高校時代(部活)

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 一郎は焦っていた。格好よく自己紹介しようと張り切っていたが、一郎の前で自己紹介する中田さんの

番になっても上手い言葉が浮かんでこない。一郎の番になった。慌しく椅子と机をがたがたさせて立ち上

がった。よほど無様に見えたのだろう、大津高校側の何人かのくすくす笑う声と「しっ」と嗜める声が

聞こえた。頭の中が真っ白になった。

「一年の東谷一郎です。読書は良くします。主に純文学の有名な作家の作品を読んでいます。自分の

作品を書きたいと思っていますがまだ何も書いていません。恋愛と大学受験の狭間で悩む少年の葛藤を

小説にしようと、今頭の中で構想を練っています。勉強はそっちのけで」と言うとまたくすくす、今度は

遠慮のない笑いが起こった。

「勉強そっちのけですか?それでは横高生としては問題ですね」部長の松本さんが笑いを堪えてフォロー

してしてくれた。そのため場の雰囲気は緊張が取れ和やかになったようだ。一郎は赤面したあと、汗が

どっと噴出してくるのを感じた。

「ちぇっ、格好悪い、ざまあねえや」心でつぶやいた。座ろうとするとおかっぱ頭でアーモンドの形を

した目が綺麗な女の子が挑戦するように、一郎をじっと見つめながら手を上げた。

「中野さん、何か質問ですか?どうぞ」

「今日本の有名な作家と言われましたが、具体的に作家名と読んだその作品はどのようなものか参考の

ために教えてください」一郎は思わぬ質問にすっかり舞い上がってしまった。格好をつけて口からでまか

せを言ったので咄嗟に答えは出てこない。実際、一郎はそんなに多くの作品を読んでいたわけでなく、

教科書に出てきた作家と作品を思いだして答えることにした。試験問題を解くようなものだと思った。

「え〜、夏目漱石の「吾輩は猫である」島崎藤村の「夜明け前」志賀直哉の「小僧の神様」芥川龍之介の「鼻」

え〜と、それから太宰治の「走れメロス」などです」一郎はしどろもどろで答えた。すると彼女がにやっと

笑ったように見えた。「そんな程度か」と言っているような気がして一郎はさらに狼狽した。三月末と

言ってもまだ寒いのに一郎は一人汗をかいて、ハンカチで何度も顔を拭いた。最後に田川が立って

自己紹介をしていたが上の空で、何を言ったのか解らず、、後悔ばかりが心を占めていた。

「有難うございました。お互いの紹介が済んだので本題に入りたいと思います」松本さんが紀本さんに

同意を促がすように見ながら言った。紀本さんは鷹揚に首肯した。一郎は紀本さんや郷田さんがどう

受け答えるのか注目した。遊び半分、冷やかしに来たのだから何も答えは持ってきていない筈である。

一郎も深くは考えていない。少し心配になった。

「では、私達の方から文芸部の主な活動について説明します。まず同人誌「菫」について、担当の佐伯さん

、説明してください」おもむろに立ち上がったのは髪をきちんと三つ編みにした、小柄で比較的色の黒

い、目に特徴のある綺麗な子だった。

「私達の「菫」は原則年二回発行しています。主に自由詩、短歌、エッセイ、ですがたまに小説も発表する

人はいます。発表したあと部員全員で批評会を行います」

「質問してもいいでしょうか」郷田さんが発言した。

「どうぞ、何でも聞いてください」

「その「菫」を発行するための費用はどうされているのですか?」

「部費と生徒会の活動費で賄います。青洋を拝見しますと横高出は広告を載せていますね」

「うちは部費も少ないし、生徒会からの活動費も限られていますから広告をとらざるを得ないのです」

「商店が良く協力してくれますね。できれば私達もそうしたいのですが、簡単に広告を出して下さると

は思えないのです」

