|
『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)を著して
*すでに、いくつかのブログで取り上げていただきました。
BLOGOS:「ブラック企業とブラック公務の「民事的殺人」が若者を壊し日本を食いつぶす 」
http://blogos.com/article/50239/ hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-bd5e.html 1、 この本を著した動機
2012年11月19日、文春新書より拙書『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』が刊行されました。今回は、私がなぜこの本を著したのかを、そして、この本から皆様に何を読み取っていただきたいのかを、申し上げたいと思います。
ブラック企業はネットスラングとして世の中に広がりました。若者の間で、「違法な企業」を意味する言葉として流行しているのです。労働相談の中では、「就職先がブラック企業だという噂がある。どうしたらよいか」という、学生からの相談や、両親から「子どもがブラック企業に勤めているようだ」という相談も寄せられており、社会的な広がりが見られます。
ブラック企業の典型的なパターンは、長時間労働やパワーハラスメント、セクシャルハラスメント、退職強要などが横行するということであり、これによって若年性社員の早期離職率が上昇しています。
最近では厚生労働省も「ブラック企業」という言葉を意識するようになっているようです。
本書の目次は下記の通りです。
●第1章 ブラック企業の実態
●第2章 若者を死に至らしめるブラック企業 ●第3章 ブラック企業のパターンと見分け方 ●第4章 ブラック企業の辞めさせる「技術」 ●第5章 ブラック企業から身を守る ●第6章 ブラック企業が日本を食い潰す ●第7章 日本型雇用が生み出したブラック企業の構造 ●第8章 ブラック企業への社会的対策 (1)ブラック企業問題への対応の遅れ
私がこの度本書を著したのは、「ブラック企業問題」の広がりにもかかわらず、これについて政治家やメディア、労働運動家がまともに取り上げようとしないからです。
私はブラック企業問題を、「派遣切り」以上の社会問題としての広がりと重大性のあるテーマだと考えていますが、多くの労働組合関係者や研究者はそうではなく、一時の「流行」に過ぎず、「すぐに廃れてしまう」と思っているようです。
ブラック企業問題は、正社員となった若者の問題です。また、重要なことは、「派遣切り」も「偽装店長」も労組やマスコミが生み出した言葉であるのに対し、「ブラック企業」は若者自身が生み出したものだということです。
かつて問題となった、非正規雇用問題であれば、それは「正社員化」という「模範解答」が存在しましたが、ブラック企業は正社員の問題であるため、解決策が見えません。
むしろ、非正規から「正社員になれ」と煽られ、競争されられた結果、「どんな会社でもいいから就職したい」という気持ちにつけいれられ、ブラック企業は増えています。
「正社員のブラック化」には先がありません。これまでは「自己責任」を受け入れてきた若者が、ついに自分たちで問題提起せざるを得なくなりました。競争に勝ち抜いた「正社員」の若者たちが、労働の辛さに耐えかねて、この言葉を生み出したのです。
したがって、この言葉は、若い正社員の待遇が根本的に改善されない限り、広がりを持ち続けるでしょう。
(2)ブラック企業問題の難しさ
第二に、私がこの本を著した動機は、「ブラック企業」について、だれも理論的・体系的に理解しようとしないことに、強い危機感を抱いたからです。
そこには、先ほども書いたように、「若者自身が生み出した言葉」を軽視しているようにも見えます。「たかがネットスラング」だという意見をよく耳にするのです。ですが、むしろネットで労働問題・社会問題が流行しているのだとすれば、これは重大問題です。
社会運動家が「貧困」や「格差」を説くのは当たり前のことですが、普通の若者がネット上で社会批判を行うということは、より状況が深刻で、しかも広がりを持っているということです。
確かに、「ブラック企業問題」は、「使い捨て店長」や「派遣切り」に比べて難しいテーマではあります。もしブラック企業を「違法企業」だといったとしても、それは昔からあるからです。なぜ「今」若者が「ブラック企業」という問題を提起しているのか、これを理解する必要があります。
「ブラック企業問題」に真剣に取り組もうとすると、ただ具体的な「違法行為」に対する批判を展開するだけではすみません。この問題の背景や社会構造まで十分に踏まえた上での考察や、戦略的な言説が求められるのです。しかし、運動家の多くも、こうした労力を払おうとしていません。
だから、社会運動が取り上げる場合にも、「ブラック企業」の本質を捉えずに、「違法企業」に対するただの「キャンペーン」、「レッテル」になりがちです。
しかし、本当は、今、若い正社員が何に苦しみ、どこに活路を見出せばよいのかを、この言葉を切り口にして、考える機会になると思います。これまでの賃上げや解雇問題だけではなく、労働時間や生活(結婚や育児など)を含めた問題提起を、もっと広範に共有していくチャンスだと、私は思っています。
(3)論理性と、戦略の提示
こうした問題意識から、本書は、拙著『ブラック企業に負けない』から内容を大きく発展させ、背景となる社会構造の説明や、この問題がただの個別企業の問題ではない「社会問題」であることの説明に多くの紙幅を割きました。
特に、この問題は「ただ違法企業を取り締れ」と騒ぎ立てるだけでは解決できないということが重要です。日本の労働・社会構造のひずみが生み出している問題であること、さらに、放置すると日本の産業社会全体が危機に陥ることを示しました。
2、本書の特徴
本書の特徴は、下記の四点です。
(1)実態を論理的に整理
(2)対処法も、体系的に提示
(3)社会問題としての提示
(4)対抗する「戦略」を、政策、運動、個人のレベルでそれぞれ提示
特に強調しておきたいのは、(4)「対抗する「戦略」を、政策、運動、個人のレベルでそれぞれ提示」した点です。
すでに、「個人がどうやって見分けるのか」や、裁判で訴える方法などについては類書が出されています
しかし、ブラック企業の社会的背景を分析し、個人、運動、政策のそれぞれのレベルで対案を示したものは少ないだろうと思います。
ブラック企業の特徴は、長時間労働など、業務命令に限定がかからず、とにかく「働き続けられない」ほどの働かされるところにあります。
これまで非正規雇用で問題となってきた「賃金格差」や「解雇」という問題とは異なり、正しいとされた「日本型雇用」のあり方が問われています。
こうした問題の次元の変化の中で、有効な政策論や対案を出す必要があります。私がもっとも伝えたかったことも、こうした「戦略の変更」の必要性なのです。
3、本書を通じて伝えたいこと
本書を通じてお伝えしたいことは、この問題が社会問題であり、若者だけではなくすべての市民が取り組むべき問題であるということです。
そして、これまでの問題とは異なり、日本の雇用システムのあり方全体を問い直すことが迫られているのだということです。
そして、特に、教育関係者、子どもを持つ親の方には、ご一読願いたいと考えています。私たちの世代から世の中をよくしていくために、ぜひ多くの方にご覧頂、問題意識を広げる一助となれば、幸いです。
|
全体表示
[ リスト ]



