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On the road

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人の声。「オイ。アカイノ」

俺か。「よしお」

「What?」

「赤いのちゃうで。I'm ヨシオ。」

「オイエ、、アカイノ、、」

でかい黒人が怒っている。彼の用意はもう済んだ。

後ずさりながら、思い出す。

こんな風に歩み寄って、俺が、コイツのバッグを奪い取った。


走り出す。


激しい息遣いで、夜が消える。

なにも見えず驚いて瞬く。あたまの周りを☆が回る。黒が迫る。

そんなものはどこにもない筈。今まで見てきたものはなんだと思う。

そんなことを思っていると、

掴まれ、振り回され、

捻じ曲がった首の上の頭の顔が、空を向く。

また☆かと思えば、血か汗か唾液が飛び散る光と陰。きらきらと揺れている。

もっと遠く、ただの黒か空かと見上げているのに、焦点が合う。すごいな。ゆっくりと空を渡るのは湯気だ。

黒のてっぺんからも、俺の手か足かどこかからも立ち昇って、

ゆったりとゆらめいて、見えなくなる。

消えていく。

黒い輪郭はまだ俺を殴っている。



ぐるぐると回る世界は、もう世界でもなんでもなくて、ただ☆であふれ、

ぶるんぶるんと耳もとで唸り続けるなにかが、なんなのか気になる。

脳がそう聞くだけでなんもないんだろうが、ほんと動かない身体となって初めて、

俺の世界はあたまの中だけじゃないかと思う。

ただ、だんだんとつながっていたものが外れていくともうあとは、

思いがけず川で溺れ、手足をばたつかせた子供のころのように、ただ、誰かを探すだけ。

遠くどこか、、おそらく遠く、、誰かの叫び声がくぐもる。言葉は拾えない。

耳抜き一回の海を思い出す。重たい。まだ、つながる。

身体は横倒しになって、思いのほか弾力のある棒きれのように坂道をとんとんと転がり落ち、

ただ下敷きになり纏わりつく手足。よく俺のだと思えるなと思うが、まず、ずっと俺の物だろう。


ごつごつしたデカイ何かが

腹の中や胸の中、腕の中、顔面と頭蓋の間、あたまの中を動き回るのを感じる。

蟻かとまた驚く。なんにもわかってないやないか。

皮を破り、掘って食い、ちぎり、這って、生きている俺を巣に持ち帰る。

そんないきもの、蟻しか知らない。合理的か。これが。

確かめられたのは、うごきが止まったこと、俺の湯気ものぼること、アスファルトが石で黒くありの頭にも似ていること。俺にもわかる。


ゴンと目の前を遮られ、

グイと引き抜かれて、

ずんとぶん投げられ、どーんと落ちる。


赤シャツの繊維がぶちぶち千切れる。

それでもまだまとわりつく。俺をつなぎとめるものは赤シャツ。


タカシマの海。なつかしい海にゆっくり沈む。

重みが手足を、首を縛りあげる。

もう音も聞こえない。毛穴がしまる。寒い。


舌は飛び出し、垂れて回らず、

アスファルトは、味なくザラつく。

ほんとは生温かくざらついて、ヨダレが出るはず。

きっと、吐き出したい味のはずだ。

合理的。なにをわかっているつもりか。

なにかわかっているつもりか。





道路脇で生きている。

目的に向かって努力を続けた人生ではないが、

これまでの人生は台無しにした。そう言われる。

なんでもありやろ。

吸殻と灰とじゃりまみれの血を舐めながら、破れたシャツに手を掛ける。








Now we know

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“Macy Gray”