「青洋に掲載してくれる商店はみんな横高の先輩のお店なんですよ。だから仕方なく義理で載せてくれる

のです」軽い笑いが起こった。

「次は中野さん、ほかの部活動について説明してください」先ほど一郎に嫌味な質問をした中野さんが立ち

上がった。立ち上がってみるとすらりとして背が高い。

「私達は月に一回朗読会を行います。純文学も多いのですが、ジャンルについては拘りません。朗読する

人の好みに合わせます。またほかに、決めた作品をそれぞれが読み、感想を述べ合うこともしています。

この感想会はその小説の時代背景や登場人物の心理を真剣に話し合い、いつも白熱した議論になり時が

立つのを忘れるくらいです」どうだと言わんばかりに横高席を一瞥した。一郎は感心して中野さんを

見つめていた。挑みかかるような目は代わらないが、ふとしたときに下を向くと長い睫毛が見える。

一郎は綺麗だと思った。

 今度は横高側が話す番になった。主に紀本さんと郷田さんが説明したが随分飾っていると思った。

そんなことやったこともないのに堂々と述べていた。その点、女の子の方が真面目なのだと思った。

一年間部室に出入りしていたが、文学について真面目に話していたのを見たことはない。大津の女の子

のように積極的に文学しよう等という事は頭にないようだ。もっとも一郎にしても先輩達にしても、

もともと文学を語るだけの素地がない。もっともっと本を読み、真剣に基礎体力をつけない限り文学を

語るなどとはおこがましい限りだ。似非文芸部だと言われても返す言葉もない。北川さんと中田さんは

ニヤニヤして女の子の品定めに余念がなく、二人でこそこそ話をしていた。

 その後雑談になり場の雰囲気も和み、お茶が振舞われた。一郎は中野さんが気になってちらちら見てい

た。目が合うと綺麗なアーモンドの大きな瞳がじっと見つめてきたので、慌てて目をそらしたが、彼女は

目をそらさずに一郎を見つめたままふっと笑ったように見えた。一郎は彼女に侮られたような気がして

恥ずかしくなった。今まで会った女の子はこんな挑戦的な目をしていなかった。

 午後四時に解散となり、名残惜しくはあったが一同は乙女の花園を辞去した。大津の文芸部員は全員が

外まで出て見送ってくれた。一郎は中野さんが何処にいるのか目で追っていると、もう興味がないという

顔であらぬ方向を見ながら手を振っていた。

 帰りは衣笠に戻らず、田川と二人で京浜大津から堀の内へ、そこで特急に乗り換え金沢八景下車し、

逗子線に乗り換えて逗子海岸駅(今は京浜逗子)についた。電車に乗っている間二人は興奮冷めやらず、

今分かれてきた大津の女の子の品定めをした。

「佐伯って言ったっけ、ほら「菫」の説明をした、そう、色の黒い女の子が俺のタイプだな。あんな子と

付き合えたらいいよな。横須賀の町を手を繋いで歩いてみたい。三笠園なんかで海を見ながら文学を

語るなんて、うわ〜、ロマンチックだ」田川が遠いところを見るようにうっとりした顔をした。

「お前はどの子が気に入ったんだ?」

「俺かい?俺は中野さんだ。二番目に部活を説明したおかっぱ頭で目のでかい、すらりとした女の子だ

な。横高文芸部なにするものぞと言う、突っ張っていて挑戦的なところが気になったぜ」

「そういえばあの子お前のこと見ていたものな。俺はああいうタイプは苦手だ。付き合っても、いつも

主導権を握られるような気がする」

「そうだな、かなり理屈っぽいかもしれない。こっちも勉強しておかないと恥をかきそうだ」

月曜日部室に顔を出すと郷田さん中田さんと北川さんが大津の話をして盛り上がっていた。


二年に進級すると早速一年生が入部して来た。西田と植松、酒井、服部の四名だ。この四名の入部で

文芸部とハモニカ長屋の雰囲気が微妙に変わり始めたのである。(つづく)

