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片翼の青い鳥
It is only a key that I look.

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 僕は、グループセラピーという考えが、まるっきり気に入らなかった。セラピストがそれを提案したとき、養父が断わってくれるのを期待した。けれど、養父は、怒りもおさまっていたらしく、購入したばかりのセスナをもう買い換えることに夢中になっていた。
 僕がこのプランについて話すと、養父は言った。
「もっと良い方法があるわけでもないだろう。まあ、やってみるがいい」
 養父は何か計画しているようだった。けれど、それが何であれ、グループセラピーから逃れさせてくれるものではないようだ。
 セラピストは、僕に心の準備をさせようとした。
「最初は、競争心を感じさせられるかもしれないわ。私の関心をほかの四人と分け合うことになるし、君は一対一の関係に慣れているからね。でも、グループでは君自身の問題を、その子たちとも分かち合うことになるの。やるだけの価値はあるわ」
 一回目の日、相談室に着いても、僕はまだそれが、やるだけの価値があるとは思えなかった。それどころか、酷いことになりそうだ。ほかの子たちが、僕を気に入らなかったら? 変人だとか異常だとか思われたら? みんなは、僕がやっていること……自傷行為に絶対気づかないはずだ。自分は絶対話さないのだから。とにかく、そう心に堅く決めていた。
 だけど、このセラピストは、どうしてこんなことをするんだろう。納得がいかなかった。セラピストは僕を守ってくれるはずだった。いつだって、どんなに僕に信じてもらいたがっているかという話ばかりしていた。もういい。もう一生、このセラピストのことなんか信じてやらない。
「ちょっと早かったね」
 セラピストは、僕を相談室に招き入れると、そう言った。
 実際、かなり早かった。僕は先手を打ちたかった。最初に来ていれば、ほかの子たちが来たとき、うまい具合に一人ずつと会うことができる。自分がグループの輪の中に入っていくのは嫌だった。僕は、部屋の中を見回した。家具が動かされていて、セラピストの机を先頭にして円を描くように並べてあった。そのとき初めて、自分が座る場所を確保しなければいけないことに気がついた。個人セラピーでは、いつもソファが自分の場所だった。だけど、あれは僕だけの場所だったの? 急に、この部屋をたくさんのクライアントが使っていることに思いあたった。多分、ソファの僕の場所を、自分の場所だと思っている患者もいるはずだ。突然、このグループセラピーで自分の場所を主張することは、とても重要なことだと思えた。
 僕は、いろいろな可能性を検討した。セラピストのデスクの前に座れば、ほかの子よりセラピストの注意を集めることができるけれど、ソファの自分の場所を取られてしまう。隅っこの暗いところに座れば、目立たないだろうけれど、セラピストからはよく見えない。
 決めかねているうちに、玄関のブザーが鳴った。
「ゲンです」と、インターフォンの声が言った。僕は、さっとソファに席を占めた。二人の女の子たちと二人の男の子たちが入ってきた。
 ゲンという男の子が、僕にみんなを紹介する役を買って出た。ゲンがどういう理由で助けを必要としているかは、ぱっと見ただけでわかる、と僕は思った。ゲンはデブだった。彼は、ぽっちゃりしているとか、ちょっと太めとか、人々が好意的に表現したいと思う、どんな言い方にも当てはまらなかった。ゲンはデブだ。僕はこれまで、どうしたらステージ映えするだろうか、ということを考えてきていたので、太った人たちに偏見を持っていた。そのことで罪悪感を感じたけれど、どうしようもない。ゲン自身は、こんなにだらしない体型であることを気にしていないようだった。
「この子はユキ」ゲンは、背が高くて、可哀そうなほど痩せている女の子を指して言った。彼女の顔は、げっそり痩せすぎていて、何歳なのか見当もつかなかった。
「ユキとおれは、摂食障害」ゲンが言った。「どっちが拒食症なのか、当てて」
 ユキは僕に、「こんにちは」と言って挨拶をすると、さっと座った。
