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パルタイ(原作・倉橋由美子)
ある日あなたは、もう決心はついたかとたずねた。わたしはあなたがそれまでにも何回となくこの話を切りだそうとしていたのを知っていた。それにいつになくあなたは率直(かざったり、かしくだてなく、ありのまま)だった。そこでわたしも簡潔な(簡単で要点をつくしている)態度をしめすべきだとおもい、それはもうできている、と答えた。パルタイにはいるということは、きみの個人的な生活をすべて、愛情(かわいがり、大切にする心)といった問題もむろんのこと、これをパルタイの原則(基本的な法則。原理)に従属(つきしたがうこと)させることなのだ、とあなたは説明しはじめた。あなたは眼鏡を光らせすぎるので、そのむこうにある肉眼の表情がわたしにはよくみえない。あなたの歯ががちがちと鳴るのは、できのわるいガイコツの咬合(上下の歯の噛み合わせ)をみるようであり、あなたは不自然な(わざとらしさや無理があって、ありのままさが欠ける)ほど興奮(感情が高ぶること)していたにちがいない。わたしはおもわず動物的な(野卑・低劣な)笑いをもらした。するとあなたはわたしの手を握った。いつものようにあたたかくて湿っぽい。多少居心地(その場所や地位にいて感じる気分)のわるいかんじだとおもう。あなたはわたしの決心を確かめようとしていたらしかった。そこでわたしも、少しばかり大げさな身ぶりをともなうことばによってあなたを安心させる必要があった。
パルタイにはいることを正式に許可されるためとるべきいくつかのてつづききについてあなたは順序だてて話した。わたしはじつのところ、ほとんどきいていなかった。こうした事務的なことがらについてあなたがしめす熱心さは、わたしにはこっけいにみえた。《経歴書》の作成が手続きのヤマだとあなたはいった。
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