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ベンゾトリアゾールの添加は劇的な変化をもたらしました。 カラーバランスが改善され最大濃度が上がり、黒の締まりがグッと良くなったんです。 ただしベンゾトリアゾールの添加量は0.1g/Lという微量であり、精度0.1gの天秤では秤量出来ません。 そこでベンゾトリアゾール原液というのを先ず作ります。 温水(40〜50℃) 150mL ベンゾトリアゾール 4g 水を加えて 200mL この液をスポイトで5mL計り取って現像A液に添加します。 そうやって辿り着いた最終処方が「AD-21」でした。 「AD-1」から数えて21番目の処方です。 AD-21; 溶液A: 水(50〜60℃) 750mL 無水亜硫酸ナトリウム 35g フェニドン 0.5g ハイドロキノン 5g メタ重亜硫酸カリウム 9g 臭化カリウム 2g ベンゾトリアゾール 0.1g 塩化ナトリウム 6.3g 水を加えて総量 1000mL 溶液B: 水(40℃) 750mL 無水炭酸ナトリウム 75g チオ硫酸ナトリウム 1.8g 水を加えて総量 1000mL この処方で作ったプリントサンプルがこれです。 これ一枚だけ残してありました。 以下、実写プリント例を少しだけ上げておきます。 スキャナーを使うと色調、コントラストともガラッと変わってしまうので、ニコンD7200でイージーにパチリと複写した後で若干の補正を加えています。元プリント通りという訳には行きませんが、雰囲気だけでも感じて頂けたらと思います。(上のサンプルもそうしています) 最後になりますが、雑誌「風景写真」のカラープリント部門で最優秀作品賞に輝いた一枚です。 この時、努力の全てが報われた気がして本当に嬉しかったです。 その後イルフォード社は破産し、解散となりましたが後に分社化という形で再建されたと聞いています。しかしイルフォクロームは無くなりました。 その時思ったんです、「これで終わりだ!」と。 以降2006年秋、私は初めてのデジタル一眼、ニコンD80を買いました。 現在は昔ほど写真に熱を上げることはもうありません。 しかし今のデジタルって凄いですね。 なんでも出来ちゃいます。 しかもゴミを残さない。 ある意味、写真も残りませんが。
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イルフォクローム回想録
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昔熱中した、イルフォクロームによるリバーサル・プリント技法について、どこまで書けるか分かりませんが、少しでも記憶をここに残したいと思います。
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再び代用処方の話に戻ります。 以前の記事に書いた「AD-12」という処方は、結局30℃による処理には適していない事が、段々分かって来たのです。 その特徴は、青味が支配的になり易くて、最大濃度が低い。 カラーチャートによるサンプルプリントがもう無いので、当時の実写プリントを出しますが、こんな感じですね。 雰囲気だけでも感じて頂ければと思います。 なにしろFBスキャナーに掛けただけで、コントラストは上がるし、色調は変わるし、で元の写真とは別物に化けます。 そこをソフトで目いっぱい補正して、出来るだけ元の雰囲気に近くなるよう加工しました。 それでもまだ暗部が潰れていますが、これ以上の補正は無理なので。 また、PLフィルターを使用して撮影しているので、けして青空の色が反映している訳では無いんです。 さらに致命的な問題が発生しました。 それが「カブリ」です。 定着処理を終了し、ドラムを開けてペーパーを取出したら、一面ブルーの曇りに覆われていた、という事態が度々発生するようになりました。 その原因がなかなか突き止められず、たぶん汚染じゃないかと考えて、中間水洗を徹底する事にしたのです。 その結果、こんな煩雑な処理工程になってしまいました。 また、ドラム回転数は25rpmにしていますが、これがベストでした。 これで一応極端なカブリが出ることは無くなりました。 さらに現像処方も「AD-18」まで進みます。 溶液A: 水(50〜60℃) 750mL 無水亜硫酸ナトリウム 35g フェニドン 1g ハイドロキノン 12g メタ重亜硫酸カリウム 7g 臭化カリウム 6g 塩化ナトリウム 12.6g 水を加えて総量 1000mL 希釈率1:1にて使用 溶液B: 水(40℃) 750mL 無水炭酸ナトリウム 150g チオ硫酸ナトリウム 2.4g 水を加えて総量 1000mL 希釈率1:1にて使用 しかし、「青味」と最大濃度の低下に対しては、根本的な解決には至りませんでした。 