ばれった〜宮-Love in Palace-創作(byちょるす)

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プロローグ

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プロローグは正確には「あの間の二人」のお話です

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異国の教会で、太皇太后とチェ尚宮のふたりを証人として挙げた、ふたりだけの結婚式は、
祖国での、伝統に則った華やかな式とは似ても似つかないささやかなものだった。


太皇太后とシンの旅の目的が、表向きは公式な慈善活動の為とはいえ、
立場のうえでは皇太子時代とは重みが違う。

パーティでも比較的カジュアルな服装が許される為、礼服などは用意が無い。

それでもシンは旅装の中から、なんとかふさわしい衣装を見つけ出し、
チェギョンは持ち前の創造力で、ワンピースをウエディングドレスに変え、
頭にはヴェールの代わりに花を飾った。


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天主堂の祭壇の前で、温かな光を浴びながら、チェギョンは胸を浸す幸福感に酔っていた。

最初の結婚式は、事前の訓育にもかかわらず、何がなにやら分からない間に式次第が進み、
ただ周りに押し流されている状態で、一体いつの段階で自分が皇太子妃になったのやら分からず、
チェ尚宮に初めて「妃殿下」と呼ばれるまで、まるで実感がわかなかった。


今のこのとき、生涯を共にする真実の夫と目を見交わしたこの時が、再びの出発点なのだと、
チェギョンは心を躍らせた。

まだ祖国には戻れないけれど、離れていてもシンは真実、自分の夫。名ばかりの夫婦ではない。

共に幸せになるのだ!ファイト!と、チェギョンは笑みを深くした。


そして傍らのシンを見上げ、優しくあたたかな夫の瞳を覗き込みながら、
チェギョンは少し気取って微笑んだ。

皇太子妃時代に練習した「綺麗に見える笑い方」なのだ。


・・・自分は美しい花嫁だろうか?ほっそりした綺麗な姿で、シン君の目に映っているだろうか?

ここのところ様々な思いに胸が一杯で、食が細くなっていた。

以前はピッタリだったこのワンピースも、いまは少しウエストが緩んでいる。

お肌は以前にもましてピカピカだし、少しは女っぷりが上がったはず!

完璧なシンの隣に立っても、「お似合いの二人」「ふさわしい妻」と思ってもらえたら!

結婚以来、ずっと思い続けてきたこの願いに、わずかでも近づいているだろうか?



そんな思いにとらわれつつ、チェギョンは優しい夫にエスコートされて、祭壇を離れた。


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天主堂の前で、チェ尚宮にブーケを手渡す。

入宮してから今までずっと、厳しくもあたたかく自分を支えてくれた、姉のように思う人に、
「いつもありがとう」「これからも宜しく」「お姉さんも幸せになってね」の思いを込めたつもり。

安心して夫を振り返った途端、胸焼けのような違和感に口を押さえた。


・・・食べ過ぎるほど食べてないわよ?


今朝はお茶を一杯飲んだだけだったのだ。

不審に思う矢先、はっきりとした吐き気がせり上がってくる。

混乱の中で、太皇太后の「懐妊?」のささやき声が、大きく聞こえた。



(画面デザイン Presented by まるごん )

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胸に覚えが無いわけではないのだが・・・そんな可能性を全く考えていなかった。

シンは、前回極秘でマカオを訪れた時の事を思い出していた。


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皇居の殿舎が放火により炎上するという、前代未聞の異変から端を発した一連の事件は、
当初の義誠大君ユルによる供述とは異なり、故孝烈太子の精神不安定な未亡人による、
衝動的な放火とされた。

丁度、故人の命日に近かったことが、突発的な情緒不安定の理由付けとして役に立ち、
その後の未亡人の交通事故は、その理由を裏付けるものと精神科医の診断がされたのだった。

