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			<title>片翼の青い鳥</title>
			<description>[[img(http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/masaya1.JPG)]]

      
幼い頃の晴朗な笑いと悲傷の日々
愛を求めてさまよい 傷ついてゆくだけの心
ねえ 何を話せばいい
この世界では 信じようとすることも 疑うことも苦しいのだから
だけど そうだね おかしいのはきっと僕の方なんだ
忘れたはずの歌が聴こえてくる
街に降り注ぐ足音のように



[[embed(http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/icarus671227.barcarolle.mp4,3,1,1)]]

ソナタ悲愴　　http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/masayaisemiya.live.mp4
練習曲op10    　http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/chopin.op10.mp4
愛の夢　　　   　http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/masaya_isemiya.liszt.mp4
幻想即興曲 　http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.chopin.mp4
片翼の青い鳥 http://1st.geocities.jp/isemiyamasaya/FULL1.mp3</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227</link>
			<language>ja</language>
			<copyright>Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.</copyright>
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			<title>片翼の青い鳥</title>
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幼い頃の晴朗な笑いと悲傷の日々
愛を求めてさまよい 傷ついてゆくだけの心
ねえ 何を話せばいい
この世界では 信じようとすることも 疑うことも苦しいのだから
だけど そうだね おかしいのはきっと僕の方なんだ
忘れたはずの歌が聴こえてくる
街に降り注ぐ足音のように



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ソナタ悲愴　　http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/masayaisemiya.live.mp4
練習曲op10    　http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/chopin.op10.mp4
愛の夢　　　   　http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/masaya_isemiya.liszt.mp4
幻想即興曲 　http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.chopin.mp4
片翼の青い鳥 http://1st.geocities.jp/isemiyamasaya/FULL1.mp3</description>
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		<item>
			<title>素顔の愛　-116-　告白</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/36/68405536/img_1_m?1532454553&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_353_291&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　君と触れ合うそのたびに、愛と欲望は同じやりかたで表現されるという不幸を意識してしまうから、いつも君を両腕に抱きしめる前にその愛の破綻を想ってしまう。&lt;br /&gt;
　永遠とか優しさだとかは、いまだ希望に生きている人にしか抱かれないものだろう。&lt;br /&gt;
　だから、君を身近に抱き寄せたために、その輪郭がおぼろげになった顔の中で、それまでは絵に描いた花のように動かなかった口唇が熱を帯び、優しく僕の方に差し出されても、心は寂しくなるばかりなんだ。&lt;br /&gt;
　素顔の夜が泣いている。&lt;br /&gt;
　何かが硝子窓の向こうで、ほどけようとしているみたいさ。&lt;br /&gt;
　君の秘めやかな口唇の上に、セレナードに満たされた夜の、親しみ深い束の間の相貌を僕は見つめている。&lt;br /&gt;
　世界の上に零されたミルクのようなこの夜の中で、ざわめきはより広く、より澄んで響いている。&lt;br /&gt;
　雨は、ただ、夜が静寂の煌きの中で光り輝くことに疲れて、まるで雲の裏地を忘れたみたいに泣いている涙のようさ。&lt;br /&gt;
　そんな雨音が、路上の疲れた心たちに降り注いでいる。&lt;br /&gt;
　愛にも、そして欲望にさえも平等に。&lt;br /&gt;
　路上の小石が濡れそぼってゆく。&lt;br /&gt;
　雨音は、題名のない調べを奏でながら、小石を冷やしてゆく。&lt;br /&gt;
　いつかまた、小石は太陽に焼かれるだろう。&lt;br /&gt;
　僕にはいつも、幸せとは、まさしくこんなものなんだという気がしているんだ。&lt;br /&gt;
　幸せは、足元にたくさん転がっているものの中にある。&lt;br /&gt;
　手の届かないものに幸せなんてあるわけないってこと、本当はみんな気づいている。&lt;br /&gt;
　涙は軽々と舞い落ちてゆくものだから、瞳を閉じなくてもいいんだよ。&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;indent&#039;&gt;
いつか君も答は育むものだと気づくだろう。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;
　僕は、それを歌い、今夜も誰かを傷つける。&lt;br /&gt;
　それは、僕が寂しいからだ。&lt;br /&gt;
　告白とは罪なりや。&lt;br /&gt;
　孤独とは、世界で最も恐ろしい病なんだ。&lt;br /&gt;
　　&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/pianoman.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/masayaisemiya1/pianoman.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68405536.html</link>
			<pubDate>Sun, 12 Feb 2017 18:34:12 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-115-　君の住む街角</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/18/68333818/img_0_m?1486889372&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_427_640&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;君が住む街角を僕は歩いている。&lt;br /&gt;
誰もが雨を滴らせて歩いていた。&lt;br /&gt;
どこもかしこも水浸しだった。&lt;br /&gt;
道路を挟んだ向こう側に、雨の中に捨てられた子猫を抱いている少女たちが見えた。&lt;br /&gt;
みんなで囲んで、子猫を誰が持って帰るかを話し合っている様子だった。&lt;br /&gt;
少女たちは、しきりに「かわいそう」と言って、子猫の頭を撫でている。&lt;br /&gt;
だけど、僕の目には子猫がどうしても その少女たちの手を逃れようとしているみたいに見えてならなかった。&lt;br /&gt;