 アルファベットが空に浮かぶ。

 日本から見る空に。日本人のアタマに。

 アルファベットが空を流れる。

 身体が知覚する。風に、身体が冷える。

 ほんま しかし

 ほんま しかし

 つづりは、あんなんやったかなあ。

 品川の夜に

 綴りでしかない彼女が、

 たしか彼女が、

 あんな綴りで幻視されて、

 ついに

 彼女の歌声が、鳴り響く。

 ああ

 ヘッドフォンが震えている。




 「明るくしなくてはいけない。」光があふれる。

 「切り刻み、分け隔てなくてはならない。」ビルが立ち並ぶ。

 「囲んで、守らなくてはならない。」しゃべりかけない。しゃべらない。

 残った空とアスファルトは真っ黒く

 集まってくるのか、放たれていくのか、帰っていくのか、漂っているのか

 あふれかえる人が

 そこを むこうを あんなところを そんなところを

 ここを

 どんどん通り過ぎていく街で、


 
 響きわたるのは、彼女の歌

 ビルの谷間で乱反射して

 ここにいない 彼女の歌う声が


 
 響き、跳ね、わたる。

 そして吸い込まれ

 雑踏に消える。




 
 時が、過ぎていく。

 なにをしているんだかわからないが、過ぎていく。

 つまり

 消えるまでに、時間がある。





 
 ヘッドホンが外れてぶら下がり揺れて

 ようやく活動し始める意識。

 聞こえる音に意味を見つけると、日本語で

 必要な情報を過不足なく伝える自ら客引く声だった。

 “オニーサン、マッサージ、3千円。安いね”
 
 「やすいね」あいづち、打つやろ?

 彼女は笑っていた。

 俺はおどろいた。

 笑顔だとわかる。

 なぜ、わかる?



 化粧の無い肌。

 30代後半と思われる皺とたるみ。にじんでいた汗。

 現れる一瞬の熱帯。

 シンガポールの空港

 湿潤な黒林の侵食を防ぐのか、ガラスの自動ドア。

 雑草に覆われ割れ崩れるコンクリが見える。
 
 自動ドアが開き、熱帯に包まれる。息苦しいほどの熱気。

 それでも踏み入る身体。開く毛穴を止められない。開くのは毛穴だけではない。

 つつまれる人でないもの。こと。におい。 

 ときほぐされていく、人のつくるもの。


 
 彼女は笑っている。
 
 笑顔になる物語を作るまでもなく。

 俺はそれを笑顔だと思える。

 笑顔が、わかる。そう思い込む。


 
 一杯奢って俺も一杯。

 そんなことをできるわけもない臆病な中年オヤジが、

 求められないモノゴトは

 求めるものの伏線でしかないだろうと「時間無いねん」と笑顔で断る。

 “ん、もう!”を表すボディ・ランゲージ。

 顔は笑っている。



 すぐ信じられる。
 
 笑顔に共感できる。

 思いついた物語を

 忘れるまで

 消えるまで

 夢に生きて

 一家二晩の食費を守り、彼女と別れる。

 
 つまらない俺の

 通る理屈

 ふっとばされずに、彼女と別れた。

 

 

 



  

 












 

熱い額、冷たい部屋。





ながれて、かわく。



あたたかかった、、つめたかった、、、

思い出そうとする。もう、忘れた。

まっしろ か まっくら

そんなイメージに占領されて息苦しい。




こどもの誕生日だから

お祝いに

娘の画用紙に

黒で、子を描く。



黒は色。まわりが白く、薄く、映える。

いろんな子を描き続ける。


走る

こける

泣く

笑う

食べる

けんか

武器をとる

The boys and girls just shot.

