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1 Xは平成22年11月25日午後9時10分頃、T市内の国道を最高速度が50km/hと指定された片側3車線道路の第2通行帯を、先行する軽四自動車に追従して、M町交差点からH町交差点に向けて西向きに40km/hで普通乗用自動車を走行させていた。M町交差点を過ぎてH町交差点の信号を見たときには既に直進及び左折可の青色矢印信号であり、先行車の速度が遅いと感じたXは、第1通行帯を走行する車がなかったことから、H町交差点手前約70mの地点で第1通行帯に進路変更して58km/hに加速し、先行車を追い越した。 2 高校生AはH町交差点北東側歩道上で南向き対面信号が赤色表示であることから信号待ちをしていたが、交差道路である国道の東行き通行車両が途切れたのを見て対面信号が未だ赤色表示であるにもかかわらず、南向きに自転車横断帯上を自転車に乗って左斜めに横断し、道路中央付近の横断歩道上で一度止まり、西行き車両が一台通過するのを待ち、同車両が通過した後、なお対面信号が未だ赤色表示である状態で再び自転車を運転して南側に横断を始めた。Aの服装は黒っぽい学生服であり、自転車のライトは点灯していなかった。 3 その頃、Bが運転するタクシーが国道の第3通行帯を西から東に向けて走行しており、さらにCが運転する乗用車が西側から広尾町交差点で右折するために、右折車線である第4通行帯を進行して本件交差点に侵入し、交差点中央付近対向車線手前で停車していた。 4 Xは交差点手前5.05m地点に進行したときに、Aが運転する自転車が南に進行しているのを発見して急制動をかけたが間に合わず、自車右前部を自転車の左側に衝突させ、Aを路上に転倒させ多発外傷の傷害を負わせ、外傷性ショックにより死亡させた。 Xの罪責を論ぜよ。 ・参照判例 最判H元.12.15:客観的に見て被害者が歳若く健康であったことから、通報していれば十中八九救命できたため、作為義務を肯定し、殺人罪が成立するとした。 最判H15.1.24:被告乗用車の運転は制限速度超過の非難されるべき態様だが、被害車両が交差点で進入してくることは想定し難く、安全な運転、確認が行えていても衝突の結果回避可能性の存在に疑いがあり、過失を認定できない。 ・注意点 参照判例(最判H15.1.24)と比べてXと被害者Aの位置関係の具体的情報が少ない→「一定の事実関係」を想定ないし認定した上で、それを前提とした論証をする。 そのため、本問ではより多くの事実的ないし法律的な可能性の検討を要する。 ・Xの罪責について 道交法違反(特別刑法のため、条文省略)、自動車運転過失致死罪(211条2項)、危険運転致死罪(208条の2)が考えられる。 ・Xの危険運転致死罪(208条の2)が成立するか 危険運転致死罪は、条文から、被告の運転それ自体が「その進行を制御することが困難な高速度」or「進行を制御する技能を有しない」などが要件。 Xの時速58km/hでの追い越しは、進路に沿った走行が困難な状態も運転技量が極めて未熟とも認められない。 よってXの運転自体が208条の2に該当するとは認められない。 ・Xの過失について 過失の内容とは結果予見可能性(主観的な心理状態)に基づく客観的な構成要件要素としての結果回避義務に求められるべき(新過失論)。 ・結果回避可能性がなく過失認定できないとされた最判H15.1.24の具体的内容 ①60km/h(制限速度超過状態)では約32.75m以上手前での急制動で回避可能だったが、状況的に27.55m地点でにならなければ被害者を視認不可能。 ②50km/hでも結果回避可能な停止距離は24.48mだが、それより前の地点で被害者を視認するのは相当困難。 ①+②であれば結果回避可能性が無い。 制限速度だけでなく、前方の視認困難も大きな要素。 追い越し禁止違反は必ずしも問題に直結しないが、前方の視認困難を招いたような追い越しであれば因果関係を肯定しうる。 ・「信頼の原則」について 信頼の原則が適用されれば、信号無視をした歩行者が現れることは想定できず、被告に過失は認定できない。 参照判例の一審段階では、被告が信号無視した歩行者や自転車を見かけたことがある点から、信頼の原則の適用を否定すべき、と主張していた。 しかし、歩行者(自転車)対車、といった要素を勘案すれば、信号無視の一事をもって信頼の原則の適用を否定すべき、とは考えられない。 そもそも、過失認定できないならば即座に過失犯が否定され、信頼の原則の適用を問題とする必要はない。 ・結論 Xの速度超過は非難されるべき態様。→道交法違反は成立。 危険運転致死罪は態様から明確に危険とは言えず、不成立。 Xの車線変更等交差点進入前の事実により、自ら危険を招いたような運転であった場合、過失の存在が肯定される。 但し、自動車運転過失致死罪について、過失の内容は上記の通りである。 本問では、被害者Aの態様(服装、無灯火、信号無視)により前方の視認困難性は認められる。 また、対向車のライトにより視認可能だった距離も短く、制限速度を遵守していても至近距離での急制動では結果回避可能性が無い。 以上より、Xの過失は認定できず、自動車運転過失致死罪は不成立。 以上
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