 三月半ばになり、春らしくなってきたが文芸部としての活動はなかった。昼休み部室に顔を出すと、

紀本さんが郷田さんと話をしていた。

「暇だから大津女子高の文芸部と交流会でもやるか」と紀本さん

「それはいい、面白そうだ。だけど相手がなんていうかだな」郷田さんは興味深げだ。

「俺大津の文芸部に知り合いがいるんだ。もしやるなら繋ぎ採ってもいいぜ」

「そりゃあ好都合だ。早速連絡してみてくれないかな」

「これなら北川も中田も行かねえなんていわないだろう。女大好きなあいつらだからな。大津と聞けば

何をおいてものこのこ付いて来るさ。小山と伊藤はどうするかだな」

「ところで、交流会をやるには議題が要るべ。なんか考えなきゃな。何にする?」

あれこれ意見が出たがなかなかよい議題が思い浮かばない。どうせ冷やかしに行くいくのだし、大津の

女の子に会いたいだけなんだから、何だっていいだろうということで、紀本さんに全面一任ということに

なった。いい加減で無責任な話である。一郎はこれでいいのだろうかと思った。しかしそう思うそばから

大津の子に会える期待感で胸が膨らんだ。

 どんな女の子だろうか、鼻持ちならない理屈っぽい眼鏡をかけた子だろうか、できれば夢見る夢子

さんのような初心な子ならいいなとか、あれこれ想像してその日が待ち遠しかった。

 二、三日して部室にいくと紀本さんがどう話をつけたのか喜色満面で声をかけてきた。

「喜べ、決まったぞ!今週の土曜日二時から大津高校で交流会だ」

 紀本さんもあまり女の子には縁がなさそうだ。当然田川にしても一郎にしてもお付き合いをする

特定の女の子はいない。横高の中にも女性徒はいるが心ときめかすような子はいなかった。

 結局、大津高校へ行くメンバーは一郎、田川、紀本、郷田、北川、中田の六人で行くことになった。

案の定、北川、中田の両先輩は何をおいても連れて行けとばかり張り切っていた。

女子の小山さんと伊藤さんは話をすると極端に厭な顔をして

「あんたたちで行けばいいでしょう。私達は行かないよ。まったく何考えてるんだろう」

と席を立って帰ってしまった。

 一行は土曜日なので昼食を学食のコッペパンと牛乳で済ませ、大津女子高校を目指して意気揚々と

出発した。徒歩で行くのだという。大津高校までは30分弱だそうだ。その日は幸い上天気だった。

桜のつぼみも大きくなり、道端の野草は萌え出で、春の息吹が感じられた。其れは大津の女の子に

会えるという期待感がそう思わせていたのに違いない。

 途中右手に県立工業高校の正門が見えてきた。こんなに近くにあったのかと思った。県工の連中は

普段どんな授業を受けているのかなと、チラッと頭を掠め、男ばかりで随分むさくるしいだろうなと

思った。やがて右手に以前400m競争で苦労した大津競技場が見えてきた。一郎はそのときの記憶が

よみがえり、苦々しい気持ちになるだろうと思ったが、逆に本格競技場と共にあの苦しさと恥ずかしさ

が懐かしくこみ上げてきた。青春の失敗や後悔は時がうまく味付けして懐かしい思い出に昇華して

いくものらしい。

 正面に木造二階建ての桜の木に囲われた校舎が見えてきた。

「あれが目指す県立大津女子高校だ」と北川さんが興味深そうに指差した。古色蒼然とした以下にも女子高

だといわんばかりに落ち着いた佇まいである。桜の木の外側にピラカンサスの生垣が廻らしてあり、

裏門なのであろう洒落た柴垣風の扉のついた入り口から女子高生が五人ほど出てきた。

「横高の文芸部の方ですね。いらっしゃい。お待ちしていました。こちらへどうぞ」

しっかりした口調である。髪の毛を三つ編みにして度の強そうな眼鏡をかけた小太りの女の子だ。

この人が部長らしい。ほかの四人はほっそりとして、どこかはにかんだような顔つきで一斉に頭を

下げて迎えてくれた。一行の緊張は極度に高まり、これから起こることに思いをはせて顔を紅潮

させている。

 案内された所は教室である。一郎は見てはならないものを見るような気がして恐る恐る足を踏み入れ

た。胸がどきどきと音を立てている。

「とうとう、俺たちは女の園に乗り込んだのだ」という思いに一行は興奮していた。

 教室は机を鍵方に並べられていて、一郎たちは紀本さんを先頭にして窓際に座った。しばらくすると

20人ほどの文芸部員が入ってきて廊下側に、一郎たちと相対するように座った。こちらはたった六人し

かいないのに、相手は20人である。圧倒される思いだった。女の子達も緊張している様子である。

値踏みするかのような目つきでちらちらと盗み見をしたり、わざとらしく隣の子と内緒話をしている。

女の子達も半島第一の横高生がどんな学生か興味があるのだろう。

 先ほどの小太りの子が代表してしゃべり始めた。

「今日は土曜日の午後にもかかわらず遠いところを、私達大津高校の文芸部と横須賀高校の文芸部の皆

さんとの交流会にお越しいただきまして一同喜んでいます。紀本部長さんのご提案ですが、お互いの

文芸部が日ごろどのような活動をしているのか話し合うことにしましょう。お話し合いの前にお互いの

自己紹介を行いたいと思いますが、紀本部長いかがでしょうか」

「異存はありません。大津高校のほうからどうぞ」

「では私から、私は部長をやらせていただいております松本頼子です。主に自由詩を書いています」

ずり落ちてくる眼鏡を気にして手を添えながら自ら始めた。あとは副部長の瀬野妙子さんに続いて

次々に立って自己紹介をした。正直20人一度に紹介されても憶えられるものではない。逆にこちらは

六人である。相手は十分区別がつくのだろうと思った。木本さんに続いて二年生がそれぞれ自己紹介

を終わり、いよいよ一郎の番になった。(つづく)