ぐったりする

うつぶせる

生きている。

死んでいる。



黒が歩き周る。

アウトラインが白く迫る。

何かが近づき、襲われる。

もう色が分からない。




空の、森の、木の、鳥の、虫の、道の、あしもとの、夜の。

ここに。そこに。

頬はまっかに火照り、額はけむりたつ。

中学以来、絵を描いたことが無かったが、

キャンバスというものは、肌の色をした布だったと思う。

今、まっくろ。

部屋の中は真っ暗。

ずっしりと重く蠢く。黒い海。

重い。冷たい。

静かになる。



まっくろの画用紙に、黒で描く。

ことばだ

と思う。

のみこまれて

消えることば。
















ゆらゆらゆらっと、揺れている。





どこまでも続く遠くを


透かして見るように

近くをにらみつけて


焦点を外し、ぼやかして眺める。


そうすると、

いつまでも、どこまでも、続く。


遠くに、つながる。




目に映るものは、

飲み干したオリオン・ビールの缶、缶、缶。

時折チラリとキラめくアルミの銀がサイド・テーブルに列をなして並ぶ様。

目に見るものは、

「中身を抜いてきれいに並べること」

開けたら空ける。

つがれれば飲み干す。

出されたものは食う。

注文したものは、残さず食う。たいらげる。

いろいろと学んできたものだが

ようやく、

腹に入れられないものは残してもいい。だれかが腹に入れる。

だれかが食いたくなるように

残したものは並べてやれ。並んでればきれいだ、と思って腹に入れる。

そう学ぶ。

後ろを振り返れば、数万の証拠が並んでいる筈だ。

これからは並べていく。学びきれない。

でも、学んだものは簡単に捨てない。残念ながら、捨てられない。

でも、よく忘れる。身につかない。頭の中にオリオンは見当たらない。

幻視する解像度の低い動画は中空に、合わせ鏡の中で連なり、流れ揺れるオリオン。

オリオンはちいさな銀のドットとなって、どこまでも、続く。

いつまでも、つづく。




たどりつく。


たどり着きたい。


たどりついた、と言ってみたい。





寝そべる身体は、リビングにある。

そんなこと、わかる。今、わかった。

どこの家だ?


途切れていた意識。

知らない時間に驚く。

眠って見る夢をほとんど覚えていないのだから

なんのことはない。驚くまでもない当然のこと。

あたりまえのことにでも、いちいち驚く。おれはできる。

みんな忘れてしまう。


忘れられないものごとは、身体に染みついた記憶。

もう、細胞なんだろう。





思い出す。

破けたソファーに座っていた。




夏のひんやりした夕暮れに

海が黒くうねって、重くて

飛び込んで、ズンと沈んで

見上げる橙色はゆらめいて

ゆっくりと、近づいてくる。

どうしても、浮かぶ身体が

ひとりでに歩き回る身体と

同じではない、と気付いた。



息をしようと思う。口を上に向ける。

あおむけになる。苦しまない。合う。

ソファーに埋めた身体が、釣り合う。

「安定」小学校から知ってることば。



どういうことか知らない。


もう、あとは、眠るだけ。




このままでいれば

きっと、意識を失うことができる。

眠ることができる。

思いうかべる、気持ちよさ。

納得していない。理解もしていない。

「沈んでもいい」

ゆっくり

ゆっくり

沈んでいく。






必然を、驚いて偶然にする。

背もたれの縁に凭せ掛けていた頭を、背もたれに引っ掛ける。

沈んでいく身体は

首を折り、

背筋を伸ばし、でっぱらと手足を垂らし、吊るされる態。

ふくろだだきか、表彰状か。

みせものか。






ひっかかった頭の顔は

打たれ

割れて、血が流れ

裂けて、

かしげ



はみ出した目は

ぬれて

乾いて

ぼろり落ちて

どこか、見上げた。



「いたい」痛い。

いたい、いたい。

結局

それだけしかわからない。




怒号や叫び声が混じると、ゆらめきが起こる。

ゆらめきにもみしだかれてナニか吐き出した。

ガラスが割れると、夜に響き渡る。

肉は断たれ、見開いた野次馬の目が闇に消える。

夏の夜、まだ生温い、

のっぺりとどこまでも続くアスファルトは俺を支えてくれる。

“理解”

それはきっと誰かに必要なはずだ。




頭の中ではまだ輝き燃える太陽に

裏返って、そりかえって

何も掴むことができない

硬直した手のひらを透かしてみると

ずたずたの畳から

高く立ち上がる土壁、吹き抜けた四角い空

屋根があった方向に

橙色の満月を見つける。





笑顔になる。

身体は冷えて

震えているかもしれない。





きっと、うれし過ぎたからだ。

よろこび過ぎたからだ。


「きれいだ」ということは

「きれいでなくてはならない」ということだ。





満月はきれいだ。

満月でなくても、月はきれいだ。


それが分からないとすれば、

恩義を強制されたことになる。


「恩知らず」

ただ、そういうことかもしれない。

「嘘つき」

誰が誰に言うんだろう。






ぼうっと眺める窓の輪郭がぼやけて迫る。


ねじれているものはなんだ?

ワイシャツか?身体か?神経か?裏映り動画?