イルフォクロームというのはイエロー染料層とマゼンタ染料層の間にニュートラルの乳剤層があって、これを「ケミカル・マスク」と言うんですが、現像工程において、ここのコントロールが重要だったんです。 P-3プロセスの技術資料には「コントロール・ストリップ」というのがあって、これを処理、測定する事によって、コントロールするという事が書かれていました。 でも、それはどちらかと言うと自動現像システム向きの方法であり、設備や機材も無い私にはそれをやるのは無理でした。 それで、ひたすらA液におけるフェニドンとハイドロキノンの量と比率、及びB液におけるチオ硫酸ナトリウム量の最適値を求めるべく試行錯誤を重ねたのです。 その結果、「青味」の正体はカブリであるという結論に達したのです。
それで、ベンゾトリアゾールという強力なカブリ防止剤を添加する事にしました。 |
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さらにもっと気掛かりだったのは、温度管理でした。 溶液は水も含めて一回の使用量をビーカーに用意し、それを温浴バスに入れて、処理開始まで保温して置きます。 温浴バスは、ホームセンターなんかに売ってる樹脂トレイと電子コントローラ式の熱帯魚ヒーターで自作しました。 それでも処理温度が30℃ともなると、季節によっては処理中にどんどん冷めて行くんですね。ペーパードラムの表面から熱が放散して行きますから。 それを避けるには恒温槽が必要になるんです。 しかしそんな物、とても高価で買える訳もなく、また家に置くことも出来ません。 そこで、いろいろ知恵を巡らして自作する事にしたんです。 完成した装置がこれです。 「オリジナル・ドラム・プロセッサー」という名前をつけました。 写真では「JOBO」のドラムを載せていますが、「ラッキー」のドラムも使っていたので、それも使用出来るようになっています。JOBOのは処理中に中でペーパーが外れ易い、という構造上の欠陥がありました。ラッキーの方が信頼性が高かったと思います。ただ時々液漏れを起こしました。(パッキンの劣化) 製作に一年掛かりました。 現在はもうありません。10年前の引越しの際、処分しました。”泣きの涙”で分解、廃棄しました。当時は心境的に大分追い込まれていたので。 今でも、せめて記念品として持ってきたら良かったなあ、なんて時々思っています。 ひょっとしたら当時には考えもしなかった、全く別の分野に応用出来たかも知れません。 もっとも、そんな用途には未だに巡り合っていませんけれど。 内部です。 一番奥にニクロム線ヒーターが入ってます。そこで熱せられた空気が5個のマイクロファンで上方(写真では手前)に吹き上げられてドラムを保温するようになっています。 最初、温風で精度の良い温浴なんて実現出来るのか不安でしたが、作ってみたら完璧でした。 上下に回転シャフトが見えますが、下の方のが駆動シャフトです。 軸受けにはホームセンターで買って来たボールベアリングを使っています。当時はまだ「ホームセンター」なんて呼び方はなかったですね。「D.I.Yの店」なんて言ってた頃です。今のホームセンターには絶対無いようなマニアックな部品をいっぱい売っていた夢多き時代でした。 パネル面の左側に8個のトグルSWがありますが、これで回転時間を設定出来るようになっています。 例えば3分のSWをオンすると回転が始まり、3分後に回転が停止、その15秒前からブザー報知が始まります。 ドラムの回転にはDCギアードモータを使いました。それをさらにプーリー比で回転を落としてシャフトを回していたんです。 DCモーターですから電圧制御だけで簡単に回転数を設定出来ました。 どんな出力のモーターを使えば良いのか、見当をつけるために試算した記録が残っています。 結局モーターは大阪日本橋のジャンク屋で見つけて格安で入手出来ました。 こちらは前蓋を開けたところの写真です。 左がモーター室で、右が制御室です。回転制御と温度制御をやる回路を収納しています。 温度の検出には樹脂モールド型の高精度サーミスタを使いました。ただし温度-抵抗特性は実際に試験をしてデーターを取りました。 その抵抗値に比例してニクロム線ヒーターに、毎秒何パーセントの電気を喰わせるかを決めている訳です。要するにPWM制御ですね。 それだけではなくてPWM信号を作成する電圧コンパレータの基準側にも可変要素を加えて、手動でパワー・コントロール出来るようにもしました。 ホームセンターで売ってた600Wのニクロム線ヒーターに30℃前後の発熱を受け持たせる訳ですから、かなりの工夫が必要でした。 こちらは26歳頃買った卓上旋盤です。若かったんで、何か夢に取り憑かれてたんですね。 でもこういう物を持っていなければ、上の装置も作れる目途が立たなかったと思います。 回転系の部品作りに大活躍しました。 この写真はヤフオクに出品した時のものです。ですから現在は所有していません。
