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海と星のフラクタル

イメージ 1



 
 夏の海。

 陽の光。

 焼ける肌。
 
 
 この期に及んで

 ただ海にさえたどり着ければ幸せだと信じていると気付く。

  
 アシウラが熱く、思わず飛び上がる。よろけて足をとられ

カラダを投げ出すこの砂浜が

 確かな大地。

 まぶたを閉じてもまだ、目を焦がす夏の陽射しが、

 すべてを守る天蓋。

 届くはずもない青い空に手が届く。

 考える前から用意されている答え。

 それでも

 なにかを理解していると信じている。

 
 やるべき仕事に携わり

 いつ、なんどきにでも仕事に区切りをつければ、

 一服の煙草を味わうカウチが

 いつ、どこにでも用意されているかのように。

 金や時間やその他もろもろ

 人が持てると考えるものの持ち合わせは

 その他もろもの他には、ほとんど無い筈だが

 すでに、すべて、手に入れているかのように。

 足りないものを手に入れることに日々奔走し

 足りないものを手に入れることに夢中であることには目もくれず

 眼前の仕事に集中して、これを努力だと信じて

 疲れれば区切りをつけて無心になれる、

 まるで、捨てられる記憶しか持たないように。 

 思い出せないだけで、ただ、思い出しさえすれば、

 すべての過去が現在となるかのように。

 目の前で、暴力が演じられている、今、ここにある世界で。


 それでも、

 金を稼ぎ、物を買う生活で

 なにもかも

 全て買い占めようとする生活で

 贖う罪は、この天球の調和だと、

 そんな使い方でいいのかわからないまま調べるでもなく

 そんな言葉使いで考えるうちに

 感じることがなかったざわめきにうろたえる。

  
 
 
 「かきごおり、こーて」

 
 
 
 あー、かきごおり。

 四則計算ができても答えがでない残債務。
 
 役に立たない知性。だとすれば知性ではないのかもしれないが、

 理性だとまで思っていた知性。

 ああ、暴力力がある。暴力を暴力と見做さない狂気が凶器の。

 眼前に迫るもの。俺を餌と扱うもの。不安、死。

 
 死んだばかりのはずが、

 死ぬのが不可能であるかのように、

 今、ここを、生きる。

 
 
 
 「アツ、あつッ」




 と、飛び跳ねながら

 輝く眼差しで射抜いてくる小さな娘のひょっとこ顔。

 海の家を目指し歩きながら

 もう、眠りたくない。と思う。

 
 理解したと閃き、認め、信じて

 出会う人、すれちがう人、全く知らないアカの他人を

 殺し続けてきた俺であっても、

 陰部の先から針を刺し込まれでもすれば、

 気ままな自由など、ただちに失われる。

 だからこそ。

 自殺できない人間のたった一つの拒絶の方法

 では無く、

 自殺同様、ただ一つの世界である殻に閉じこもる方法

 でも無く、

 上演の終わった劇場で、

 舞台を見下ろす前のめりの背もたれが、

 明日の朝、目覚めるために十分だと固く信じた

 俺の一揃いを詰め込んでパンパンのバックパックのように

 背に重くのしかかり、

 俺の体から滲みでた、

 血膿が染みるえんじの座席に、まだ座り、

 いましがた、演じられていたものがなんだったのか、

 振り返り、幾度も考える。

 そんな

 終わりを忘れた生き方でもない。

 交通事故に巻き込まれるように

 始まっていたかもしれない命は、ここにいない。

 何かを信じる人たちがどうかは知らないが、

 遠いどこかの大地と天蓋に閉ざされた、ここではない別の住処に暮らしながら

 金が価値を失い、モノが価値を失い、幻想が価値を失い、

 生きてきたことが、すべて、価値を失ったまま

 食って働き、寝て働き、日常を永らく生きて

 ただ、すぐにでも、どこにでも、

 

 
 

