|
「あかりの灯る家」 月島衣音 真夜中、 町から遠く離れた畑の中に「ポツン」と建つ小さな家に、明かりが灯っている。 この家の前に続く細い道に、一つの黒い影があった。 手には小さなバッグ一つ。他に何も持たず、男が、家から少し離れた電柱の陰に身を潜めて立っていた。 男の足元は暗い。冬の夜風は冷たい。 男は、この家を窺うように、さっきからずっと、この場所にいた。 ここから玄関の小さな明かりが見えている。だが、男がここに来た時から、家の様子は何も変わらない。 男は、意を決したように、電柱の陰を出て、ゆっくりこの家に向かって歩き出した。 生け垣に囲まれた小さな庭に、窓のカーテンの隙間から明かりが洩れている。雨戸は閉まっていない。 道に面して扉のない石の門柱があり、そこから少し奥まった位置に玄関がある。 男は、家の気配を探りながら、そっと玄関に近づいた。 古い家だが、玄関の前はきれいに掃き清められている。 男は、玄関のドアノブに手を掛けた。 そのままノブを回し、静かにドアを引いてみる。 開いている。カギは掛かっていない。 「不用心な家だ」 男は思った。 玄関の中にも灯された明かりが、揃えられた履き物を明るく照らしている。 そこから奥へと、整頓の行き届いた廊下が続いている。男は上がるのにクツを脱いだ。 足音をしのばせ、そっと廊下を行くと、扉が開いたままの部屋がある。 ファンヒーターらしき静かな運転音がしていて、中から暖気が洩れ出ている。 入るとそこに食卓とイスがあり、だれかを待っている様子で食事が用意されている。 「なんていう家だ。こんな夜中、部屋を暖かくして食事を用意して待っているのに、まだ帰らないとは…」 男は思った。 男はイスを引き、食卓の前に掛けた。 その時…、 背後に人の気配がした。男は立ち上がって、振り返った。 そこに、この家の母親らしき女が目を見開いて立っていた。 女の手にあった雑誌が「バサリ」と床に落ちる。 「ああぁ〜ッ」 女の呻くような声が部屋に響いて、女が男に駆け寄った。 女は、両手を広げて男に抱きついてきた。男の胸に埋めるその髪に、白いものが目立つ。 「帰って来たのね! 帰ったのね! 待っていた!」 女は男の母親だった。以前家を飛び出したきり、何の連絡もない息子を、母はずっと待っていた。 一日も絶やすことなく、部屋を暖め、食事を用意して、その帰りを待っていた。 カギを持たずに飛び出した息子のために、カギも掛けずに待っていてくれた。 「外は寒くなかった? お腹空いたでしょ?」 顔を上げて、そう問いかける母の目に、いっぱいの涙が浮かんでいた。 〈ion〉
|
全体表示
[ リスト ]





..
わたしの 目にも いっぱいの ..:*:. 涙 .:*:.. … … いぃ おはなしですね … …
ポチ
2009/1/24(土) 午前 9:52 [ cotton ]
お母さんの気持ち。。。察し切れません。
2009/1/25(日) 午後 6:36