そして車椅子姿で、涙にくれて謝罪し、皇太后の位を返上すると申し出た美貌の未亡人や、
母をかばって己が罪を背負おうとしたユルに対し、同情が集まった。

二人の親族や王族会から、私財を投じて殿舎の修復を行う旨の申し出もあり、
寛大な処遇を求める民意を反映して、国会は皇籍からの離脱を条件に、二人を訴追しなかった。


あわせて一連の不祥事に対し責任を取るとして、皇太子シンが廃位を申し出ると、
国内の世論は皇室に対し、一気に同情的な論調に偏った。

皇太子妃シン・チェギョンの国外追放についても、行き過ぎの厳しい処遇との声が高まった。



そんな中で国会に提出された、皇帝の退位問題は、混乱の中に更なる一石を投じるものになった。

「健康上の理由」とする皇室に対し、慰留の術が無い国会では、
皇室廃止やむなし?との意見も出たが、言いだした議員は圧倒的多数の反対にあい、議論にもならない。

その論争の中で、男子のみを皇位継承者とする条文が、アッサリと改定されてしまったのだ。

さらに著名な写真家でもあり、国際的な慈善活動で知られる、皇女ヘミョン姫への譲位は、
これまたあっけないほど簡単に承認された。

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事件の区切りがついた上で、心身の静養のためと称し、既に身軽な公子となったシンが向かったのは、
マカオだった。


随員も無く、海外でたった一人で行動するのは初めての事で、
変装の為のサングラスの下で、シンは目を泳がせていた。

到着の時刻は告げてあるし、チェ尚宮と迎えに来ると、確かにチェギョンは言った。

心配する両親やコン内官にはそう説明して、大丈夫だと笑って来た筈なのに、いまは不安だった。


入国ゲートをくぐり、人の流れにのってロビーにやって来はしたが、辺りを見回すシンは悩んでいた。

果たして待ち合わせは此処で良かったのか、判断に苦しんでいたのだ。

分からないなら人に訊けば良さそうなものだが、世話をされることに馴染んだ体は言うことをきかない。

問う言葉が出てこないわけでもない、此処は異国で身元が分かる心配も格段に低い。

分かっている、頭で分かっていても、どうしても動き出せないのだ。


シンは小さくため息をついた。

まだまだ、だな・・・こんな事では。



すると背中に硬いものが押し当てられた。

「ウゴクナ!」

ギクリとして立ちすくむと、きこえてきた間違えようのない声に、自然と笑みが漏れた。

低い声を出そうとしているのか、くぐもってはいるが、間違いなくチェギョンの声だった。


「おそいぞ!」

振り向いた先にチェギョンの笑顔があった。

その他には何も見えなくなった。
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(画面デザイン Presented by まるごん )

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空港からタクシーの車窓ごしに見るマカオの街は、鮮やかな色彩でシンを歓迎してくれた。


チェギョンと居るといつもこうだ…。


彼女との出会いから、いまに至るまでの様々な風景は、それまで自分が知っていたはずの世界と、どこか異なっていた。

チェギョンと居ると、目に映る色彩はより鮮やかで、そよぐ風は芳香をたたえ、鳥の声や木々のざわめきに、いつの間にか癒されている。


世界はこんなにも美しい・・・。


穏やかな思いにひたるシンの口元には、自然と微笑が浮かんでいた。



恐縮するチェ尚宮の申し出を制して、シンは片手に荷物を、反対の腕にチェギョンの手を取って、ホテルのエントランスをくぐる。

二人を待たせて、一人でチェックインを済ませる。

鍵を受け取り、チェギョンを振り返った時、むやみに晴れがましい思いがした。



コン内官が予約してくれた部屋はVIP用の特別室で、
この部屋のある一角は、ホテルの中でも人の出入りが制限されたエリアだった。

ポーターに案内されて特別室用のエレベーターでフロアまで上がると、
明らかに上質の内装が施されたホールに降りた。

毛足の長い絨毯の感触に、チェギョンは皇太子妃時代を思い出し、一人笑った。

「どうした?」

それに気付いたシンの問いに、チェギョンは首をすくめ、上目遣いでささやいた。

「初めて宮殿に行った時の事、思い出してたの。絨毯につまづいて転ばないかヒヤヒヤしたわ!」

その言葉にシンも笑い、チェギョンの手を握りなおした。

「転んでもいいぞ?」

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案内されて部屋に入ると、ゆったりとした玄関ホールの先にリビング、ダイニング、簡単な調理が出来るキッチンがある。

