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出ました(極度の貧乏なので勿論文庫版…orz)。
今まで読んできたのでついつい買っちゃいました…。
…何をって?
決まってるじゃないですか!
我が家から歩く事も可能(笑)な某I○GPシリーズ第5弾の「反自殺クラブ」です。
大学時代(遅いな…orz)に読み始めて、未だに若ぶって無理矢理読んでいる訳ですが(笑)、今回は定型感が濃くて鮮やかな筆致は失われている気もするものの、熟成されたシリーズものの美点は維持され、そして今回は特に音楽関係の記述が濃くて面白い(笑)。
何しろ、主人公のマコト君はシリーズ開始当初はチャイコの弦セレなど、私同様初心者マークのお子ちゃま趣味だったのが、いつの間にか、メシアンやらケージやらを普通に聴きこなし、あまつさえ、今回はタン・ドゥンの「マルコ・ポーロ」などというマニアック極まりないレベルに辿り着いてました…(驚)。
やはり、ブクロの辣腕トラブル・シューターと私では、人間的な差がデカく、文化的階層まで全く勝負にならないのですね…orz
因みに、石平(…が本名という噂を聞いた)自身もクラヲタらしいです。
ですが、忙しいせいか、それともグレン・グールドのバッハでハマったという経歴のせいか、専ら録音専門のようで会場で出くわす事もないでせうが…(笑)。
まぁ、そんな中から折角の機会なので引用を。
「スカウトマンズ・ブルース」と題されたその一篇は、風俗へのスカウトを生業とするタイチと彼に惚れてしまったウェイトレスしのぶの物語。
しのぶは、タイチへの盲目の恋から、自分が風俗嬢になって食べさせてあげれば、彼が喜ぶと勘違いして池袋の街でタイチを探す。
が、毎日街に出るはずの彼なのに、偶々体調を崩して休んでいた。
そんなしのぶは、悪質なスカウトに騙され、店で働かされ、あっという間に風俗に縛り付けられていった。
翌日、ようやくその事実を知ったタイチはトラブル・シューターのマコトへ、100万の札束を投げ出して彼女を救ってくれ、と懇願する。
これから引用する場面は、知人の刑事のツテを頼ってマコトが解決した晩のこと。
その夜おれはヘッドフォンで音楽をきいた、四畳半の窓を開け、妙に黄色い月の光を室内にいれてやる。CDはクイーンでもイーグルスでもなく、モーツァルト。『ドン・ジョヴァンニ』は稀代のプレイボーイが、石像の騎士に連れられて地獄に堕ちるまでを描いたオペラの傑作。これがどんなふうにきいても、自分の欲望に忠実な主人公の女たらしだけがまともで、まわりの登場人物はみんな間抜けに見えるのだ。まるでタイチとおれみたいだった。
モーツァルトにはめずらしく悲壮感いっぱいの序曲をききながら、おれは考えた。タイチは女といっしょにいて幸せを感じることがあるのだろうか。仕事も趣味もすべてが女がらみなのだ。十八人の風俗嬢のあがりでくってるくせに、まだ寝てもいない女が窮地に立つと、ぽんと百万も投げ出したりする。おれの知りあいの誰にも似ていないキャラクターだった。
おれは石像の呪いを思った。ドン・ジョヴァンニを冷たく包む地獄の炎。タイチがいつか地獄に堕ちるとしたら、きっと理由は女なのだろう。だが、やつを地獄にたたきこみたいと願う女は、最後にはきっと自分もいっしょに堕ちるのを選ぶだろう。タイチみたいな男にとっては、地獄だって勲章みたいなものだ。
おれが地獄に堕ちる理由を考えた。ギャングかヤクザがらみのもめごとだろうか。タカシやサル、あるいは吉岡の疲れた顔が浮かんでくる。あんな男たちと地獄で丸焼きにされるのかと思うと、気分がひどくダウンする。
おれは三枚組のCDの二枚目をきいたところで、月を見ながらふて寝した。おれたちの心がどれほどでこぼこでも、月は笑いながら真円を描き、夜空を駆けていく。
丸ごと完璧に引用したが、中々冴えている文章。
私が特に気に入ったのは、『だが、やつを地獄にたたきこみたいと願う女は、最後にはきっと自分もいっしょに堕ちるのを選ぶだろう。』の一節。
「あなた殺してわたしも死んでもいいですか?」という演歌の精神が発揮されつつ、現代的なアイテムや言葉で言い換えられている点は石田衣良のセンスが健在の点でせう(笑)。
非常に古典的な物語の骨格に巧くマッチした選曲、そして表現。
時代というのは簡単に飛び越えられるようでいて難しい、そんな事を改めて感じる一節でもあります。
ところで、このシリーズは続くにつれて、Gボーイズ(タカシ)、羽沢組(サル)、警察(吉岡)、IT(ゼロワン)と様々な万能の武器が手に入り、マコト君自身の活躍が薄いのが気になっていましたが、この反自殺クラブ所収の「死に至る玩具」は久々に鮮やかにマコト君自身の力で解決まで持っていく印象で面白い。
主役一人称のヒーローものならやはりこうでなくては!と改めて思い返しました。
「骨音」、「電子の星」が結構期待外れだっただけに、オススメ出来る小説だと思います。
取り合えず、シリーズを全く未読の方は、是非、「池袋ウェストゲートパーク」、「少年計数機」、或いは「赤・黒〜池袋ウェストゲートパーク外伝」辺りで不器用ながらも前向きに進んでいく市井の青年達に移入していって貰いたいものです。
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