 光の束が突き刺さる。串刺しにされて身動きが取れない。

 おそらく逃げる為の方便。観想という言葉を思い出す。都合のいい参照体系。

 体を引き千切ればいい。

 千切れそうな体のささくれ立った皮膚が燃え上がる。そんなふうに思い描く。

 でも燃え上がるものは、体ではなく、持続する意識。

 風にさらわれ

 引き留めることのできない、意識の代わりに燃え上がる体の灰が

 ただのちりあくたとなるまで、自ら火を放つ。

 ゆずることのできないナニかを遠ざける。

 眠る。逃げる。逃げ続ける。それでも、眠り続けることはできない。

 被害者を名乗り、

 改めて、なにもかも平等にもてなす暴力を手に入れる前に、

 疲労と怠惰に埋もれながら、娘に声をかける。


 「アイスにしとこか」

 
 黒く、固くなる意識

 それでも体だったものは、

 まだ、消えることはない。

 明るみに放り出された体だったものは、

 焼かれ、燻り、燃えあがり溶けて、浜の砂に吸い取られていく。

 消えること無く、どこか、暗い淵の向こうに流れるように。

 永久機関の永久は

 未来永劫にわたり続いていくだろう与えられた筈の時間ではなく、

 ただ、無尽蔵に湧き出る燃料だった。

 人が火をつけ、燃やし続ける。

 目的となること、手が届くはずのものであること、言葉に置換えることができること 

 確信が得られること、所有すること。

 いまのままでは、疑いもなく止まることのない既に動いている永久機関。

 戦わず負け、逃げている今、がむしゃらに、ただ、これまで通りのやり方で、

 振り回す手足が掴み取るものは暴力だと思う。

 なにか指先に触れるものがあるとすれば、

解決すべき問題として了解し、受け入れるものではない。

 おそらく、手に入れるものではない。

 そこに、いてほしい


 これまでに語られたことを全て知れば

 暴力を手放す理性が身に付くとでも。

 即死を免れ、じんわりと機能不全となることで身を護り、

 死を先延ばしにすることで、なにを守る?

 どんな手掛かりも夢も努力も費消して、今ここで燃え上がる火の、

 揺れる輪郭のむこう

 身体を焼かれ、目に映ることなく、

 指先に触れたように、感じるように、考えるものは、

 ここにいない娘。

 それだけが手掛かり。どうやっても手が届いたりはしない。

 燃え続ける。

 歴史に刻まれることのない過去。

 他の誰の頭のなかにも無い時間。

 灰にしない。燃やし続ける。

 違う。燃えている。


 「海やで、海」

 
 売買が成立して流通する情報となった言葉が、触れるものを灰にする。

 灰とならず、堅牢な楼閣とした歴史は、いつ、どんなときにも存在しなかった時間。

 灰となり崩れていく人の形は、

 その性質から無限であるだろう筈の主語と述語の結合の形。

 そんなものでなにが? でも、そんなやり方しか知らない。
 

 背中に手が届かない。呼び掛けに応答が無い。ただ黒く輪郭が無い。

 思い返せば、目指していたものは唯一の手掛かりだった陽の光で

 求めなかったが、身につけていた暴力の作法で

 これらを無数の点として、線として、

 切り立つ面と歪んだ面を重ねて壁を作り、確信として、家として、街とした。

 息を吸って、吐きだすように、

 疑いを差し挟まず、既に飛び交っていた言葉のうちに

 熱く焼けたアスファルトで覆った土地を、つい、飛び上がってしまうほどの熱く焼かれた道を

 裸足では歩くことのできなかった人の道を

 気掛かりを、気付くままに次々と手に入れることで失いながら、いましばらく家事に勤しむ。

 毎日の家事と労働と、

 一日と一日の積み重ねで無く連なり持続する暴力を生き、

 腰を下ろし倒れ込むころには、

 ひんやりと熱を失ったアスファルトは、土に還るだろうか。

 もう幾千と夕日を見たはずだが、沈む太陽を思い出せない。

 見た記憶が無い。

 夜の街に光が溢れているからかもしれない。

 びりびりとひきつけをおこすネオンの明かりの下で

 あらゆる資源を費やして放たれる光の中で、人が痙攣する。

 これが明るさだろうか。明晰な論理だろうか。世界の礎になるんだろうか。

 封を閉じた手紙は、破り捨てる。はじめから届かなかった。

 

 潮のかおりを感じる。


 
 避暑地に訪れたのでも、キャンプに来たのでも、海水浴に来たのでもない。

 もう、いつかだれかと来た海で嗅いだかおりでも、郷愁でもない。

 揺らぐことない強固な城を装う理性でもない。

 後向きにライトを背負い、来た道を照らし、後頭部についた目で、体を返して振り返り、

 逃げていく確証を拾い集めることでもない。 

 注意深く忌避してきたはずの失敗、
 
 メロディに溶けることのない調子外れの音の現れる瞬間に、

 闇に沈めた生涯の向こうに、

 眠る前に。家に帰る前に。

 まだ、なにもかもがどこか遠くに。はるか彼方で。

  

