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私は渡辺いっこう。フリープロデューサーである。 アシスタントの片桐くんに薦められて話題の『チャイルド44』を読んだ。 「ソ連という暗い社会の国での連続殺人事件を追ったストーリーです。なんてったってリアリティがスゴイんですよ。女性も強い」 ふむふむ、連続殺人事件。そそるねえ。 英国ヴィクトリア朝社会を震撼させたジャック・ザ・リッパー、デュッセルドルフの吸血鬼ペーター・キュルテン、南仏の殺人医師マルセル・プティオ、ブルックリンの吸血鬼アルバート・フィッシュ、「ハンニバル・レクター」のモデルといわれるヘンリー・リー・ルーカス・・・ 事件の内容をみると、これはひどい。 被害者の数も夥しいし、動機がめちゃくちゃだ。人間病んでいる。 ※リンク張ってありますが、読む際はご注意ください。 ウィキペディアもEnglishとかに切り替えると写真が載っている。まさに凶相。おぞましい。 危ないものに暗く惹かれる性が悲しい。 「ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て」とあり。 ソ連の連続殺人犯といったら、アンドレイ・チカチーロ。 52人の女性・子供を殺している。 そうか、チカチーロの追跡かと思い本を読んだのだが・・・ これは違うなあ。 いわゆる推理ものではない。ドキュメンタリーでもなし。 スターリン体制末期、エリートの共産党官僚が失脚し、家族崩壊し、追い込まれて己を見つめ、危機突破めざして走る。 これは冒険小説だよ。 連続殺人事件、ウクライナ大飢餓などの歴史的事件をモチーフにしているけれどね。 では、読むに値しないかと言うとそうではない。 緻密な共産党独裁体制のソ連社会、そこに住む人々の機微、ひるがえって人権のありがたさ、打算と妥協とそして愛という男と女の関係ーーそうしたものの描写がずば抜けているのはたしか。 その描写力によって、やや構造が弱いのが隠されているとも言えるが。 ミステリーとミスリードしない(されない)で、冒険活劇として読むには申し分ない。 お奨めである。 「というわけなんだよ。片桐くん」 「私、ミステリーだなんて言ってませんよ。007を生んだ英国の新進作家の作品です。連続殺人事件があったり、スパイがいたり、大脱出劇があったり、興奮のスペクタル。カッコよかったでしょう?」 おい、早くそれを言えよ。 今日も精進の日々である。
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私は渡辺いっこう。フリープロデューサーである。 「講談社 文芸文庫」というのをご存知だろうか。 日本の古典や近代文学の粋を月に3点ずつ出版している。 塚本邦雄「定家百首・雪月花(抄) 」・「百句燦燦」、村山槐多「槐多の歌へる 村山槐多詩文集」などを楽しんでいる。 近頃になって、友人のMさんがその出版部長であることを知った。 「風雪に耐え得るクラシカルな優れた作品を刊行しています」 ご本人の弁である。 今回はその文芸文庫の1冊をとりあげる。 女流歌人の道浦母都子さんのセレクト。 以前から与謝野晶子には興味があった。 まさにタイムリーでありがたい。 与謝野晶子というと、まず次のような作品が目立つ。 臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ春のおもひのさかりの命 『みだれ髪』 やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君 のろひ歌かきかさねたる反古とりて黒き胡蝶をおさへぬるかな 清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき みなぞこにけぶる黒髪ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる 鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな 『恋衣』 をみなにてまたも来む世ぞ生れまし花もなつかし月もなつかし 後世は猶今生だにも願はざるわがふところにさくら来てちる わが柩まもる人なく行く野べのさびしさ見えつ霞たなびく 行くべきや蟒蛇(おろち)は暗き谷間よりこひしき母の声してぞ喚ぶ 父君に召されていなむとこしへの春あたたかき蓬莱のしま (辞世) 処女集『みだれ髪』が明治34年(1901年)刊行、山川登美子・増田雅子との共著『恋衣』と「君死にたまふこと勿れ」の発表が明治38年(1905年)。 