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片翼の青い鳥
It is only a key that I look.

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 旅立ちの日は決まった。
 僕はウイーンへ行く。
 みんなで集まったのは、白いテーブルクロスのかかった豪華なレストランではなくて、セラピストの相談室の近くの小さなコーヒーショップだった。
 デコレーションがのった特製ケーキもない。それでもよかった。みんなが集まって、グループのメンバーが揃ったのだから。
 僕はアイを誘って一緒にきた。僕なりの理由があった。マリアをアイに会わせたかった。アイは、すぐに、マリアの心の痛みを見抜くだろう。そうしたらきっと、アイはマリアの心の傷みだけを見つめて優しく微笑みかける。そう、微笑むだけのアイに、僕が救われたように。
 このことは、ルール違反だったかもしれないが、グループのメンバーは、アイを快く迎え入れてくれた。
 アイは、この日、僕の大切な仲間に会えるということをとても楽しみにしていた。そして、マリアのことをとても気にかけていた。実際、アイは、僕がウイーンに行ってもマリアとは友だちになるから大丈夫、と笑ってくれた。
 アイは、手作りのミサンガを用意していて、みんなにプレゼントした。
 いつもは大人ぶってるゲンとリョウも、優しいアイに見惚れて口ごもっている。僕にはそれが可笑しかった。マリアはアイとすぐに仲良くなり、二人はコーンマフィンをオーダーする相談をしている。とても安心した。ユキは、マフィンにロウソクを立てることを提案し、そして火をつけた。
「素敵な毎日であるように、火を吹き消そう」
 セラピストが言う。僕はうなづき、大きく息を吸って、ロウソクの小さな火を吹き消した。けれど、僕はそのとき、素敵な毎日を願って火を吹き消す必要なんてない、って思っていた。なぜなら、今が世界でいちばん素敵な日だと感じているから。
「マサヤ、また会おうな」と、ゲンが言った。
「おれたちのこと、忘れるなよ」と、リョウが言った。
 ユキは、何も言わずにセラピストの手を握って僕を見ている。
 僕は言う。「最後に、みんなで何か歌おうよ」
 一人遊びが得意だった僕。意地を張ることだけが、僕にできる唯一の抵抗だった。
 孤児院では何も口にせず、何度も脱水状態になっては病院に運ばれた。点滴を受けながら、ガラス越しに見える新生児たちを睨んだ幼い日々。
 夕暮れの保育園では、一人、靴下を丸めて壁に蹴り、大声で「ゴール!」と叫び続けた。お迎えは、いつも最後の残りんぼだった。僕を救ってくれた牧師さん、お姉ちゃんともさよならだ。
 事故で走れなくなり、大好きだったサッカーもできなくなった。
 お母さんもお父さんも、とうとう僕を迎えにきてくれなかった。僕のことを「待ちぼうけ」と、からかう連中たちと殴り合った。だけどそのとおり、連中たちの方が正しかった。
 自傷癖は治らず、僕の腕は何十条もの切り傷が刻まれ続けている。
 街を彷徨い、歩き、反抗し、愛を求めて傷つくだけの孤独な日々。何もかもがみじめだった。
 今、僕にあるもの、それはピアノを叩く指先だけだ。ウイーンから戻ってきたら、僕はもうみんなに会えないことを、自分がいちばんよく知っていた。
 養父は、今度は僕をどこへやるのだろうか。
 いつの日からか、僕は笑顔を忘れた。どこへ辿り着けば、僕はうまく笑えるのだろう。
「マサヤくんが歌ってよ」と、アイが言った。
「それがいい!」と、マリアも言った。
 コーヒーショップの窓際の壁に寄せて、アップライトのピアノが置いてあった。セラピストがそれを指差し、「どうぞ!」と、僕を冷やかす。
「へっへっへ。ぼくの歌は高いですよ。でも、今日はとくべつだからタダでいいよ。何がいい?」と、僕はおどけながらみんなを見た。
「よーし、じゃあ、ぼくの得意な歌をうたうね」








Masaya Isemiya
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