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さて、今更、という感の強いお話ですが、「容疑者Xの献身」を某所より譲り受けたので読んでみました。
草薙&湯川のお馴染みのコンビによる第3弾にして、初の長編なのですが、これは中々面白い。
直木賞くらいなら3回くらい受賞させても惜しくない作品ではありますね、多分(笑)。
因みに、直木賞は賞金1千万なので偉い事になりそう…ていうかそんな金額はこの作品の印税だけで軽く突破しそうな気もしますが…(笑)。
そんな感想を抱きつつも知能の足りない1読者としてはついつい批評めいたことをしてしまいたくなります。
そうした点に留意して頂いて、先を読み進めて頂ければ幸甚にて候。
核心に近い部分にも多分触れてしまうので、その辺はお目こぼしをおねげぇ致します、お代官様…m(_ _)m
まず、この作品はハウダニットと見せかけて、別の側面へ視点をずらす、というトリックが用いられています。
凄く多重で強いセーフティネットこそがトリックの肝であり、『献身』である、という事です。
そういう意味で、森博嗣のデビュー作にして記念碑的作品となった「すべてがFになる」などを単純に私は想起しました。
ただ、セーフティネットだけでは、問題と回答、解答、というミステリーの単純構成にとどまってしまいますが、この作品ではプラスαとして、『愛(献身)』の要素が絡めてあり、一段上質な作品となっているかと。
しかし、この小説が発表された当初、本格ミステリの定義から逸脱している、といった疑義が呈されたのですが、そうした発想が起きるのは当然のような気がします。
本格ミステリとは単純化していえば、前提に乗せた上で謎と解答の意外性によって読者に新鮮味を与えるものですが、この小説では前提をいじっていますので、まぁ、アンフェアに近いのでは…という気が少々します。
そして、そのアンフェアさを覆い隠すためか、叙述トリックの要となる、あるべき存在の不在について記述されている部分は非常に気付き易くなっています。
要するに、この作家が持つ「どちらかが彼女を殺した」で見せたような『フェアプレー精神』が逆効果に作用している、という事です。
自慢するわけではなく、私のような低脳でさえ、その2箇所については気付いてしまうくらいなので、察しの良い読者は結構早い段階で結論がある程度見えてしまうのではないでせうか?
仮にトリックがある意味見えてしまう場合、小説の内的な魅力がすぐれていて欲しい所ですが、この小説に関して言えば、その点はそこまで魅力的ではない…。
石神のキャラクター造形は内的完結性の高い、非常に優秀な人間として、評価が出来るのですが、その人間性、内心の発露が後半部分で急に行われているため、読者を置いてきぼりにする感がある点。
それから湯川の行動が全体的に小説世界からも遊離している所。
まぁ、探偵と言うものはそういうものである、というのは当然なのですが…。
何より、ヒロインである花岡靖子のキャラクターが外的評価と本人の自己評価の乖離が大きかったりで、彼女の人間性が見え辛いために、核心部分を飲み下すためにはイマイチ叙述不足の感が否めない気がします。
まぁ、そんな事を賢しらにあげつらう行為にどれほど意味があるのかと問われればぐうの音も出ないのですが…orz
要するに、映画などで見てがっかりする前に、この作品は小説で読んどきませう、というお薦めでした(爆)。
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