 青洋を発行し終わり、文化祭も無事済んでみると何もすることがなくなってしまった。しかし、一郎は

毎日部室に顔を出した。昼休みや放課後には必ず誰かいたから、先輩達との会話を楽しむことにして

いた。先輩達は一郎の知らない世界を知っていて、一郎はいつも目を輝かして聞いていた。

 ある日の放課後、例によって部室に顔を出すと中田さんと北川さんが深刻な顔をして話し込んでいた。

一郎が声を掛けた時びくっとしてひそひそ話をやめたが、一郎だと確認するとまた話し始めた。

「この間まで、やばいことに、小便をするときあそこがすげえ痛かったんだよ」中田さんが顔をしかめて

自分の股間を指差しながら北川さんに言った。

「それによ、ぎゅっと握ると膿が出て来た」

「それはやばいべ、医者へ行ったほうがいいぞ」北川さんが心配そうに言った。

「そうなんだ、やべえと思って医者に行ったらペニシリンを打たれた」

「お前何処に行ったんだ?また怪しげな所へ行ったんだべ」

「恥ずかしながら、安浦の安宿へ行ったらこのざまだ」安浦とは一郎がはじめて聞く名前だった。あとで

聞いた話では、いかがわしい飲み屋が軒を並べている一角だそうだ。要求があれば客に特別サービスを

し、しかも低料金であるという。

「で、どんな所だった?」北川さんは興味深げに先を話すようにうながした。

「中学のときの同級生と安浦の”ハナ”って言うバーに入って暫らく飲んでいたら、相棒がいつの間にか

いなくなった。どこへ行った?、小便かなと思ってカウンターの中にいるママに聞くと片目をつぶって

あんたもどうだいと言ったんだ」一郎は固唾を呑んで聞き入っていた。胸がどきどきする。

「はじめ何のこと言ってるのか解らなかったが、そのうち相棒が戻ってきて、にやにやしながらお前も

やってこいよと言った。その頃酒が効いて来てまともな判断が出来なかったんだな、相棒がそうした

のならばやってやろうじゃないかと変な対抗意識が働いたんだろう、店の別の女の子に誘われるままにド

アーを開けて階段を登り薄暗い部屋に入った」話はだんだん佳境に入ってきた。

「部屋の中はどんな風だった?」北川さんの生唾を飲む音がした。

「四畳半の部屋に20ワットの裸電球が天井からぶら下っていて、真ん中に座布団が二枚敷かれていた。

普段は従業員の着替えに使っているのだろう、衣文掛けに女物の洋服が下げてあった。まだ意識はしっか

りしていたがここまで来たらなるようになれだと、あとは夢中だった」

「それで痛みが出てきたのはいつ頃だった?」

「多分四、五日後くらいだと思う。慌てて医者に行ったら淋しい病だって言われた」

一郎は遠い世界の御伽噺を聞いているような気がした。中田さんは上町商店街のすぐそばで育った。子供

のころから、見る心算はなくても自然に入ってくる基地の町の光景を見て育ってきた。アメリカ兵にぶら

下るように歩いている女や、派手な化粧の飲み屋の女、それらを食い物にし生活の糧にしている男たちの

生き様がいやでも目に入ってくるのだ。だから基地の町に住む子供は総じて早熟になる。自然に大人の真

似をし、その内に感覚が麻痺して、悪の道に踏み込んでいくのは已むを得ないことであろう。一郎は中田

さんが大きく見えたのと憧憬を持ったが、同時になんか不潔な世界を見たような気がして、また一つ大人

の世界に足を踏み入れた気分になった。

 三学期になった。部室は朝方僅かに光が差し込むだけで、一日中薄暗い。ハモニカ長屋のそれぞれの

部屋は板壁で仕切ってあるだけで、天井がない。上を見ると屋根の骨組みが露わに見える。当然暖房

設備はなく、一人でいると底冷えがして耐えられないくらい寒かったが、それでも三、四人入ると多少は

暖かくなったような気がする。部室は体育の時間には着替え室になり、また私物、特にコート類の置き場

になった。当時高校生の男子の間で流行っていたのは厚手の半コートである。半コートはその名の通り