与謝野晶子について、たいていの人が認識しているのは、ほんの初期の活動にすぎない。 彼女は昭和17年(1942年)5月29日まで生きているのだ。 彼女のたどり着いた先はどんな境地か。 そこに関心があった。 本書に掲載されている歌を、時代の流れを念頭に読んでいく。 う〜ん、正直言ってうんざりだ。 「私はこうなのよ。すごいでしょう」と自己主張のオンパレードだ。 旅先を織り込んだ作品は陳腐のかぎり。 膨大な数を詠っているが、凡歌ばかりで幾つかしか掬い取れない。 でもって最後の遺稿集、『白桜集』。 ここに名歌あり。 木の間なる染井吉野の白ほどのはかなき命抱く春かな 与謝野晶子の才能、あくせく必死な生き様、そして大きな人間像までが読み取れるお奨めの一冊。 借金の穴埋めを安易な増税で補おうとしている狭量なご子孫はとくと見習うがよい。 今日も精進の日々である。 【追補】 講談社のMさんよりメールあり。 「採り上げていただいてありがとうございます。よく読みこんでおられますね。もう少し褒めていただけたらなー(笑)」と。 反射神経にばかり訴える本が多い中、こうした硬軟取り混ぜて甘辛酸苦で噛み応えのある作品を世に出されているのは賞賛に値します。
与謝野晶子の短歌にしても、見栄えのする作品十数種だけではなく丸ごと載せることで、彼女の全体像が見えてきます。 最後の名歌にたどり着いた軌跡をトレースできることが本書の素晴らしい点。 −−こんな文章が必要でしたかね? |
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私は渡辺いっこう。フリープロデューサーである。 この連休中に気持ちの良い本を読めた。 数寄の世界の薀蓄を縦横に散りばめ、そこに人生譚の糸を織りなす。まさに上質のおとぎ話。 エンディングにうまくヒネリが利いているかが出来を左右する(要はオチの出来ですね)。 本作は4章仕立て。 第1章は、東大寺二月堂のお水取りの裏側、千利休作の「竹一重切花入 銘・園城寺」やらが披露されて目を眩まされるが、竹取物語がモチーフなんだ。うまくまとめたね。 第2章は、本のタイトルにもなった「わらしべ長者」が下敷き。次から次へと展開がスピーディーでやはりクラクラさせられる。 山椒の講義、養蜂業、江戸時代の名工・小林如泥などと絢爛豪華な素材が使われている。やはり出来は一番いい。 第3章は閑吟集をもってきた。 ラッキョウに、ヤマラッキョウ、ミヤマラッキョウ、イトラッキョウと種類があることを知る。 そして第4章は旧約聖書のノアの洪水伝。洪水が治まった後真っ先に飛ばされた鳩がメインの役割。 それにしても鳩がねえ・・・、オウムは知っていたが。 ここでも、平調・黄鐘・盤渉・壱越・平調の雅楽の音階や、朝鮮の鐘の薀蓄がサラリと置かれている。 う〜ん、一読薄味だけど、しっかり出汁がとれているというか、高い教養に裏打ちされている。 かなり幅広い知識と人間観察、表現力がないと、ここまで澄んだテイストの文章は無理。 秀逸。お奨めの一冊だ。 ※前作の「清談 佛々堂先生」(講談社文庫 \560)を先に読んだ方がいいかもです。 今日も精進の日々である。
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私は渡辺いっこう。フリープロデューサーである。 大好きな作家、北森鴻の最新刊をじっくりと味読した。 本作は、花師にして絵画修復師の佐月恭壱のシリーズ第2作で、文芸春秋が出版元。 東銀座の古いビル、蛇腹戸のエレベーター、「恐ろしく古い機種の黒電話」。そそる設定である。 「花師」とは花屋にあらず、クラブのママなどの注文に応じて器に花を生ける。 「佐月恭壱の花あしらいには一点の澱みもない。華道ともフラワーアレンジメントとも違う。独自の美意識によって花は器と一体化してゆく」(『深淵のガランス』) 佐月の生ける花は客を引き寄せる魔力があるという。 佐月のもう一つの職業が絵画修復師だ。こちらを軸に事件が展開していく。 