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「横浜日記」(208)(下) 2012年12月29日 梅本浩志
<イヤーゴの悪だくみで民主党が潰滅=続・総選挙雑感>
かって政権の座について間もない村山社会党内閣の久保蔵相を洗脳し、社会党そのものまで解体させ、潰したあのイヤーゴの囁きのやり口をこの際再び用いない手はない、と官僚どもが思ったとしてもなんら不思議ではない。
褒め上げで社会党が滅亡
バブル経済が崩壊して、自民党が国民から見放されかかり、危機感を強く抱いたときが、そんな「イヤーゴ」たちの最初の作戦開始の歴史だった。
当時多数派を占められなくなった自民党は、社会党を抱き込んで、村山富市社会党党首を首相にし、大蔵大臣に同党の幹部だった久保亘を据えた。久保たち社会党指導部は、当時のマスコミの「社会党も政権を担える大人の責任政党に脱皮すべきだ。そのためには自民党と手を組むべきだ」との無責任な扇動に乗り、いい気になってしまった。そんな世論が形成されてきてイヤーゴたちにはもう笑いが止まらなかった。
こうして与党、しかも総理大臣の地位まで自民党から譲られて、社会党はのぼせ上がってしまった。それまでの同党の主張であり公約だった日米安保条約反対を取り下げてしまい、憲法第9条の実質的変質も容認する「大人の政党」に脱皮することまで宣言する始末だった。
社会党はここに大きく変質したのであった。イヤーゴのリーダーたる大蔵官僚がこの絶好の機会を見逃すことはなかった。
その時、大蔵官僚が用いた手は、褒め上げリークによって、社会党大臣の久保亘蔵相を気分よくさせ、洗脳してしまう、超安上がりの手だった。
「久保さんは勉強家です、感心しますよ」、「頭の回転が早い人で、呑み込みが早い」、「こちらの言うことに対する理解が早くて、社会党にもこんなすごい人がいるのですね」などという言葉を、局長級の人間が新聞記者に漏らす。
お粗末な日本国新聞記者は、会社の人間や記者クラブの他社の記者たちだけに止めずに、自社の政治部の同僚記者や、時には社会党の幹部たちにも久保亘蔵相の大蔵省内でのよい評判なるものを話す。「久保さんは省内で評判が結構いいんですよ」、「社会党にも物分りのいい、頭のいい政治家がいるんだと言われていますよ」などといった調子で。
そんな評判はたちまちにして社会党内を駆け巡り、久保亘本人の耳にも達する。大蔵官僚もこの辺りをよく計算していて、社会党議員たちに適当に予算などをつけてやる。自民党議員たちにやってきた地元選挙区の土木事業などに予算をつけてやるなどの手だ。蔵相・久保亘の口利きだとなおさらである。こうして久保亘の社会党内での影響力は高まり、存在感が増す。
間もなく久保亘は、社会党を名実ともに変質させ、党名を社会民主党に変えてしまい、その社民党で副党首兼参議院議員会長という最高指導部の席を占め、その直後にその社会民主党からも離党してしまうのである。
1998年のことだから、久保が村山内閣で蔵相になってから、わずか2年。こうしてかっては自民党の向こうを張っていた日本社会党は、久保蔵相になってからわずかの年月で解体してしまい、久保が中心となって「社民党」に変えられてしまい、もう全く政治的力量も持てない弱小政党に成り下がってしまったのである。
かっては衆参両院でまず3分の1の議席を確保していた社会党はこうして事実上潰されてしまったのである。そんな「元社会党」は今度の総選挙では、わずか2議席しか取れない、完全滅亡過程に入った弱小政党に転落してしまったのである。
イヤーゴたちの再勝利
こうした久保亘の二の舞を民主党は演じなかったであろうか。党首にして首相だった野田佳彦は、総理になる前の菅直人内閣で財務大臣(蔵相)にいきなり就任し、イヤーゴの大蔵官僚たちに大歓迎されたことは当然で、自然だった。なにしろ松下幸之助から金をもらって大事に育てられてきた、純情な愛国者なのだから。
その財務大臣・野田佳彦の後継者になったのが世間知らずのお坊ちゃま政治家の安住淳だった。御年49歳8ヶ月で、NHK記者あがりのこの男もまた前任者同様、野田内閣でいきなり財務大臣で入閣したのである。大蔵官僚たちにカモにされる「若手政治家」の代表的な物分りのよい政治家だった。
