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「なくした自転車のカギ」 月島衣音 「どうしよう?!」 突然、泣き声に近い声を上げたのは、レイカだ。 休日、クラスの女子グループみんなで、自転車に乗って、この町にある運動公園に遊びに来ていた。 いざ帰ろうとして、駐輪場まで戻ったところで、レイカは、自転車のキーをなくしているのに気づいた。 みんなに話して、一緒に落としたキーを探してもらった。 公園の管理事務所にも行って、カギの落とし物の届けがないか、聞きに行ってもらった。 自分も心当たりの場所をくまなく探した。 探して回っていると、同じクラスの男子グループと顔を合わせた。偶然、彼らも自転車でこの公園に来ていたのだ。 「こんな広い公園だもの、あきらめるしかないな」 そう、突き放したように言うのは、男子のボス的存在のユウ太だ。 レイカは、ユウ太がキライだった。体が大きく、頭も良くて、クラスの女子からも一目置かれている。 でも、それを鼻にかけているようなところがあり、みんなを見下したような態度をとるところがイヤだった。 「どんなカギ?」 そう言って、レイカに尋ねてきたのは、ひ弱そうで、ユウ太たちにいつもバカにされ、いじめられているシュウ。 「いっぺん見せてみろ。カギ、はずしてやる」 ユウ太もそう言ってくれる言葉に、レイカは期待を持った。 だが、レイカの自転車の車輪を、「ガッシリ」ロックする頑丈そうなワッパ式のカギを見て、ユウ太は言った。 「こりゃ、ムリだな。とてもじゃねえ、はずせねえや」 泣きそうなレイカとレイカの自転車を囲んで、みんなため息をつく。 それぞれに、あとの予定を頭に描いて、すぐにでも帰りたいと思っている。男子グループも気持ちは同じだ。 だが、その時、レイカの顔をのぞき込んで、シュウが言った。 「カギ、こわしちゃってもいい?」 見るとその手に、どこから探してきたのか立ち入り禁止の綱を止めるアンカーの鉄杭を持っている。 シュウは自分も一度キーをなくし、自分でも自転車のカギをこわした経験があると言う。 「いい。動かせるようになるなら、なにしちゃってもいい」 レイカがそう言うと、シュウはうなずいて、鉄のアンカー杭を使って、レイカの自転車のカギをこわし始めた。 公園の管理事務所にもう一度、聞きに行ってくれた女子たちが戻ってくる。 だが、やはり、首をヨコに振って、「届けられていないって」と言う。 「カン、カン、カン、カン」 シュウは、カギを叩いている。 「あきらめろって」 ユウ太が、自分の自転車にまたがって、ベルを鳴らしながら冷ややかに言う。 「カン、カン、カン、カン」 シュウは、さっきからひっきりなしにカギを叩いている。 その手元を見ると、カギのカバーと、固定する金具がグラグラに外れ、かなりいい線いっているように見える。 「どう?」 シュウの横にしゃがんで、レイカは聞いてみる。 「あとちょっと」 だが、壊し始めてからすでに一時間以上たっていた。 カギは壊れそうに見えていても、肝心のスポークの間を貫いているロック金具はびくとも動かない。 最初、シュウの手元を、期待を持って見ていた女子たちも、みんな早く帰りたくてイライラしだしていた。 「もう、あきらめろよ」 ユウ太がまた言った。 「あきらめろって、自転車おいて、家まで歩いて帰れっていうの?!」 「そうじゃねえけどさ、しかたねえだろ」 「カギなくしちゃったオマエが悪いんだからさあ」 口々に言う男子に、泣きたくなって、レイカはシュウのそばにしゃがみ込んだ。 「カン、カン、カン、カン」 シュウは、少しも手を休めようとしないで、根気よくカギを叩いている。 見ると、シュウの手は油汚れで真っ黒。指の先からは血もにじんでいる。 「もういいよ」 レイカが言う。だが、シュウは応えた。 「なんとかなる。かならずボクが、なんとかする!」 「シュウ、オレたちもう、先、帰るからな」 ユウ太がそう言い、他の男子もペダルに足をかけたその時だった。 「ガキッ!」 シュウの手元で、なにやら手応えのある音がした。 レイカが期待の目でシュウを見る。そのレイカに「ニッ」と、白い歯を見せてシュウがほほえんだ。 「あとちょっと!」 その時だ、ユウ太が急に自転車を降り、「オレにかしてみろ!」とシュウとレイカの間に割り込んできた。 カギのロック金具を両側から挟んでいるカバー金具の割れ目が広がり、そこをこじ開ければすぐ壊れそうになっていることがユウ太の目にも明らかだった。 シュウを押しのけ、その手から鉄杭を奪い、ユウ太は、鉄杭の尖った先をカバーの割れ目にねじ込んだ。 「バキッ!」 鈍い、止め金具の壊れる音がして、カギのカバー金具が二つに割れた。 中のバネが飛び出し、ロック金具も外れてぶら下がった。 「ヤッタ〜ッ!」「はずれた!」 見ていたみんなが一斉に声を上げた。 ユウ太が得意そうに、外れた錠をレイカの目の前に吊して見せて言った。 「さいしょからオレにたのめばよかったんだよ!」 「ありがと」 レイカが言う。 「よかったね〜っ!」「これで、乗っていっしょに帰れるね」 女子のみんなもうれしそうにレイカの手を取った。 こわれたカギを前カゴに入れ、ペダルに足をかけ、レイカは、もう一度言った。 「ありがとう」 振り向いて、心を込めて、微笑んで、レイカがそう言った相手は…、 ほっぺたも油汚れで黒くして、嬉しそうにうなずくシュウだった。 〈ion〉
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シュウの優しさに拍手。レイカの優しさに頭ナデナデ。そんな気持ちにさせてくれた作品です。シュウが鍵を壊すシーンは、本当に応援してしまた。
2007/5/27(日) 午後 2:11 [ 三日月 ]
シュウの優しさは、ionさんの作品全体にある優しさですね。
2007/5/27(日) 午後 9:51
☆mikazukipenginさん、うれしいコメありがとうございます。もっと、もっといい話書きたいと、はげまされました。
2007/5/28(月) 午前 1:27
☆KOKOさんありがとうございます。今回、長い文を読んでもらえただけでもウレシイのに、ありがたいコメ、恐れ入ります。
2007/5/28(月) 午前 1:28