誰も誰一人として、誰かを背負って生きるなんてできないのだから。&lt;br /&gt;
少女に抱えられた子猫は、ずぶ濡れになった頭を激しく振って水を飛ばした。&lt;br /&gt;
びっくりした少女の手から放り投げられた子猫は、人混みの中を母猫を探すように泣きながら歩いてゆく。&lt;br /&gt;
子猫を追いかける少女たちは、何だか残酷に見えた。&lt;br /&gt;
そして、それを黙って見ている自分が一番汚く思えた。&lt;br /&gt;
張り詰めた心を、ほんの少しだけ許してしまったように泣いてしまうことが唯一の幸せのように感じるのが何だかおかしくて、溢れそうになる涙をこらえながら、誰とも話したくないと思った。&lt;br /&gt;
この雨のように、ただ、黙ってこんな気持ちの雨を降らしたいって思った。&lt;br /&gt;
そして、誰もが優しい雨の中を歩いてゆけたら。&lt;br /&gt;
そう思ったんだ。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/icarus671227.barcarolle.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/icarus671227.barcarolle.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68333818.html</link>
			<pubDate>Sun, 27 Nov 2016 19:26:27 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-114-　大好きな君のために</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/45/68332845/img_0_m?1486889342&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_400_300&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;大好きな君のために&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　君のことを想うだけで、心がとても優しくなるんだ。本当さ。&lt;br /&gt;
　この世界では、もう僕は自意識に苦しむことも、失った何かを取り戻そうと苛立つこともない。&lt;br /&gt;
　ピアノの鍵盤の上で、僕の指先と踊っている旋律は、君さ。&lt;br /&gt;
　どうか耳を澄ませて。&lt;br /&gt;
　今、僕の心にあるものを、そのまま君の心に移せたらと思う。&lt;br /&gt;
　だって僕は、君が笑み輝くことだけを考えているんだ。&lt;br /&gt;
　ねえ、何を話せばいい？&lt;br /&gt;
　やがて僕たちは疲弊してしまうだろう。&lt;br /&gt;
　何もやり遂げないうちに。&lt;br /&gt;
　だけど僕は、君のことがとても好きさ。&lt;br /&gt;
　ひどくやられてしまった今の僕にできること。&lt;br /&gt;
　それは、君のためにピアノを叩いて、そして、君が優しく微笑んでくれる。&lt;br /&gt;
　それだけなんだ。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.debussy.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.debussy.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68332845.html</link>
			<pubDate>Sat, 26 Nov 2016 20:25:38 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-113-　心安らげる場所へと</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/07/68293907/img_0_m?1519165414&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_160_213&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　僕は、孤児院で覚えた歌を、ピアノを叩きながら一生懸命に歌った。&lt;br /&gt;
　みんな泣いていた。&lt;br /&gt;
　僕も泣いていた。&lt;br /&gt;
　涙は、溶ける塊の氷だ。&lt;br /&gt;
　塊とは誇りだ。&lt;br /&gt;
　僕は、決して泣いちゃいけない人間なんだ。&lt;br /&gt;
　だけど、涙が頬を伝う。&lt;br /&gt;
　ほかのお客さんたちが、大人たちが、小さな僕たちを嘲笑っていた。&lt;br /&gt;
　僕たちは、いらない人間みたいだ。&lt;br /&gt;
　大人たちはよく笑う。&lt;br /&gt;
　どうしてそんなに笑えるのだろうと思っていた。&lt;br /&gt;
　大人になるってことは、うまく他人を笑えるようになるってことなんだろうか。&lt;br /&gt;
　僕たちは泣いてばかりだ。&lt;br /&gt;
　だけど、負けたくないって思った。&lt;br /&gt;
　店の片隅で泣いている僕たちが、例えば、もし、この世界からいなくなったとしても、そう、何も変わらず、時は穏やかに、誰もに等しく流れてゆくのだろう。&lt;br /&gt;
　この世界の誰かを傷つけることもなく、ただ、僕たちの心は置き去りに。&lt;br /&gt;
　足早に過ぎゆく大人たちの世界の中では、僕たちの存在は、こんなにもちっぽけで、そして、こんなにも無力だ。&lt;br /&gt;
　この街で暮らす人たちと同じように、寂しいときに泣くだけで、僕たちは笑われる。&lt;br /&gt;
　一人、サッカーボールを抱えて公園に行くだけで、僕はみんなに笑われた。&lt;br /&gt;
　事故で走れなくなった僕は、順番待ちをしていても、いつもみんなに先を越され、結局、すべり台にもブランコにも乗ることができなかった。&lt;br /&gt;
　たくさんの友だちと走り回って遊ぶみんなが羨ましかった。&lt;br /&gt;
　夕暮れに綴れ織られる痩せっぽちな影の中を、足を引きずりながら歩いて帰る一人きりの坂道。&lt;br /&gt;
　どうして僕なんだろう。&lt;br /&gt;
　一度うつむくと、二度と顔を上げられなくなった。&lt;br /&gt;
　だけど、それも僕だけじゃないよね。わかっているさ。&lt;br /&gt;
　最後に僕は言った。&lt;br /&gt;
「みんなさよなら。ぼく、ウイーンで頑張って、もっともっとピアノうまくなってみせるよ。それでそうさ、うん。そしたら、またこの歌をうたうよ。ぼくは、寂しい人たちのために歌いたい」&lt;br /&gt;
　アイが立ち上がり、僕に抱きついた。&lt;br /&gt;
　だけど、ゲンもリョウも茶化さなかった。&lt;br /&gt;
　ユキちゃんは、セラピストの胸に顔をうずめていた。&lt;br /&gt;
　マリアは、僕をじっと見ていた。&lt;br /&gt;
　心に傷を持つ者は、他人の傷跡を見て嘲笑うことはない。&lt;br /&gt;
「アイちゃん。必ず迎えにくるから、待ってて」アイに抱きしめられたまま、僕は言った。「約束だよ」&lt;br /&gt;
　人は、出会いと別れを繰り返し、生きてゆく。&lt;br /&gt;
　みんなで分け合ったコーンマフィンは、涙の味がした。&lt;br /&gt;
　誇り高くあること。&lt;br /&gt;
　それが、この滅びの男を光に向かって歩ませる唯一の力。&lt;br /&gt;
　僕は知っている。&lt;br /&gt;
　一滴の水を乞うたとき、そのとき僕は、笑われる僕を認めることになる。&lt;br /&gt;
　それだけは絶対に嫌だ。&lt;br /&gt;
　そうしたら僕は、生まれた意味を諦めることになる。&lt;br /&gt;
　だって、生きることは、自立することなんだから。&lt;br /&gt;
　絶望の深海の淵にいても、僕は誇り高くなくちゃならない。&lt;br /&gt;
　そう、誇りを失うとき、そのときこそが、この滅びの男の死すときなのだ。&lt;br /&gt;
　どれだけ傷つけば、人は幸せになれるのだろう。&lt;br /&gt;
　それぞれが、それぞれの理由の中で暮らしている。&lt;br /&gt;
　誰もが皆、いつかはきっと、心安らげる場所へ辿り着けると信じて歩き続けるしかないんだ。&lt;br /&gt;
　寂しい君も、そしてこの僕も。&lt;br /&gt;
　だから歩いていこう。&lt;br /&gt;
　笑われたって大丈夫さ、きっとうまくいく。&lt;br /&gt;
