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「ピカピカの中古自転車?!」 月島衣音 春まだ浅い風の冷たい歩道を、男が肩をすぼめて歩いてくる。 男はこの不況で、永年勤めていた会社のリストラに遭い、ハローワークで職を探しての帰りだった。 家に近い小さなサイクルショップが見えて来た時、ふと見ると、六年生になる息子が店を出て来る所だった。 息子は父親に気づかないまま、早足で家の方に駆けていく。 男は、 息子が新しい自転車がほしいとせがんでいたのを思い出した。 まだ、自分がリストラに遭うなどとは夢にも思っていない、ついこの間のことだ。 「そうだな、もうお前には今の自転車は小さすぎる。一回り大きいのを買ってやるか」 男は息子にそう応えていた。 「ついでに、パパも一台、自分用に買って、二人で河川公園のサイクリングコース、競争するか?」 そう言うと、息子は目を輝かせていた。 今となっては、自分用はおろか、息子の自転車を買い換えてやる余裕もない。 次の仕事が見つかるまで、家族みな、節約でしのぐしかない。 暗い気持ちでサイクルショップの前で立ち止まり、中を覗いてみた。 若い店主がこちらに笑顔を向け、頭を下げたのと目が合った。 「やあ、ご主人、 ちょうど今、お宅の息子さんが…」 やはり、そうか。 息子は買ってもらえるものと思って、目当ての自転車を見に来ていたに違いない。 店主の声に、素通りするわけにはいかず、胸に重石を乗せられたような気持ちのまま、店内に入った。 「うちの子、どんな自転車がいいって…?」 今は買えなくても、いずれは買ってやりたい。どんな自転車か見ておきたい。 「あれですよ♪」 店主が指さしたのは、だが、ズラリと並ぶピカピカの新車の向こうに置かれた、一台の中古自転車だった。 「え? あれ…?」 「中古だけど、オーバーホールしてピカピカに磨いてありますよ」 言いながら店主は、大人用のそれを男の前に引いて来た。 「セミスポーツ仕様ですし、軽快に走れますよ♪」 どういうことだ? 新しいのをほしがっていたのに? それにこれは大人用だ。 「これなら、息子さんのおこずかいで十分買えます♪」 意味が分からず考えていると、店主が言った。 「私が中古を勧めたんですよ。息子さんが自分のおこずかい出すって言われるから」 「はあ…?」 「自分のは今のままでいいそうで、お父さん用にって…」 男は、店主の言葉の意味を理解した。目が泳いで、思わず横に顔をそむけた。 「『パパとサイクリングコース、競争するんだ』って言ってましたよ」 やんちゃなだけと思っていた息子に、やさしい気持ちが育まれていた。 横を向いた男の目に涙があふれた。 〈ion〉
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しみじみといいお話ですね。傑作ぽち。
2009/3/25(水) 午前 5:35
泣かすなよ! ぽち^
2009/3/25(水) 午前 6:08 [ ang*a*ugen ]
いい話ですね。いいショートだと思います。
参考になります。
2009/3/25(水) 午前 11:10 [ - ]
えぇ ・・ いぃ お話です ・・ ポチ
2009/3/25(水) 午後 11:09 [ cotton ]
☆KOKOさんありがとうございます。久しぶりにまじめな話を書いた気が…。ポチサンキュです♪
2009/3/26(木) 午前 3:07
☆angyamugenさん、ポチありがとうございます♪ たまには泣かさせて♪
2009/3/26(木) 午前 3:08
☆yam**o33mi*さんありがとうございます。参考になるかどうか分かりませんが、今後もヨロシク♪
2009/3/26(木) 午前 3:09
☆cottonさんありがとうございます。へへ^^、ミジンコが出てこず、すいません♪ ポチサンキュです♪
2009/3/26(木) 午前 3:12
ほろりとなってしまいました。
2009/3/27(金) 午前 8:08