労働相談奮闘記

労働者の悲痛な叫びを伝えたくて、そして解決に役立てて頂く為に

派遣社員、偽装請負、偽装業務委託

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相談に来たのは、40代の女性労働者である。大手の通販の会社で長年電話販売の仕事をしている。派遣契約を繰り返し、この不況の中でも派遣切には遭わなかった。ラッキーな方かも知れない。

しかし、派遣先の上司が半年前に代わり風当たりが強くなった。長年勤務して、仕事を知り尽くした彼女を、心の狭いその上司はこころよく思わなかったらしい。寧ろ、辞めさせるように動いた。今までは、新商品の説明会など各種会議には出席していた彼女であったが、その上司になってから声がかからなくなった。ちょっとしたことで怒鳴られることも多くなった。

パワハラ状態である。会社に行くことが辛くなり休むことも多くなった。精神疾患に罹患すると、他の病気もでてくることが多い。肋間神経痛のような症状があり、激痛で休むこともあった。

4月には、吐き気と神経痛のため、休まざるを得ず、その為に出勤率は5割を切ってしまった。4月末に、派遣元のセールス担当に言われたのは派遣先から「出勤率が85%を切ったら派遣する人材を代えてくれ。」と言われているということだった。

派遣元の担当者は、今回は派遣先を説得して切られずに済んだが、5月に85%を切ったら派遣契約は終了になるから注意してくれということだった。彼女は、不安でも有り困ったが、「頑張ります。」と答えるしか無かったのである。

5月中旬に6月から11月末までの派遣契約の更新が行われた。その更新の手続きの際、派遣元のセールス担当者から85%出勤を再確認された。結果として、頑張ったにもかかわらず5月の出勤率は80%だった。

出勤率は80%だが、遅刻や早退は増えていた。医者からは、診断書を出すから休みなさいと言われるようになっていた。休みたくても、出勤率が怖くて休むことはできないと頑張ってしまった。彼女は、未亡人であり、中学生の子供がいる。

6月初め、派遣元の営業担当から「6月に85%を切ったら派遣契約は打ち切られます。」と言われ、「頑張ります。」と言うしかなかった。出勤しなければならないと思うと体は言うことを聞かなくなった。神経痛が治ったかと思うと、吐き気に腰痛が伴ってきた。焦れば、あせるほど酷くなって、出勤しても早退を繰り返すしかなかった。

6月の中旬に派遣元のセールス担当が来て、「6月に、あと1日休んだら、派遣は終了です。良いですね。」と念をおされた。彼女はたまりかねて「病気でも休めないんですか?」と食い下がったが、「派遣先のルールは、今まで、何度もお話して、了解を得ていることでしょう。」と言われた。

彼女は、10日ほど頑張って出勤したが、上司の怒鳴り声に限界がきてしまった。6月25日、家を出たが、職場を前にして意識を失い救急車で病院へ運ばれてしまった。救急車の中で意識は回復し、主治医のいる病院へ向かった。病院では点滴を打ち、落ち着きを取り戻したが仕事は休んだ方が良いと言われた。身体的な症状は、精神疾患の結果であるとのことで、PTSDと言われた。

結果的に、その日は無断欠勤となってしまった。職場に電話する気力は無かったのである。夜、セールス担当から電話が有り、「明日からは、出勤しなくて良い。健康保険証は、7月10日まで使ってよいが、その後で返してください。」と言われた。「どういうことですか。」と質問すると「契約の終了です。」と冷たく言われた。

彼女が風太郎を訪ねてきたのは、その翌日の6月26日だった。風太郎は、体調を訪ねたが、「大丈夫です。」と答えたが、気丈に振舞っているのかも知れないと思った。ユニオンを紹介しようとしたが、「どう対処したらよいか。教えてください。」と自分で対応しようとしていた。

「無理があればユニオンに相談しなさい。」とアドバイスして、自分で対処する方法を話した。「体が一番大事ですから無理ならユニオンに相談ですよ。」と念をおした。

「まず、健康保険証を返せと言った上で、契約の終了と言った分けですから雇用契約の終了即ち解雇を意味します。」「しかし、セールス担当には解雇権が有りませんから、『権限の有る人と話して、本当に解雇するのか確認をしたい。』とセールス担当に告げてください。」