 夏の海を始める。



 脂と汗、それだけではないなにかが目に沁み入って

 こぶしでこする瞼まで、混じり合う。

 夏の海に意味をあてがう間も無く、

 ぎらぎらとつぎつぎに現われる光とかおりと風と音に覆われる。

 閉じたままではいられない瞼、鼻、耳、口に毛穴を通って

 閉じられた扉の向こう、締め切った窓の向こう、のぞき穴のレンズを、

 その意味を台無しにする乱反射ですり抜けて

 焼かれた体が溶け入るように、意識の前面にあらわれる。

 
 
 ようやくたどりついた。これが夏の海。


 
 1 2 3 4 薄目で光を線にして数え

 5 6 . . . と束にすると、おそらく、

 この計算が負うことのない脈動から、まぶたが閉じる。

 
 陽に焼かれた目がじんじんと脈打つ。

 酔うこともアガルこともない潮の粒が

 からだじゅうの穴というアナを押し開き、こじ開けて、とめどなく流れ込んで溢れかえり、溺れる。

 だれにも触れられたことのない目と鼻の裏側、頭の奥の取り返しのつかないどこかまで、辿り着いて、溢れる。

 もう一度。もう一度。もういちど。どうしてももう一度。

 しがみつく記憶は、相続した過去。

 抗いようもなくなだれ込んでくるナニかにむせ返り、身体じゅうの穴からあふれ出て、失われ、消えていく。

 
 聞こえてくるのは、見知らぬ誰かの叫び声。
 
 毎年忘れ、、そういえば、帰宅の車中ですでに去り行き、

 夏がくれば、必ずたどり着くハズのこの海で。

 
 潮風、砂、連なりうねる波。こんなものまで食い散らかすのか。

 ただ蹂躙され、来た道の端に投げ捨てられる。

 刻んだ記憶がよろこびから神秘へ、そして無意味へ。

 この海へと繋がるなぜか覚えているこびりついたルートは、

 辿り着くどこかを目指す、道の駅やトンネルの空洞やいつか来た食堂をつないだ、

 でこぼこの海岸線ではないはず。

 見たものは忘れる。忘れるといって失う。

 次に向かうとき、相続する過去は、体が覚えているものだけでいい。 

 なにも知らず分からないこの海が、ざわめいている。

 俺の前にあらわれる。

 

 砂に足をねじこむ。

 落ち着きをとり戻したいんだろう。ここに立とう。

 何かであるということは、自らを肯定することなんだろう。

 次の一歩を砂にねじり込む。

 消え去ることの無い動揺。言いかえれば、出会い。


 
 砂に足を取られて、ころげ回って、四つん這いになる。

 数えはしないが数えられるはずだと考える無数の砂粒が、無数でもなんでもない砂の粒が、

 無作為に掘り込まれた刺青であるシミの肌に突き刺さる。大の字に寝転がる。

 背中を思い出す。膝の裏側、耳たぶを思い出す。うしろ頭の骨のでっぱりを頭のなかで動画にして

 取り戻して

 だらしない顔をしわくちゃにして笑う。緊張の夏。弛緩の夏。

 普段、なんであんなに夢みるんだろう。

 死をひかえてときめくんだろう。夢の中で夢を重ねて、夢にまぎれて。

 自らここに線を引き直すために夢を見る。

 熱く湿った砂粒のカタマリが、

 表面張力だろう何らかの力で、

 刈り上げた後ろ頭を登っていくほんのわずかな時間

 俺がはぎとる。だから今。

 
 持続するざわめきのうちで、まだ、腹は減ってない。

 いつものアイツらの他に、ここには、だれもいない。

 整えた言葉が必要とされない。

 共に生活するアイツらの側で、生活の主体であることだけでいいはずがない。

 
 ざらざらでばらばらの無数の砂つぶ。砕け散る波の音。
 
 サンダルを蹴りあげて、

 ささくれ立った厚い皮の俺の足で

 ズッズ・ズッズ・ズズ、ズッズ・ズッズ・ズズッ

 思い描いたリズムとまるで違う一歩、一歩で

 砂浜に足をねじりこんで、ぐねりよろけながら、海へ進む。
 


 ざばん。
 
 ざばーん。

 

 ざばん。

 ざばーん。


  
 波でないことばが口を衝いて出る。

 見返りを求めない言葉のだらしなさ、くだらなさ。

 むせかえって笑い転げる潮のかおり。

 無いものは、降りも、湧きもしない理念の言葉。

 ざばーと寄せて、んーと帰る波、ザバン。

 助けを求められても必要なものは差し出せないが

 腹が減るまでは、海が、もう、すぐそこにある。

 こどもたちは、きゃあきゃあ走って、飛び込んでいく。

 
 