　僕は、そう信じているから。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/isemiyamasaya/091106_173916.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/isemiyamasaya/091106_173916.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68293907.html</link>
			<pubDate>Wed, 19 Oct 2016 16:46:32 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-112-　寂しい人たちのために</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/53/68293753/img_0_m?1476847709&quot; width=&quot;560&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_1920_1049&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　旅立ちの日は決まった。&lt;br /&gt;
　僕はウイーンへ行く。&lt;br /&gt;
　みんなで集まったのは、白いテーブルクロスのかかった豪華なレストランではなくて、セラピストの相談室の近くの小さなコーヒーショップだった。&lt;br /&gt;
　デコレーションがのった特製ケーキもない。それでもよかった。みんなが集まって、グループのメンバーが揃ったのだから。&lt;br /&gt;
　僕はアイを誘って一緒にきた。僕なりの理由があった。マリアをアイに会わせたかった。アイは、すぐに、マリアの心の痛みを見抜くだろう。そうしたらきっと、アイはマリアの心の傷みだけを見つめて優しく微笑みかける。そう、微笑むだけのアイに、僕が救われたように。&lt;br /&gt;
　このことは、ルール違反だったかもしれないが、グループのメンバーは、アイを快く迎え入れてくれた。&lt;br /&gt;
　アイは、この日、僕の大切な仲間に会えるということをとても楽しみにしていた。そして、マリアのことをとても気にかけていた。実際、アイは、僕がウイーンに行ってもマリアとは友だちになるから大丈夫、と笑ってくれた。&lt;br /&gt;
　アイは、手作りのミサンガを用意していて、みんなにプレゼントした。&lt;br /&gt;
　いつもは大人ぶってるゲンとリョウも、優しいアイに見惚れて口ごもっている。僕にはそれが可笑しかった。マリアはアイとすぐに仲良くなり、二人はコーンマフィンをオーダーする相談をしている。とても安心した。ユキは、マフィンにロウソクを立てることを提案し、そして火をつけた。&lt;br /&gt;
「素敵な毎日であるように、火を吹き消そう」&lt;br /&gt;
　セラピストが言う。僕はうなづき、大きく息を吸って、ロウソクの小さな火を吹き消した。けれど、僕はそのとき、素敵な毎日を願って火を吹き消す必要なんてない、って思っていた。なぜなら、今が世界でいちばん素敵な日だと感じているから。&lt;br /&gt;
「マサヤ、また会おうな」と、ゲンが言った。&lt;br /&gt;
「おれたちのこと、忘れるなよ」と、リョウが言った。&lt;br /&gt;
　ユキは、何も言わずにセラピストの手を握って僕を見ている。&lt;br /&gt;
　僕は言う。「最後に、みんなで何か歌おうよ」&lt;br /&gt;
　一人遊びが得意だった僕。意地を張ることだけが、僕にできる唯一の抵抗だった。&lt;br /&gt;
　孤児院では何も口にせず、何度も脱水状態になっては病院に運ばれた。点滴を受けながら、ガラス越しに見える新生児たちを睨んだ幼い日々。&lt;br /&gt;
　夕暮れの保育園では、一人、靴下を丸めて壁に蹴り、大声で「ゴール！」と叫び続けた。お迎えは、いつも最後の残りんぼだった。僕を救ってくれた牧師さん、お姉ちゃんともさよならだ。&lt;br /&gt;
　事故で走れなくなり、大好きだったサッカーもできなくなった。&lt;br /&gt;
　お母さんもお父さんも、とうとう僕を迎えにきてくれなかった。僕のことを「待ちぼうけ」と、からかう連中たちと殴り合った。だけどそのとおり、連中たちの方が正しかった。&lt;br /&gt;
　自傷癖は治らず、僕の腕は何十条もの切り傷が刻まれ続けている。&lt;br /&gt;
　街を彷徨い、歩き、反抗し、愛を求めて傷つくだけの孤独な日々。何もかもがみじめだった。&lt;br /&gt;
　今、僕にあるもの、それはピアノを叩く指先だけだ。ウイーンから戻ってきたら、僕はもうみんなに会えないことを、自分がいちばんよく知っていた。&lt;br /&gt;
　養父は、今度は僕をどこへやるのだろうか。&lt;br /&gt;
　いつの日からか、僕は笑顔を忘れた。どこへ辿り着けば、僕はうまく笑えるのだろう。&lt;br /&gt;
「マサヤくんが歌ってよ」と、アイが言った。&lt;br /&gt;
「それがいい！」と、マリアも言った。&lt;br /&gt;
　コーヒーショップの窓際の壁に寄せて、アップライトのピアノが置いてあった。セラピストがそれを指差し、「どうぞ！」と、僕を冷やかす。&lt;br /&gt;
「へっへっへ。ぼくの歌は高いですよ。でも、今日はとくべつだからタダでいいよ。何がいい？」と、僕はおどけながらみんなを見た。&lt;br /&gt;
「よーし、じゃあ、ぼくの得意な歌をうたうね」&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.awake.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.awake.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68293753.html</link>
			<pubDate>Wed, 19 Oct 2016 12:28:29 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-111-　遠い道のり</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/16/68292516/img_0_m?1476748601&quot; width=&quot;560&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_1576_1050&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;「それで、きみとお父さんとは、どんな具合なの？」&lt;br /&gt;
　翌日、僕の希望で、特別に面接が設けられ、セラピストは訊ねた。お父さんというのは、養父のことだ。&lt;br /&gt;
「今のところ、ぼくを怖がってる」&lt;br /&gt;
　僕はさらりと言った。セラピストは、僕が人を笑わせたいときにする澄ましたポーカーフェイスな話し方が、堂に入ってきたのに気づいた。僕たちは、ジョーカーの存在を隠し合うトランプゲームをしているような雰囲気になってきたような気がした。&lt;br /&gt;
「それはそうよ。度肝を抜かれたのよ」&lt;br /&gt;
　セラピストが軽く言った。&lt;br /&gt;
「ぼく、自分が怖いんだ」&lt;br /&gt;
　もう、澄ました口調ではなかった。真剣だった。&lt;br /&gt;
「そう言ってくれて、うれしいわ」&lt;br /&gt;
　セラピストも真剣になって答えた。&lt;br /&gt;
「今のところは、お父さんもセラピーの費用を払うって言ってるけど、でも、ぼくのことを怖がらなくなってしまったら……。そうしたら、もう、お父さんがお金を出してくれるとは思えないし……」&lt;br /&gt;
「マサヤくん、お父さんがこれからどうするかなんて、きみが先回りして考えるのはやめましょう。しばらく、様子を見ようよ。たとえどうなっても、きみとわたしで、どうするか方法を考えていけば……」&lt;br /&gt;
「でも、ぼくにセラピーを続けるお金がなかったら……」&lt;br /&gt;
「セラピーが必要な患者さんには、費用の相談に応じてくれるようになっているの。心配しなくていいからね」&lt;br /&gt;
　僕がうなづいた。&lt;br /&gt;
「ぼく、お金を稼ぎたいな。そうしたら、気持ちが……」&lt;br /&gt;
　僕は、禁じられていた言葉を口にしようと、もがいた。&lt;br /&gt;
「僕も独立した一人の人間だって、そんな気持ちになれると思う。でしょう？」&lt;br /&gt;
　セラピストの言葉に僕はうなづいた。僕が独立を勝ち取りたいと願っているのは、養父からであるのは言うまでもない。&lt;br /&gt;
