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君と触れ合うそのたびに、愛と欲望は同じやりかたで表現されるという不幸を意識してしまうから、いつも君を両腕に抱きしめる前にその愛の破綻を想ってしまう。 永遠とか優しさだとかは、いまだ希望に生きている人にしか抱かれないものだろう。 だから、君を身近に抱き寄せたために、その輪郭がおぼろげになった顔の中で、それまでは絵に描いた花のように動かなかった口唇が熱を帯び、優しく僕の方に差し出されても、心は寂しくなるばかりなんだ。 素顔の夜が泣いている。 何かが硝子窓の向こうで、ほどけようとしているみたいさ。 君の秘めやかな口唇の上に、セレナードに満たされた夜の、親しみ深い束の間の相貌を僕は見つめている。 世界の上に零されたミルクのようなこの夜の中で、ざわめきはより広く、より澄んで響いている。 雨は、ただ、夜が静寂の煌きの中で光り輝くことに疲れて、まるで雲の裏地を忘れたみたいに泣いている涙のようさ。 そんな雨音が、路上の疲れた心たちに降り注いでいる。 愛にも、そして欲望にさえも平等に。 路上の小石が濡れそぼってゆく。 雨音は、題名のない調べを奏でながら、小石を冷やしてゆく。 いつかまた、小石は太陽に焼かれるだろう。 僕にはいつも、幸せとは、まさしくこんなものなんだという気がしているんだ。 幸せは、足元にたくさん転がっているものの中にある。 手の届かないものに幸せなんてあるわけないってこと、本当はみんな気づいている。 涙は軽々と舞い落ちてゆくものだから、瞳を閉じなくてもいいんだよ。
いつか君も答は育むものだと気づくだろう。
僕は、それを歌い、今夜も誰かを傷つける。それは、僕が寂しいからだ。 告白とは罪なりや。 孤独とは、世界で最も恐ろしい病なんだ。 |
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