 ずん

 と重い、濡れた砂は、駆ける足のかたちに穿たれ、吹き飛ばされ、

 波に洗われ、平らに流れて、浜に消えていく。

 アイス・コーヒーのグラスの底で、

 揺らめかず、溶けず、積み重なり沈んでいる砂糖を思いうかべる。

 思いがけず射し込む陽に

 まぶしく煌めいて発見される、

 隠され失われ忘れられた、誰かの財産

 宝石。指輪。なんなら王冠。

 それらが砂に同化して

 もといたところにかえった、と連想する。

 波は、

 そんなものをすべて

 平らに固め

 引き返し、打ち寄せて

 浸み入って、消えていく。

 平らな砂浜の表面は、目に、鏡となってその奥を隠し、

 陽の光を曲げ、乱して、きらめく。

 目を瞬きながら、

 我がブラマヨ小杉ボデーは、

 波間の濡れ砂に、巨人の足跡を穿つ。

 穿つ… めり込む… 

 認識が創られる。

 …ああ、沈む。

 





 
 道の半ば

 だとりつける、ギリギリのところまで

 薄っぺらく拡がって伸びて迫る波に触れ

 ひゃ

 と出る喉笛。

 すっ

 と同化する、海と砂。そして身体。

 錯視を知覚にする。

 海だけでなく、砂だけでなく。そう頭の中でつぶやく。

 家に帰った

 そう頭の中でつぶやく。

 








 遠く水平線のまるみが確認されて、

 ふと振り返り

 娘の足のつくところ

 座って、両手をついて、砂と海を握りしめる。



 すくいあげる、砂と海。

 ゆびのあいだ

 手のひらの土手を越えて、流れおちていく。

 娘はよろこんで

 海と砂をすくう。

 俺のとは

 人の手だという他に似ているところを見つけられない

 ちいさな小さな手で

 海と砂をすくう。

 ちいさなゆびのあいだ

 ちいさなてのひらのすべてから

 あふれるように

 砂と海が流れおちていく。

 

 すくうたび

 ひとつひとつ別の砂

 流れ落ちた海とはおなじでない海。

 これまで目的とせず、必要でもなかった。

 砂と海があるからかもしれない。

 ちいさな手のひらがあるからかもしれない。

 間違いなく

 直面する現実となる予測された未来が問題にならない。
 
 All the way が問題にならない。

 当面生きるために必要だったが、

 生きて死ぬためには必要でない。

 

 

 

 見渡す限り、もりあがる海。

 のみ込まれて碧く重く抗いようが無い。

 
 数字になる以前の

 わけのわからない力であるでかさ。


 手のひらの海と砂をのぞきこむ。

 

 石の欠片。貝殻。何かの粒。死体。

 海は、手のひらの上では澄んで

 沈まない、ちいさな何かが蠢いている。

 手のひらが揺れ、手のひらの海もゆれる。

 ちいさな何かも

 てのひらのうえで海とゆれる。

 海がゆれ、なにかもゆれる。

 
 海の中にいる。



 
 

 俺の背中で弾ける海。

 しぶきの味。

 目に入る痛み。

 かおり。

 なつかしさ。
 
 
 みたことのある顔。

 
 懐かしい人がいるから過去がある。

 そんな歌を思い出して、懐かしいのは人だけでないなと思う。

 

 

 黙って考えていると、波対策がおろそかで、

 ざばんと一つ波

 手のひらの砂と海は、うみに還り、

 思いがけず飲み込んで、うまくはない波を味わう。


 
 おでこや頬、鼻やまぶたの上で

 陽にすぐ乾いて、べたべたべたとべたつく海は、

 ここにいれば、すぐにまた

 波に洗われ

 海になり

 陽にさらされて、“べたつく”俺になる。


 
 ただ生き続けるのでなく

 生きて死ぬ、うごめき。

 生きて死に、漂い、沈む、死体。

 ゆらされる。

 固められる。

 膨大な数の死体とうごめきを、

 足の裏、尻の裏が踏みしめる。





 一体になれる死体。

 砂。

 一体になれる海。

 ゆれる。

 
 知ることができなかった数限りない仲間。しらない顔ばかり。





 伝えられない。

 つたないことばのために、つたえられない。

 そう思い知らされることが多い。おなじ体験は出来ない。

 なぜ、伝えると考えるのか。



 一体になる。何かが伝わる。

 そう信じられることもある。

 それもそうだ。

 同じく

 地球から産まれ出た以上、地球から出来た身体を持つ以上

 ことばでは伝えられない、

 意識で伝えられない、

 伝わる何かがあってもおかしくない。

 

