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「時を超えて届いた手紙」     月島衣音


 あの頃、まだ高校生だったわたしたちは、二人だけで二人の将来を約束し合っていた。
 わたしの父も母も、とても厳格で、二人の恋を隠すしかなかった。

 二人で決めた、二人だけのポスト。公園の池の畔に立つニレの木の小さな虚
 わたしたちは、枝の間に隠れた小さな穴を見つけ、そこに手紙を入れ、二人の愛を確かめ合っていた。

 少し背伸びし、手を伸ばし、枝と枝の間に指を入れるとそこに、二つ折りの封筒が入るほどの小さな虚。
 暗くなりかけた頃、わたしは公園の池の畔に行き、ポケットに忍ばせた手紙を、ニレの木の虚に投函する。
 次の日の夕方同じ頃に行き、に手を入れるとそこに、わたしの手紙に替わり、からの手紙が届いている。

 二人の秘密のポストに届く彼からの手紙に、わたしの胸はいつも高鳴った。

キミに会えないのはつらいけど、でも、キミから届く手紙にボクは、
 誕生プレゼントをもらった時のように、幸福な気持ちでいっぱいになる。
 キミのひとことひとことが、心にしみ、会って話す以上に、心が通い合うことが分かる。
 いつかかならず、一緒になれる時まで、このニレの木のポストがずっと続くように……」

 わたしの気持ちも、まるで同じ。その気持ちをしたため、また、ニレの木のポストに託す。
 このニレの木のポストのおかげで、わたしたちは会うことは許されなくても、心は通い合っていた。

 でも、ある時から、ニレの木のポストに、からの手紙が届かなくなった。
 ニレの木の、枝と枝の間に指を入れて探っても、からの手紙がみつからない。
 わたしから出す手紙は消えていても、そこにからの手紙は届いていない。

「この頃、あなたからのお手紙が届きません。約束は忘れてしまわれたのでしょうか
 今、受験勉強で忙しい中、返事を書いている暇がなくなられたのでしょうか
 あなたから届いた、今までの手紙を読み返し、わたしは、ひとり心をなぐさめています。
 あなたとまた、ニレの木のポストを通して心を通わせ合うことができるように、祈ってます」

 そして、からの返事が届かないまま、わたしは、寄宿舎のある女学校へ入るために、この町を離れた。

 あれから二十年
 わたしは、この町を離れたまま、親の決めた相手の所へ嫁ぎ、そして破局を迎え、
 その時友人から紹介された職場で、キャリアウーマンとしてずっと一人がんばって生きてきた。

 この夏休みに、久しぶりの帰郷。
 弟の子供を連れて、散歩がてら、なつかしい公園の池の畔に来た。
 あなたのことはとっくに忘れていた。この町を離れた時、二度と思い出すまいと心に決めていた。

 小学生になる甥っ子は、大きな虫取り網を振り回して、セミやトンボを追い回している。
 池の面を眺めて、イヤでもあの頃のことが胸によみがえる。

 「ジジジジ〜ッ!
 突然、けたたましいセミの声、つづいて甥っ子のわたしを呼ぶ声で感傷から引き戻される。
 「セミ! セミ! つかまえたよ! おばちゃん! 来て!

 駆け寄ると、セミが、木の幹で捕らえられたまま、動かせないでいる虫取り網の中で騒いでいる。
 手を伸ばすと、網の中のセミは、背伸びすれば届く位置。
 網の外から騒がしく震えるセミを押さえた時、
 胸からこみあげる、懐かしい記憶が襲ってきた。

 この姿勢、この高さ、この指の先に、二人の秘密のポストがあった
 片手はセミを押さえたまま、もう片方の手で、わたしニレの木の虚をさぐっていた。
 「あった

 あの時、どんなにか待ちわび、どんなにかつぶれる胸の思いで、空しく虚の中を探したことか。
 その指の先が、今、「カサッ」とした、乾いた感触の封筒に触れていた。
 セミを網ごと甥っ子の手に渡し、ふるえる手に、日に灼け、風化しかった手紙を掴み、胸に押し当てた。
 万年筆の文字がかすれて、褪めて、でも、確かにわたしへ宛てて書かれた手紙だったことを教えてくれている。

 「おばちゃん? どうしたの?
 異様に揺れるわたしを見て、不思議そうに呼ぶ、甥っ子の声が遠くに聞こえている。
 わたしのふるえる手は、二十年の風雨を耐え、時を超えて今届いた手紙の封を切る

ボクの手紙がなぜ、キミに届かないのか分からない。約束を、ボクが忘れるはずがない。
 キミから届く手紙を、どんなにか心待ちにし、どんなにか心を震わせて読むのか、キミに伝えたい。
 ニレの木のポストに願いを込め、この返事が、今日こそキミに届くように、ボクもまた祈ってます
 いつかかならず、一緒になれる時まで、このニレの木のポストがずっと続くように……」

 父だったのかも知れない。わたしのあとを付け、わたしたちの秘密のポストを知ってしまったのかも知れない。
 いまさらそれを知って、どうしようということはない。
 ただ、最後の一行が目に沁みて…、

 涙が、シワになってかすれかけた便せんの文字の上に、ポタリと、雫になって落ちた
 二十年の時を超えて、今届いた彼からの手紙の上に……

     〈ion〉

閉じる コメント(6)

悲しいけど、これがこの二人の運命だったのでしょうね・・・

2007/7/15(日) 午後 0:26 [ mickey ]

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映画にしたいほど、お話だな〜。

2007/7/15(日) 午後 5:24 [ たかやん ]

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☆みっきーさんありがとうございます。かなしいさだめ、これがあるから、ドラマも生まれるのです。

2007/7/16(月) 午前 3:03 ion*0*2002j*

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☆たかやんさんありがとうございます。また、主演は十朱幸代とか言うんじゃ?

2007/7/16(月) 午前 3:05 ion*0*2002j*

顔アイコン

情景が目に浮かび、思わず続きを書きたくなりますね…。
遅くなりましたが、私のブログに訪問賜り誠にありがとう
ございます。これからのご活躍を祈念しております。

2007/7/17(火) 午後 7:18 [ GAKUTO ]

おはようございます。
過去記事にお邪魔させていただきました。

二十年・・・。
長いようで、振り返ればあっという間の日々。
最後の手紙が残っていたのが良かったのか、悪かったのか・・・。
なんだか切ないです。

2015/2/18(水) 午前 8:17 [ ちーちゃん ]


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