お尻が隠れるくらいの長さで、今時のトレンチコートのような薄手の生地ではなく、分厚くて重い。北国

で着るオーバーのような生地だと思えばよい。そのコートを着る姿は上半身がやけに頑丈そうな、言って

見ればゴリラのような体型になる。今から思えばあまり格好がいいとはいえないが、当人にとってはそれ

が最先端のファッションだったのである。一郎もご多分に漏れず母親にせびって買ってもらった。田川は

一人トレンチコートに似た丈の長いコートを着ていた。襟が大きな黒のコートでアメリカ映画に出てくる

ような粋なものであった。

 ようやくクラスの連中の中に親しく付き合える友達が出来てきた。中でもこの地区の中学を出た奴で比

較的突っ張っている中野や遠藤、岡田、細井と親しくなった。ある寒い日の放課後、腹が空いたといって

彼らがよく行くと言う食堂で飯を食おうと誘われた。その食堂は衣笠商店街の裏通りにあるどぶ川に架か

る橋の袂にぽつんと建っている小さなラーメン屋だった。学校の帰りにラーメン屋に寄ることなどしたこ

とがなかったので半分怯えながら彼らの後に就いて行った。「金龍「と書かいた暖簾を分けて入っていくと

カウンターに椅子が5つだけ並んでいるひどく狭い店だった。やっと足が着くくらいの高い椅子に陣取る

と肩が触れ合うほどだ。

「親父さん、タンメン5つ。東谷お前もそれでいいな、ここの名物だ」中野が注文した。

「いいとも、任せるよ」親父さんと呼ばれたのはここの店の主人だろう頭の禿げ上がった、いかにも強面の

デブで、腕の太さは一郎の二倍はありそうだった。小さな店の主人にありがちな無口で無愛想な男だ。

一郎はタンメンでいいなと言われて任せたものの、タンメンが如何なるものか知らなかった。

ラーメンは何度か食べたがタンメンは初めて聞く名前である。中野達は慣れたもので寛いでいたが、一郎

にとっては初めての経験である。校則違反を犯して先生に怒られるかもしれないなどと考えて落ち着か

なかった。やがて目の前に山のように野菜が盛られた大振りのラーメンどんぶりが出てきた。スープは

白濁である。美味そうな臭いがしていた。

「タンメンはな、胡椒じゃなくて、こうしてラー油を厭と言うほど掛けて食うんだぞ」中野は一郎に赤い色

をした液体を振りかけて見せた。一郎も中野に倣って全体が赤くなるほどにラー油を掛けた。麺は初めて

見る平打ち麺だ。一郎は一口すすってその芳醇な味にすっかり魅せられてしまった。野菜も麺もスープも

舌が火傷するくらい熱かった。すると突然口の奥に燃えるような衝撃が襲ってきた。

「辛いっ」と言って慌てて水を飲んだ。そのあとから汗がどっと噴出してきた。ほかの四人はけらけら

笑っていた。

「ラー油はトンガラシだぞ、そんないっぱい掛けるもんじゃない」遠藤がさも可笑しくてたまらないと腹を

抱えながら言った。みんな知っていて知らん顔をしたのだ。最初に言ってくれと恨めしかった。だが辛い

のと熱いのを我慢しながら食べ終わって、一郎はカルチャーショックを受けた。こんな近くにこんな美味

いものがあったのかと思った。子供のころにも同様のショックを受けたのを思い出した。部屋を貸して

いた節子さんの相方の黒人から貰ったコンビーフを食べたときである。世の中にはまだ知らないことが

たくさんあるんだろうなと思った。タンメンの値段は45円でラーメンより5円高かったがそれだけの

ことがあるボリュームであり美味であった。一郎はその味が忘れられず田川と山完を誘って何回か食べに

行った。ところが「金龍」は横高のはみだし者か運動部の連中の溜まり場になっていて、先客がいる時は

こそこそと小さくなって食べた。

 その頃焼き餃子が一般的になってきて餃子を置く店が出てきた。この餃子を初めて食べたときも

「世の中にこんな美味しいものがあったのか」と感じたことがある。世の中の景気(岩戸景気)が良くなるに

連れて、人々は戦後の粗末な食べ物から脱して新しい味を求めだしたのである。高度経済成長の始まり

だった。(つづく)