 それでも、なぜ「伝える」だったのか。

 「創る」でいいじゃないか。「産み出す」でいい。

 伝わりはしない。一緒に創ればいい。


 
 たしにならない論理をひきづり

 論理を必要としない社会の力から遠く離れて
 
 そう信じようとしていたら、また、波にのまれた。





 波の中、

 小さくても、口を閉じて僕を見る娘。

 ほんのひととき

 ふたりは、波の向こう、奥のほう、濃い色のもっと向こうに

 なつかしく、出会ったことなく恐ろしい

 うごめくなにかを感じとる。



 娘を救いあげる。


 見つめあう。


 ふたりとも、一緒に遊ぶ相手を見たい。



 のどが裏返り肌となって感じる海の味。

 いがらっぽく貼り付く潮と砂のつぶつぶに

 むせかえりながら

 ふたりで笑う。

 娘はほんとよく笑う。

 まだ、ろくに話せない娘だけれど

 もういちどっ

 とせがんでいるのだとわかる。

 なみのまれごっこをして遊ぶ。


 
 なにもかも

 のみこんで重く碧くなれる海。

 人が暮らす土地の流される砂、固まる土。

 

 その境界の砂浜で、ふたり遊んでる。

 生きるだけでなく、死ぬだけでなく。





  
 次から次にやってくる

 大きな波をすかしてみる海のずっと奥のほう

 濃淡がゆれる色合いに

 星の数の死体と

 うごめく命を想像する。

 




見飽きた夢







やわらかい夢を見る。

やわらかいって、どんな夢?

ああ、やわらかさを夢で見ている。






怒ってばかりいたあのころと比べればぜんぜんいいと人がいう。
すぐ激昂して、どこに向かうかなんてお構い無しに走りだしたあのころと比べると
今のほうがいいよと彼が言う。すっとそう言う。やさしくそっと呟く。

キモチ悪い。

そばにいてほしくない。ひとりっきりになりたい。
忘れられるものなら忘れていたい。しばらく思い出したくない。
だから、この街の約束のとおり、わたしは泣いて見せる。
少なくとも、人を黙らせることができる。
もしかすると、ここから出て行ってくれるかもしれない。
ただ、そんな夢のようなことは起こらないから、
コタツ布団を肩まで上げて私が言う。「気分じゃない。帰って」
帰るところはある。でしょ?

腕力のない私の言うことを聞いてくれれば、眠ることができる。
だれにも、どんなことにも、気を配る必要のない時間。
だから、夢の中では、みんな口をつぐむ。
それでもまた
この街の朝を迎え、働いてハラをたてて昼を生き、沈黙の夜にたどりついて眠る。

どこかで、ときどき走る。

こんな面倒を忘れるには一番いい。
考える暇が無い。余裕がない。それでいて追われているわけではない。
だから、走る。

今まで通りの生活に戻れるような気がする。
ほんのすこし違う、変わり映えのしない生活に戻る。
用意された現実を、常識として受け入れる。

かなり面倒なことをしている。そう、思う。












防犯ガラスに、


薄く、二重に映る自分の顔にがっかりしながら

目は、見るものを探し始める。



遠く、窓の向こうまで

焦点を遠避けたり近付けたりしがなら、

見るものの輪郭をあいまいにして



今見えるものは、

テーブルの向こうで、大きくなってナニかを話したがり、何も言えないまま小さくなる彼。





きっと

答えようとしたに違いない。

なにも言えるわけがないのに。






そもそも自分に答えを出せるのは、どんなやつだ?

答えを出して

どこに向かって‘いいわけ’するんだ?






話しをするなら、物語。

みんな見る、夢を話してくれたら、それでいい。

それだけでいい。

ほかの言葉は、みんな‘いいわけ’に変わる。

帰れと言ったきり口を閉じ、

黙りこくってこたつに潜りただ座る女に

楽しい人生を生きていると言い訳しなくちゃならないのは、なぜだかホントに教えてほしい。

満足するために、面倒な言い訳はいらない。

別れる前に、そっとひとこと。

なら、笑える。また来週。乞うご期待。










耳を閉じる。

口はずっと閉じている。

目はずっと

閉じられずにいる。






なにが見たいんだろう?






考える。

どうだろう。思い出す?