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前回の記事で書いた通り「AD-12」と名付けた代用現像処方に一旦は落ちついたんですが、次の段階の「漂白液」には代用処方がありません。 相変わらずP-30現像キットを買って、その中の漂白液と定着液を使わなければなりませんでした。しかも不要になった現像原液は毎回無駄に捨てることになります。 しかしその頃になると、イルフォードのラボで使われている「P-3プロセス」と言う処方の原液が、現像、漂白、定着、各20リットル用の単位で販売もされている事が分かってきました。 そこで思い切ってイルフォードの代理店に電話で、一般に販売されているP-30処理のペーパーはP-3でも処理出来るのか、さらには漂白原液のみでも卸してもらえるのか、聞いてみたんです。 答えは、OKでした。 それだけでなくこんな技術資料も送ってくれました。 さっそく「メディク・ムツミ」を通して漂白液だけ注文しました。値段は、正確なところを覚えていませんが、20,000円位だったんじゃないでしょうか。 でも、20L分なら六切り換算で200枚処理(単純計算)できる訳で、大変割安になります。 届いた箱の中には使用液10L分の原液が入ったボトルが2個入っていました。 後は定着液ですが、これはあの文献に書いてあった事を頼りに代用定着液を作ることにしました。 当然、かなりの試行錯誤がありましたが最終的にはこういう処方です。 水(30℃) 600mL 無水亜硫酸ナトリウム 48g 無水炭酸ナトリウム 4g 水を加えて 800mL イルフォード・ハイパムフィクサー 200mL 計 1000mL, pH=6.8 これを「AF-1」と名付けました。 ハイパム・フィクサーも安い液で、店に行けば何時でも置いてあったものです。 P-30とP-3の違いは、P-30が24℃前後の広い温度範囲で処理出来るのに対し、P-3では30℃一定で処理しなければなりません。 一応こうゆう工程を組んでやっていました。 この中に、60mLと書いてありますが、書いてあるからにはこの量でやってたんでしょうね。 これだと、漂白20Lで六切り換算333枚処理出来ることになる。ものすごく節約していた事情を今更ながらにヒシヒシと感じます。 ところで、それまでの24℃から30℃処理に変えると、やっぱり仕上がりの調子が変わったんです。
それでハイドロキノンを10gに増量して、さらにA液を1:1に希釈して使うって事をやったりしていました。 |
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前回説明した2浴処方での初めてのプリント処理はちゃんと出来ました。 カラープリントなんてメーカーの提供する製品でしか出来ないと思い込んでいましたから、そりゃもう感動ものでしたね。 感動はしましたが、しかし理想からはまだ遠かったんです。この辺りサンプルが残っていないので、説明し難いのですが、要するにもっと軟調な仕上がりにしたい、という事だったと思います。 それで処方の改良に取り組みました。 まずはA液中のメトールとハイドロキノンの比率を何段階か変えたものを作る。 次はB液中のチオ硫酸ナトリウムの増量、具体的には2倍。 この「2倍」という値がどこから出て来たきたかというと、べつに根拠なんてありません。直感的に決めた値です。しかしそれで正解でした。 後でさらに増量して実験しましたが、それ以上の効果は出てこなかったんです。 またA液、B液の希釈液を作って、総当たりに組み合わせてテストする、なんて事もやりました。 当時の記録の一ページですが、ほとんど「錬金術」みたいな事をやってる状況でした。 さらに、定量的に把握するため、出来たテストピースは逐一濃度分析に掛けます。 こういう色分解濃度曲線の離合状況を観察しては一喜一憂していた訳です。 やがて一つの妥協可能と考えられる処方に辿り着きました。 それがこれだったと思います。 「AD-12」と名付けていました。 溶液A: 水(50〜60℃) 750mL 無水亜硫酸ナトリウム 37g フェニドン 1.4g ハイドロキノン 3g メタ重亜硫酸カリウム 14g 臭化カリウム 5g 塩化ナトリウム 6.3g 水を加えて総量 1000mL 溶液B: 水(40℃) 750mL 無水炭酸ナトリウム 111g チオ硫酸ナトリウム 3.6g 水を加えて総量 1000mL メトールをフェニドンに替えたのですが、そのままではpH=9と高くなるのでメタ重亜硫酸カリウムを加えてpH=7に調整しています。 これでさらに軟調化が進みました。 また水は、純水なんてとてもじゃないので、簡易浄水器を通した水道水をヤカンで沸騰させてカルキを抜き、そのまま冷ましたものを使っていました。
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