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僕は、孤児院で覚えた歌を、ピアノを叩きながら一生懸命に歌った。 みんな泣いていた。 僕も泣いていた。 涙は、溶ける塊の氷だ。 塊とは誇りだ。 僕は、決して泣いちゃいけない人間なんだ。 だけど、涙が頬を伝う。 ほかのお客さんたちが、大人たちが、小さな僕たちを嘲笑っていた。 僕たちは、いらない人間みたいだ。 大人たちはよく笑う。 どうしてそんなに笑えるのだろうと思っていた。 大人になるってことは、うまく他人を笑えるようになるってことなんだろうか。 僕たちは泣いてばかりだ。 だけど、負けたくないって思った。 店の片隅で泣いている僕たちが、例えば、もし、この世界からいなくなったとしても、そう、何も変わらず、時は穏やかに、誰もに等しく流れてゆくのだろう。 この世界の誰かを傷つけることもなく、ただ、僕たちの心は置き去りに。 足早に過ぎゆく大人たちの世界の中では、僕たちの存在は、こんなにもちっぽけで、そして、こんなにも無力だ。 この街で暮らす人たちと同じように、寂しいときに泣くだけで、僕たちは笑われる。 一人、サッカーボールを抱えて公園に行くだけで、僕はみんなに笑われた。 事故で走れなくなった僕は、順番待ちをしていても、いつもみんなに先を越され、結局、すべり台にもブランコにも乗ることができなかった。 たくさんの友だちと走り回って遊ぶみんなが羨ましかった。 夕暮れに綴れ織られる痩せっぽちな影の中を、足を引きずりながら歩いて帰る一人きりの坂道。 どうして僕なんだろう。 一度うつむくと、二度と顔を上げられなくなった。 だけど、それも僕だけじゃないよね。わかっているさ。 最後に僕は言った。 「みんなさよなら。ぼく、ウイーンで頑張って、もっともっとピアノうまくなってみせるよ。それでそうさ、うん。そしたら、またこの歌をうたうよ。ぼくは、寂しい人たちのために歌いたい」 アイが立ち上がり、僕に抱きついた。 だけど、ゲンもリョウも茶化さなかった。 ユキちゃんは、セラピストの胸に顔をうずめていた。 マリアは、僕をじっと見ていた。 心に傷を持つ者は、他人の傷跡を見て嘲笑うことはない。 「アイちゃん。必ず迎えにくるから、待ってて」アイに抱きしめられたまま、僕は言った。「約束だよ」 人は、出会いと別れを繰り返し、生きてゆく。 みんなで分け合ったコーンマフィンは、涙の味がした。 誇り高くあること。 それが、この滅びの男を光に向かって歩ませる唯一の力。 僕は知っている。 一滴の水を乞うたとき、そのとき僕は、笑われる僕を認めることになる。 それだけは絶対に嫌だ。 そうしたら僕は、生まれた意味を諦めることになる。 だって、生きることは、自立することなんだから。 絶望の深海の淵にいても、僕は誇り高くなくちゃならない。 そう、誇りを失うとき、そのときこそが、この滅びの男の死すときなのだ。 どれだけ傷つけば、人は幸せになれるのだろう。 それぞれが、それぞれの理由の中で暮らしている。 誰もが皆、いつかはきっと、心安らげる場所へ辿り着けると信じて歩き続けるしかないんだ。 寂しい君も、そしてこの僕も。 だから歩いていこう。 笑われたって大丈夫さ、きっとうまくいく。 僕は、そう信じているから。 |
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