そう、今日は

ぞっとする夢が見たい。

やさしさを探したくなるような、そんな夢。

きっと、落ち着ける。

やさしさだけ押し売りされても。









きっと。

目を閉じることができれば。

できる。それくらい。


だから、

目を閉じさえすれば。












ぐるぁ。ぐぅるるわぁー。











おなかに響く。

骨と肉。きっと、血も鳴っている。


聞こえてくる。


彼の向こう、光が射し込む窓の向こう。

大きく羽を広げる、カラスが見える。

小さな黄金虫が持つ虹色の固い羽根のように、黒く煌めいて、ゆっくりと飛び立つ大きなカラス。


ニットパーカーのフードの中で彼の言葉をもごもごと耳が聞いて、

こたつから洩れて暖かい、絨毯や身につけているものや私や彼女や彼やあいつが焼かれた匂いを鼻で吸う。

嗅ぐ。

口で拾い、舌で舐める。

目のおくで見る。


ゾクゾクッとして、

冷えた背中が傷んでいる。

そう気づく。

そう信じる。


窓から差し込む光を見ながら、

自分の骨ばった背中を眺める。

観察する。





 見る。




 子供のころの、他の誰のでもない私の背中。





宇宙は無限だと本で読み、

じゃぁ、ここは、どこ?

ここと、宇宙の果て。果ての向こうは。果てが無くそこが続く。向こうまで。向こうがそこ。そこが向こう。どこまでも。限り無く。

確か、言葉にできたのはそのあたりまでで

背中が背中にあることと

限り無く、どこまでも続いている空間の中のここをならべて

ここがどこだか

感じようとして


居心地悪く


気持ちよく


無限を表しているのだろう、幾重もの同心円を突き破るロケットが描かれた本のページを、

閉じる。


見ては、閉じる。


見ては、閉じる。


閉じておく。



そういえば、

縦にひとすじ。


私の背中に、

弓なりにそった手術の痕があるはずだ。











防犯ガラスに歪む


向こうの空。そんな光。



視界の端で


大きな彼は、飛び去り、消えた。



カーカー鳴かず

舌を回して、ぐるぅわー、ぐるるぅわーと鳴きながら。








目の前でまた、

何か話し始める彼。








カーカー鳴いているんだ。きっと。















.






女は官邸記者クラブの記者でありインタビューアだ。

派閥領袖政治へ逆戻りでは?
男は答える。「適材適所だ」
予感があり、予想しなかった言葉。
若い女記者には切り返す言葉を用意しておく気概は無く
ヒラメキを生む暗闇も灯りも熟考も自棄も無かったが
いくら配給制であるとはいえ
美味くも不味くもなく腑に落ちて腹が膨れることもない発言に
いくら飼い主であるとはいえ
不用意な女記者の
意識されることなく発話された言葉にすら
小刻みに震えるたるんだ目蓋に
悪人だとしてもその自覚ない卑しさに
女が感じる不快感は言葉を放たずにはおかない。
 
派閥・の・領袖・が・役職・に・就いた・形・だが?

「だから…。適材適所だと申し上げている」

卑しいモノを見るように女を見て、男は謙譲語で威圧する。
服従を強いる謀り事だとすれば、この施策は得策とはいえない。
男の自尊心は
馬鹿が服従するのは当然であり
俺が求めるまでもなくこの女は俺に従うべきであると信じる。
男がそう価値付けた
馬鹿な女の物言いに
震えてしまう自尊心は
心の均衡を保つことはできないが、男の細い筋繊維を収縮させる。

女の目に映る男のふるえる目蓋。

レイプ。目の前の男を見て連想されるオンナのコトバ。


《脳内血圧の上昇から生じたコトバ》

1 男が使おうとする力は権力。別の男から引き継いだ力。

2 男は権力を自分の力だと信じる。

3 男は権力がチカラであると信じる。


《真皮層弾力繊維の劣化及び肥厚性筋繊維弛緩による
 肌のタルミが気になる女の覚書》

気持ち悪い
ひどい便秘が
胃に糞を逆流させる。
十人中二三人が参加する椅子取りゲーム。
参加者の間を繋ぐ細い糸。キレてはツナがれ、絡み合うイト。
梳き解けず、切れやすいイトを
引き合い、手繰り寄せ、あやつる手管が政治力。
それは、
参加者共有の夢である舞台、
その中でしか用を為さない、

弱い力。

洞察力より。記憶力より。理解力より。生活力より。
求心力より。神通力より。創造力より。殺傷力より。

しかし
この舞台の他は
無視しても構わない。
他の舞台は
無いものと考えてよい。

政治力に権力をユダネル。

他のチカラは考慮する必要がない。
もしくは、考慮しない方がよい。

求める答えを効率よく導き出す手法。
正確な答えを効率よく得る為の情報処理の手法ではなく。

価値を与えたことを忘れ
価値あるものと信じ
価値を否定するものを取り除く。

そんなプライドと変わりない。彼が使おうとする力。



【有効理論上無視しても構わないチカラを取り除く】
  

いまこの舞台で
このオトコが権力のシンボルになる。

権力から男を取り除く。
影響はない。無視しても構わない。

ツギのオトコかオンナをあてがう。
あてがわれたオトコかオンナを取り除く。
影響はない。無視しても構わない。

権力にヒトをあてがう。
ヒトをとりのぞく。
権力にコトバをあてがう。
コトバをとりのぞく。
権力にイノチをあずける。
イノチをとりのぞく。
無視しても構わない。
権力からケンエキを取り除く。
影響がある。無視できない。
代わりにケンイを取り除くとチカラが残される。
影響はない。
チカラにオトコがむらがる。
影響はない。
オトコはチカラを得る。
影響はない。