「きみは、まだ小学生なのよ。少しずつよ、マサヤくん」と、セラピストは言った。「道のりを少しずつ進んでいくのよ」&lt;br /&gt;
「道のりかあ。ぼく、早く大人になりたいな……」&lt;br /&gt;
「わたしは、子供になりたい」&lt;br /&gt;
　セラピストが僕の後を継ぎ、二人は笑った。&lt;br /&gt;
「ぼく、よくわからないんだ。ぼくにはもう、ピアノしかないんだ。お父さんが言うとおり、今すぐ必死で練習しないと、もう間に合わないし」&lt;br /&gt;
　そう言って、ため息をついた。&lt;br /&gt;
「間に合わないってどういうこと？　今までどおりの練習でもっと上達すると思うわ。この前のコンクールでも最優秀賞を受賞したんでしょう？　この調子でいいじゃない」&lt;br /&gt;
「それじゃだめなんだよ。ぼくは少しでも早く、世界で一番うまくならなきゃいけないんだ。それで有名になったら、きっとぼくの本当のお母さんとお父さんは、ぼくを迎えにきてくれるんだ」&lt;br /&gt;
「そう……わたしは、きみの味方だからね」&lt;br /&gt;
　セラピストは、僕がしかめっ面をしているのに気づいた。&lt;br /&gt;
「どうしたの？　マサヤくん」&lt;br /&gt;
「昨日……ぼく、自分を切るのをやめれなかったんだ。やめたかったのに……。もう自分を傷つけたりしなくなるって思えなくて……」&lt;br /&gt;
「そう……感情とつながった行為っていうのはね、心の変化より、もっともっとゆっくり変わっていくものなのよ。でもね、変わりはじめているわ……」&lt;br /&gt;
　僕は、ゆっくりうなづいた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.nocturne.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.nocturne.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68292516.html</link>
			<pubDate>Tue, 18 Oct 2016 08:56:41 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-110-　一枚の写真</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/45/68291345/img_0_m?1476662732&quot; width=&quot;560&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_960_320&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　一枚の写真がある。&lt;br /&gt;
　小学三年生の時の僕。&lt;br /&gt;
　一人、サッカーボールを抱えて公園へ走った。&lt;br /&gt;
　すべり台にもブランコにも乗れなかった。&lt;br /&gt;
　友だちが欲しかった。&lt;br /&gt;
　振り返れば、いつも僕は一人だった。&lt;br /&gt;
　僕は、黄昏が嫌いだった。&lt;br /&gt;
　それから、養父のことも……&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　グループセラピーは、僕を慰めた。&lt;br /&gt;
　最初、グループのメンバーは僕を怖がらせたけれど、回数を重ねるごとに、グループの誰よりもずっと強く、次回を楽しみにしていた。それに実際、僕たちは正直でいようと一生懸命頑張っていた。おかげで、グループは安全な場所という気がした。例え、残酷なほど正直に話をすることがあっても。&lt;br /&gt;
　僕は、まだ自分の怒りと向き合うのに苦労している。けれど、グループのほかのメンバーたちと、好ましくて強い絆を結びつつあるようだ。&lt;br /&gt;
　学校では、自分がひとりぼっちであることに、ひどく傷つき、肉体的な苦痛を感じるほどだった。給食のあとの大休憩のときにも、誰かと遊んだり、話したりすることはなかった。一人で読書をして過ごす習慣がついた。&lt;br /&gt;
　自傷することはなくなっていた。初めてのグループセラピー以後、“真っ白”は現れることがなく、そして、ピアノコンクールは、無事に終わった。&lt;br /&gt;
　ただ、僕が最優秀賞を受賞したことで、その日を境に僕の病を機に距離を置いていたはずの養父が、僕の進路についての持論を展開することが多くなった。&lt;br /&gt;
　夏のある日、自宅のプールで泳いでいる僕のそばに、養父がやってきた。そのことに気づかなかったのは、僕の注意不足だった。僕は素早くプールから出て、プールサイドのシャツを手にしようとしたが、時すでに遅く、何条もの自傷した傷だらけの腕を、養父の目の前に晒すことになった。&lt;br /&gt;
「今の学校の誰もが、おまえのその事を知っている。あのセラピストも気に入らない」&lt;br /&gt;
　養父は、腕をピタリと身体に押し付けて立つ僕に、シャツを差し出しながら言った。&lt;br /&gt;
「セラピーに行かなくちゃいけないって、学校は言ってるんだよ」&lt;br /&gt;
　僕は、びくびくしながら言った。セラピーをやめるという話は、口にしただけで不安になる。僕は養父を見た。驚いたことに、養父は怒っていなくて微笑んでいた。&lt;br /&gt;
「マサヤ、ずっと考えていたことがあるんだ。誕生日まで言わないつもりだったが、びっくりさせることなんだ。だが、もうこうなったんだし……」&lt;br /&gt;
　そう言って、いったん言葉を切った。養父は目を輝かせた。僕は、こんな嬉しそうな養父を見たことがないと思った。&lt;br /&gt;
「もう、学校へ行かなくていいって言ったら、どうする？　ウィーンに留学させるって言ったら？」&lt;br /&gt;
「ウィーン？　どこなの、そこ」&lt;br /&gt;
「オーストリアだ。十二週間だがね。講師はウィーン国立音楽大学の教授だ」&lt;br /&gt;
「ちょっと待ってよ。大学って、ぼく、まだ小学生だよ」&lt;br /&gt;
「教授といっても、元教授だ。大学に入るんじゃなくて、ピアノ留学だ」&lt;br /&gt;
　早回しされたビデオのストーリーに、必死でついていこうとしているような気がした。展開があまりに速くて、何が起こっているのかついていけない。&lt;br /&gt;
「どうして、そんなことするの？」&lt;br /&gt;
「おまえの将来のためだ。新しくやり直したいと思わないのか？　おまえが学校でどんな目にあっているのか知らないわけじゃない。あんなひどい学校はやめようって言っているんだ」&lt;br /&gt;
「ぼく、両立できるよ。学校を続けながら、ピアノだってできるよ」&lt;br /&gt;
　僕は必死で言った。&lt;br /&gt;
「学校は、あれこれといろんなことを言ってくる。おまえを困らせる。こっちから追い払ってやればいい」&lt;br /&gt;
　それでも、僕は学校をやめるわけにはいかなかった。養父が追い払いたがっているのは、セラピーへ行くようにという学校の圧力にほかならないのだから。&lt;br /&gt;
「セラピーはどうなるの？」&lt;br /&gt;
「あんなのに関わってる暇などない」&lt;br /&gt;
　そんなこと、あってはならない。そんなことにはさせたくない。&lt;br /&gt;
「でも、ぼくにはセラピーが必要なんだ」&lt;br /&gt;
「ばかばかしい。ウィーンに行ってピアノに集中しなくてはならないんだ。真面目な話なんだぞ、マサヤ」&lt;br /&gt;
「でも、ぼくのセラピーだって、真面目な話さ」&lt;br /&gt;
「セラピーなど無駄だ！」&lt;br /&gt;
　養父の顔からは、もう楽しそうな表情は消えていた。そして、それは僕のせいだ。&lt;br /&gt;
「どうしようって言うんだ？」&lt;br /&gt;
　養父が叫んだ。怒るというよりも、むしろ絶望していた。&lt;br /&gt;
「このチャンスを無駄にしたいのか？」&lt;br /&gt;
「違うよ。でも、ぼくには助けが必要なんだ」&lt;br /&gt;
「なぜだ？　医者が言ったからか？　学校が言ったからか？　私の言うことより、そっちの話を信用するのか。おまえは父親より、そっちの方が大事なのか？」&lt;br /&gt;
　何もかもがぼんやりしてきた。セラピストの相談室にいるときは、自分が何者で、何を必要としているのかわかる。どんな気持ちなのかもはっきりしている。でも、今、感じられるのは養父の怒りだけだった。そして、その下に隠された見栄と。&lt;br /&gt;
　もやが覆いかぶさってきた。セラピストの相談室にいるときの感覚を思い出さなきゃ、僕は自分に言い聞かせた。&lt;br /&gt;