リビングを挟んで、テラスに面した2つの大きな寝室には、それぞれバスルームがついていた。

さらに、ダイニングから出入りが出来る、使用人の為の部屋まで備えてある。


シンがポーターにチップを渡しお茶の用意を頼んでいる間、チェギョンは部屋中を見回し、
扉という扉を開け、しきりに感嘆の声を上げていた。

テラスから景色を眺めるシンの傍らにチェギョンが戻ってくると、懐中していた携帯電話が鳴り出した。


『公子殿下、ホテルにお着きでしょうか』

「ああコン内官、丁度部屋に落ち着いたところです。チェギョンもいます。」

『ご無事でようございました。太皇太后陛下、上皇陛下、皇太后陛下へ、そのように申し上げます。』

「姉上には僕から申し上げます」

『かしこまりました』


そんな会話の間にも、彼のわきの下から腕の中にもぐりこみ、
電話の向こうの声を聞こうと背伸びするチェギョンをもてあまし、シンは携帯電話を差し出す。

途端に満面の笑顔を浮かべ、コン内官相手にはしゃぐチェギョンの肩を抱きよせ、髪を指に絡ませた。


今回の旅の目的は、もちろんチェギョンに会うこと。

しかし、他にも済ませてしまわなければならない事が残っていた。


チェギョンが国外追放になってから、すでに半年が過ぎようとしていた。

高校の卒業証書すら郵送での授与となったため、半年の間チェギョンはチェ尚宮のほか、
全ての家族、友人知人から引き離された生活を送っていた。

日に何通も交わすEメールからは、チェギョンの日々の生活を窺い知ることが出来たし、
時折カードや小包をやり取りしては、慰めを得ることも出来た。

しかし威勢の良いメールの向こう側に、送られる写真や絵葉書に添えられた言葉の行間に、
シンはチェギョンの寂しい気持ちを、感じ取っていた。

孤独のうちにすごした14年の日々の重みは、孤独でなくなって初めて、シンにとって意味を持った。

愛する人がいて、その人に愛されている自分は既に孤独では無い。

しかし、家族や友人の愛情に包まれて暮らしていたチェギョンにとって、
今の暮らしはどれほど辛いことだろうか。


これ以上、チェギョンを一人にはしておけない。


皇太子の座を降り、公子となって以来シンが思い続けていたのは、チェギョンを迎えに行くこと。

それが叶わないならば、いっそ自分も共に国外で暮らそうとまで思いつめていた。

いまや皇太子ではないとはいえ、本来、正統な後継者であるシンを復位させよとする声は高く、
皇立大学で美学を専攻するシンの周囲では、いずれ皇太弟の宣下があって当然とする見方が大勢だ。

しかしそれではチェギョンと共に暮らせる日が、いつの事になるか知れたものではない。


皇太后や女皇帝をはじめ、ユルや学友たちにまで、考えられる全ての人脈をつかって、
チェギョンの帰国へ働きかけてはいるが、一般の国民はともかく、王族会の長老や有識者たちの意見は、今ひとつ厳しい。

それだけ公共のメディアを使って、国民の前で離婚を持ち出したことは、きわめて大きな問題であり、
国民の範となるべき皇室の姿を示す為にも、安易に許してはならないとする姿勢が根強いのだった。



もう待てない。


シンはこの際、自分もマカオに残る気持ちでいた。

いずれにしてもチェギョンと別れるなど、思いもよらないことなのだ。



いっそ二人で失踪するか!