チカラを得たオトコからシンボルを取り除く。
死に近づく肉体が残される。
肉体はチカラを纏ったままだ。
なんでも口に入れて肛門から出す。
糞にまみれた何かが排出される。
糞を取り除く。
糞っ垂れが残される。
無視しても構わない。






.

ギザギザ空=大きい空

.

 夏。 



空が青い

太めの糸で織った白い布 

キャンバスとして人が絵の具を盛り付ける。


雲が白く大きい

乾きを清潔と感じさせる糸のほつれた白いタオル

まだ丸い粒で額に付く汗を拭う。





 夢を見る。 



でかく 太った

牛乳嫌いの Jamie Foxx (※俺と二つしか違わない) が運転する

いかにもハリウッドの映画に出てきそうな

黄色のスクール・バスに乗り込んで

半ズボンで 裸足の 俺が 

彼を見上げる。

光を吸収する彼の影

目に入る天井の光

青くて、低い。








見えないもの。

あるべきところに無いタイヤ。


剥ぎ取られた

あるべきものの高さまで

幾重にも積まれたコンクリート・ブロック。 

砕け散ったブロックは

後輪の周りで

石になり、チョークになった。


窓ガラスは割られていたから

風通しよく 

時折、着ているシャツや僕たちの指を引き裂いた。


「校内暴力」それはぼくたちのイメージ。


出入口は三つ。

前とまん中と後ろ。 小、大、中。

飛び降りるのにいいカンジの階段はサビついていた。

だから

ぼくは一度しか飛び降りなかった。


乗り込むと

ひかりの柱

がたっていて

さわりたいけど

それは天井から差し込む陽射しだから

さわれない。

さわれるわけがない。


天井の穴はギザギザで

差し込む光が 

青と白の太陽なカンジ。


棄てられてたんだ 

サビツイタ・バス

「だっとさん」




そのバスを見つけたとき

誰かの頭に浮かんで音になった言葉「ダットサン」

どんな連想が働いたのかはわからない。

でもそれは憧れていた車。フェアレディZのことだ。



その言葉を聞いた僕たちの頭に浮かぶ

この棄てられバスの名前「だっとさん」



次に

「とだ」という男の子がいたので

だっとさん は とださん!!

と決議され

「とださん」が

「だっとさん」の世話をすることになる。



次の日には

「とださん」は「だっとさん」の天井を青いペンキで塗り始める。



頭が入るか入らないか…

なんども試そうとしてみたけれど

そのたびに切り刻まれた顔を思い浮かべた 天井の穴 ギザギザの穴。

その周りから塗り始める。

そこから そら と くも を ながめながら。



お父さんがペンキ屋だと嘘ついていた「たからくん」

青いペンキを持ってこれない。

「とださん」は

「だっとさん」のハンドルに

辺りに棄てられていたソファを切り取り手に入れた

赤い合成皮革を巻き始めた。

タコ糸釣り糸色んな色の糸で 

ぐるぐる巻きにする。

通称「丸大ハム・ソーセージ」の出来上がり。


青い天井

赤い丸大ハム。

なかまにお披露目したところ

まだ足りないと 朝顔の種を蒔き

何か足りないと みんなでお気に入りの虫を連行し

あとはこれだと みんなの宝物で飾り立てた。

あさがお咲き乱れ 虫這い回り 飛び回り

喚声や歌声やひそひそ声が絶えない「だっとさん」



ぼくは
 
ため池にはまって

大声でヒーロー呼びつけ

助け上げられてすぐ 

走り逃げてそのまま遊んでいるような

あせでビショビショのシャツを着たまま

屋根に登って


大きすぎる そら と くも を眺める。


それがあの夏のお気に入りだった。


空と雲がほんとうに大きいと感じた。

「だっとさん」の湿った木の床に頬を押し付けて見る

目の先数センチで前足を洗う七色に輝く硬い羽根持つ 

今は名前すら覚えていない虫。

そんな虫が ほんとうに生きている と感じた。




その夏の幾日か、あるいはその夏の間中、


「だっとさん」が世界の中心だった。


虫でも ともだちでも 俺でもなかった。




すきなものを すきなように見た 夏

そんな夏に見えたもの

すきなものを すきなように見る 夏

そんな夏に思い出す。
























...