党内では、野田同様、松下政経塾上がりの、「日米同盟」派の防衛族として知られる前原誠司のグループに属していて、安住自身も防衛族のつもりであったとインターネットのウィキペディアに。
そんな野田首相と安住財務相がコンビを組んで成立させ、民主党を破滅に追いやったのが、確信犯的で我武者羅な消費税の倍額引き上げである。財務省官僚の悪しき意図たる政治戦略が見え見えの、この消費税倍額引き上げの手に、野田と安住の財務相コンビは見事に引っかかった、というのが私の、永年の新聞記者経験から言える感想である。
野田首相と安住財務相のコンビの落ち着き先は、当時の大蔵官僚出身の藤井裕久・民主党政権初代財務大臣と、同じく大蔵官僚出身の伊吹文明・自民党幹事長(現衆議院議長)との間で形成されていた。消費税倍額増税カルテルの土壌だった。いわゆる「三党合意」なるものは、その土壌の上で形成され、育成されたもので、この「合意」が野田民主党政権をがんじがらめに縛り上げて、民主党政権を破滅に追いやっていったのである。
そのカルテル土壌の上で、野田と安住は無邪気に日本財政の立て直し、イコール日本国家の危機からの脱出というイヤーゴ・財務省取り巻き官僚の囁(ささや)きを信じこみ、とにかく遮二無二突進した。その2人にはもう苦しむ国民の声は聞こえなかった。
日本財政の危機なるものは、戦後久しく傲慢に政権を維持し続けた自民党の犯罪だったのだが、とりわけ日本列島改造論と公債発行政策の誤りにあったことは明らかなのだが、それを自分たち民主党政権が誤りを正して日本を「国難」から救うのだ、と思い込んでしまった野田と安住だった。宗教的信仰に近い信じこみで、この2人には、もうイヤーゴの囁き以外には何も聞こえなかった。
そんな公債発行政策の中でも財政法違反の赤字国債発行政策に最大の原因と責任があったのだが、その自民党の責任を、自民党にとらせないで、馬鹿正直にも民主党政権が担うというお人好しぶりだった。
野田、安住の2人の側近たちも、権力病に罹ってしまって、なにも進言しなかった。進言しても聞くだけの余裕を持てないほどに、イヤーゴたちの洗脳は強烈で、根強かった。
お人好しにも、野田たちは、イヤーゴOBが作っていた増税闇カルテルの土壌の上で坐り込んでしまい、民主・自民・公明3党間だけで談合してことを運ぶ新翼賛体制の路線を突っ走った。それが奈落に向かっていることを、民主党内では、誰も忠告することがなかった。
冷たいものだぜ官僚どもは
こうして愚かにも民主党は財務官僚を中核とする官僚階級の隠微なサボタージュ攻撃とイヤーゴの手法を使った洗脳攻撃によってもろくも潰え去った。かって社会党を潰し、社民党を実質消滅させ、いま民主党も足腰立たぬまでに潰した。
潰された権力者には、もう官僚階級は見向きもしない。利用するだけ利用した敗北者に権力は冷淡である。
野田内閣が霞が関から姿を消し、官僚階級の真の味方である安倍内閣が登場した12月26日の前日の25日は野田佳彦が首相官邸を去る最後の日だったが、財務官僚は去りゆく野田には消費税増税努力の恩と労をねぎらう挨拶にも出向かず、いやもう見向きもせず、新たなる権力者の安倍晋三に擦り寄りの挨拶に出向いた。
朝日新聞12月26日付紙に掲載された首相動静と安倍総裁動静にその事実が記録されている。即ち、野田首相に挨拶に出向いた官僚は、農水、国交、文部科学、法務、復興庁、総務、内閣府の各事務次官と警察庁長官だけだったが、権力中枢の財務、外務、防衛3省の事務次官はまだ正式には総理大臣に就任していない安倍自民党総裁を訪ねているだけである。
この権力中枢3省事務次官はまだ総理大臣の座にある野田には挨拶にも伺っていない。使い捨ての哀れな旧主人には見向きもしないのである。その前日も、前々日もだ。
冷淡なものである。シェイクスピアの『オセロ』では、イヤーゴは最後に殺されるが、官僚階級の田舎芝居では、イヤーゴどもは生き生きとして、新たなるご主人様に満面笑みを浮かべて、ほくそ笑んでいるのである。 (了)
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