摂食障害は思考・認知・行動の病気であり、内臓器官が異常を来すために起こるわけではありません。
いくら食事が受けつけにくくても「胃」が悪いわけではありません。
しかし、本疾患が続くと深刻な身体的異常を来します。
それらの症状は飢餓状態や過食、嘔吐、下剤などの薬物乱用によって起こる二次的なものです。
ですから通常は食生活の改善や体重の回復によってもとにもどります。
長期化すると元に戻らなくなる問題もありますので注意が必要です。
身体症状を理由に患者さんを脅して、治療を促すようなことは間違っていると思います。
しかし、この問題を冷静に受け止め正しく理解して治療に取り組んでいただきたいと思います。
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1)飢餓による症状
るいそう、無月経、低体温、低血圧、徐脈、貧血、低血糖、便秘、下肢浮腫(むくみ)、
四肢冷感・チアノーゼ、うぶ毛密生、脱毛、皮膚乾燥、皮膚黄染(カロチン血症)
低身長、心筋萎縮、脳萎縮、骨粗鬆症、
呼吸筋萎縮による肺炎、肝障害、内臓下垂、
卵巣・子宮萎縮、胃排泄能低下、上腸間膜動脈症候群など
2)過食・嘔吐による症状
低カリウム血症、低ナトリウム血症、
不整脈、唾液腺腫脹、口角炎、
歯の腐食、
逆流性食道炎、吐血、胃排泄能低下、腎障害・腎不全
3)下剤乱用
低カリウム血症、低ナトリウム血症、不整脈、大腸機能低下、大腸色素沈着、
偽性バーター症候群、腎障害・腎不全
以下に詳しく説明します。
■無月経
体脂肪が17%以下に減少すると無月経になると言われています。
徐々に体重が減少していった人では、月経が停止した体重が病気の境目と考えて良いでしょう。
中には体重減少が目立たないうちから月経が停止することがあります。
これは心理的ストレスによる無月経と考えられます。
低体重による無月経になった時、体重のことは考慮せず、無月経だけを心配してホルモン療法を希望される方がありますが、これは身体的には良いことではありません。
身体からみれば栄養が足りなく、成熟した女性としての機能がないという信号で月経を起こさなくしているわけです。
無理に月経を起こせば体にさらに負担がかかります。
無月経が続くと将来、不妊症になると脅すような書き方がされているものがあります。
患者さんは今の問題で困っているのであり、将来の不安をちらつかせても意味は無いどころか、恐れや不安を駆り立てるだけです。
「生理なんかなくてもよい。大人になんかなりたくない。結婚もしないし子供も生まない」という人もありますが、これは自虐的な気持ちからでる言葉でしょう。
月経の回復には体重の増加が必要条件です。
標準体重の90%以上を半年間維持すると自然に回復するとされていますが、多くの人はそれまでに長い時間を要します。
長い無月経の後、回復し出産される人は少なくありませんので、まずは落ち着いて体重回復に専念しましょう。
■下肢浮腫(むくみ)
栄養状態が悪くなると血液中の蛋白質が減少します。
そうすると血管から水分がしみ出し、重力の影響で特に下肢を中心にむくみが起こります。
時に全身に認められますが、それは状態がかなりひどいということです。
足の甲やくるぶしの周りを押さえると痕が残るようであれば、むくみがあります。
むくみが見られるようになったら早急に入院治療を考慮する必要があります。
過食の方で、低体重や栄養失調ではないときにも、むくみは起こります。
これは嘔吐、下剤乱用で電解質バランスがくずれたため、ホルモン異常を来しており、過剰な水分摂取に よって普通以上にむくみが出現します。
■うぶ毛密生・脱毛
やせがひどくなると、背中、おなか、腕、脚などにうぶ毛が目立つようになります。
これは飢餓状態の時に起こる現象ですが、原因はわかっていないようです。
また本疾患では、毛髪がよく抜けます。栄養状態が悪くなったためと思われますが、全身状態が改善してきても、しばらくは脱毛が続きます。