 ハモニカ長屋のすぐそばに購買部の学食がある。そこで売っているのはせいぜい25円のラーメンと

20円のコッペパンである。コッペパンは横腹を裂くように包丁を入れ、その間にマヨネーズで和えた

キャベツの千切りが溢れるくらいに入れてあった。販売を始めるのが二時限終了時、AM10時40分

である。先輩達が二時限の終了と共に学食の前で屯しているので何をしているのか見ていると、その

コッペパンを我先に買い求めかぶりついていた。10分しか休憩時間がないので誰もが三時限の開始に

間に合うように夢中で頬張り、中には喉に詰まらせて目を白黒させている者もいた。みんな弁当持参だ

が、昼まで腹が持たない。食べ盛りの高校生にとってはちょうどお腹がすいてくる時間である。一郎も

一度その味を覚えてからは二時限終了間際になると、パブロフの犬同様涎が出そうになる。一郎はコッペ

パンと牛乳を買い部室で食べていた。このコッペパンはなかなかの味で気に入っていた。さすがに女子は

こんなはしたない真似をする子はいない。

 高校の授業は一定の教室ではなく、教科によって教室が変わる。四月のオリエンテイションの時に

決まる時間割は大切なものであった。そして食べ終わると、鞄を抱えて所定の教室へ、あたふたと移動

して行く。ただ、困ったことは人間、腹がくちくなると睡魔が襲ってくることだ。70分我慢して授業

を受けなければならないはめになる。三時限目が山田銀次郎先生の英語の時間に当たる時は最悪である。

銀ちゃんは定年間際のお爺さん先生なのだ。ひどい発音で教科書を読み、生徒を煙に巻くのを得意として

いた。bat,catなどのAの発音を「げろ音」だなどと言って生徒一人一人に「おえっ」と発音させた。一郎は

銀ちゃんがあまり好きではなく、おかげで英語の成績はあまり自慢できるものではなかった。

 青洋の原稿締め切りが迫っていたが一郎はとうとう書き上げることが出来ず、今回は見送ることにし

た。田川はスポーツクラブを中心に青春恋愛物語を書き上げていた。短い時間しかなかったにも拘らず

よく仕上げたものだと感心した。一郎は何も書けなかったことでひどく落胆した。部室を利用するために

入ってきた田川が短編小説を書いたのに、文学をそれなりに意識して入った自分はいったい何をしている

のだと自己嫌悪に陥った。

「すみません。どうしても書けませんでした。次の機会には必ず発表するようにします」編集に携わって

いる紀本さんと郷田さん、お化けの伊藤さんに頭を下げた。なんでも今回の目玉は郷田さんの比較的長い

小説だという。田川の小説との二本立てであとは三年生の岩沢幸子さんと植田悟さんが長編の詩、二年の

伊藤さんは短い詩、紀本さんは太宰治の作品に対する評論を載せることになった。北川邦夫さん中田正さ

ん、小山洋子さんは一郎と同じように書けないと言って発表を差し控えた。編集を終えたのは7月10日

である。印刷屋に提出して出来上がるのは9月1日だそうだ。夏休みが終わると同時に手元にやってくる

という仕組みである。紀本さんと郷田さんは夏休みの間に校正を済ますのだと言った。

 新学期が始まった。昼休みに部室に顔を出すと、郷田さんがうず高く積まれた青洋を前にして早速読ん

でいた。自分の書いた作品だろう、熱心に読んでいて一郎が入ってきたのも気づかない様子である。

「おっ、東谷と田川か、見ろよ、出来上がってきているぞ。読んでみろよ」

「出来ましたね。一冊貰います。」田川は目を輝かして青洋を手に取り一心に読み始めた。誰でもそうだが

自分の書いた作品は一番興味があるのは当然で、作品を発表していない一郎にとっては寂しいことだっ

た。こんな気持ちになるのは全て自分がやることをやってないためだ。それでも一郎は気を取り直して、

評判の郷田さんの作品に目を通した。内容はかなり衝撃的であった。高校生が恋愛の末妊娠をして、ひそ

かに出産した胎児の処理に困った二人は理科室の標本棚へホルマリン漬けにして並べることにする。二人

の心理的な葛藤と共に最終章の悲劇へと巧み描かれていた。一郎は読み終わって深い溜息をついた。一郎

の頭の中に無い設定なのに郷田さんは大胆に取り上げていた。「俺にはこんな作品は書けない」と思った。

一郎はコンプレックスの深淵に沈み込んでゆく自分を見つめていた。田川の小説もそれなりに面白かっ

た。あんな短い期間に一本書き上げたのであるから立派である。紀本さんの太宰評も面白いと思った。

 その年、昭和33年は横須賀高校の創立30周年に当たっていた。記念行事として文化祭をすることに

なった。紀本さんは狭い部室に部員全員を集めて何を展示するか議論することにした。しかし誰も熱心で

はなくやる気がなかったが、それでもお座なりとは言え二つの提案があり、決定した。一つは歴代発行

された青洋を年代順に並べること、他校から送られてきた同人誌の展示、神奈川県にゆかりのある作家

の作品や、動向を調べて展示することだった。では誰が調べ、どのように展示するか議論されたが、誰も

やりたがらないため仕方なく、部長の紀本さんを中心に一年生の一郎と田川が手伝うということに決まっ

た。実施は9月末である。9月中は下調べに追われ、図書館に通ったり、鎌倉の観光協会に聞きにいった

りして忙しかった。鎌倉は昔から文人墨客が多く住み着き、鎌倉文学を名乗り文壇の一角を占めている。

また昔、鎌倉時代源頼朝が金沢文庫を作り貴重な文献を保存したり、学問を奨励した所である。

 文化祭前日、土曜日には与えられた教室で簡単な飾り付けをし、模造紙に苦労して調べ上げた神奈川県

にゆかりのある作家をマジックペンで書いて壁に貼り付けた。また教室の真ん中に机を並べ青洋を歴代に

並べた。豪勢とは言えなかったがそれなりに文芸部らしくなった。当日一郎は青洋を販売する係りだっ

た。青洋は一日中ぽつぽつと売れた。他校からの訪問客も多く、中には女の子を連れているものもいたが

みんな私服で来ているので何処の高校かわからなかった。文芸部が展示している部屋には郷田さんが昼前