「おまえは、時々、感情に流されてしまうんだ」養父は優しくあやすような口調で続ける。「それも、おまえが何でも深く感じとるからなんだ。学校は、おまえからそういう感受性を取り上げたいんだ。だから、セラピストのところへ行かせたがるんだ。おまえをほかの子みたいにしたいからだ。だけど、私はそんなことをさせない」&lt;br /&gt;
　用意周到なセリフに違いなかった。全部、嘘っぱちに決まってる。すべては養父自身のプライドのためだ。養父が僕のことを“鍵盤”って呼んでることを僕は知っている。くっきりとした澄んだ気持ちを保っているのは、とても難しかった。もやの中に潜り込んでしまう方が、ずっと簡単だった。特に、こうして頭がぼんやりして、辺りがチカチカ光り出すと。&lt;br /&gt;
「信じるんだ、マサヤ。信じてくれるな？」養父が言っている。&lt;br /&gt;
　僕は、「はい」と言おうとした。養父と衝突するのはやめ、「わかった」と言おうとした。&lt;br /&gt;
　けれど、僕はそうしなかった。かわりに胸に抱いていたシャツをプールサイドに落とし、キッチンに向かう僕を見ていた。&lt;br /&gt;
「マサヤ、どこに行くんだ、何をする？」養父が訊いた。&lt;br /&gt;
「何もしないよ」&lt;br /&gt;
　けれど、僕は何か始めていた。包丁がかけてあるカウンターのところへ行った。養父が僕を追いかけてきた。養父の顔は、遠くにぼやけていた。&lt;br /&gt;
「マサヤ、何しているんだ？」&lt;br /&gt;
　どんどん遠ざかっていく養父が、彼方から呼びかけた。&lt;br /&gt;
　包丁は、どれも僕のハサミよりずっと大きかった。いちばん小さい包丁でも、ハサミより大きかった。けれど、それでも構わない。ちゃんと扱える。僕はフックから包丁を抜き出した。&lt;br /&gt;
「マサヤ？」養父の声は、もう遥か遠くになっていた。けれど、養父がパニックに陥っているのが聞き取れないほど遠くではなかった。&lt;br /&gt;
　僕は養父に見えるように、腕を上げた。包丁をゆっくりと慎重に持ち上げた。養父が息をのむのを聞いた。僕は強く切った。今回は小さな傷ではない。すぐに血が噴き出した。真っ赤な血が。養父が悲鳴を上げた。僕はもう一度、腕に刃を立てた。見て、おとうさん。僕は口に出さないまま、養父に合図を送った。おとうさんのために、大きな、長い傷をつけているんだ。見て。これが僕のしていること。わかった、おとうさん？　これが僕。これが、いつもの僕なんだ。&lt;br /&gt;
　けれど、急に包丁を握っていた手が止まった。それは僕ではなかったから。今ではもう。今では、僕は、ゲンやリョウやユキやマリアといった名前の友だちを持っている子。何でもセラピストに言葉でもって言える子。&lt;br /&gt;
　包丁の刃は肌にあてられていた。これで、もう一度切ってしまうかもしれない。けれど、初めて僕は、そうしたくないと思った。本当は血なんか流したくない。本当は傷みなんか感じたくない。&lt;br /&gt;
「自分ひとりで戦うことになるんだよ」セラピストはそう言っていた。「きみには仲間が必要なんだよ」&lt;br /&gt;
「マサヤ、こんなこと、やめろ」養父が叫んでいる。&lt;br /&gt;
「ぼく、もう、病気でいることに疲れちゃった」セラピストに言ったっけ。&lt;br /&gt;
「マサヤ！」養父が叫んだ。&lt;br /&gt;
　そう、僕はマサヤ。自分が誰なのかわかっている。そして、もう自分を傷つけたりなんかしたくない。&lt;br /&gt;
　結局、僕は自分で始めたことを、自分で止めることができなかった。けれど、二回目の傷はとても小さかった。それから、僕は包丁を下に置いた。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.j.s.bach.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.j.s.bach.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68291345.html</link>
			<pubDate>Mon, 17 Oct 2016 08:44:59 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-109-　君を守りたい</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/85/68289685/img_0_m?1476523887&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_450_600&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　僕は、グループセラピーという考えが、まるっきり気に入らなかった。セラピストがそれを提案したとき、養父が断わってくれるのを期待した。けれど、養父は、怒りもおさまっていたらしく、購入したばかりのセスナをもう買い換えることに夢中になっていた。&lt;br /&gt;
　僕がこのプランについて話すと、養父は言った。&lt;br /&gt;
「もっと良い方法があるわけでもないだろう。まあ、やってみるがいい」&lt;br /&gt;
　養父は何か計画しているようだった。けれど、それが何であれ、グループセラピーから逃れさせてくれるものではないようだ。&lt;br /&gt;
　セラピストは、僕に心の準備をさせようとした。&lt;br /&gt;
「最初は、競争心を感じさせられるかもしれないわ。私の関心をほかの四人と分け合うことになるし、君は一対一の関係に慣れているからね。でも、グループでは君自身の問題を、その子たちとも分かち合うことになるの。やるだけの価値はあるわ」&lt;br /&gt;
　一回目の日、相談室に着いても、僕はまだそれが、やるだけの価値があるとは思えなかった。それどころか、酷いことになりそうだ。ほかの子たちが、僕を気に入らなかったら？　変人だとか異常だとか思われたら？　みんなは、僕がやっていること……自傷行為に絶対気づかないはずだ。自分は絶対話さないのだから。とにかく、そう心に堅く決めていた。&lt;br /&gt;
　だけど、このセラピストは、どうしてこんなことをするんだろう。納得がいかなかった。セラピストは僕を守ってくれるはずだった。いつだって、どんなに僕に信じてもらいたがっているかという話ばかりしていた。もういい。もう一生、このセラピストのことなんか信じてやらない。&lt;br /&gt;
「ちょっと早かったね」&lt;br /&gt;
　セラピストは、僕を相談室に招き入れると、そう言った。&lt;br /&gt;
　実際、かなり早かった。僕は先手を打ちたかった。最初に来ていれば、ほかの子たちが来たとき、うまい具合に一人ずつと会うことができる。自分がグループの輪の中に入っていくのは嫌だった。僕は、部屋の中を見回した。家具が動かされていて、セラピストの机を先頭にして円を描くように並べてあった。そのとき初めて、自分が座る場所を確保しなければいけないことに気がついた。個人セラピーでは、いつもソファが自分の場所だった。だけど、あれは僕だけの場所だったの？　急に、この部屋をたくさんのクライアントが使っていることに思いあたった。多分、ソファの僕の場所を、自分の場所だと思っている患者もいるはずだ。突然、このグループセラピーで自分の場所を主張することは、とても重要なことだと思えた。&lt;br /&gt;
　僕は、いろいろな可能性を検討した。セラピストのデスクの前に座れば、ほかの子よりセラピストの注意を集めることができるけれど、ソファの自分の場所を取られてしまう。隅っこの暗いところに座れば、目立たないだろうけれど、セラピストからはよく見えない。&lt;br /&gt;
　決めかねているうちに、玄関のブザーが鳴った。&lt;br /&gt;
「ゲンです」と、インターフォンの声が言った。僕は、さっとソファに席を占めた。二人の女の子たちと二人の男の子たちが入ってきた。&lt;br /&gt;
　ゲンという男の子が、僕にみんなを紹介する役を買って出た。ゲンがどういう理由で助けを必要としているかは、ぱっと見ただけでわかる、と僕は思った。ゲンはデブだった。彼は、ぽっちゃりしているとか、ちょっと太めとか、人々が好意的に表現したいと思う、どんな言い方にも当てはまらなかった。ゲンはデブだ。僕はこれまで、どうしたらステージ映えするだろうか、ということを考えてきていたので、太った人たちに偏見を持っていた。そのことで罪悪感を感じたけれど、どうしようもない。ゲン自身は、こんなにだらしない体型であることを気にしていないようだった。&lt;br /&gt;
「この子はユキ」ゲンは、背が高くて、可哀そうなほど痩せている女の子を指して言った。彼女の顔は、げっそり痩せすぎていて、何歳なのか見当もつかなかった。&lt;br /&gt;
「ユキとおれは、摂食障害」ゲンが言った。「どっちが拒食症なのか、当てて」&lt;br /&gt;