後ろ前にでもシャツを着て

何日か前の残り湯の風呂につかり

鼻からでてくるなにかが

あぶくになって湯面で破れて

初めて、慌てて、

むずがゆい。

左足の貧乏強請りが伝えるふるえが原因かもしれないし、

強請らずにはいられない

スパークする神経が

耳にきかせず

目にみせず、

引力は乱反射

舌裏返り皮膚になり、

頬ふくらまず

腹探られず

顎外れず、

骨折れない。

足は洗えず、頭は下げられることはない。

ああ、ほんまめんどくさい。

背に腹を取り替えて、

脛に傷つけ

心血を垂れ流してけむにまいて

満足する。やり過ごす。



そういう便法かなにか。



こうやって、

死んだまま納得する。







意味ある雑音が

虫の声を遠ざける。

月明かりに暗く

電気のキラメキに身悶える。


なめらかな輪郭の黒は、闇でなくゴキブリ。

「いる」と感じさせるのはカメムシかこおろぎかゴキブリ。






立ち上がると

呆然と立ち尽くす巨大なニホンザルのよう

いや、にほんじん。サルは呆然としない。

キッチンに向かい

あまりモノのカレーを食う。

世の中を理解していないことから否が応でも生まれる不器用さ

自分を理解していないことからでかい図体を持て余し

不快を転化できず不快でいて

落ち着かず、場違いと気付いても

また、不快を感じる。

ただ、空腹だけが満足させる。

食えば「うまい」と感じられる。

食べ終われば、場違いな夢に戻る。

どうどうどう

食べ続ける。

どうどうどう

めぐり続ける。



孤独を代償に何を手に入れた?

そろそろ

一人立つサルにもどったらどうだ。













ゆらゆらゆらっと、揺れている。




どこまでも、いつまでも、続いているような揺らめきが、傾げた首で見下ろして見る光だとわかる。
吸い取れるものは吸いあげて、使い切り萎れてはいるが、まだ、腐敗してはいない死体の腕。
そんなのっぺりとした老いた肌を、プラズマ・ディスプレイの光が照らしている。
ゆらめくだけで足りず、光の明滅は記号として「だれかが、だれかのことを話していた」と伝えようとする。
だれかが現実を切り取ったかのように見せて事件を作り、だれかが誰だかわからない社会人や自称自由人の社会人、自称別世界の住人である社会人に支給される夕方のニュース。
ぐるぐる回して丸められ、固まって千切られ欠片になって、放り出された脳。

食えたもんやない。


数本目。缶ビールのプルトップを親指で開ける。いい音がして、口付け、仰ぎ見て想像するのは喉を流れる冷たさ、はじける炭酸の気泡。流れる。飲み込む。落ちていく。
「渇きを潤している」
そう見えるに違いない。

テレビのスイッチを切る。「夜に任せる」そう見えるだろうか。

予想もしない機能が与えられている、我が家の電化製品の電源を断てば、残るものは静けさと暗闇。
厳禁とされ、ソグワナイといわれる、水や土、草や虫にまみれ働く昭和のセントラル・ヒーティングを思い出す。
あれも電気なんだろう。ボイラーとはなんだ。石炭や薪ではないのか。
リフォームされる昭和の家から、金を払って、鉄くずとして持ち出された。

俺の脳のイメージ。



ニュースは走り去った。
時代に遅れをとるとは、こういうことをいうのだろうか。
もう、追いかけても追いつかない。
追いかけようもない気がする。
けして、追いかけても、追いつけてもいなかったが、スイッチを切るだけで、目に見えて遅れることができる。



ようやく

薄闇の中、窓の向こう、

一本のもみじの木が、目に映る。



そうか。
外は、ガキのころなんにも気にせず遊んでるうちに
なんだかどきどきしてくる明るさで、それは、闇だ。



予感。

「どまんなか」ではないが、的を外してはいないなにかを思い出す。
それは、目の前で、緑の葉を茂らせて垂れる一本の紅葉に、いつだったか、小さな鳥のつがいが巣を作ったこと。
ゆきわたるように子が育ち、巣立つために、守り、戦う二羽の親鳥と、巣立っていった子鳥たちの姿、声。
それと、忘れてはいなかった、土と水、木と虫と鳥。そこにない森の印象。

