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「時間屋(3)…別れた女」 月島衣音 この日、ウィッチが持ち込んだのは、失恋の痛手で引きこもり中の女の「時間」を、無駄遣いになると、勝手にかっぱらってきたものらしい。 バアさんは、いたくそいつが気に入ったようだ。 「心根は優しい女だよ。こりゃ、相当ショックだったんだね」 「分かるの? バアちゃん?」 ウィッチが聞く。 「長年、いろんな人間の『時間』を見てきてるんじゃ。分からいでか。こりゃ、とっても透明でピュアな結晶じゃ。じゃが、見てごらん。根元がほんのり青みがかってるじゃろ」 「あれ、ほんまや♪」 「青は悲しみの色じゃ。深〜い、深〜い、悲しみに沈み込んだ心の色。…よっぽど愛してたんじゃな。相手の男を」 ウィッチは、持ち込んだ時間をバアさんが思ったよりず〜っと高く買い取ってくれて、大喜びで帰って行った。 その男がやってきたのは、それから一週間後のことだ。 「とにかく、時間が欲しいんだよね」 急に、社長の令嬢との婚約話が降って湧いた。「お嬢様にふさわしい知性と教養を身につけた男になんなきゃ」と、店に来たそのハンサムな好青年は言う。 付け焼き刃でないそれを求め、本も読まねばならないし、名所・旧跡を訪ねて旅行もせねばならない。 その他もろもろ、急遽、詰め込むには、なにより時間が欲しい。 バアさんは、青みがかった美しい透明な結晶を出してきて言った。 「すこ〜しお高いけどね。おまえさんにピッタリの『時間』じゃよ」 悪いヤツじゃない。真っ正直で、素直なんだろう。男は喜んでそれを受け取って帰って行った。 だが、それから何日も経たない内にまた来た。 「バアちゃん。オレ、間違ってた」 肩をガックリ落としている。 買った時間を使って、みっちり本も読み、クラシックコンサートや観劇にも行ったが、ちっとも身に入らない。 それどころか、令嬢との婚約のことで別れた女が、頭に絶えず浮かんで来て、離れなくなっているのだと言う。 何気ない優しい言葉、初めて寄せ合った唇、握り合った手のぬくもり。どこへ行っても、何を見ても、何を聞いても、浮かぶのは別れた彼女のことばかり。 話しながら男は、バアさんの手を取って泣いていた。 「不思議なことに、それがみんな彼女の側から見た記憶なんだ。『ああ、あの時、こんな風にオレを思っていてくれたんか』って」 バアさんは優しく男の肩を撫でて言った。 「あの代金は返すよ。おまえさん、失業しちゃったんだろ?」 「え? ど、どうして分かるの?」 「みんなお見通しさね。社長令嬢との縁談、断っちゃったんじゃろ? 会社に居づらくなって、辞表出したんじゃろ?」 「バアちゃん。オ、オレ…、前の彼女とやり直せるだろうか?」 「大丈夫。待ってるさね。早く行きな。何も言わんでいい。黙って抱きしめてやんなされ」 店を飛び出していく男を、オイラは「時間屋」の床で寝そべったまま、顔だけ持ち上げて、見送った。 〈ion〉
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なかなか、いい話ですね。記憶のあるようなないような?
2006/7/15(土) 午前 3:05 [ - ]
愛と笑顔:いい感じ!おはようございます(笑顔)サンQ:感謝。ありがとう。
2006/7/15(土) 午前 5:40
こころが優しくなるいい話ですね。第四弾。無理がなければいつかお願いします。
2006/7/15(土) 午後 0:27
時間に持ち主の記憶が宿るって、面白い発想ですね。シリーズ続けてほしい。
2006/7/15(土) 午後 7:34
優しい物語♪ (人*´∀`) 良いですね♪
2006/7/15(土) 午後 8:15 [ - ]
☆k_hiroshi2006さんありがとうございます。バアさん、儲からん商売してるようだけどね。★サンQさんありがとうございます。こちらこそ読んで下さって感謝です。
2006/7/16(日) 午前 0:18
☆KOKOさんありがとうございます。ジックリ練って、第四弾、書いてみたいです。また、よろしく。★Yosshyさん、つたない作品、ご期待下さってありがとうございます。また、挑戦してみます。
2006/7/16(日) 午前 0:21
☆沙羅さん、ありがとうございます。暑さにへこたれそうになって、絞り出して書いてます。こういう雰囲気の話、いっぱい書けたらいいですけどね。
2006/7/16(日) 午前 0:25
酷評だったら誤るけど、NHKぽい文章ですね。がんばって続けてください。
2006/7/16(日) 午前 9:10 [ - ]
このシリーズドラマになりますね。すごく良い設定です。
2006/7/18(火) 午前 9:30
えっ、私だったら地位に目が眩んで出て行った男なんて、
改心して戻ってきても、お断りですけどね
でも、当事者になったら、許してしまうんでしょうね……。
2013/9/25(水) 午後 3:12