「リョウは、ファッションセンスが酷すぎるんで、ここに来てるんだよ」ゲンは続けた。「こいつは、この鋲が格好いいって本気で思ってるんだから」
 リョウは僕に中指を立てた。リョウは多分、十五か十六歳だろう。ブラウンの髪はクシャクシャで、ジーンズはわざと左膝のところで切り裂いてあった。
「それから、この子は自分を引っ叩いたり、切ったりするんだ」
 こざっぱりとした青白い顔の少女をゲンは指した。その子は、さっきまで泣いていたかのように、眼のまわりを赤く腫らしていた。僕は、この子がいちばん年下だと思った。僕と同じくらいだと思った。
「それで、おまえの病気は?」と、リョウが言った。
 僕が予想していなかった質問だ。一瞬、気絶するかと思った。
「ぼくは別に……」僕は小声で言った。
「おまえはおれたちみたいに病気じゃないって? いいじゃないか、何でここにいるんだよ」
「やめなさいよ、リョウくん」
 青白い顔の少女の声がした。ゲンは少女に微笑みかけたが、その表情には堅いものがあった。僕は、こんな奴らと何をやってるんだ、とムカムカした。僕はセラピストに眼で必死に訴えようとした。このことは絶対許さないからな、と眼で言った。セラピストは意味がわかったようだ。
「マサヤくんに溶け込んでくれるように頼む前に、慣れる時間を少しあげなくちゃいけないと思うわよ」
 リョウはふくれた。
「おれがやることは、全部間違っているんだな」
「私は、みんながここで居心地よくいられるようにしたいだけよ」セラピストは静かに言った。「非難したんじゃないわ」
「絶対、非難した感じだったよ」
「それで、どんな気持ちがした?」セラピストは、いつも僕の個人セラピーで言っているように訊いた。
 みんなはその質問を、またはそういう質問を待っていたようだ。身を乗り出して、リョウが本当はセラピストじゃなくて、父親に腹を立てたんだと認めるまで、みんなで励ましたり、なだめたりした。これが話の口火を切ったようだ。誰もがそれに関連する出来事や、それに対するコメントをした。お互いに優しくすることもあれば、辛辣になることもあった。特にゲンとリョウは、ほかの子が話すことに乱暴に突っ込みを入れた。
 最初のうち、僕は自分がもう注意を引く存在ではなくなったのが嬉しくて、ゆったりと椅子に腰掛け、ほかの子たちがどうしていようとどうでもよかった。けれど、そのうち、だんだんほかの子たちに注意を払うようになっていった。それが会話と呼べるとしたらだけど、メンバーたちの会話は飛び入り自由といった感じだった。それでも奇妙なルールらしきものはあった。セラピストは、みんなの話が軌道をそれないようにしていた。誰もが正直に話そうとしていて、そのためか次から次へと話がつきなかった。
 青白い顔の少女は、ほかの子の問題については積極的に話すけれど、セラピストを含めて、ほかのメンバーが話題を少女に振ると、黙り込んでしまった。僕が聞いたところでは、彼女の父親はレコード会社の重役で、とても成功しているということだった。母親については、「知らない」と、彼女はばっさり切り捨てた。
「ねえ、あなたの両親のことも話して」と、少女が突然、僕に言ったので、一瞬、たじろいだ。
「ぼくは……みなしごだから……」
 僕の言葉に、みんなどう反応したらよいのか戸惑ったらしく、それをすばやく察知したセラピストが、「マサヤくんの話は、もう少し彼が慣れてからにしましょうね」と言った。
「マサヤくん、ごめんなさい。知らなかったから……」と、少女が僕に言った。
「ううん、気にしないで。だって本当のことなんだから。ねえ、きみの名前、聞かせてくれる?」
 僕は、彼女の症状が僕に似ているような気がして、そんな安心感から思い切って彼女に訊ねてみた。
「マリア……」と、彼女は恥ずかしそうに言った。「変な名前でしょ」
「マリアちゃんって言うんだね。綺麗な名前だね。とっても素敵だよ」
 それが、マリアとの出会いだった。
 見れば、腕には僕と同じような包帯が巻いてあった。彼女も僕と同じだ。
 マリアを守りたい、僕はこのとき、そんなセンチメンタルな心を持った。


Masaya Isemiya
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