「大手の派遣会社ですから、対応が変わってくる可能性が有ります。派遣先が契約を解除しても、それは派遣元と派遣先の業者間の契約の解除です。貴女と派遣元との雇用契約は自動的に解除されるわけでは有りません。派遣元が解雇すると言うのであれば、手続き的には解雇はとりあえず有効になりますが、派遣元の就業規則に病気で何%休んだら解雇との規定が無ければ、解雇は不当となります。何%休んだら解雇との規定は無いはずです。有ったとしても社会通念上おかしな規定とされるでしょう。」

彼女は、気丈にもセールス担当に「貴方には解雇権がないから、解雇権のある方と話したい。」と要求した。セールス担当は、思わぬ反撃に困ってしまったらしい。翌日、セールス担当から電話が有り、「解雇ではない。合意退職のつもりだ。」と言ってきた。彼女は「合意した覚えはない。」とやり返した。セールス担当は「追って連絡する。と言って電話が切れた。セールス担当は「誰かと相談したのか」と聞いてきたので風太郎の名前と連絡先を言って、「電話で聞いてみてくれ」と言ったとのことだった。

風太郎は、「大手の派遣会社だから法務担当がいるだろうから状況が変るかも知れないので、暫らく放っておきましょう。」と言うことにした。

6月末、思いの外、派遣会社のセールス担当とその上司の部長が風太郎を訪ねてきた。風太郎は「労働者の一方的意見しか聞いていませんから、白紙の状態でお聞きしましょう。」と応じた。

風太郎は、ひたすら二人の言い分を聞くことにし、言葉は挟まなかった。聞いてみると、事実関係は、労働者が話したことと寸分違わなかった。ただ、感じたのは、全く法律を理解していないということだった。ただ、悪い人達ではないことは分かった。本社の人事に相談できずに、考え方を整理するために来たようだった。従って、風太郎の丁寧に説明することにした。

二人が主張したのは、派遣先の85%ルールは、何度も説明してある。我々は、派遣先が契約を切ると言っても、お願いし契約を継続してきた。出勤率が50%になっても更新した。そのように努力をしてきた。契約が切られることは、説明し同意を得ていると思っている。だから、合意解約と言うつもりですという内容だった。

風太郎は、十分に話終わったのを確認してから話し始めた。「事実関係は、女性労働者の説明と寸分変りません。質問がひとつ有ります。退職に合意したと言われましたが、退職日の合意はありますか」二人は顔を見合わせ言葉に詰まった。風太郎は続けた。「退職日は労働者が決める権利を持っています。11月末と言われるかもしれませんね。」

風太郎は更に「派遣先が契約を切っても、それは業者間の派遣契約で派遣労働者と派遣元との雇用契約は自動的に切れるわけでは有りません。別の派遣先を探してあげる必要もあります。遜色のない派遣先が見つかるまでは休業手当を支給すると言うのが労基法の規定です。」

「雇用契約を終了させるには、退職の同意を得るか解雇するしか有りません。本人が合意していないと言う以上、何か証拠が無ければ、その主張は先ほど説明したとおり無理でしょう。」

「また、解雇できるかと言うと、御社の就業規則上の解雇の要件にマッチしていなければ解雇はできません。病気で85%未満の出勤率になったら解雇するとの規定は無いはずです。」

「仮に、そういう規定が有ったとしても、社会通念上どんなものでしょう。今、新型インフルエンザが流行しようとしています。派遣先の85%ルールでインフルエンザになっても休めないとなれば派遣先だって社会的批判を浴びることになります。病気で休む場合には85%ルールの対象外にして頂くよう説得すべきだと思いますが如何でしょうか。」

二人は、風太郎の説明が理解できたらしく、法務と相談して派遣社員と話し合いを続けることにしますと言って帰って行った。その後の結果は聞いていない。女性労働者は、どこかで働き続けたいと言っていたので、別の派遣先が見付かったのかも知れない。そうであれば良いのだが・・・

母子家庭の労働者の厳しい現実を垣間見ることとなった事件で有った。母子家庭の労働者が、安心して働ける社会になって欲しいと願わずにはいられない。

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