「ハイ!分かりました!シン君に代わりますネ?」

そういって差し出された携帯電話を耳にあてながら、シンはチェギョンを見つめ続けた。


「コン内官?」

『殿下、ご無事のお戻りを・・・お待ち申し上げております』


言葉につまり返事の遅れたシンの耳に、慈愛のこもった声が続けた。


『心よりお待ち申し上げております、殿下』

「・・・わかりました。」

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(画面デザイン Presented by まるごん )

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通話を切ってリビングに戻ると、ウエルカムフラワーの飾られたリビングセットには、運ばれたお茶と軽食の準備が整っていた。

椅子の背にかけておいた、シンの変装用の帽子や三人分の荷物は、チェ尚宮によって早々と片付けられ、荷解きがすんでいた。

いまも腕にまとわりつき、一時も自分から離れようとしないチェギョンを伴って、シンはソファーに腰を下ろした。


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「滞在は10日のご予定とか・・・。」

ティーカップを差し出しながら、チェ尚宮が控えめに問うのに促され、シンは迷った。


今はまだ、再会の喜びを不安に曇らせたくない。

話はしばらく後でもかまわないと、シンは返事をしながらチェギョンに笑って見せた。

「ええ、そうです。メールに書いてあった図書館とかレストラン、行って見たいな」


後半は「10日」と聞いてわずかに寂しげな目をした、チェギョンに向けた言葉だった。

チェ尚宮からカップを受け取りながら、チェギョンはシンの言葉に元気よく頷いた。

「ウン!行こう!すっごく美味しいパイもあるんだよ?でも明日ね、今日はシン君も疲れてるし、遅くなるから。」

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良妻よろしく気遣いを見せる彼女の言葉に、チェ尚宮も同意して席を外そうとするが、
彼女の分もカップに紅茶を満たすチェギョンに呼び止められ、
空いたソファーに浅く腰を下ろす。
「10日間、仕事は休めるのか?」
今のチェギョンは、博物館の学芸員について仕事を覚えているのだ。

「ウン、大丈夫。大使館からの指示になってるから・・・。」

韓国大使館の紹介で得た今の仕事は、収入こそたいした額ではないが、チェギョンが学んだ美術関連の仕事でもあり、祖国や周辺の国々の歴史や文化を、さらに深く知りたいという今の希望にも適う、良い勉強の場でもあった。

所蔵室の掃除や、収蔵品の簡単な手入れなど、今はまだ責任の重い仕事は出来ないが、チェギョンはこの仕事に生きがいを感じていた。

メールでそんな様子を知らされていたシンは、自分の知らない世界で羽ばたいてゆこうとするチェギョンに、小さな不安も感じていた。

自分も宮殿を出たとして、はたして彼女と同じように、仕事を得て新たな人生を拓いてゆけるだろうか?

愛し合っていることに疑いを持つわけではないが、自分がチェギョンを必要とするほど、チェギョンにとって、自分は必要でないのではないか?

チェギョンの孤独を思いやるだけではなく、そんな不安が、シンを焦らせているのかもしれなかった。



今日は朝から食べ物がのどを通らなかったと言い訳しながら、紅茶をお替りすると、チェギョンは気持ちよいほどの食欲でサンドイッチや焼き菓子を平らげてゆく。

幸せ一杯の顔をして食べ物をほおばりながら、太皇太后や上皇(前皇帝)皇太后(前皇后)女皇帝からはじまって、家族や友人達の近況を尋ねるチェギョンは、一息つくと少しためらって上目遣いに首をかしげた。


「ユル君は・・・どうしてる?」

「お前を心配してた。」


出発の前、シンとユルは久しぶりに、シンの大学にあるカフェで落ち合った。

今回の決意をシンは誰にも話さなかったが、ユルには分かっていたようで、しきりに何か言いかけては口ごもり、最後に「チェギョンと幸せに」と言ったのだった。


「そう・・・おば様はお元気になったのかな・・・?」

元皇太后、ソ・ファヨンは現在、ソウル郊外の親族が所有する別荘で療養しており、野心がついえたことで良心がよみがえったのか、それとも諦念ゆえか、今回の女帝即位の際にも、いまだに彼女の手にある縁故を駆使して追い風を送ってくれた。

