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月見草
昼間の熱気が澱む夜
浅い眠りに目覚める時
気配感じて夢から抜ける
窓ガラスがかたかたと微かに
誰かに手招きされているような
涼しい風が私の体を支えてふわり
窓を通り抜けて庭に運ばれる
風の歩むところ掃き清められ
新月の夜に花々の香りつどい
月見草が風をとめて私に手を伸べる
ひんやりした絹の感触がして
薄い黄袖が私の名を呼んでいる
月見草はこの小さな庭の主
従者のベゴニアが厳かに私に伝える
あなたをお呼びしたのは我が主
昼間のお礼を申し上げたいと
昼間のお礼? 私は言葉を反芻した
そういえば思い当たることがある
誰もが辟易とする暑い盛りに
今にも倒れそうな女の人が窓を叩いている
どうかお願いします 冷たいお水を一杯だけ
他に思い当たる節は無い
何も言わないのにベゴニアはそのとおり
水のお礼に主はあなたを招いたのです
新月の夜 一度だけ人と逢うことが出来るんです
どうかお受け取りください 細やかなお礼
月見草はそういって黄色い小瓶を差し出す
これは夢なのか 夢に違いない
気が付けば私は自分の寝床にいた
枕元には黄色い小瓶が据わっている
かすかに月見草の匂いが立ち上っている
夜明け前の薄明かりの部屋に
阜可 忠
令和元年八月八日
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