に、伊藤さんは午後から2時間ほどいて帰ってしまった。その他の二年生は誰も来ない。三年の岩沢さん

と植田さんは二人揃って4時頃顔を出した。噂の二人だそうで、岩沢さんが植田さんに熱を上げているの

だと、二人が帰ってから紀本さんが教えてくれた。植田さんは見るからに格好がよかった。

 夕方文化祭が終了し展示したものを撤去して部室に運んだあと、再び教室に戻った。がらんとした教室

の窓辺に寄りかかって紀本さんと植田さんが寛いで話をしていた。一郎は二人の会話を聞くとはなしに聞

いていた。

「お袋がよう、止めてくれって言ってんのに洗濯した下着にオーデコロンを振りまくんだ。ぷんぷん匂う

だろう、格好悪くてしょうがない」植田さんは自分のシャツに鼻を付けながら嘆いた。一郎は興味深く

聞いていた。下着に香水とは考えてもみなかった。随分おしゃれなお母さんだ、俺の母親はそんなこと考

えてもみないだろうなと思った。

「ところで先輩、岩沢さんは帰ったんですか?先ほどご一緒なのを見かけましたが」

「うん、なんだか機嫌悪そうにして先に帰ったわ」紀本さんが「何したんですかね」と聞くと

「実はな、受験勉強するのに差しさわりがあるから受験が終わるまで会うのは止めるんだって。俺の顔を

見ると心が乱れて勉強に身が入らないらしい」

「それはお付き合いを止めるということですか?」

「そうだ、学校であっても声をかけてくれるなと言った。俺にとってもこの際受験に力を入れなけりゃあ

ならないからいい機会さ。これからは受験に懸かりっきりだよ」悲壮感もなくさらりとしていた。それか

ら植田さんはおもむろにポケットからタバコを取り出して火をつけ、美味そうに煙を吐き出した。一郎は

吃驚した。高校生が当たり前のように何の躊躇もなく、しかも学校の教室でタバコを吸うなどとは考えて

みなかったのである。横須賀高校じゃないか、あってはならないことが目の前で行われていた。真面目な

学生に見える植田さんがこんな不良行為をするとは、三年になるとみんなこうなるのかと思った。

「おい、新入生、今日はご苦労さん。東谷といったっけ、お前もタバコ吸ってみるか?」手持ち無沙汰にし

ていた一郎を見て、手招きしながらタバコの箱を手にとり声をかけてきた。

「いいえ、結構です。まだ吸ってません」と言いながら首を左右に振って拒んだ。

「そうか、まだタバコを吸ったことがないのか。タバコ吸ってみるのも悪いもんじゃないんだけどな。

まあいいか、まだ入ったばかりだもんな」

どんな意味なのか、何が悪くないのか一郎にはまだ解らなかった。

                     (つづく)










 

 学校の帰り道、逗子駅前にある京浜急行バスのサービスエリアで定期券を買おうと並んでいると声を

掛けられた。女の子の声だったので誰だろうと思って振り向いた。

「東谷君ではないですか?」背の低い色白の女の子で、長い髪の毛を二つ編みにしたその髪は染めたよう

に赤茶色をしている。随分不恰好に見えた。初め誰だかわからなかったが、着ている制服が北鎌倉女子高

校ということは解った。鎌倉にはもう一校、鎌倉女子学園があり、それぞれ独自の制服である。

「お分かりになりませんか?小学校のときご一緒のクラスでした田所優子です」

「ああ、田所さん?久しぶりですね、わからなかった」

「三年ぶりですものね。どちらの高校へ行かれたのですか」

「横須賀高校です」

「それはおめでとうございます」会話はそれで途切れてしまった。一郎は自分の背丈が大きくなっているこ

とが頭になかったので、田所さんがあまりに小さくて昔の面影からかけ離れて見えたのである。考えてみ

れば小学校の頃一郎は田所さんと同じくらいの背丈だった。そのときのイメージが残っていたのだ。田所

さんとはそれ以来顔を合わす機会がなかった。噂によれば彼女は美大に進み銀座のギャラリーで個展を

開くまでの画家になったそうだ。そういえば小学校の頃いつも彼女の描いた絵が壁に張り出されているの

を見て、一郎は自分が苦手な分野であったからいつも感心していたのを思い出した。後に小学校の頃野球

の上手かった吉野恒夫がその個展を手伝いに行ったと言っていた。還暦を期に旧6年4組の同窓会を一郎

の幹事で行ったとき、名簿を調べているうちに田所さんが既に鬼籍に入られたことを知った。さらに残念

なことに4組のもう一方のアイドル工藤さんも既に亡くなっていた。美人薄命なのだろうか。

 いよいよ部活が本格的に始まった。6月のはじめ放課後を利用して、田川と二人で衣笠十字路から

バスに乗り、上町商店街で降りて、青洋に載っている商店を一つ一つ潰してゆくことにした。最初に

入ったのが田中写真展である。雑誌に広告を出すくらいだから大きな商店を想像していたが、案に相違

して何処にでもありそうな町の小さな写真屋さんだった。案内を請うと鼻眼鏡をかけたお爺さんが出てき

た。一郎は青洋を見せておずおずと「今年も広告をお願いしたい」と言った。不機嫌そうな顔をしたので

「ああ、初めからだめか」と思って落ち込んだが、親父は無言で300円を差し出した。一郎は慌てて

横高文芸部の印鑑を押した領収書を渡した。この領収書は前日田川と二人で急遽作ったものである。

 300円というと広告料としては随分小額だと思うかもしれないが、当時の金銭感覚ではかなり高い

ように思われる。何せ、ラーメンいっぱい40円、週刊誌も40円、映画の入場料が学割70〜90円、

国鉄の最低運賃が10円の時代である。学校の帰り田川と山完と三人で時々寄った、衣笠商店街の真ん中

にある甘味処「美好屋」のトコロテン15円、冷やし羊羹10円、団子一串10円、汁粉30円であるか

ら推して知るべしである。

 田中写真展の親父は広告料を出すのが義務であるかのように終始無言だったが、一郎と田川は最初の

広告が取れたのでほっとした。一郎は緊張のあまり背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。次の店は