「ああ、最近は落ち着かれたようだ。」


シンはチェギョンに事件の真相を明かしてはいなかった。

公式に発表したように、亡き夫の無念の思いに耐えかねた皇太后が発作的に行った放火であり、その後シンにかけられた容疑については彼女を守ろうとする周囲の者の、勝手な策謀だったと説明していた。

彼女はその後、罪の意識に苦しむあまり交通事故を起こしたが、一命をとりとめた・・・と。

シンはチェギョンに先代の悪縁や、彼女の謀略を知らせたくなかったのだ。



お茶がすむとチェ尚宮は下がり、チェギョンは夕日に映えるシンの横顔を見つめて不安な思いを抱いていた。

再会してしばらくは喜びに胸が一杯で気付かなかったが、今日のシンは何かが違う。
半年前に別れた時より一段と大人っぽくなって、素敵になってはいるけれど・・・それだけでは無い。
何かあったのだろうか?
事件の後処理も済んで、女皇帝への譲位もつつがなく行われたと聞くが、なにか問題があるのだろうか?


知りたい・・・けれど知るのが怖い。

もしかして・・・やっぱり・・・廃妃になるとしたら?

どうしよう・・・。


無意識のうちにアルフレッドを胸に抱いて悶々としているうちに、前夜の寝不足がたたったのか、チェギョンは眠りに落ちてしまっていた。

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(画面デザイン Presented by まるごん )

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チェギョンがチェ尚宮と二人マカオに来て、先ず決めたことが3つある。

その1、太陽の出ているうちは泣かない。
その2、電話は週に3回だけ。
その3、食事は日に三食必ず取る。

そして、この決まりの2つ目だけを、チェギョンはシンに告げた。


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とにかく最初の1ヶ月は嵐のように過ぎた。

しなければならないことが山のようにあった上、新しい住まいや仕事に慣れるまでに様々なことがあった。

特にチェギョンには旅行でも海外に出た経験が無い。

大使館からの助力があるとはいえ、初めて韓国をでて外国で生活する事になった二人は、買い物一つにも戸惑うことばかりの毎日に疲れ果て、新しい生活にもそれなりに慣れ、緊張の解けた1ヶ月目にチェギョンとチェ尚宮は相次いで寝込んでしまった。




その1ヶ月のあいだ、ホームシックになる暇も無いほどの忙しさは、チェギョンの、ともすれば崩れ落ちてしまいそうな心を支えてくれはしたが、シンを思い出して涙を流す夜は続いた。

やっと想いの通い合った夫を恋しく想う気持ちだけでなく、窮地に残してきたシンや家族の事が心配で、チェギョンはどんな小さなことでも情報を得ようと懸命だった。

シンや友人からのメールやネットのニュースで、どうやらシンの容疑が晴れた事を知り、胸をなでおろした途端、真犯人としてユルの名が伝えられ、チェギョンはさらに混乱した。

