入社保証金など有り得ない
「事業主と連絡が取れなくなって」と言って相談に来たのは25歳の青年だった。この青年は、2年前に解雇され、その後アルバイトをしながら正社員の口を探してきたが、求人が少なく、応募しても書類選考で落とされ面接にたどり着くことさえ困難な状況だった。
妻は派遣社員で妊娠したばかり、産休は取れるかもしれないが契約の更新は難しい。だから、どうしても正社員にならなければと言う焦りがあった。
会社の連絡先が携帯電話というのは疑ってかかろう
就職情報誌に掲載された「新店舗開設に伴う従業員募集」という求人広告が魅力的に感じられ応募の意向を伝える電話をした。海外の不動産を日本の資産家に斡旋する仕事で、円高の追い風で業容が拡大し都心の新店舗を開設すると書かれていた。営業担当(不動産取引の経験者、月給45万円)3名、経理担当(月給30万円)1名、庶務担当(月給25万円)1名の募集だった。庶務担当の1名に何とか滑り込みたかった。
今にして思えば、応募の連絡先が携帯電話というのはおかしな話である。しかし、採用されたいとの思いが先行し、気にならなかった。電話は繋がり、電話に出たのは社長だった。「今、応募者が多く、順次面談しているので、直ぐに面談とはならない。」「こちらから改めて面談日を連絡するから2,3日待ってくれ」と言われた。
面接の場所が喫茶店というのは疑わしい
3日後、電話があり、会社近くの喫茶店で面接が行われた。「求人広告の募集内容は全員決まってしまったが、新たに社長秘書を探している。君にお願いするかもしれないが、応募者が多く、あと一人面接した後で採否を決定する。結果は3日後に連絡する。給料は35万円だす。」と言われた。この時は、面接の場所が喫茶店はおかしいぞとは思わなかった。採用の可能性があることで、そんな心配は吹っ飛んでしまっていた。
3日後に電話があり、「君にお願いしようと思っているが、秘書は社長の代理をしてもらう場合も有り、信用できる人材か否かということが採否のポイントである。もう一度面談したい。今日これからアメリカへ出張するので、帰国後直ぐに連絡する。帰国日は8日後だから10日後の○日の10時に同じ喫茶店で会おう。」と言われた。
10日後、喫茶店で面接が行われ社長から「入社保証金として180万円預かることができるか?」「人の信用というのは、結局は金だから・・・」「キチッと仕事をしてもらえたら1年後に返金する」「家族と相談しなければならないだろうから、返事は後で良い」と言われた。
180万円の金など無いので、「それは無理です。180万円ものお金は有りません。」と返事した。社長は「では残念だが・・無理であれば致し方ない。縁がなかったと言うことに・・・」と言って目をつむった。彼は「サラ金で借りたくても収入が無ければ借りられません。私を信用して雇って頂けませんか」とねばった。社長は「サラ金なら借りられるように証明してあげられるけれど、そんなところから借りることは勧められない。ご両親や親せきなどと相談してみては・・・」と言った。
ハローワークは実在しない会社の求人をいとも簡単に受け付けてしまった
彼は、全く社長を信じてしまっていた。「社長が収入を証明してくれるならサラ金で借ります。」と言ってしまった。社長は「そうか。1年後に返す金だしな。利子分ぐらいは会社で負担しても構わないから、そうするか。今日はこれからハローワークへ追加募集の手続きに行くから手伝ってくれ。サラ金は、その後で行こう。」となった。
社長のハローワークでの求人の手続きも慣れたものである。ハローワークからサラ金へ行く道で「こういう仕事も君にやってもらうようになる」などと言った。ハローワークは実在しない会社の求人をいとも簡単に受け付けてしまったのである。これはこれで大きな問題を含んでいるが・・・
サラ金の審査はいい加減
サラ金でも社長の証明で180万円を簡単に借りることができた。年収による借入限度額の規制が有るはずなのに、実在しない会社の社長の証明で審査を通るというのは大きな問題である。いずれにしろ180万円を即座に借りられたのである。
サラ金のエレベーターで180万円を社長に渡して、社長の名刺の裏に仮領収証を書いてもらって、翌日、例の喫茶店で領収証と保証金契約書を交わす約束をして別れた。
それ以来、社長とは連絡が付かない状態である。求人雑誌に掲載された会社の住所に行ってみたが、会社は実在しなかった。警察に被害届を出し、無料の弁護士相談にも行ったが、解決は難しいとのことであった。
この事件での問題点は沢山ある。求人広告の雑誌が実在しない会社の求人広告を簡単に載せてしまったこと。ハローワークでさえ、求人の内容に責任を持つシステムが無いこと。サラ金の借入限度額が尻抜け状態で、その為に被害者がでてしまうことなどである。
勿論、既に指摘したように、労働者自身が相手を信用し過ぎた点がある。この例は、酷い事例だが、ここまで被害額が大きくないが、似たような事例が多くなってきた。
この事例では、労働者の妻の父親が180万円を長期無利子で貸してくれることになり不幸中の幸いとなったが、正社員募集の甘い誘いに要注意である。
|
人の弱みに付け込む事は許せませんね。
2011/8/21(日) 午後 5:32 [ 婆娑羅 ]