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「それで、きみとお父さんとは、どんな具合なの?」 翌日、僕の希望で、特別に面接が設けられ、セラピストは訊ねた。お父さんというのは、養父のことだ。 「今のところ、ぼくを怖がってる」 僕はさらりと言った。セラピストは、僕が人を笑わせたいときにする澄ましたポーカーフェイスな話し方が、堂に入ってきたのに気づいた。僕たちは、ジョーカーの存在を隠し合うトランプゲームをしているような雰囲気になってきたような気がした。 「それはそうよ。度肝を抜かれたのよ」 セラピストが軽く言った。 「ぼく、自分が怖いんだ」 もう、澄ました口調ではなかった。真剣だった。 「そう言ってくれて、うれしいわ」 セラピストも真剣になって答えた。 「今のところは、お父さんもセラピーの費用を払うって言ってるけど、でも、ぼくのことを怖がらなくなってしまったら……。そうしたら、もう、お父さんがお金を出してくれるとは思えないし……」 「マサヤくん、お父さんがこれからどうするかなんて、きみが先回りして考えるのはやめましょう。しばらく、様子を見ようよ。たとえどうなっても、きみとわたしで、どうするか方法を考えていけば……」 「でも、ぼくにセラピーを続けるお金がなかったら……」 「セラピーが必要な患者さんには、費用の相談に応じてくれるようになっているの。心配しなくていいからね」 僕がうなづいた。 「ぼく、お金を稼ぎたいな。そうしたら、気持ちが……」 僕は、禁じられていた言葉を口にしようと、もがいた。 「僕も独立した一人の人間だって、そんな気持ちになれると思う。でしょう?」 セラピストの言葉に僕はうなづいた。僕が独立を勝ち取りたいと願っているのは、養父からであるのは言うまでもない。 「きみは、まだ小学生なのよ。少しずつよ、マサヤくん」と、セラピストは言った。「道のりを少しずつ進んでいくのよ」 「道のりかあ。ぼく、早く大人になりたいな……」 「わたしは、子供になりたい」 セラピストが僕の後を継ぎ、二人は笑った。 「ぼく、よくわからないんだ。ぼくにはもう、ピアノしかないんだ。お父さんが言うとおり、今すぐ必死で練習しないと、もう間に合わないし」 そう言って、ため息をついた。 「間に合わないってどういうこと? 今までどおりの練習でもっと上達すると思うわ。この前のコンクールでも最優秀賞を受賞したんでしょう? この調子でいいじゃない」 「それじゃだめなんだよ。ぼくは少しでも早く、世界で一番うまくならなきゃいけないんだ。それで有名になったら、きっとぼくの本当のお母さんとお父さんは、ぼくを迎えにきてくれるんだ」 「そう……わたしは、きみの味方だからね」 セラピストは、僕がしかめっ面をしているのに気づいた。 「どうしたの? マサヤくん」 「昨日……ぼく、自分を切るのをやめれなかったんだ。やめたかったのに……。もう自分を傷つけたりしなくなるって思えなくて……」 「そう……感情とつながった行為っていうのはね、心の変化より、もっともっとゆっくり変わっていくものなのよ。でもね、変わりはじめているわ……」 僕は、ゆっくりうなづいた。 |
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