|
**北朝鮮を脱出した労働党幹部のキム・ミョンソク(仮名)さんの手記。
金日成-金正日独裁で維持されている北朝鮮には、民主国家では見ることが出来ない異常な事件が沢山起こる。火事の現場では、金日成-金正日の肖像画からまず先に助け出さなければならないし、転覆した船からは、金日成-金正日の肖像画をビニールに包んで胸に抱いて死んだ船員が、英雄になる。金日成-金正日は、銅像、写真、甚だしくは枯木にまでも、その威勢を振るっている。
北朝鮮で労働党傘下の機関に勤務していた時に起こった、笑えないエピソードを一つ紹介しよう。
北朝鮮には「スローガンの木」というのがある。「スローガンの木」は、朝鮮が日本の植民地支配下にあった時、金日成が率いる抗日遊撃隊(パルチザン)が金日成と彼の息子の金正日を賞賛するスローガンを木に刻んだものだとのことである。従って、普通人々が考える「スローガンの木」は死んだ木や枯木である。しかし、首領の偶像化と金正日の後継者構築作業が本格化するに連れて、生きている木もスローガンの木として登場し始めた。
「50年前に彫刻するように刀で刻んだ字なのに、どうしてそれが今でも残っているのだろうか」特別な秘薬を使ったとは言うが、常識的に納得することができないスローガン木が、全国的に数千本も見つかったのである。
北朝鮮政府は、人民たちを総動員してこのスローガンの木を観覧させたが、その反応が実に不思議だった。木が成長したら細胞分裂をするのに、字はどうして原型そのままで残っているのだろうか?
スローガンの木に刻まれたという字も、実に幼稚だった。「朝鮮に白頭光明星が昇った」(ここで言う光明星とは、金正日を意味する)、「白頭光明星、万万歳」「白衣同胞よ、朝鮮の代を受け継ぐ白頭光明星が昇った」、「3大将軍(金日成、金正淑、金正日)万万歳」等々である。
数百本の枯木に刻まれたスローガンは、海外から輸入した2万ドルの特殊ガラス管に永久保管され、生きている木は保護台を設置して、周辺を各種の装飾品で飾られた。このスローガンの木を毀損することは、首領である金日成-正日の権威を毀損するのと全く同様な重犯罪と見なされて、厳罰に処された。
1997年8月頃、平安(ピョンアン)北道新義州(シンウィジュ)地方に大雨が降って洪水になり、スローガンの木が大挙して水に流された。市当局は、水に流された住民たちを助けるよりも、スローガンの木を引き上げるのに全力を尽くした。そして引き上げられたスローガンの木は、道で最も大きい風呂屋の営業を中止させて、そこで乾燥させるようにという指示を下した。
ところで、その時問題が発生した。日夜その風呂屋に詰めて、木を乾かすのに余念がなかったボイラー工と労働者たちが、夜、酒を飲んで管理を怠ったせいで、スローガンの木に火が燃え付いて、全て焼失してしまったのである。直ちに非常召集が掛けられ、労働者7人は足かせ(手かせ)を掛けられて、国家安全保衛部に連行された。勿論、金正日にもこの事実が報告された。
幹部たちは厳罰に処さなければならないと、皆、声を高めたが、金正日は洪水と飢えで荒廃した民心をなだめるのに、この人たちを利用する事にした。数日後、平安北道の党幹部たちは広場に住民たちを呼び出して、この事件に関連した処罰を遂行した。住民たちは皆、彼らが間違いなく極刑に処せられるだろうと予想した。しかし、将軍様(金正日)の親筆の指示は、全く違う内容だった。
「彼らを寛大に許してやろう」というものだった。瞬間、死ぬと思っていた彼ら「罪人」たちは、涙を流して将軍様の「恩徳」を褒め称え、群衆たちも将軍様の「恩恵」に感動した。
この事件が忘れられた頃の1998年3月、スローガンの木に関連した事件がまた起った。咸鏡(ハムギョン)道地方にあるムジェ峰で、大型の山火事が起きたのである。お腹を空かした住民たちが、畑を耕作していた時、間違って火事を起こしたのである。
この山にスローガンの木が沢山あり、近隣には軍部隊が配置されていた。山火事が余りにも大きかったので、消化が殆ど不可能だったと言う。このような状況で、スローガンの木を助けるために軍人たちが動員され、20人の軍人たちがスローガンの木の側で、消化する際に窒息して倒れた。その中でも、17人は死亡してしまった。人民武力部はこの事実を直ちに金正日に報告し、金正日は「本当に立派な軍人たち」と賞賛した。その内に、何を思い出したのか、大声を出したと言う。
「おい!軍人たちはこのように英雄的なのに、この間、酒を飲んでスローガンの木を焼いてしまった士民(民間人)がいただろう」と、彼らに悪口を浴びせ掛けた。金正日の一言で命が行ったり来たりする北朝鮮で、生かしてもらえると思って涙を流した民間人たちの運命は、一瞬に変わった。数日後、風呂屋でスローガンの木を間違って焼いてしまった民間人たちは、また保衛部に連行された。その後、彼らの行方を知る人はいないと言う。
労働新聞は7年が経過した去年12月22日、ムジェ峰事件を大きく報道した。死亡した軍人たちは英雄称号を貰い、生き残った軍人たちも特別に中国で成形手術を受ける機会を享受した。
火事や災害が発生したら、人間の命から先に助ける民主社会とは違い、金日成-金正日の肖像画や枯木に命を掛ける北朝鮮住民たちは、本当に可哀想な気がする。北朝鮮は数多くの人民の命より、金日成-金正日の写真一枚をもっと重要に思う集団である。
|