|
「時間屋(4)…命削る消防士」 月島衣音 「消防士(三五)が、市内の民家火災で、救助のため家屋に突入。崩落した二階の下敷きになり、全身を強く打ち、意識不明の重体となっている、だってよ」 バアさんは、声を出して読んで、記事の箇所を指し、オイラを見て言った。 「見てな、このお仲間さんがすぐ来る」 「時間をくれ」 げっそりした顔で、その「お仲間」とやらは店に入ってきた。 「オレたち消防士の平均寿命は短い。それはオレたち、自分の命削って要救助者に分けちまうから」 だれも、何も聞いちゃいないのに、独り言のように「消防士」は喋る。 「あいつはオレと同期、手柄も階級も競い合ってきたライバルだった」 「それで?」 ようやく、バアさんが聞く。 「それが、オレの目の前で、焼け落ちてきた瓦礫の下敷きになっちまった」 「それで? どうして、時間屋なんぞに来る気になったんじゃ?」 「バアちゃん、聞いてくれ。オレはこの間の健診で癌があるって言われた。長くないかも知れない」 「それをライバルの同僚さんに話したんかね?」 「そう」 「そしたら? なんて言ったんじゃ? 同僚さんは?」 「癌なんて、切って取っちまえばいい。すぐまた現場に復帰できるって」 「そう言った同僚さんの方が先に命が危なくなっちまったんじゃな」 「オレたちは誓い合ったんだ。ひとつでもよけい火消し止めて、一人でもよけい人命救助しようって」 「ええこっちゃ」 「だけど、オレもすぐにでも入院しろって言われちまった。でも、入院してどうなる? 手術してどうなる? すぐまた現場に復帰できるなんて、どこに保証がある?」 「手術に成功しても、消防士の方はリタイヤってことになりかねんじゃろな」 バアさんの言うことはきつすぎる。消防士は一瞬うなだれた。だが、すぐ、顔を上げて言った。 「時間をくれ! オレにもっと時間をくれ! 意識不明のあいつの分も働いて、ひとつでもよけい火事消し止めて、一人でもよけい人命救助しなきゃならん」 ちょうどそこへ、ハンチングにトレンチコートという怪しげな刑事姿に扮したぬらりひょんが、店に入ってきた。 だが、その耳に「ごにょごにょ」とバアさんが何か囁くと、うなずいてすぐに出て行ってしまった。 バアさんは、消防士に向かって言った。 「ちょっとだけ、まっとき。おまえさんに取れたてほやほやの時間を分けてやる」 「直るのか? 元通り、元気に消防士やれるのか?」 「病気直すのは医者の役目じゃ。時間を切り売りするこんな店のババができるのは、ほんのちょびっとだけ、おまえさんの持ち時間を増やしてあげることだけじゃ」 しばらくして、ぬらりひょんが戻ってきた。鮮やかな火の色に染まった「時間」の結晶を手に。 「これは、同僚さんの貴重な時間じゃ。三日分」 「あいつはあと三日の命ってことか?」 「その通り。勘がするどいの」 「……」 「意識不明の同僚さんには、活かすことのできん時間じゃ。これをどう活かすか、おまえさん次第」 消防士は結晶を手にした。目にいっぱいの涙を溜めている。 消防士は立ち上がり、同僚の「時間」を脇に抱え、敬礼をして言った。 「三日間、りっぱに消防士の任務を果たして参ります」 オイラは「時間屋」の床で寝そべったまま、命削る消防士を見送った。 〈ion〉 ★ 放火は赦せない
こういう消防士がいるのは本当。なのに片方で火を付ける人間がいるなんて赦せない。 〈ion〉 |
全体表示
[ リスト ]





偉い消防士ですね、なかなかいう人はいないと思います。毎日、文章書き続けてえらいですね。
2006/7/19(水) 午前 5:38 [ - ]
ちよっと、感激して目がうるんでしまいました。第五弾。強く希望!!
2006/7/19(水) 午前 11:04
別所哲哉さんの「ウルトラマン」のリメークを思い出しました。TVのウルトラマンはハヤタ隊員にもう一つの命をあげるんですが、このウルトラマンは多分自分の命をあげたんだと思います。
2006/7/19(水) 午前 11:31
悲しいお話でした。死と隣り合わせの仕事。ドラマはたくさん有るんだろうけど、やっぱ悲劇はイヤですよね。放火も許せないけど、自分の家の火の用心、気をつけようっと!!
2006/7/19(水) 午後 4:03
☆k_hiroshiさんありがとうございます。確かに毎日はしんどい…けど、みなさんのコメントに助けられ続けられています。★KOKOさんありがとうございます!こういうコメントを頂くから止められない(コメントに目がうるうる)。がんばりまっす!!
2006/7/19(水) 午後 11:37
☆marunisunojiさんありがとうございます。ウルトラマン、懐かしい。いい話です。 ★altoさんありがとうございます。たぶん死と隣り合わせの仕事をしている人は沢山いて、みんな真剣に生きて働いているんだと思う。お〜っと!オイラも火の元注意!
2006/7/19(水) 午後 11:40
いい話です
2006/9/8(金) 午前 11:30