衝撃的な記者会見の後、今度はユルが召喚され聴取を受けていることは新聞でも報道されていたが、その後の捜査については分からないままだった。


シンを陥れようとした人物がユルだとしたら、動機は何なのか?何故その事実を自ら明かしたのか?分からないことや納得できないことが多すぎた。

しかしそれまでの行き掛かり上、詳細をシンに訊ねるのは憚られ、実家の両親やガンヒョン達も報道される以上の事を知るはずも無い。

ユルを問い詰めたい思いで一杯だったが、何度メールを送っても短い謝罪の返信が一度届いたきり、電話に出ることも無かった。


謹慎中の身では、あまり大っぴらに宮内庁や大使館に問い合わせることも出来ず、ネットの掲示板などでは様々な憶測や過激なデマが流され、不安をさらにあおるだけだった。

情報網の発達した現代とはいえ、正確な情報を得るのがいかに困難か、チェギョンはもどかしい思いに悩まされ、ついにパソコンの電源を引き抜いてしまったことすらある。

そんな中で皇太后が交通事故を起こし、死線をさまよったと伝えられ、痺れを切らしたチェギョンは電話でコン内官を問い詰めた。

週に3回だけと決めた貴重な1回を、シンの声を聞かずに切るのは辛い事だったが…。






疲れきって倒れたチェギョンとチェ尚宮の二人が共に健康を取り戻したころ、シンからは事件の終結とその全容を知らせる手紙が届いた。


その手紙にチェギョンは泣いた。

太陽の出ている間は泣かないと決めたのに、ユルや皇太后が気の毒でたまらなかった。

もし自分が同じ立場に立ったら・・・?想像することすら恐ろしい仮定にチェギョンは震えた。

シンを苦しめた張本人だったとしても、宮廷でたった一人のよりどころである夫を喪い、息子と共に居場所を奪われた皇太后の事を憎むことは出来ない。

せめてこれからの人生を、新しく生まれ変わったと考え、幸せになって欲しい・・・と思った。

皇籍から脱し、新しい生活を始めたと告げられたユルに、チェギョンは「これからも友達でいよう」と手紙を書いた。






やがて、少しずつマカオでの生活が日常になって行くうちに、チェギョンの中にも将来の事を考える余裕が出来た。

その頃の韓国では皇太子廃位や皇帝退位などの混乱の真っ只中だったのだが、シンはそのことをチェギョンには知らせなかった。

無言のうちにその意を汲んでか、友人たちの誰も、シンが皇太子を降りたことをチェギョンに知らせるものは無かった。

そのため遠く離れたマカオには伝わらず、チェギョンは平和を取り戻した皇室を喜ぶと共に、自分はこのまま忘れ去られてしまうのではないか?と不安を感じていた。

朝鮮王朝時代とは異なり現代の皇室は一夫一婦制だが、不祥事を起こし長く宮廷を離れている妃が廃妃になっても不思議は無い。

シンが自分を見捨てるはずは無いと信じているからこそ、自分のためにシンが周囲の圧力に苦しみ孤立するのではないかと心配だった。



せめて自分の事では心配をかけないようにしよう。

小包で送られてきた高校の卒業証書を持って、チェギョンは博物館の学芸員見習い職員として正式に就職するため、大使館を訪れた。




そして、いずれ宮中に戻る日のためにお妃教育を続けようとするチェ尚宮に、チェギョンは言った。

「いまの私はただのシン・チェギョンよ、だから今の私に出来ることをすることにしたの。」

「しかし妃殿下・・・。」

「伝統文化を学ぶのは楽しいし、これからの仕事に役立つことがあると思う、でもそれはシン・チェギョンとして学ぶの。」


目を伏せて痛々しげに唇を震わせるチェ尚宮に、チェギョンは笑った。

韓国を出てシンの元を離れて以来、はじめて浮かべた、心からの笑みだった。


「ね?お姉さん。夢は宇宙征服よ!まずは世界一の学芸員かな?」

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まどろみから覚めると、薄暗い室内にベッドサイドのランプが柔らかな陰影を与えていた。

心地よいシーツの感触に頬擦りをしていると、薄く開いたドアの向こうからチェ尚宮の珍しくうろたえた声がした。


「それでは殿下・・・!」


それに答えるシンの声はよく聞こえない。寝ぼけ眼をこすりながらチェギョンはベッドを降り、リビングに出た。


「どうしたの?」


ソファーの背に腰掛けていたシンはチェギョンを振り返ると穏やかな笑みを浮かべた。


「起きたのか」


直立不動でシンに向かい合っていたチェ尚宮の青ざめた顔に気付いて、チェギョンは不安の的中したことを知った。


やっぱり・・・。


「何かあったの?ねぇ、何があったの?」


すがりつくチェギョンの問いにシンは答えず、穏やか過ぎる笑みをうかべて彼女を抱き寄せた。


「満腹になったら眠ってしまうなんて、赤ん坊と同じだな、お前は。」


「シン君!」


諦めようとしないチェギョンに苦笑し、シンは不安げに見上げる彼女の頭から頬を伝うように撫でると抱きしめた。


「話すよ。おいで・・・。」

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(画面デザイン Presented by まるごん )

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