安積道也 〜教会音楽家のひとりごと〜

ドイツで教会音楽家として働いていましたが、2008年に帰国しました。福岡で活動中です。

全体表示

[ リスト ]

2012 ドイツ旅行 2

電車(ICE)は南下する。
 
サラ。彼女は、ライプチッヒのアンゲリカと同じく、僕の同級生。アンゲリカは、「教育音楽学科(Schulmusik)」だったが、サラは僕と同じ「教会音楽科(Kirchenmusik)」だ。その学期は二人しか入学者がいなかったので、つまり、本当の意味で僕の唯一の同級生である。ちょっと気難しい女の子で、打ち解けるまで丸2年かかった。
 
忘れられないことがある。まだ、渡独一年目で、ドイツ語もおぼつかなかった頃、一緒に受けたオルガンの中間試験で上手くいかなかった彼女はひどく落ち込んでいた。そんな彼女を何とか慰めようと、ここぞというシチュエーションで、
 
„Hab keine Angst“(ハープ・カイネ・アングスト = 心配しないで )
 
と言おうとして、
 
„Hab keine Ahnung“(ハープ・カイネ・アーヌング = さっぱり分からん )
 
と真顔で言い間違えて、ひっぱたかれた。
 
その傷を修復して以来、僕の良き理解者である。
ちょうど2歳児ぐらいの子供が片言をしゃべっていると、なぜかお姉さんだけが、何を言いたいか分かって代弁してくれる、そんな関係だった。
 
 
・・・その辺容赦なかったのが、アンゲリカだったが。
 
 
そのサラに、シュツットガルトで途中下車して会ってきた。
教会音楽家の職を離れ、オルガンをやめ、目下歌い手を目指して、新たな歩みを始めていた。


教会音楽を収め、しかしその後教会音楽家であることをやめる友は、実はかなり多い。
実際の仕事はきつく、人間関係、雑務に激務。そして過酷に要求されるオーガナイズにマネージメント能力。しかも、土日が「仕事」としてつぶれるので、とりわけ婚活中のものにはつらい(冗談ではない)。
数ある教会音楽の分野から、サラのように、「声楽」とか、あるいは「オルガン」とか「作曲」に特化し、「専門家」としてキャリアを積む人も結構いる。

 
 
サラは、自分の声の成長と今後の展望についてうれしそうに語り、
「もうオルガンは弾かないわ。結構、せいせいしてるの」
と、すっきりした顔である。
 
まさかあの時の中間試験をまだ引きずっているとは思えないが、そのことには触れずに
また数年後に!とさようならをして、市電に乗り換えバックナングへ。
 
 
そこには、ライナーがいる。


僕がシュツットガルトに入学したとき、彼は4年生だった。そのまま教会音楽科の院に入って2年後にみごと修了。3年間音大で一緒だった。院の時にチェンバロ科の彼女と学生結婚をしたのだが、その結婚式は素晴らしかった。
すでにかなり大きな教会のポジションを持っていた彼と、少年少女合唱団を中心に活躍していた彼女クリスチーネのゆかりの人々と、われら教会音楽科の学生らが寄ってたかって、結婚式ミサを音楽で飾り立てたのだ。
オルガニストは、われらのオルガンの師匠ヨーン・ラウクビックが担当し、新郎新婦はラウクビック演奏のバッハの前奏曲変ロ長調にのって入堂(なんと豪華な!)。ミサ固有文は、4つの聖歌隊と音楽学生有志からなる120人もの巨大な合唱団が、大オルガンの伴奏でドボルザークのミサニ長調Opus 86を歌い上げ、固有唱では、音大や地元の著名な音楽家が、それぞれ祝福の思いを込めて熱演した。なんと3時間もかかった「荘厳ミサ」となった。
(ちなみに、そのあとの司祭館大ホールで行われた披露宴パーティは、5時間もやっていた)


 
 

ところで、教会音楽家を目指す人間には、いろいろなタイプの人間がいる。相当な総合力を求められるのだが、在学中、好んで「総合的」に勉強するものは少ない。大抵、オルガン演奏ばかり練習してしまう。すると、
歌を練習するのはレッスンの時だけ、
理論の宿題は常に一夜漬け、
即興演奏はレッスンで「即興」すべしと、ほとんど運試し。
そして指揮に至っては、「練習すべきものではない」、と思う輩が実は結構多かったりする。
あるいは、かなりの分野に能力が突出しているものの、「人間性」や「人間関係」に問題のあるものも少なくない。

そんななか、ライナーは、すべての分野に一流の腕を持ち、企画運営、マネージメントに優れており、また、人間的にも本当に温かみのある「バランスのとれた」良き教会音楽家である。同年代(在学時期がかぶっている人たち)の教会音楽家の中で、「こいつはすごい!」と、僕が心から尊敬をする数少ない人物の一人である。
 
彼とは、昨年の冬、ライプチッヒの街のど真ん中で、8年ぶりに「偶然」ばったり出会った。その時は興奮のあまり、お互いあまりしゃべれないほどであったが、アドレスを交換したので、今回はどうしても訪ねたく思い、行ってきた。
 
