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ゆらゆらゆらっと、揺れている。
どこまでも続く遠くを
透かして見るように
近くをにらみつけて
焦点を外し、ぼやかして眺める。
そうすると、
いつまでも、どこまでも、続く。
遠くに、つながる。
目に映るものは、
飲み干したオリオン・ビールの缶、缶、缶。
時折チラリとキラめくアルミの銀がサイド・テーブルに列をなして並ぶ様。
目に見るものは、
「中身を抜いてきれいに並べること」
開けたら空ける。
つがれれば飲み干す。
出されたものは食う。
注文したものは、残さず食う。たいらげる。
いろいろと学んできたものだが
ようやく、
腹に入れられないものは残してもいい。だれかが腹に入れる。
だれかが食いたくなるように
残したものは並べてやれ。並んでればきれいだ、と思って腹に入れる。
そう学ぶ。
後ろを振り返れば、数万の証拠が並んでいる筈だ。
これからは並べていく。学びきれない。
でも、学んだものは簡単に捨てない。残念ながら、捨てられない。
でも、よく忘れる。身につかない。頭の中にオリオンは見当たらない。
幻視する解像度の低い動画は中空に、合わせ鏡の中で連なり、流れ揺れるオリオン。
オリオンはちいさな銀のドットとなって、どこまでも、続く。
いつまでも、つづく。
たどりつく。
たどり着きたい。
たどりついた、と言ってみたい。
寝そべる身体は、リビングにある。
そんなこと、わかる。今、わかった。
どこの家だ?
途切れていた意識。
知らない時間に驚く。
眠って見る夢をほとんど覚えていないのだから
なんのことはない。驚くまでもない当然のこと。
あたりまえのことにでも、いちいち驚く。おれはできる。
みんな忘れてしまう。
忘れられないものごとは、身体に染みついた記憶。
もう、細胞なんだろう。
思い出す。
破けたソファーに座っていた。
夏のひんやりした夕暮れに
海が黒くうねって、重くて
飛び込んで、ズンと沈んで
見上げる橙色はゆらめいて
ゆっくりと、近づいてくる。
どうしても、浮かぶ身体が
ひとりでに歩き回る身体と
同じではない、と気付いた。
息をしようと思う。口を上に向ける。
あおむけになる。苦しまない。合う。
ソファーに埋めた身体が、釣り合う。
「安定」小学校から知ってることば。
どういうことか知らない。
もう、あとは、眠るだけ。
このままでいれば
きっと、意識を失うことができる。
眠ることができる。
思いうかべる、気持ちよさ。
納得していない。理解もしていない。
「沈んでもいい」
ゆっくり
ゆっくり
沈んでいく。
必然を、驚いて偶然にする。
背もたれの縁に凭せ掛けていた頭を、背もたれに引っ掛ける。
沈んでいく身体は
首を折り、
背筋を伸ばし、でっぱらと手足を垂らし、吊るされる態。
ふくろだだきか、表彰状か。
みせものか。
ひっかかった頭の顔は
打たれ
割れて、血が流れ
裂けて、
かしげ
はみ出した目は
ぬれて
乾いて
ぼろり落ちて
どこか、見上げた。
「いたい」痛い。
いたい、いたい。
結局
それだけしかわからない。
怒号や叫び声が混じると、ゆらめきが起こる。
ゆらめきにもみしだかれてナニか吐き出した。
ガラスが割れると、夜に響き渡る。
肉は断たれ、見開いた野次馬の目が闇に消える。
夏の夜、まだ生温い、
のっぺりとどこまでも続くアスファルトは俺を支えてくれる。
“理解”
それはきっと誰かに必要なはずだ。
頭の中ではまだ輝き燃える太陽に
裏返って、そりかえって
何も掴むことができない
硬直した手のひらを透かしてみると
ずたずたの畳から
高く立ち上がる土壁、吹き抜けた四角い空
屋根があった方向に
橙色の満月を見つける。
笑顔になる。
身体は冷えて
震えているかもしれない。
きっと、うれし過ぎたからだ。
よろこび過ぎたからだ。
「きれいだ」ということは
「きれいでなくてはならない」ということだ。
満月はきれいだ。
満月でなくても、月はきれいだ。
それが分からないとすれば、
恩義を強制されたことになる。
「恩知らず」
ただ、そういうことかもしれない。
「嘘つき」
誰が誰に言うんだろう。
ぼうっと眺める窓の輪郭がぼやけて迫る。
ねじれているものはなんだ?
ワイシャツか?身体か?神経か?裏映り動画?
後ろ前にでもシャツを着て
何日か前の残り湯の風呂につかり
鼻からでてくるなにかが
あぶくになって湯面で破れて
初めて、慌てて、
むずがゆい。
左足の貧乏強請りが伝えるふるえが原因かもしれないし、
強請らずにはいられない
スパークする神経が
耳にきかせず
目にみせず、
引力は乱反射
舌裏返り皮膚になり、
頬ふくらまず
腹探られず
顎外れず、
骨折れない。
足は洗えず、頭は下げられることはない。
ああ、ほんまめんどくさい。
背に腹を取り替えて、
脛に傷つけ
心血を垂れ流してけむにまいて
満足する。やり過ごす。
そういう便法かなにか。
こうやって、
死んだまま納得する。
意味ある雑音が
虫の声を遠ざける。
月明かりに暗く
電気のキラメキに身悶える。
なめらかな輪郭の黒は、闇でなくゴキブリ。
「いる」と感じさせるのはカメムシかこおろぎかゴキブリ。
立ち上がると
呆然と立ち尽くす巨大なニホンザルのよう
いや、にほんじん。サルは呆然としない。
キッチンに向かい
あまりモノのカレーを食う。
世の中を理解していないことから否が応でも生まれる不器用さ
自分を理解していないことからでかい図体を持て余し
不快を転化できず不快でいて
落ち着かず、場違いと気付いても
また、不快を感じる。
ただ、空腹だけが満足させる。
食えば「うまい」と感じられる。
食べ終われば、場違いな夢に戻る。
どうどうどう
食べ続ける。
どうどうどう
めぐり続ける。
孤独を代償に何を手に入れた?
そろそろ
一人立つサルにもどったらどうだ。
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