それは新陳代謝が活発になり、髪の毛が生えかわってくるためで心配いりません。
■皮膚黄染(カロチン血症)
やせが進行してくると、皮膚が黄色くなります。特に手のひらや足の裏に著明に認められます。
黄疸が出たと勘違いして、慌てて受診される方もあります。黄疸との違いは、白目の部分が黄色くないことです。
■脳萎縮
自覚的にわかることではありませんが、脳のCTスキャンを行うと、やせが進行した人では脳萎縮が認められます。
脳までやせるということです。
この萎縮が脳の機能異常に直接結びつくわけではありません。
通常は体重が回復するともとに戻ります。
■骨粗鬆症
やせと無月経が持続している人で起こります。
食事からのカルシウムの摂取の減少が一つの要因です。
さらに重要なのは、骨塩量は女性ホルモンの働きと深い関係があり、無月経が続く状態では骨塩量の減少が起こることです。
摂食障害に伴う多くの変化は、体重回復によりもとに戻るのですが、骨塩量の減少は体重が回復してもなかなか完全には戻らないと言われており一番難しい問題です。
■呼吸筋萎縮による肺炎
著明な低体重、栄養失調が続くと筋肉の崩壊が起こります。
エネルギー源としての炭水化物や脂肪が無いため、蛋白質の分解が起こるのです。 そして筋肉の萎縮が起こります。
手足の筋萎縮は歩行や階段昇降に支障を来します。
首が上がらなくなり寝た状態から自力で起きられないほど悪化することもあります。
そして、何よりも危険なのは、呼吸筋の萎縮です。
咳をして痰をだしにくくなり、日中はまだ良いのですが、睡眠中に分泌物がたまり無気肺(気管支に痰が詰まって空気が入らなくなる病気)や肺炎を起こすことがあります。
ですから、筋力の低下を自覚し始めたら早急に治療を行う必要があります。
⑧肝障害
摂食障害で低体重の方には比較的多く認められます。
体重が標準体重の60%以下になると約80%に肝機能異常を認めます。
これは低栄養による肝障害であり、いわゆる肝臓病ではありません。
栄養状態が改善すれば速やかに正常に戻り、後遺症は残しません。
しかし、肝機能異常が見られるというのは、かなり栄養失調が進んでいる証拠なので、この場 合にも入院治療の必要があります。
■胃排泄能低下
「食べるとすぐお腹が一杯になる」「げっぷがでる」「食べるとお腹が痛くなる」などの症状があり、そのために食べられないという方が時々あります。
通常食事をすると2〜3時で胃の中は空になるのですが、本疾患では実際に胃の内容物が排出されるのに時間がかかることがわかっています。
もう一つの原因として、やせて内臓脂肪が減少し、内臓全体が下がり胃下垂が起こります。
胃下垂でも胃の膨満感を感じるでしょう。
さらに内臓が下がることで「上腸間膜動脈」という十二指腸と交差している血管が引っ張られ十二指腸を圧迫し、腸間の通過障害が起こることがあります。
これらはすべて食生活が規則的になり、体重が回復することで改善するのですが、これらの症状が強い場合には食事の取り方に注意が必要です。
■低カリウム血症
習慣的に嘔吐や下剤や利尿剤を多く使っている人で認められます。
逆に、血液検査で低カリウム血症が認められれば、それらの問題があることがわかります(嘔吐のある方では 血中アミラーゼも上昇しますので、嘔吐か下剤かもわかります)。
低カリウム血症が続くと筋力低下をきたしたり、全身倦怠感が強くなります。
また体がアルカリ性になり手足のしびれを感じたり、興奮した後に手足が硬直したりします。
まれに腸間も動きが悪くなり麻痺性イレウス(腸閉塞)が起こります。
さらに、問題なのは心臓と腎臓に対する影響です。
低カリウムにより心臓は不整脈を起こしやすくなり命に関わることもあります。
また低カリウムが持続すると腎機能に障害をきたし、ひどいときには腎不全といって血液透析を必要とすることがあります。
嘔吐、下剤を使用している方は、それを隠したりせず定期的に血液検査を受けてください。