富士山

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國立公園としての富士山<一部現代用語に>
(「史蹟名勝天然記念物」昭和3年 林学博士田村剛氏著)

(四)
茲に富士国立公園を以上の区域と仮定すると、区域内には言うまでもなく、日本の象徴とも在なって世界的に宣伝せられている名山富士があって、その風景が日本を代表する計りでなく、文字通りに世界独歩である。殊に北方湖水地方の森林と湖水と奇峰との交錯してなす風景の如きは、裕にスイス一流の湖水風景に匹敵して、かの北米のレニア公園中にこれに比べるべきものを見ぬのである。序に私は富士山麓中で最美はしい眺望地点として新に紹介したいものが二つある。その一つは河口湖畔の船津より県新設の山峰道路により三峠に登る途中の富士山から剣丸尾、脚下の河口湖から西湖、精進湖、転じて黒岳連山を双眸に収めるパノラマ的な雄観である。他の一つは精進湖よより小御嶽に至る縣新設の登山道路を、天神峠若くは弓射塚あたりで横駈けに、千五百米あたりの標高を保って天然林と人工林との境を出入しつつ西にすすみ、脚下に五湖を隠見せしめ、頭上に近く富士山を仰ぐ大観である。従来とても既に著名になっている御中道や裾野巡りのことは、今更ここに紹介するまでもないので略して置く。
要する富士を中心とする一帯の風景は、日本の國立公園として少しも恥かしからぬものであるが、しかも地方は四季を通じて利用せられ、春の新緑と秋の紅葉とに於いてその風景は最も高潮せられるが、冬は父湖上のスケートと一部のスキーとに好適である。夏の登山は従来唯一の利用法であったが、近時湖畔の開発によって、水陸運動競技の一大センターたらんとして居るが、殊に三千尺以上に分布する無限の広野森林は、恰好の避暑として利用を見るようにあり、釣魚、水泳、乗馬等も漸く盛大に向ってきた。かくして国民的.一大休養場ともならうとしている。
その位置が、国土の中に当たり、殊に首都東京に近く、且つ東海道線と中央線とによって便利に出入せられるもので、箱根温泉地滞と相俟って、利用上理想に近いものといえるのである。加うるに一圓の地は一千米より三・七七八米に達して、森林原野、湖沼・岩石地等を分布しているので、動植物学上また地質学上の興昧に富み、全山これ好個の天然博物館であり、その史蹟伝説に豊かなるは、恰も我が国民文化史を上下に縮写したかの観を呈している。かくして富士は我が國立公園として、あらゆる條件を具備して真に理想的在なものであるといいも、敢て艶称ではないのである。
(五)
国立公園事業を大別して二とする。その地貌並に動植物其他広く風景を天然の状態で保存することと、これを國民の運動場として或は野外の博物館として利用せしめることであるが、勿論後者は前者を犠牲にしてはならぬ。開発利用施設といっても広大なる天然風景地に対してて行うことであるから、加工は一局部に限られれて、大体は天然風景を基調とすることになるであろう。従って風景の保存は國立公園事業の基礎工事である。若しそれがアメソカ合衆国の高山地方や或は我が日本アルプス地方のように経済上林業其の他を行うことの出来ぬ岩石地や不毛地でできていて、併も國有であったとすれば、完全に保存の方法を探ることも可能であろうが、富士山麓は約五千尺以上は人工林であり、五六合目の八千尺あたり迄は天然林であっても、その風致を破壊しないで天然更新により経済上利用しうるものであり、併もそれが一方財源としても重きを置かれているものとすれば、一圓の地を絶対に保存することの不可能なるを覚悟せねばならない。我々は茲に於いて先ず富士山国立公園に就いて、多少経済と風景との妥協必要を認めなくてはならない。それにしても天然紀念物として絶対に保存の価値を認める箇所、例えば現に保護地域に指定せられた精進登山道路に沿う森林及び天神峠、弓射塚、御殿庭の原始林の如きは、勿論、なお山中湖に近きバラモミの純林や、青木原其の他岳麓に分布する風穴等の火山的奇観等は、将来同様の趣旨により絶対に保存せらるべき参考資料でなくてはならない。また五六合目の所謂天地の界に近い高山性の森林植物帯以上は神聖なる境域として又学術参考の主旨からしても、天然のままに保存すべきであろう。
