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「時間屋(2)…時効よ止まれ!」 月島衣音 「時間屋」という不思議な看板を掲げた店先に、ブルドッグのオイラは寝そべっている。 ここでは、魔女や妖怪が集めてきた、人の余った「時間」を商っている。 「バアさん、時間を売ってくれ」 その日、丸めた背中をさらに丸めて、のれんをくぐってきたのは、定年も間近なショボい刑事だった。 「半月でいい。時効を止めたい」 十五年前の親子三人惨殺事件。犯人が挙がらぬまま、もうすぐ時効になろうとしている。 だが、ここに来て、犯人とおぼしき男が浮かび上がってきたのだと、刑事は言う。 「証拠を挙げるには、もっと、もっと、捜査の時間がほしい」 店主のヨボヨボバアさんに向かって、刑事は訴える。 「わあ〜っただよ。ちょうどいい売れ残りの時間がある。そいつをおまえさんにやるだよ」 「金は払う」 「金はいらん。どうせ長いこと買い手のつかない不幸の時間だ」 「時間に、不幸とか幸せとかってあるのか?」 「見りゃ分かる。ほれ、こいつはどす黒い血の色をしてるじゃろ。幸せな時間はピンクだったり、虹色だったりしてる」 ここの商品になる「時間」は、人から離れる時、結晶になる。結晶は、その人の瞬間、瞬間の心の色で着色するのだ。 「なるほど、こりゃ、まるで惨殺されたガイシャの血の色だ」 「じゃで、これは、おまえさんにタダであげる。その代わり、しっかり、犯人を挙げんだよ」 「分かった」 半月後になって、刑事はまた来た。 「バアさん、知っとったんか?」 店主のヨボヨボバアさんは答えずに、逆に刑事に聞いた。 「どうじゃ? 捕まえたか?」 「ああ、時効直前だった。証拠も挙がった。バアさんのおかげだ」 「なあに、おまえさんの努力の賜物さね」 「本部長がぶったまげとった。『最低でも半年はかかる裏付け捜査を、たった半月でお前はやっちまった』って」 「あんたにあげた時間がちょうど半月分じゃったでな」 「それだよ。惨殺された夫婦と娘。かみさんだけ、半月後に息を引き取るまで、意識の無いまま病院で伏せてた」 オイラはホコリのつもった「時間屋」の床に寝そべって、二人の話を聞いている。 「バアさん、あんた知とったな。もらった半月分の時間は、そのかみさんの時間だったんだろ?」 〈ion〉
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すごい! 「時間屋シリーズ」 これからも続けてください。
2006/7/14(金) 午前 4:39
おもしろい。
2006/7/14(金) 午前 6:59 [ かんしん ]
同じ時間でも、人によって軽かったり、重かったりするって事でしょうか?それとも、殺された奥さんの思いの強さ??
2006/7/14(金) 午前 8:28 [ ref*ina ]
時間に色をつけるって面白い発想ですね!出来れば淡い桃色な時間で埋め尽くしたいけど、人生には灰色や混沌とした色も引き受けなきゃならない時があるから☆ミ
2006/7/14(金) 午後 2:14 [ ki2**200* ]
ここの商品になる「時間」は、人から離れる時、結晶になる。結晶は、その人の瞬間、瞬間の心の色で着色するのだ。この表現いいと思います。
2006/7/14(金) 午後 3:38 [ - ]
☆KOKOさんありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂いて、「時間屋(3)」、お送りします。
2006/7/15(土) 午前 0:05
☆kanshin59さん、お読み下さり、感想寄せてくださったありがとうございます。もっと喜んでもらえる作品目指しがんばりたい。
2006/7/15(土) 午前 0:06
☆レファナさんありがとうございます。両方でしょうね。と言うか、読んだ方が自由に想像を広げ、話を膨らませてもらったら、それがいつも一番の正解なんです。
2006/7/15(土) 午前 0:10
☆ふわりさんありがとうございます。灰色や混沌とした色も受け止めなきゃならないってのには、心から頷いています。
2006/7/15(土) 午前 0:13
☆k_hiroshi2006さんありがとうございます。お褒めのことば感謝感激です。何遍も書き直して生み出した言葉がそうやって伝わって行くことが奇跡のように感じられます。
2006/7/15(土) 午前 0:15
すっきりまとまっていて面白いですね。
楽しみを残しておきたいので毎日少しずつ読みにきます。
2013/9/8(日) 午前 7:12 [ - ]
「時間」は人から離れる時に結晶になる。
思いつかない発想に、脱帽です
私が今時間を売ったら、やはりどす黒く染まっていそうです
2013/9/25(水) 午後 3:08
「時間屋」の題名、ミステリアスでいいですね。最近聖書で『時』(全て神が良いと指摘)の箇所を再読。過去・現在・未来の観点から見つめ直す、刑事物の本も読んでます。以前TVで‘某主婦が体の不調を占い師に見て貰うと、嫁ぎ先の秘密が〜昔公儀指南役に抜擢された弟夫婦と一人娘の財政アップを羨み、兄の嫁が密かに夜襲を依頼、娘の可愛がっていた猫が犯人の顔を覚えていて、そいつが再度訪問する毎に恐ろしい形相で泣く事で発覚’と。島帰りの女と凶悪犯の男、血を引いた同和部落、今でも後を引きますね。愛と贖罪は如何に?
2015/7/6(月) 午前 5:39 [ ESC ]