今も、なんという名の鳥か知らない。
だからではないと思うが、娘たちは、勝手に、四羽の子鳥に名前を付けた。

チェキとラッチョとサンチョスとヨンチョス。

よんちょすはないやろと笑っていたが、娘の説明では、いつまでも小さく、どうしようもなくおいてけぼりだから1,2,3,4の4がぴったり。だからヨンチョス。身体の大きい順に名付けたからこそ生まれた愛くるしい名前だ。当然、名前のことなど気に掛けることなく、ヨンチョスは、兄弟たちと一緒に巣の中でふくらんでいた。
当然、名前の順にますます身体が大きくなって、チェキとラッチョとサンチョスは、そうすることが当然なのか、飛べないままに巣を飛び出し、枝をつたい歩きだした。
そして、カラスに襲われた。

ぎーぎ、ぎーぎとなく親鳥の声。
見たこともない早さで羽ばたいて、そして飛べない小鳥たち。
ぎーぎーぎーと鳴きながらカラスを追って飛ぶ親鳥の姿。
「力の限り」ニュースにはならない。
後日、数軒隣の家に暮らす少年が、春草の生い茂る住宅街の空き地に死体を見つけたと教えてくれた。

自ら巣立つと当然のように考えていた。
目の前では、カラスに襲われ、巣を追われ、野に放たれた。
授かったモミジの木の上で。

最後に残ったヨンチョスは、まんまるに膨らんで、紅葉の緑の葉の中で眠っていた。

それは覚えている。

いつのころの姿なのか。
俺の壊れていく脳がねつ造した姿は、もう、チェキとラッチョと、サンチョスとヨンチョスを区別しない。
感じるものは、親と子が、みんなでさえずるにぎやかな歌声。
巣に餌を持ち帰る親の羽ばたき、我先に迎える子らの騒がしく小競り合う声。
もう失われて消えた、ひとつの家族のもみじにまつわる思い出。
そのとおりのことがあったのかどうか確かめようはないが、チェキとラッチョとサンチョスとヨンチョスの誰かが、大きくなって「グルメシティーの横の公園におった」
そう、娘が教えてくれた。
生き残ったのが誰かは、知らない。
誰かが生き残ったのか、わからない。

ただ、みんな生きた。

さえずる声が、喜びで

ぎーぎ、ぎーぎとなく声は、泣いているんだ、怒っているんだ、叫んでいるんだ、

そう、わかった。


みんな、生きた。

それが、わかる。



エディ・マーフィーのビッグ・スマイルをマボロシに見て、ドクター・ドリトルはこういう意味で可能だと考えてから、テレビを点ける。


副作用として、だれかが、だれかのことを話し始める。

リビングを明滅する光が、そう伝える。




ニュースが与えられる。

なにもわからないまま、安心する。


A=B

B=C

C=A


理屈が合う。理解できる。

だからだろう。


安心し、忘れる。

レトリックが、安心をつくる。

そんな社会に、望んで参加する。

正しければ、忘れられる。


なにを忘れたいんだろう。

わからないから

過去を葬る。丁重に葬る。



気が付けば、

キッチンが見え、冷蔵庫の前に立っている。
冷蔵庫は何のためにある?
ビールを冷やすためにある。
だから俺は、缶ビールを手に取り、プルトップを引く。
いい音がするんだ。
だからかもしれない。俺は飲む。そういうことにする。


休日の今日。社会は、俺に年齢を問う。
それは、既に人生の半分を過ぎたと教えてくれる。
半分だといいながら、今、脳幹に位置する血管が破裂するかもしれない。
血栓が心臓の動脈を詰まらせて、機能しない臓器にしてしまうもしれない。
半分で終わるということかもしれない。

例えば癌細胞が増殖する俺の知る人は、医者にただ楽にしてくれと乞う。
まだ俺は医者に注文することはないが、それは身体が苦しみを知らないからだろう。
ただ、医学を学び、医者として人を見る、先生と呼ばれる人たちは、俺が突然に死ぬと見立てる。
突然でない死とはなにか。
ゆっくりと死んでいくというのであれば、すべての生がそうだ。
では、特にどんな死が突然でない死か。
死に向かう生をいうのか。死の確信から覚悟で捉える死をいうのか。
考えどころではあるのかもしれないが、一般に、余命の知らされる死をいっている。
突然の死とは
病院のベットにたどり着いたときには、もう既に腐敗が始まっているということだ。
身体が違うから、同じく死を予告される身分にあっても、個体別に死の様相が違う。
しかし、社会は計る。測れるものは数値にする。計りようのないものまで数値にする。
医者と患者、患者の親族、病院関係者にマスコミが、体の故障に対処する際利用する共通のことば。社会の成員同志いざこざは絶えないが、この社会を維持する仕組み。