高田眼鏡店である。やはりここも小さな眼鏡屋さんだ。挨拶すると愛想のいい若主人が出てきた。

「横高の青洋は知っているよ。うちは毎年広告を出しているよね。僕も横高だったんだよ。解った。

幾らだい?300円?まあしょうがない、お付き合いだ」と言ってレジから取り出してくれた。こうして

上町商店街で広告を載せてくれた商店は7軒あった。一郎は想像していたよりスムースに広告が取れたの

で今まで持っていた漠然とした嫌悪感が薄らいでゆくのを感じた。紀本さんが言った通りだと思った。

 上町商店街を抜けると急な下り坂になり、下りきると京浜急行の横須賀中央駅の脇に出る。大滝町商店

街の始まりである。さすがに横須賀のメイン通りというだけあって、今までとは打って変わって人通りが

多く、歩くにも気を使わなければならない。大滝町には三浦半島で唯一の百貨店「さいか屋」がある。

それと映画館や、大規模なパチンコ店が何軒かあり昼夜問わず賑わっている。一郎たちが目指すのは

「さいか屋」の反対側にある商店街だ。百貨店に対抗して商店街の何軒かが共同で造った「三笠会館」と銘

打ったアーケード街である。コンクリート造りの三階建ての真ん中にある長さ50mほどの通路の両側に

商店が並んでいる。三階とは言え店として使えるのはせぃぜい二階までで、大抵二、三階は倉庫か住まい

になっている。そこにあるうちの10軒が対象で、薬屋、本屋、金物屋、写真屋、時計及び眼鏡店、喫茶

店等である。

 一郎はなんとなく落ち着きがなかった。こんな人出のあるところに来た事もなく、人波に酔ってしまっ

たようだし、怖い町だという先入観が先にたって気後れしていたのである。さすがに米軍の基地がある町

だから、大滝町の通りには白いのや、黒いアメリカ人が多くすれ違う。考えてみれば小さな町から出る機

会の少ない田舎者の一郎にとっては刺激が強すぎるのだ。それに引き換え田川は小学校4年頃までこの

町で育っているから平気な顔をしていた。十軒回り終わり予定通りの成果で上々の気分になった。三笠会

館を出てさいか屋の方に行きかけると前の方から背の高い見たことがある女性が男と手を組んで歩いて来

るのに出会った。私服に着替えていたので初めわからなかったが、文芸部の先輩小山洋子さんだった。

意外なところを見られて戸惑っている様子である。

「小山先輩、今日は」と声をかけると

「あんた達学校の帰りでしょう?こんな所で何しているの?」

「青洋の広告を取りに来たんです。先輩こそ何しているんですか?私服に着替えてデートですか?いいな

あ」田川が意地の悪い質問をした。それにこたえず小山先輩は

「あらそうなの、で、もらえたの?全部もらえた?そう、それは上出来ね。それよりいつまでもこんな所

を歩いてないで早く家に帰りなさい。危ないわよ」小山先輩は照れくさいのか繋いでいた手を離して去っ

て行った。これから二人はどこへ行くのだろうか、一郎は気になったし羨ましくもあった。高校生は先輩

のように誰でもがあんなふうにデートを楽しんでいるのだろう、いずれは俺もそうしたいと思った。小山

先輩は男女関係に兎角の噂のある人だった。

 翌日早速とってきた広告の整理をした。広告は6分割で300円で4分割が500円、表紙の見返し

の2分割が700円である。大きな商店は例年4分割とか2分割の広告を載せてくれる。今回も三軒が

4分割、さいか屋が2分割を出してくれた。広告を取りに回るとよく聞かれることは発行部数である。

数の少ない雑誌に広告を掲載しても意味がない。青洋は400部発行する。そのうち90%を構内で販売

し、残りは近隣の他校の文芸部か、交流のある全国の高校に配るのである。広告を出す商店にしてみれば

ほとんど価値の無い広告ではあったが、母校のことだと鷹揚に構えてくれたのだ。なんか申し訳ないよう

な気がした。横高内で販売するときは一冊30円だと郷田さんが言った。

「30円で売っても足が出るのだよ。だから広告を取り、生徒会からの補助金もつぎ込むのだが、年度末

の決算は赤字にはならないけどかつかつだ」部長の紀本さんが言った。

「これでもな、発行するのを楽しみにして買いに来る生徒は多いんだぞ」と郷田さんが得意げに話をした。

載せる作品は部員全部が一作品提出という建前らしく、姿を見せない三年生も受験準備の合間を縫って

提出するそうだ。

「お前達もなんか出せよ。ただし、提出期限は6月一杯だ」僅かな時間しか残されていなかった。一郎は中

学のとき書きなぐった詩の中から選ぼうとしたが、改めて読み直してみるとつまらない。高校生のレベル

に達っしそうもない駄作ばかりだった。(つづく)

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