』と言っている。この不況で状況が変わった。」と付け加えた。 夫は年収を記載した同意書にサインをせざるを得なかったとのことである。 奥様からの話は、このような内容だった。風太郎は、「今さら言っても仕方がない話だが、安易に決めてしまいましたね。」「争う方法はあるが、非常に困難な争いになる。」「裁判所で会社と争っての結論は良くて金銭解決(和解)です。」「これから先、400万円以上をもらえる会社に就職できる見通しがあれば、争う意味はあるが、・・・」「裁判所で争った会社で働くわけにもいかないでしょう。」 と厳しいことを言ってしまった。その途端に電話の向こうで泣きだし、暫く待つしか仕方が無かった。 「裁判所で争うのは対決だから会社も構えるが、兎に角直接社長と話し合うことです。社長にも申し訳ないという気持ちもあるはずだから700万にできなくても、600万とか500万とか、可能性はあるでしょう。」 「残念だけれど、今の景気では、働く場所を探すのは困難でしょう。悔しいけれどその会社で働くことを前提に妥協を引き出すのが良いと違いますか。まず、自分で交渉することです。厳しいけれど、それが一番ソフトな争い方です。」 「公的機関を使ってのソフトな争い方は、労働局の「助言指導」や「あっせん」という裁判外の紛争解決制度があるけれど、このケースでは、まずは自主交渉をお勧めします。その会社で働き続ける前提ならそれがいいと思いますね。」とアドバイスした。「ご主人が決めることだけど、労働審判や労働局の紛争解決制度を使う場合も支援しますよ。」と付け加えた。
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雇用契約書、労働条件明示書
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