北森鴻の美術、とくに日本における西洋画史についての造詣の深さが際立っている。 ミステリー仕立てではあるが、謎解きよりも(もちろん大事な要素だが)人生の哀感を描き切って余すところがない。 この土日、北森ワールドに浸る至福につつまれて過ごした。 本作『虚栄の肖像』では、落魄の旧財閥よりの素人画の修復依頼の謝礼が古備前の甕という「虚栄の肖像」、かつての恋人との再会と藤田嗣治の作品の修復が綾なす「葡萄と乳房」、あぶな絵の天才絵師の悲話の「秘画師異聞」の3作品が収められている。 一筋縄ではいかないストーリー運びは相変わらずだ。迫力の点では前作『深淵のガランス』に譲るが、しっとりとした情感では本作が優る。まさに充実の一冊である。一読をお奨めしたい。 絵画修復師を主人公にした作品は、ミステリー作家の柄刀一も発表しており(ex.『黄昏たゆたい美術館』)、そちらも愛読しているが、人の情念、プロットの複雑さにおいては北森鴻に軍配をあげたい。 気になるのはコミックの名作『ギャラリーフェイク』である。 美術史、西洋画、日本画、陶芸、デザイン、香料等々、よくぞここまでという程コンテンツがてんこ盛り。 細野不二彦の作品で、別に原作者名はない。しかし、ひょっとして北森鴻なのではないか。あるいは両者をブリッジする誰かがいるのか。それほど類似性が高い。これぞ最大のミステリーと言えるだろう。 今日も精進の日々である。
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私は渡辺いっこう。フリープロデューサーである。 家族同様だったペットのオカメインコ<チビ>の喪失で心に傷をおっていた、8月21日(木)の晩のことだ。 たまたま見たTV番組「アンビリバボー」(フジ系列)に目が釘づけになった。 セラピー犬第1号の<チロリ>が取り上げられていた。 子犬たちはうまく引き取られたが、母犬チロリが残った。その後あやうく殺処分にされそうになったが、大木トオルさんに一命を救われる。 人間に虐待を受け、左耳は折れ、後ろ足が後遺症で座れない。 (可哀相で助けたが、どうしよう)大木さんは正直途方にくれたようだ。 しかし、一緒になった大きなハスキー犬たちをリードするようになり、また癌におかされた犬の世話をする。 (チロリをセラピー犬にしてみようか・・・) 動物を使って要介護の方を勇気づけるアニマルセラピー。犬バージョンがセラピー犬だ。 訓練プログラムを瞬く間にクリアしていくチロリ。 ただ、杖をついた人に対する訓練でつまずく。杖が以前の虐待を思い起こさせたのだ。 「杖は恐くないよ」 大木さんは杖を横たえ、チロリと一緒に添い寝する。 チロリは先輩犬を追い越して、日本最初のセラピー犬に認定される。 「・・・チ、チロちゃん・・・」 無くしていた感情を現し、忘れていた言葉をしぼり出すお年寄りたち。 ああ、チロリと仲間の犬たちのなんと健気なこと! マスコミが大きく取り上げ、学校でイベントでと、セラピー犬のPRで大忙し。チロリはセラピー犬の普及のシンボルになった。 必死の治療もむなしく、2006年3月16日(木)pm12:30、永眠。推定15歳。 TV番組では、臨終の際の映像が流された。 「チロリ!」「チロリ、ガンバッテ!」 チロリと大木さんが最後のアイコンタクトを交わす。 「最後のアイコンタクトの時 チロリは私に『ありがとう』と言っているように見えた だとしたら 私はチロリ・・・ 何千回も『ありがとう』を言わなければならない」 番組見終え、滂沱の涙。すぐネットで書籍の購入手続きを行った。 「名犬チロリ セラピードッグが『奇跡』を起こす」 大木トオル著 マガジンハウス刊 \1,200(税別) また涙がたくさん溢れたが、なにやら胸の傷が治ったような。不思議。 別れはつらいけど、人と動物の絆、素晴らしい一生を知って心が温かくなったのだね、きっと。 どうやら私もチロリに救われたようだ。 渇いている方、お奨めです。 ★両書とも、Amazonよりも、国際セラピードッグ協会のHPから購入した方が早いです。 物言わない動物たち。小さいけれど大切な生命。不幸な生き物たちが少しでも減るよう努めましょうね。 今日も精進の日々である。
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