　ユキは僕に、「こんにちは」と言って挨拶をすると、さっと座った。&lt;br /&gt;
「リョウは、ファッションセンスが酷すぎるんで、ここに来てるんだよ」ゲンは続けた。「こいつは、この鋲が格好いいって本気で思ってるんだから」&lt;br /&gt;
　リョウは僕に中指を立てた。リョウは多分、十五か十六歳だろう。ブラウンの髪はクシャクシャで、ジーンズはわざと左膝のところで切り裂いてあった。&lt;br /&gt;
「それから、この子は自分を引っ叩いたり、切ったりするんだ」&lt;br /&gt;
　こざっぱりとした青白い顔の少女をゲンは指した。その子は、さっきまで泣いていたかのように、眼のまわりを赤く腫らしていた。僕は、この子がいちばん年下だと思った。僕と同じくらいだと思った。&lt;br /&gt;
「それで、おまえの病気は？」と、リョウが言った。&lt;br /&gt;
　僕が予想していなかった質問だ。一瞬、気絶するかと思った。&lt;br /&gt;
「ぼくは別に……」僕は小声で言った。&lt;br /&gt;
「おまえはおれたちみたいに病気じゃないって？　いいじゃないか、何でここにいるんだよ」&lt;br /&gt;
「やめなさいよ、リョウくん」&lt;br /&gt;
　青白い顔の少女の声がした。ゲンは少女に微笑みかけたが、その表情には堅いものがあった。僕は、こんな奴らと何をやってるんだ、とムカムカした。僕はセラピストに眼で必死に訴えようとした。このことは絶対許さないからな、と眼で言った。セラピストは意味がわかったようだ。&lt;br /&gt;
「マサヤくんに溶け込んでくれるように頼む前に、慣れる時間を少しあげなくちゃいけないと思うわよ」&lt;br /&gt;
　リョウはふくれた。&lt;br /&gt;
「おれがやることは、全部間違っているんだな」&lt;br /&gt;
「私は、みんながここで居心地よくいられるようにしたいだけよ」セラピストは静かに言った。「非難したんじゃないわ」&lt;br /&gt;
「絶対、非難した感じだったよ」&lt;br /&gt;
「それで、どんな気持ちがした？」セラピストは、いつも僕の個人セラピーで言っているように訊いた。&lt;br /&gt;
　みんなはその質問を、またはそういう質問を待っていたようだ。身を乗り出して、リョウが本当はセラピストじゃなくて、父親に腹を立てたんだと認めるまで、みんなで励ましたり、なだめたりした。これが話の口火を切ったようだ。誰もがそれに関連する出来事や、それに対するコメントをした。お互いに優しくすることもあれば、辛辣になることもあった。特にゲンとリョウは、ほかの子が話すことに乱暴に突っ込みを入れた。&lt;br /&gt;
　最初のうち、僕は自分がもう注意を引く存在ではなくなったのが嬉しくて、ゆったりと椅子に腰掛け、ほかの子たちがどうしていようとどうでもよかった。けれど、そのうち、だんだんほかの子たちに注意を払うようになっていった。それが会話と呼べるとしたらだけど、メンバーたちの会話は飛び入り自由といった感じだった。それでも奇妙なルールらしきものはあった。セラピストは、みんなの話が軌道をそれないようにしていた。誰もが正直に話そうとしていて、そのためか次から次へと話がつきなかった。&lt;br /&gt;
　青白い顔の少女は、ほかの子の問題については積極的に話すけれど、セラピストを含めて、ほかのメンバーが話題を少女に振ると、黙り込んでしまった。僕が聞いたところでは、彼女の父親はレコード会社の重役で、とても成功しているということだった。母親については、「知らない」と、彼女はばっさり切り捨てた。&lt;br /&gt;
「ねえ、あなたの両親のことも話して」と、少女が突然、僕に言ったので、一瞬、たじろいだ。&lt;br /&gt;
「ぼくは……みなしごだから……」&lt;br /&gt;
　僕の言葉に、みんなどう反応したらよいのか戸惑ったらしく、それをすばやく察知したセラピストが、「マサヤくんの話は、もう少し彼が慣れてからにしましょうね」と言った。&lt;br /&gt;
「マサヤくん、ごめんなさい。知らなかったから……」と、少女が僕に言った。&lt;br /&gt;
「ううん、気にしないで。だって本当のことなんだから。ねえ、きみの名前、聞かせてくれる？」&lt;br /&gt;
　僕は、彼女の症状が僕に似ているような気がして、そんな安心感から思い切って彼女に訊ねてみた。&lt;br /&gt;
「マリア……」と、彼女は恥ずかしそうに言った。「変な名前でしょ」&lt;br /&gt;
「マリアちゃんって言うんだね。綺麗な名前だね。とっても素敵だよ」&lt;br /&gt;
　それが、マリアとの出会いだった。&lt;br /&gt;
　見れば、腕には僕と同じような包帯が巻いてあった。彼女も僕と同じだ。&lt;br /&gt;
　マリアを守りたい、僕はこのとき、そんなセンチメンタルな心を持った。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.goldberg.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.goldberg.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68289685.html</link>
			<pubDate>Sat, 15 Oct 2016 18:30:12 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-108-　みなしごの涙</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/73/68289673/img_0_m?1476523173&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_450_600&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　あの日から三日間は、惨憺たるものだった。翌日の朝は目覚まし時計が鳴る前に、頭痛と手の疼きで目が覚めた。バスルームの鏡で自分の顔を見て、打ちのめされた。額の右半分と右眼が腫れて、紫色になっている。眉の傷口にあてたガーゼに血が滲んでいる。瞼が腫れ上がり、目が潰れかけている。頬には一面、火傷の痕のような赤く擦りむけた傷跡が広がっている。何気なくその傷跡に触れようとして手を上げると、その手もまた、白い包帯の下でズキズキと痛む。自分の姿をまじまじと見ていると、執事が背後のドアのところに現れた。&lt;br /&gt;
　養父は前夜、激昂し、僕は外出禁止になった。&lt;br /&gt;
「少しは落ち着きましたか？」執事は、僕の顔を見て言う。「しばらくは学校にもやらなくていい、とご主人様がおっしゃっていますから、それを最大限に活用しましょうよ」&lt;br /&gt;
　執事は、僕の予定外の小休暇をどう活用するか、その計画を練るように威勢よく言った。&lt;br /&gt;
「音楽室に一日中いられるのですから、朝練と午後練の間も練習できますね。コンクールも近づいてくることですし、ピアノの先生には、通常より余計に時間をさいていただくことにしましょう」&lt;br /&gt;
　けれども、計画どおりにはいかなかった。僕は松葉杖をつき、執事と音楽室に着くと、僕の腫れ上がった顔と包帯をした手をひと目見るなり仰天したピアノの先生は、その場で僕を制した。&lt;br /&gt;
「脚もそんな状態なのに、転倒して、また傷跡が開いたら、本当に大変なことになるわよ。治るまで一週間くらいは休みをとってください」&lt;br /&gt;
　異議を唱えようとする執事に向かって、彼女はきっぱり告げた。&lt;br /&gt;
　僕が何より気に病んだのは、そう言いながら執事を見つめる彼女の眼つきだった。その疑視には、心配と、それからよくわからないが、疑念のようなものが混じっていた。&lt;br /&gt;
「いったい、どうしたの？」&lt;br /&gt;
　彼女が僕に訊く。僕が答える前に、執事が割り込んだ。&lt;br /&gt;
「それを、あなた様にお答えするつもりはありません。お坊ちゃんは今、とても充実していて、コンクールに向けてレッスンを休みたくないということです。あなた様は、お坊ちゃんの練習を見ていてくれるだけで良いですから」&lt;br /&gt;
「だけど、本当に大丈夫かしら？」&lt;br /&gt;
　彼女は僕の方を見て言った。僕は、彼女が執事の話を信用していないとわかった。というか、そのように思えた。&lt;br /&gt;
　本当のところ、僕は自分の思考や感覚がすべて信用できなくなっている。あの小柄な女医は病院で、僕のことを精神病だと言っていた。ということは、頭がおかしいということだ。自分が今、正常なのか、異常なのか、頭がおかしい自分に、どうしたら判断できるというのだろう。&lt;br /&gt;
