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「時間屋(6)…最高の演技」 月島衣音 「時間屋」という看板を掲げた店の奥に、魔女や妖怪たちが集まっている。 連中の持ち寄ったのは、人の「気絶」「放心」といった、極限でこぼれてしまった僅かな「時間」の断片だ。 時間の結晶は様々。鮮やかな色のものもあれば、暗い色のものもある。 「時間」は、人から離れる時、結晶になる。結晶は、その人の瞬間、瞬間の心の色で着色するのだ。 小さなテーブルの上の雑多な結晶から、それぞれの数奇な運命の中で、迷い、叫び、呻き、悩んだ、魂の苦渋の瞬間を伺い知ることができる。 店主のバアさんはそれらを指の先でかき集め、小さいカプセルにまとめてすくい入れた。 それから、オイラを呼んで言った。 「ブルちゃんや、『雪隠ばばあ』の所へこれを届けておくれ。また、よろしく頼むって」 通常、人が「時間」を摂取するのは口からだ。けれど、そうと知らぬ者の口に、起きている時、放り込むのは難しい。 知らぬ間に「時間」を与えたいなら、尻の穴からに限る。だから、妖怪「雪隠ばばあ」の出番となる。 「ばかやろーっ!」 オイラが忍び込んだ先は、映画撮影の真っ最中のスタジオ。主演の新人女優が監督に怒鳴られている。 「少々熱があるからって甘えるんじゃねえ!」 けれど、新人が、しかも四十度の高熱の中で、血まみれで犯人に訴える少女役を演じるのは至難の業だ。 父親を早くに失い、母一人子一人、やっとオーディションで射止めた初の主演だった。何としても評価される演技をしたい。高熱を押して撮影決行を申し出たのは彼女の方だった。 「これ使って、踏ん張れ!」 そう言って監督が手渡したのは熱冷ましの座薬。 ブルブル、なんちゅう恐ろしい監督や。オイラはそっとトイレへ向かう彼女の後を追って、「雪隠ばばあ」の所へ行く。 しばらくして再開された撮影。カチンコが鳴る。銃声と共に血まみれの少女が床に倒れる。 「みんなの時間を取らないで…。切ない思いで築いてきた、それぞれのたった一つの時を奪わないでください!」 切れ切れの息の下から最後の力を振り絞り、犯人の男に懇願する。 止むに止まれぬ事情で犯行に至った男に、身を挺して大勢の仲間を救おうとする少女の思いが通じた。 ガックリと膝をついた男の手から、「ポロリ」と、ピストルが落ちる。 「よーし! カーーーッッット!!」 新人女優の顔に戻った少女が顔を上げる。最高の演技に、満足の表情の監督が肩を叩く。 「よくやった。お前にこれほどの演技ができると思わなんだ。完璧だ」 〈ion〉
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最高の時間屋の演技ですね。
2006/7/31(月) 午後 10:28
☆KOKOさんありがとうございます。徐々に店主のバアさんの素性なんかも書けたらいいなと思ってます。応援よろしく♪
2006/7/31(月) 午後 11:59