次に上記の如き絶対保存区域でなくて、その風景を保護し或は美化すべく、特別な取扱いを要する区域をばかなり広く展開せしめねばならぬ。例えば湖水、道路其他の公園敵施設箇所を園統する区域は、少くも十間十分には二三十間以上の幅員を定め、必要に応じては相当の一団地を限って風致区域として、その風景には変更を及ぼすべき施業なり工作物なりを取締って十分監督しうるようにしたいのである。それに就いては恰も郡市計画法に見るが如き美観地域の欄に準ずるような規則を設けられたいと思う。現に縣に於いては山中湖畔に廻遊道路を設けて、道路より水面に至る間は、絶対に如何なる種類の工作物をも建設せしめないこととしているが如きは良法である。ただ河口湖畔のように村落都会をなして、すでに開発せられたものに対しては、如何ともいたし難いが、それでも将来に対して相当の取締りを要するであろう。殊に近々着手されようとする各種団体、富士山麓土地会社其他の経営する運動場、別荘地等に対しては、風致上並に保安上十分備える所がなくてはならぬ。
要するに一般利用者の眼に触る限りの地域を、風致地域として公園内の風景に相応はしいものとするように、適当な取扱いをなすのであって、これは絶対保存区域に亜いで嚴重に取り締まることとする。
次に以上にもれたる経済的林業地、農耕地、佳宅地等に対しても、自発的に風致に調和した注意を沸はしめることとする。殊に森林の取扱いに対して、十分に美的施業法を加味せしめたいのである。
以上の方法により、不徹底ながら、公園区域内の風景保存の目的を達しうるであろうと思う。
(六)
國立公園の積極的施設の重なるものは道路並に交通機関、宿泊設備、運動享樂施設、保安衛生施設等である。
道路に就いては山麓周遊道路計書を立てて現に過半は大成している。目下は精進湖と大宮方面とを連絡するものが懸案となっていたが、それが完成されると、岳麓を完全に自動車で一周して箱根へ結ばれることになる。次に第二期計画としては山梨静岡両方面より、各一二線を五六合目あたりまで肖動車道路を開発することであるが、山梨縣側で精進湖登山道を少しく改良すれば、實現せられる。次に第三期の工事としては、前記の五千尺あたりを横駈けに、東は寵坂峠辺より始めて西は天神峠を過ぎ、二つ山に出て静岡縣へ入って一周するようなものがほしい。これも既に出来上っている林道を僅かに改修する程度で實現せられるであろう。
交通機関としては、乗合自動車を以って風致上最も適当なものとする。目下計画中の富士山麓鉄道会社の電車計画も、なるべくは大月、吉田、山中、籠坂、御殿場間に止めて、湖水巡りの西廻りは、自動車系統によるようにしたいのである。ケーブルカーの如きは、展出願もあるそうであるが、富士山に関しては同意したくない。
次に宿泊設備としては、ホテル、旅館、山小屋、公衆野営場、貸別荘、個人別荘等種々であるが、あらゆる階級の要求に応じ得るように、凡ての施設を要する。第一期計画としては従来のものの外に、縣有地に於いては山中湖畔、吉田口登山道路沿い、青木原、本栖湖畔等に大小の区域を選定している。その配置に就いては、公衆の利用を主として公衆性の著しいものに優位を与えるように努めた。別荘地経営の如きは、アメリカ合衆国では禁じているが、カナダでは歓迎している。富士山のごとくに、それが縣有地であつたり公有地や民有地である場合には、強いてこれを制するわけに行かないので適当に認めることになっている。そして軌道と土地の経営を有力なる一会社に一任した如きも良策であったと思う。
野営地、山小屋等は主として縣で施設することにしたい。宿泊設備に関係してテニス、乗馬.ゴルフ、魚釣、スケート・舟遊其他の運動競技設備は、主として縣有地.其他の公有地に於いて適当に物色して配置してある。これが経営者は適宜に箇所により選定せられるであろう。給水、配水等の施設は、各土地経営者の負担である。富士山は由来湧水に乏しい欠点があるが、小人数に対しては、天水で十分間に合う筈である。大規模には湖水の水を利用するより他はない。
(七)
以上は今日までに富士山麓に対して山梨縣側で計画しつつある概況である。静岡縣側は御料地が大部分を占め、裾野に於いて公私有地があつて、局部的に別荘地、名勝地として開発せられているが、全般としての計奮は出来上がっていないようである。
富士山國立公園は二縣に跨って始めて全いのものとなるのである。全体的計画の必要、殊には政府の発動が此際最も必要のことと考えられる。
レニア国立公園は官民協力して過去二十七年を費してその大計画の半分をやっと仕上げたという有様である。日本のような貧乏国では、尚更急なことには行かぬであろうが、それが頗る必要在ものであり、既にその緒に着いた以上は、どうでもこうでも立派なものに大成せねばならぬ。富士風景の保存保護の間題は、今や広大なる地域に向って活問題となって要望せられている。真に國家百年の大計のために今日永遠の悔を残さぬように周到なる注意を沸いたいものである。

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