　ピアノの先生は、僕の方を訝しげな眼でまだ見つめている。彼女はすべて見抜いている、自分がしているあのことも……僕は突然、そう確信する。見ただけでわかってしまうんだ。病院で変わってしまったんだ。もう、秘密を持てない人間になってしまったんだ。自分がおぞましく醜悪な行為をしているとみんなにわかる、そんな印のようなものがついているんだ。この先もずっと、どこに行こうと、人にすべて見透かされてしまう……。&lt;br /&gt;
　こんなふうに考えるなんて、本当に頭がおかしくなっている、心のどこかでそう言う声がする。そう、もう本当におかしくなっているんだ。気がふれた人、狂人、精神異常者、精神科の病人。これらの言葉はすべて自分のことを言っている、そう僕は思った。彼女に眼を見られないように、顔を伏せた。&lt;br /&gt;
　駆け出したい。音楽室を出て、走って走って、暗がりをうずくまって潜んでいられる安全な場所を見つけたい……。彼女が執事の方を向き、スケジュールを立てている間、僕は横で立って待っていることに、全精力を傾けなければならなかった。&lt;br /&gt;
　しかし、その瞬間を見計らったかのように、“精神科の病人”という言葉が頭に浮上した。小学生の僕には強烈な響きだ。締め出そうとしても浮かんできてしまう。&lt;br /&gt;
「精神科の病人になる」医師はそう言っていた。&lt;br /&gt;
　考えないようにするんだ、と自分に言い聞かせる。けれども、心の中で膨張していく恐怖に、太刀打ちできない。精神病になるってどういうことだろう？　落ちぶれて、住む場所もなくなり、道端でひとり言なんか言うようになるんだろうか？　入院させられるんだろうか。どれくらい入院させられるんだろう。入院したら、どうなっちゃうんだろう？　そのまま一生出られないとしたら……。&lt;br /&gt;
　そんなふうに考えるのはやめろ、頭の中の声が命令する。けれども恐怖は消えない。この病気は、思考できなくなるまで心が蝕まれていくのだろうか。もし、思考できなくなったらどうなっちゃうんだろう。どうやって生きていくんだろう？&lt;br /&gt;
　やめろ、と頭の中の声が叫ぶ。だが、また別の声が囁き続ける&lt;br /&gt;
　もし、もう頭がおかしくなっているとしたら、どうする？　どうやって生きていけばいいんだ？&lt;br /&gt;
　傷みが走った。手元を見ると、組み合わせていた両手の指に力が入り、ケガで腫れ上がった肉を強く圧迫していた。傷口は何重にも包帯で覆われているが、圧迫されて盛り上がっている。ゆっくりと両手をほどく。だが、僕は包帯に眼を惹きつけられた。真っ白で清潔な包帯。爪で絆創膏を剥がしはじめる……。&lt;br /&gt;
「きみが自分を傷つけるのは、感情的にそうする必要があるからだ」&lt;br /&gt;
　病院の医師はそう言った。自分を傷つけるから、頭がおかしくなるんだ。だから、もし絆創膏を剥がし、この傷にしたいことをしてしまうと精神科の病人になってしまう。&lt;br /&gt;
　それにしても、その衝動はそれまでなかったものだ。傷口を開くことを思いついたのは、このときが初めてだった。ケガしたところを、もっと痛めつけてやりたいと感じている。だとしたら、医師が考えている以上に重症だということではないか。今は、“真っ白”にもなっていないのに。突然、この問題がすごく重大に思えてきた。そして、すごく怖い。&lt;br /&gt;
　でも、ガーゼにも傷口にも手を触れなければ大丈夫だ、自分に言い聞かせる。&lt;br /&gt;
　もし、手も触れず、新たに傷も負わせなければ、僕は本当は頭がおかしくなんてない。わかった？　&lt;br /&gt;
　自分が誰かと取引しているのを認めた。でも、いったい誰と取引しているのか……それがわからない。寒気がして、歯の根が合わなくなる。どうか、頭がおかしくなりませんように、僕はその誰かに祈り、そして、気を取り直して大声をあげた。&lt;br /&gt;
「さあ、弾くぞ。ぼくなら一人で大丈夫だ。ごちゃごちゃ言うなら、みんな出て行ってくれよ。ケガのことなら大きなお世話だよ。ぼくのことを止める権利なんて誰にもあるもんか。こんなケガに負けてたまるか。ぼくなら大丈夫だ。ぼくの邪魔をしないでくれよ」&lt;br /&gt;
　そして、僕は鍵盤を叩き始めた。自分の影を振り払うように集中する。頭の中のイメージを限りなく膨らませてゆき、完璧を創造する。僕は、もう行くしかない。今さら戻るなんてことはできないんだ。怖いけど、泣きそうだけど、メソメソしてたって誰も僕を助けてくれないことは、自分が一番よく知っている。みなしごが泣いたら、みんな笑えばいいだけなんだから。けれども、涙は零れた。&lt;br /&gt;
　周りのことなんて、どうでもよかった。ピアニストがピアノを弾き始めると、もう誰も演奏を止めることなどできない。できるのは、耳を傾け、そして待つことだ。誰も僕を止められないということに、本当は気づいている。&lt;br /&gt;
　そう、この僕でさえも。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.menuet.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/icarus671227/masayaisemiya.menuet.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68289673.html</link>
			<pubDate>Sat, 15 Oct 2016 18:19:33 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
		</item>
		<item>
			<title>素顔の愛　-107-　人間失格</title>
			<description>&lt;p class=&quot;img&quot;&gt;&lt;img src=&quot;https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-73-53/icarus671227/folder/1477835/44/68288844/img_0_m?1476446308&quot; width=&quot;560&quot; alt=&quot;&amp;#x0030a4;&amp;#x0030e1;&amp;#x0030fc;&amp;#x0030b8; 1&quot; class=&quot;popup_img_800_800&quot;&gt;&lt;/p&gt;&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;　僕は、シャツをひったくるようなことをしないように、自分を抑えた。普通に手に取り、ゆっくりと身につけた。&lt;br /&gt;
　養父が安堵の息をつきながら振り向く。&lt;br /&gt;
「もう帰っていいでしょう？」&lt;br /&gt;
　そう念を押す。養父はもちろん傷跡を見ていない。&lt;br /&gt;
「このあと、マサヤくんにはレントゲン検査を受けに行ってもらいます。看護師さんが連れて行ってくれるわ」&lt;br /&gt;
　僕はうなづいた。レントゲンはうまくやれそうだ。どうしたことか不思議でならないが、ドクターは傷跡に気づかなかったのだ。僕は信じられない思いがした。何も起こりそうにない。そう思ったら、なぜだか泣きたくなった。&lt;br /&gt;
「レントゲン検査から戻ったら、ここの精神科医の面接を受けてね」&lt;br /&gt;
　僕はまたしても、今聞いた言葉が空耳ではないかと疑った。ドクターはこともなげに言ったが、“精神科医”が何を意味する言葉かは知っている。精神科の医者のところに送り込むつもりなのだ。精神科の医者というのは、人の心の中を探って、思っていることを暴き出すプロだ。精神科の医者には、ごまかしがきかない。秘密を守りきれなくなる。&lt;br /&gt;
　横にいた養父は、怒りのあまり喘ぐように言った。&lt;br /&gt;
「何だって？」&lt;br /&gt;
そして、決めつけた。&lt;br /&gt;
「精神科医に診てもらう必要などない」&lt;br /&gt;
「それがあるんです」&lt;br /&gt;
　そう断言するドクターの顔からは、あの明るい笑みはすっかり消えていた。&lt;br /&gt;
「病院の方針です。このようなケースは、法的にもそういう決まりになっているんです。マサヤくんは情緒的に不穏な状態に陥り、自分で自分にケガを負わせたんですよ。こうしたケースでは、私どもは規則で、精神医学的な診断を行うことにしています。そうしていただかないと、マサヤくんをお帰しするわけにはいきません」&lt;br /&gt;
　僕は泣きたかった。看護師に伴われてレントゲン室に向かいながら、「もうダメだ」と思った。&lt;br /&gt;
　精神科の医師との“面接”の場に、養父が同席することは認められなかった。養父が食い下がったけれど、どうすることもできなかった。&lt;br /&gt;
「病院の決まりですから。未成年者に精神科の医師が面接するときは、親御さんは同席できません」&lt;br /&gt;
