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「賢者の贈り物」 月島衣音 美菜子は、父親がちょっとした企業の社長で、ブランド物に囲まれて育った。 啓介は、一介のサラリーマン家庭の生まれで、ブランド物などとは縁がなかった。 そんな二人が愛し合って、結婚した。 啓介は、貧しくも愛で結ばれた、仲の良い夫婦を思い描いていた。 明日は愛する妻の誕生日。 小遣いをはたき、妻の気に入りそうなデザインの財布を選んだ。 かわいいリボンを付けてもらい、「愛してるよ♪」と書いたカードを入れることも忘れなかった。 当日、はずむ気持ちで、「誕生プレゼントだよ」と、用意したプレゼントを渡した。 嬉しそうに包みを開く妻に、啓介も、彼女の感謝と喜びの言葉を期待して、胸をときめかせた。 けれども、出てきた財布を手にした妻は言った。 「これって、どこで買ったの? わたし、ちょうど欲しいブルガリのがあったのに…」 啓介の手にしていたエルメスのティーカップは、「カチャリ」と皿の上に力無く置かれた。 気づいて、見回せば、リビングも台所も、玄関も、トイレの小物さえも、彼の稼ぎに似つかわしくない、高価なブランド物ばかりが二人の新婚の住まいを占めている。 啓介の夢見た、貧しくも愛で結ばれた家庭とはかけ離れていた。 破綻は急激だった。 あんなに愛し合って一緒になったというのに、価値観の違いを意識したとたん、気持ちは冷え切ってしまった。 美菜子も同じだった。「どうせ持つなら、良い物がいいに決まってる」、そんな言葉が夫に通じない。 夫の帰りは遅くなり、美菜子のイライラは募った。交わす言葉は極端に減り、ストレスが積み重なる。 二年目にして、夫は別にマンションを借り、家に帰らなくなった。 心痛に、ついに美菜子は倒れ、救急車で病院に担ぎ込まれた。美菜子の母が病室に飛び込んで来た。 「啓介さんは? どうしてこないの?」 「そういう人よ、あの人は。妻が入院しても見舞いにもこない冷たい人」 啓介は迷っていた。美菜子が入院したと、彼女の母親から伝えられている。 見舞いに行くべきだ。それに明日はまた、彼女の誕生日。だが、あの日の屈辱と落胆が忘れられない。 悩んだ末に、ブルガリの財布を買い求め、前回と同じようにカードを入れ、リボンを付けた。 「来てくれたの?」 翌日、病室に顔をのぞかせた啓介に、美菜子はベッドから声を上げた。 「ああ、今日、誕生日だろ。これ」 啓介は、それだけ言ってベッドの上にプレゼントを置いた。 気まずい沈黙のあと、「それじゃ」と、言って帰って行った。 美菜子はプレゼントを手にした。リボンを解き、包みを開けた。 彼女の欲しかった筈のブルガリの財布だった。 けれども、嬉しいとは思えなかった。自分の欲しかったプレゼントはこんなものじゃなかった。 空しい気持ちで財布の口を開けると、カードが出てきた。 「美菜子、愛してる。 27歳の誕生日、おめでとう。 ボクらはどこで道を迷っちゃったんだろう? ボクらが道に迷ったのはボクのせいだ。ごめん。 あの約束を果たさせてはもらえないか? 一年前のカードに書いたあの約束。 今は手の届かないところに行ってしまっている、 愛する、美菜子」 あの約束? カードがあったの? あの時のプレゼントにも。 母親に頼んで、あの日以来、鏡台の引き出しに放り込んだままだった、無名メーカーの財布を持ってきてもらった。 震える手で財布の口を開けた。カードが「パラリ」と落ちた。 「美菜子、愛してるよ♪ 26歳の誕生日、おめでとう。 ボクは成功や出世とは縁遠いかも知れない。 君のお父さんのような社長にもなれないだろう。 でも、ボクは君を必ず幸せにしてみせる。 なにより、ボクにはだれにも負けない、君への愛がある。 でも、ふたりの幸せは、二人で築くもの。 君の協力がなければ、ボク一人では君を幸せにすることはできない。 手を取り合って、ボクらの幸せを築き上げていこう。 約束だ。 君の助けをもらって、ボクは君を必ず幸せにする。 愛する、美菜子」 美菜子の両の目に涙が溢れた。カードの上に「ポタ、ポタ」と音を立てて、それはこぼれ落ちた。 〈ion〉
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いいですなぁ。。。真実の愛って何事をも超える力があるはず!ポチっとしていきますね。
2006/3/19(日) 午前 6:12
(´。`)はぁ・・・育ちと価値観の違い・・・ぜひ乗り越えて愛をはぐくみ続けてもらいたい・・・ものだw
2006/3/19(日) 午前 9:33
「二人で築くもの」・・・感激しました。(T T)だんなさんにも読ませようと思います。。。
2006/3/19(日) 午後 0:40
愛の深さに感動しました。想いがなかなか伝わらなくても、その人を想う気持ちは大事にしたいですね(;。;
2006/3/19(日) 午後 2:01
いいですねぇ。こういう展開大好きです。ココロがあったかくなります。
2006/3/19(日) 午後 2:23 [ mralpen009 ]
物はお金で買えるけど人の心までは買(変)えない。心あたたあまる物語、ありがとうございます
2006/3/19(日) 午後 5:40 [ - ]
「君の助けをもらって、ボクは君を必ず幸せにする」夫婦の幸せって一人で築くものではないんですよね。うう、また衣音さんに泣かされますた;
2006/3/19(日) 午後 6:35
☆れおぽんさんありがとうございます。いつもいつもポチッとありがとうございます。★チョロさんありがとうございます。価値観の違い、難しい問題です。悲喜劇も生まれます。
2006/3/20(月) 午前 0:22
☆サイパンださん、ありがとうございます。だんなさんの感想もお聞かせ願えればありがたい。★さるたまさんありがとうございます。言葉というものは難しいものです。気持ちがあっても言葉で伝えないと伝わらない…
2006/3/20(月) 午前 0:24
☆mralpenさんありがとうございます。嬉しいご感想ありがとうございます。★沙羅さんいつもありがとうございます。時には心あたたまる話も書かないと、あきれられる?
2006/3/20(月) 午前 0:27
☆ぶちさん、ありがとうございます。「また泣かされますた」とコメント頂き、感激です。
2006/3/20(月) 午前 0:53
すばらしいです!!この短い文章の中に、長い人生のひとかけらが垣間見える。キラッと光るものが目からポロポロと零れ落ちます。
2006/3/20(月) 午後 4:06 [ めろん ]
こういうのに弱いです。お金持ちが、「私が悪かった!」という話が。ウルウル。
2006/3/21(火) 午前 0:55
ご訪問ありがとうございました。履歴から来て読んでみて惹きこまれました。賢者の贈り物現代バージョンといった感じですね。ほっと心が温まりました★
2006/3/21(火) 午前 0:55 [ kaz*_m*m*56 ]