彼は、いま2児のパパ。9歳と7歳の息子がいる。お兄ちゃんは、トロンボーン。弟はドラムをしている。うちに帰ると、部屋ではお兄ちゃんと一緒にトロンボーンの二重奏をし、地下の音楽室では、弟のドラムに合わせて、ロックをピアノでガンガン弾く。相変わらずの腕前である。居間には、チェンバロが当たり前のようにおいてある。
 
彼は、教区教会音楽家長であり、そのあたり一帯のカトリック教会音楽家たちを仕切っている。おまけに卒業後に、通信教育のようなもので二つも修士を取ったらしく、今では某会社の「社長」にも就任している。
 
「社長は昨日でプローベツァイト(お試し期間)が終わって、今日から正式に社長なのさ」とうれしそうに話している傍ら、携帯が鳴り、
「ああ、わたしが社長だ。」と言い切る姿もすでに堂に入っていた。実は、僕よりたった一歳だけ年上らしいことが今回判明した。
 
 
社長は別にうらやましくないが、嫁さんと息子二人には、なぜか敗北感を覚える。
 
 
次の日彼の務めるヨハネス教会のオルガンを弾かせてもらう。
 
以下のサイトでサンプルが聞けます。
 
オルガンを弾いてくれるライナー
イメージ 1


 
午前中いっぱいこのミューライゼンオルガンを独り占めしてきた。素晴らしい響きのオルガンでしかも久しぶりのフランス様式のオルガンに大興奮。今度来るときは、コンサートをさせてくれることになった。
 
 
 
ところで、教会音楽家が自分の弾いているオルガンを仲間に見せるときは、たいていふたとおりの仕方がある。


一つは、ライナーのように、そのオルガンの特徴的な笛をどんどん使い、即興しながらオルガンの響きをプレゼンテーションしてくれるタイプ。ざっと1015分、それでほとんど、空間の中に鳴るオルガンの響きに関しての概要を頭に入れることができる。そのあとは、「どうぞご自由に!」という具合である。こういう時に「作品」を弾く人はほとんどいない。たいていすべて即興でしてくれる。要は譜面を開いて、その音色にみあう曲を探すより面倒が少ないうえ、効率よく、響きを示すことができるからだ。
 
もう一つが、ライナーの次に訪ねたヴィンネンデンに住むペーターのタイプ。ペーターは、シュツットガルトで同じ教会音楽科にいて、その後フライブルクでは指揮科でも一緒であり、とても気の合う親友である。
彼の場合、「どうぞ!」と言って、オルガンに僕を座らせる。
そして自分のオルガンの特徴的なストップを組んでくれる。僕はそのストップを見ながら、その音色に合わせて即興する、という具合だ。
 
これはこれで楽しい。
お互いの先を読みあって、即興的に協演するような面白さがある。その場でストップの組み合わせ方や音色を指先と耳から体に入れていく。ライナーのところと同じくミューライゼンのオルガンだが、教会の響き自体はこちらのほうがよい。
最後に、ロマンチックなピアニッシモを作ってくれたので、メシアンの第二モードで遊び始めたら、ニヤニヤしながら少しずつストップを足して、クレッッシェンドをかけてきた。結局5分かかって巨大なクレッシェンドを行い、最後のTutti終和音は二人で指20本、足3本使って鳴らした。
久々にエキサイトした。
 
ペーターの弾くオルガン。
演奏台上に横に伸びているパイプが、スペイン風のトランペット管。「水平管」というニックネームで呼んでいる。直接会堂の空間に向いているので、非常にダイレクトに力強く響く。ただ、演奏者の耳には、あまり良くない。ミサで用いるのは年に二回(クリスマスとイースター)ぐらいだとか。
イメージ 2

 
彼は、それほど大きくないこのポジションで、教会音楽家として働き食い扶持を得ながら、主に、通奏低音奏者、オルガンソリストとして自分でコンサートをオーガナイズしながら、活動している。ソリストとしての活動を維持するために、わざと小さめのポジション(要は仕事が少ないので、自分の時間が多くある)で、良いオルガンのあるところを狙う教会音楽科出身者は結構いる。
 
もちろん、生活と収入の安定はない。しかし、
 
「僕は僕の上司なのさ」
 
と、ポジションに縛られない音楽家としての自由な生き方を自負していた。
ライナーとは全く違ったあり方である。
 
いろいろな生き方があるものだ、と思った。
 
ペーターと再会を誓い、
旅は最終目的地、第二の故郷フライブルクへ。
 

閉じる コメント(2)

顔アイコン

前期のオラトリオの練習、お疲れさまでした。本当にありがとうございました!!もうすぐ「くに」へご出発ですね。旅の無事と実り豊かな時間、そしてご健康をお祈りしています。いってらっしゃいませ♪

2012/7/25(水) 午後 3:40 [ sar*72*oba ] 返信する

顔アイコン

いってまいります。もしもネットがつながったら、旅行記、何とかアップします。

2012/7/26(木) 午前 0:19 [ azuminus ] 返信する

コメント投稿

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

名前パスワードブログ
絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
投稿

開く トラックバック(0)


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事