　僕をレントゲン室から連れ帰った看護師は言った。&lt;br /&gt;
　養父は、しぶしぶ待合室に戻り、僕はあの陽気なドクターがケガの治療をしてくれたベッドに戻り、腰を下ろした。&lt;br /&gt;
　背の高いベッドなので、足をブラブラさせながら、カーテンの“壁”をぐるりと見渡した。今、僕はたった一人で、精神科の医師に立ち向かわなければならない。気力の問題だ、そう自分に言い聞かせ、つとめて背すじをピンと伸ばした。それほどひどいことにはならないさ、と呟く。レントゲン検査のあと、シャツを羽織っても何も言われなかった。だから、少なくとも傷跡は隠れている。&lt;br /&gt;
　とうとう精神科の医師がやってきたが、第一印象は、気配がないというか、覇気がない様子をしているということだった。小柄で痩せていて、それほど年はいっていない女性だった。そこに人が誰もいないかのように、無言のままベッドの端までやってきて、クリップボードを手に取って眼を走らせる。そして、ようやく僕のそばに来て、囁くような声で自分の名を告げ、手を差し出す。僕はおざなりに握手をして、固い笑みを返す。医師は気にするふうもなく、再びカルテを読み出した。&lt;br /&gt;
　僕をどうするつもりなんだ？　頭の中の声が叫ぶ。その声が聞こえたかのように、医師は突然、眼を上げた。&lt;br /&gt;
「さてと、今日は何曜日だか言ってください」&lt;br /&gt;
　僕は、何のことを言われているのかわからず、医師の方を見た。&lt;br /&gt;
「今日は何曜日だか、わかりますか？」と促す。&lt;br /&gt;
「土曜日……」&lt;br /&gt;
　思い切って言った。どうやらこの答えでいいらしい。&lt;br /&gt;
「今日の年月日はわかる？」&lt;br /&gt;
　信じられない。いろいろ切り抜けてきたあとなのに、この小柄な医師はクイズでもやろうとしているのだろうか。何これ？　頭の中でわめく。それでも、年月日を答える。医師は次に内閣総理大臣の名前を質問し、そのあと、百から七を順に引く引き算をやらせた。七十二まで来るとやめさせて、カルテに何か書き込んでいる。何なんだ、これ！　頭の中で怒鳴りつける。&lt;br /&gt;
「それじゃ、その手の傷がどうやってできたか話して」&lt;br /&gt;
　淡々とした口調で言う。&lt;br /&gt;
「控え室に入ろうとして、ドアに手をはさんでしまったんだよ」&lt;br /&gt;
　もう少しマシな言い方をして、にっこり笑って、冗談めかしてしまうつもりだったのに、イライラしてすっかり忘れてしまった。&lt;br /&gt;
「カルテには、ケガは自傷行為、つまり、わざと自分で自分を傷つけたものだと書かれてあるけど」&lt;br /&gt;
「ドアがなかなか閉まらなくて、あわてちゃったんです。ずっと緊張していたし、初めての発表会だったから……」&lt;br /&gt;
　僕は微笑んでみせたのだが、医師はカルテを読むのに忙しくて見ていない。&lt;br /&gt;
「家で何か問題があるのかな？」&lt;br /&gt;
　答えようとすると、驚いたことに顔をそむけてあくびを噛み殺している。僕はあっけにとられた。必死の思いで答えようとしているのに、この女はあくびをしている。&lt;br /&gt;
「ごめんね」医師は申し訳なさそうに苦笑した。「ダブルシフトだったもので二十四時間、寝ていないの。それじゃ、家のことを聞かせてもらえる？　何か問題があるの？」&lt;br /&gt;
「別に」&lt;br /&gt;
　むっつりと答える。その態度の変化について、医師は何も触れなかった。&lt;br /&gt;
「脚のケガは、交通事故によるものよね。まだ痛む？」&lt;br /&gt;
　僕は、その質問には答えず、医師を睨みつけている。&lt;br /&gt;
「最近、試験がうまくいかなかったとかは？」&lt;br /&gt;
　Ａマイナス以下の成績は取ったこともないよ、バカにするな、と頭の中で言う。声に出して、「ないよ」と、きっぱりと断言する。&lt;br /&gt;
「ピアノは好き？　発表会で演奏を失敗しなかった？」&lt;br /&gt;
「ぼくが失敗なんかするもんか。ぼくは、もっともっとうまくなるんだ」&lt;br /&gt;
「だとしたら、自分自身にケガを負わせるほど気が動転してしまった理由が見当たらないわね」&lt;br /&gt;
「ないよ」&lt;br /&gt;
「自傷行為はよくやるの？」&lt;br /&gt;
　一瞬、口ごもった。&lt;br /&gt;
「ううん、してないよ」&lt;br /&gt;
　医師は、初めてぼくを鋭く見据えた。&lt;br /&gt;
「カルテには、傷跡がたくさんあるって書いてあるけど？」&lt;br /&gt;
　このときだ。病院側の人間が僕を捕まえるために、どうやって連携したのかがわかった。あのにこやかなドクターは、結局、傷跡のことをカルテに書いておいたんだ。そのあとで、計画的に、こっちの医師が妙なクイズを出して油断させる。ここの大人は、誰一人信用ならないと思い知らされた。&lt;br /&gt;
「腕を診せてもらえるかな」と、医師が言った。&lt;br /&gt;
「ぼくは何も……」そう言いかけたが、医師は腕をしっかりつかんで裏返し、腕の内側を光の方に向けると、さっきのドクターがやったように袖をたくし上げた。傷跡がまたさらけ出された。&lt;br /&gt;
　肌に残る、或いは生々しい色をした、或いは古く白くなった何条もの傷跡。僕の傷跡。僕の秘密。&lt;br /&gt;
　果てしなく長い時間、医師がその腕を見つめていたように思えた。そこにあるもの、その意味するところ、すべてが見抜かれたと観念した。&lt;br /&gt;
　とっさに腕を引っ込めようとしてみたが、医師はまだしっかりとつかんでいる。こんなことをする権利は誰にもない、この傷跡は僕のプライバシー、人目にさらされるなんて。僕は怒鳴りつけてやりたいと思った。けれども、あまりの恥辱感に言葉が出てこない。もう一度、腕を強く引くと、今度は医師もそれを許した。引っ込めた腕を、身体にぴったりと押しつける。だが、今さらそうしても、威厳を取り戻すことはできなかった。涙がこぼれそうになり、まばたきして抑えた。消えてしまいたい。死んでしまいたい。医師は表情を変えることなく見つめている。何を考えているのかまるでわからない。&lt;br /&gt;
「かなり前から、こういうことをしてきたのね」医師がようやく口を開き、抑揚のない声で言った。「きみが自分を傷つけるのは、感情的にそうする必要があるからなの。精神科の病人になりたくなかったら、セラピストのところに定期的に通ってもらうね」&lt;br /&gt;
“精神科の病人”という言葉が何を意味するのか、僕は訊きたかった。このことで、自分に愛想をつかしてはいない、と言ってほしかった。傷跡を見たのは、あの女医のほかは、彼女が初めてだ。傷跡のことで話をした唯一の大人だ。何か少しでも優しい言葉を僕は必要としていた。けれども、医師は立ち上がった。&lt;br /&gt;
「今日は、もう家に帰っていいわよ」&lt;br /&gt;
　眼を上げて医師を見ようとした。大丈夫だ、と僕に言ってくれ。僕に何か話しかけて。&lt;br /&gt;
　頭の中の声が懇願する。でも、眼に涙があふれ、顔をそむけてしまった。涙を見られたくなかったからだ。&lt;br /&gt;
「診断書には、きみが治療を受けるよう勧告しようと思います」そう言って、医師は出ていった。&lt;br /&gt;
　メソメソ泣いていてもどうにもならないんだから、もう泣くのはやめよう、と思った。医師にも面倒を見きれないんだ。病んでいると言った。この先もっと酷くなって、この病院に戻ってくると。僕の人生は、そういうことになっていると。&lt;br /&gt;
　結局、僕は身支度を始めた。立ち去る前に、シャツの袖をゆっくり慎重に下ろし、傷跡を隠した。&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;div class=&#039;wiki&#039;&gt;&lt;a href=&quot;http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/icarus671227.barcarolle.mp4&quot;&gt;http://1st.geocities.jp/masayaisemiya/icarus671227.barcarolle.mp4&lt;/a&gt;&lt;br /&gt;
&lt;/div&gt;</description>
			<link>https://blogs.yahoo.co.jp/icarus671227/68288844.html</link>
			<pubDate>Fri, 14 Oct 2016 20:58:28 +0900</pubDate>
			<category>小説</category>
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