ただ、狭い世間に生きてなんのことやらよくわからない数値に身を宿しても、患者には、ここにあると主張する身体がある。
俺にもそんな体がある。たしかにここにある。そう感じる。
病気に向き合うだけでなく、社会人として誰かと向き合うだけでなく、まだ、患者はもみじの木をつたい歩く。俺もつたい歩く。
ふくらんで、羽ばたく。
そして、風を知る。木陰を知り、太陽を知る。親を知り、兄弟を知る。巣を知り、枝を知る。揺れる葉を知り、動く虫を知り、声を知る。
まだまだふくらんで、羽ばたく。
飛べると知る。落ちると知る。飛ぶ。落ちる。
カラスを見つけ、聞いたことがない家族の声を知り、目の前を覆う大きな黒と羽ばたきを知る。
自分の体になにかが刺さり食い込んで締め付けられる。身体の不自由を知り、食われる。

グルメシティーの隣の公園でなにと出会うのか。なにをするのか。わからない。

だからふくらんで、羽ばたく。

そのうちにいずれ死ぬ。

食われるか、焼かれるか、すべて細胞が活動しなくなればそれで最後。だと思うが、まだ生きているからわからない。当然、死がわからない。
ただ、身近に感じる。触れているようにすら感じる。
いや、実際に外に出て
ちょっとハラッパに座ってみれば、そこらで、みんな、生きたり死んだりしているとわかる。触れることができる。
死が、身近に感じられる。

その証拠に、夕日がきれいだと思う。
これまでも十分きれいだと思っていたはずだが、このころ感じる夕日は、もはや夕日ですらない。
こう言うともうだいぶ個性的で、血の繋がったチャンジーチャンバーなら泣きながら抱きしめてくれそうだが、キチガイではない。
まぁ、それはどうだかわからないが、病院に送られることはない。

ただ毎日、薄暮の頃には、驚くことができるだけ。
だからだ。


なだらかな尾根にかかる夕日。雲が、時間を止めるように流れる。
遠く高い雲まで吸い上げられるように、吹く風に、平衡感覚を失う。
上を向きすぎている。
きれいだかなんだかわからないが、違い過ぎると思う。

違うからだ。

これまで同じものだとしたことを不思議に思いながら、酒が、指を動かし、概ね正方形のプラスティックを叩く。
カチカチカチ、トトン、トン。
聞こえる音、光を吸収する黒を文字だと見る。
言葉だと了解する。
チチチチチチ、トトットトン。
「違うものを同じだと了解すること」


だれかに、理解される。

だれかが、誤解する。

だれかが、何か感じる。

だれかが、目を閉じる。

だれかが、通り過ぎる。

だれかが、笑う。

だれかが、涙を流す。

だれかが、愛してくれる。



そうか。救いを求めているのか。



社会の仕組みを利用しながら、わけだけしかわからない希望を持ち、金が無い、と傷を深くし、金を稼いで、痛めつける。
言葉が無い、と傷を深くし、言葉を使って、傷めつけ、言葉にすがって、救いを求める。
欲を欲と見せない方法。



ただ、よろこんで苦しむ。



裏返せば、
癒すものでない死に至る傷には、忘れさせる物語が必要だという考えだ。
ひっくり返せば
なにかあると想い描くから羽ばたき、巣に留まらず枝をつたい歩き、飛び出す。
そんなふうにしかできない。


死にたくない。でも、生きたい。


であれば、傷はなめて癒せば十分の筈だ。それ以上の癒せない傷は、癒すものではない。


まだ体が痺れる春の海に泳ぎ、つめたさに痺れながら、磯の香と味で全身を洗い、砂浜にあがって温まり、痺れがジンと身体の中にゆきわたってから、砂浜で眠り、始めればいい。
そうだと、体が知っていたように思う。



暗闇で、

握りつぶしたアルミ缶を枕に、痺れる体が、海の冷たさのせいだと感じて、眠りにつく。


ビールのノドゴシに力を借りた、子守唄という物語。
これで眠れれば、俺の知らないオレが生きるハズだ。

この身体で。
なにかのために。あるがままに。





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