海の底=手のさざえ

.




彼は知っていたのかもしれません。




いかにあるべきか。

いかにあるべきでないか。

いかにあるか

いかにないか。


突然の出来事も

それが

なにか

ナニであるべきか

すぐ

僕たちに話してくれたものです。


その言葉の一つ一つは

もう覚えてはいないけれど

「ああ。そうなんだ」

と受け入れることが出来たこと

それはいまでも覚えています。




最初からこんな風だったんです。




なにもかもを知っている

そう確信しているように見えました。

少しも不安そうじゃなかった。

いつも自信に満ち溢れていました。




仲間と過ごす夏の夜

夜光虫の海で泳ぎはしゃぎ

その青白い燐光におどろき

盛り場で仰ぎ見る

星の

ネオンの

何百倍もの数の輝きが そこにあるような 

遠い星の白。

しばらく眺めていると

ほんの少し 

ゆれているように見える星の空。

いつのまにか

海の底にいるようで

ゆっくりと 

落ち

手放した身体の自由と引き換えに

ようやく

目を手に入れる。



そして

海の底から見る海は

ゆらめく光を保つ海の

塩と水と何かの重みで

ココロの自由を奪っていく。 




特権が与えられたと

呼吸をすれば

命を失う。





ビールにサングリア、ポン酒に泡盛、持ち込んだ酒を飲み浴びて、

ときおり波の音に気をとられては、煙草に火をつけ、

砂浜に寝転んでは、蚊に食われ目を覚ましながら、

いつまでも話をしたものです。



彼はずっと語っていました。



「夜光虫が増殖して赤潮になるんだ」

そう教えてくれたのは彼でした。

僕が覚えている彼の言葉。



消えそうで消えず

ときおり呼吸するように音をたて

肌に感じる熱さに、力強さを想い起こす、炭の残り火に

何かが黒くある、暗闇の中で

ただ

彼の唇だけが

遠近感の分からなくなる方法で映し出されて、赤く、

重なっては離れ、離れては重なり合う

宙を漂い生きる二匹の生き物に見えて



ぞっとした。


人間に危害を加える生き物なのか

害無くそこにいる生き物なのか

判断しかねて。



帰りの車中

心地よくも、骨の髄までしみこんだ極度の疲労に、ふやける頭で

彼の言葉を覚えていない

と思い当たりながら

車を降りるまでは

宴の余韻を引き伸ばそうと

ずっと笑い話をしたものです。


でも、彼は時間を気にしていた。


理由を聞いてしまうと、今のままではいられない…

そんな予感に

聞いたところで、はぐらかされるに違いない…

そんな諦観に

ひとことふたこと

ぽつりぽつりと

うわさする他なかったのです。

彼にはきっとやらなくてはならない仕事があるんだ

そんなありきたりの事情を当て嵌めて

彼の話を終えられる…


それほどに

好奇心をしまい込み

彼と僕らのあいだをつなぐなにか

それを辿る忍耐を失い

どうでもいい

そう、考えを終わらせていました。



運良く誰一人、

彼がなにをしているのか知らなかったので。


でもはっきり言えることは

彼の気がかりはいつも

失われる時間だったこと。




《時間を無駄にした》



きっとそのためだと思うのですが、

彼がふさぎ込んでしまったとき、

誰も彼の言葉を覚えていなかったし、

どう話しかけていいのか見当も付かなかったんです。


ありきたりの言葉は彼の耳に届かず、

彼の聞きたい言葉はわからない。


おのずと
誰も、彼と話をしなくなりました。







こんな風に付き合って

彼が生きていたことを忘れていく。

こうして生きて

自分が生きていたことを忘れていく。







しばらくして

彼がこう話しかけてきたのを覚えています。


「もうわからない」


こっちこそわからない…

と思いましたが

驚きで

どんな思いも言葉にならなかった。




今、僕の横を歩く彼のフォルムは、

毛むくじゃらのゴリラのようです。


今朝捕ったサザエを手に、

鳴き砂を鳴らしんがら

ゆっくりと

向こうに見える防波堤まで

砂に足をとられて

よろけながら 歩く。


僕も

足をもつれさせながら 歩く。


彼を理解しようと目論んで

自分がわからなくなった。

でも

忘れるよりはいいだろうと、歩く。


まずは

さざえ食うまで。





...

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